城の中でも、もはや見慣れた破壊の光景が広がっていた。
町に火を点けた張本人であろう、炎を身に纏ったDeadraも何体か見える。
そこに居たDeadraを全て倒すと、マティウスが言った。
マティウス「よし!我々はここを見張っている!
君たちは中へ入り伯爵を探してきてくれ!」
サラ「え・・・?あなた達は?」
マティウス「何度も言わせるな!我々はここを見張っている!
伯爵の身に何かあったら、その時は・・・何か証になるものを持ってきて欲しい・・・」
マティウスとKvatchガードはこの惨状を見て、既に伯爵は奴らの手にかかってしまったのではないかと思っているようだ。
そして、それを自分の目で見たくはないのだろう。
彼らにはまだ残ったKvatchの民を守るという仕事が残っている。
その前に伯爵の死を見たら、他の市民も守れないのではないか、と思ってしまう事を、自信を無くす事を怖がっているようだった。
サラがマティウスの頼みに返事を出す前に、アルストはスタスタと中へ入って行こうとする。
アルスト「何か・・・懐かしい感じの城だな・・・」
その後ろについて来ているインペリアルガードが言った。
ガード「首都以外の城は似たような建築だからな」
アルスト「そうだが・・・でも何か懐かしいんだよなぁ」
そこへ追いついてきたサラがアルストを追い越しながら言った。
サラ「アルスト!魔法使いは後ろ!
私達が前!いい加減覚えてよ!?」
ドアを開けて次の部屋へと入る。
破壊されていて分かりにくいが、ここは食堂のようだ。
普段ならば食べ物が沢山並べられており、食欲を刺激するいい匂いが漂う部屋であったろう。
だが今は、Deadra達が所狭しと並びこちらを睨み付けており、物が焼ける焦げ臭い匂いが充満する部屋へと変貌してしまっている。
そして壊された食堂での戦いが始まった。
それほど広くないこの部屋に、足の踏み場も無いほど残骸や物が散らばっており、戦いづらい事この上ない。
さらに角の生えたいやらしい目つきの敵、美しく銀色に光を反射する敵、そして炎を纏った敵、
それらが今までの戦いでも経験した事が無いほどの数で襲い掛かってくる。
アルスト「いってぇ!何か踏んだ!
くっそー!お前らもっと広がれよ!」
サラ「うるっさいわね!
あ〜もう!剣が振り切れないわ!」
混雑した足場の悪い戦いで、イライラを募らせながらもなんとか敵を全て倒す事ができた。
サラ「道が沢山あるわ・・・伯爵は部屋に居ると思うんだけど・・・
こっちへ行ってみましょう?」
サラが右の通路を指したが、アルストがそれを制して一番奥の通路を指差し言った。
アルスト「いや、あっちだ」
サラ「自信マンマンね・・・いつもの事だけど。
来た事があるの?」
アルスト「いや、カンだ。だが伯爵の部屋といったら、やっぱ一番奥だろ?」
それもそうかもしれないと、皆納得して一番奥の通路を進んだ。
通路の先にあったドアを開くと、身分の高そうな人の部屋に辿り着いた。
どうやらアルストのカンは当たっていたようだ。
そして、マティウス達の推測も・・・
部屋の中には炎のDeadraと、血を流し倒れている初老の男性が倒れていた。
炎のDeadraを倒すと、アルストが倒れている男を調べ始めた。
サラ「・・・どう?」
アルスト「伯爵だな。この指輪に印章がある」
サラに指輪を渡したアルストは、もう一度倒れている男を見た。
アルスト「あれ・・・?」
サラは指輪を天にかざすように眺めて、印章がある事を確認した。
サラ「確かに間違いなさそうね。
マティウスに報告しに行きましょう」
アルスト「・・うむ。・・・悪いが、先に行ってくれ。
俺には、まだ、用事がある」
直立不動でそう言ったアルストに不信感を覚えたサラはインペリアルガード達に指輪を渡し、後から行くから報告して来てくれと頼んだ。
ガード達が出て行くと、アルストの方に振り返る。
サラ「あんた、何たくらんでるの?
まさか何か盗むつもりじゃ・・・」
サラの言葉を無視しアルストは部屋の隅まで歩いて仮面を外した。
そして、胃の中の物を突然吐き出す。
サラ「え?!・・・ちょっと大丈夫!?」
アルストが何か悪さをしようとしていると思い込んでいたサラは、その光景に動揺したがすぐにアルストに駆け寄り背を撫でようと手で背に触れた。
その背はカタカタと震えていた。
アルスト「き、気持ち悪・・・死体見ただけでこの俺が・・・?」
確かに、流れ出ていた血の量からして相当無残に殺されていた。
だが伯爵はうつぶせに倒れており、傷口を見たわけではない。それにこの戦いで死亡したガード達もあのくらいの出血はあった。
だから、何か別の要因があるのではないかとサラは思い、アルストの背をさすりながら言った。
サラ「・・・もしかしたら、病気じゃない?
戦ってる間に病気うつしてくるDeadraが居たのかも」
胃液まで全部吐き出すと、アルストは言った。
アルスト「確かに、病気としか思えん・・・・
そうだ、あの教会、あそこで祈りを捧げれば・・・」
アルストはサラに肩を借してもらいながら歩き出した。
一歩、二歩、だが三歩目で足から力が無くなり、膝がガクっと折れた。
サラ「う、嘘でしょ!?
アルスト!誰か連れてくるから仮面かぶって待ってて!」
アルスト「すまん・・・」
アルストは壁にもたれかけるように座らせてもらうと、震え力の抜けた手で仮面をかぶり、そのまま目を瞑った。
・・・
・・・・・・
沢山の声が聞こえる。
仮面をかぶっているせいか、こもって聞こえる。
重いまぶたを開けると、祭壇のようなものが見えた。
誰かと誰かが「祈りを捧げろ」と怒鳴ってくる。
どうやら気を失っている間に、教会へと連れてこられたようだ。
意識が朦朧としていたアルストは言われるがままに祭壇に祈りを捧げた。
アルスト「う、うぅ・・・せ、世界最強の、この俺に、栄光を・・・」
サラ「こんな時に何言ってんのよ!」
だが、そんな祈りでもどうやら通じたようだ。
アルストの体から光が弾け、「あらゆる困難は消え去った」と、何者かの声が響く。
それを見て安心したサラは、アルストの体を支えていた手を離した。すると、アルストは力なくドサリと倒れてしまった。
サラ「嘘!?治ってないの!?」
マティウス「治ったはずなのだが・・・とりあえず、彼を地下の部屋に寝かそう。」
アルストを地下の部屋に寝かすと、インペリアルガード達はこの事を報告しに行くと言い、首都へ帰っていった。
そしてマティウス達も、市民達が居るキャンプへ行かなければならないと言って部屋から去った。
それからしばらくして人の気配が教会から消えると、サラはアルストの仮面を外してやった。
アルストの顔を見たサラはひどく動揺した。
眠りながら涙を流していたのだ。
そんなに体が辛いのかどうなのかは、彼女には分からなかった。
閉じられたアルストの目からは、拭いても拭いても涙があふれ出てくる。
その様を見てサラはひどく不安になり、誰かに残ってもらえばよかったと後悔した。