Kvatchを出てから4日後、アルストとサラはインペリアルシティへと辿り着いた。
アルスト「やっと辿り着けたぜ・・・」
サラ「Kvatchから結構距離あったのね」
アルスト「そんなにはねえ!
お前があっちこっちの洞窟とか遺跡に入るから時間かかったんだよ!」
そう、Kvatchから首都へは普通ならば馬に乗っていなくても1日かからない筈の距離なのだ。
これほど時間がかかったのは、道中に見つけた洞窟や遺跡を片っ端から探検してきたせいである。
さらに言うと、アルストが目を放した隙にわき道へ幾度と無く迷い込んだ方向音痴のサラのせいである。
サラ「だってダンジョンって何があるのか気にならない?
昔の人が作った凄い武器とか、見たことも無いような綺麗なドレスとか・・・
それに、冒険って憧れてたのよ〜。ハラハラドキドキして凄く楽しかったー」
手を胸の前で祈るように組み、目を輝かせながら冒険への思いを語りだすサラ。
夢見る少女を体全体で表現する彼女の背には、戦利品と思われる大きな荷物が背負われていた。
アルスト「そうかぁ?
っていうかお前、冒険は今回が初めてなのか?」
サラ「えぇそうよ」
サラリと言ったサラにアルストは心の中で驚いていた。
Kvatchやダンジョン探索での戦闘を見る限り、サラの実力は相当のレベルだ。
特にダンジョンではアルストが面倒だと言って戦闘に参加していなかったというのに、Kvatchのとき以上に洗練された動きを見せていた。
だというのに、冒険へ出たのは今回がはじめてと言う。
アルスト(訓練でも受けてスキル上げてたのか?)
サラ「それじゃ、荷物を売りに行きましょ。
それとさ・・・そろそろ持つの手伝ってよ。重いんだから」
アルスト「そんな山のような荷物、持てるわけないだろ・・・」
サラ「男のクセにだらしないわね」
アルスト「俺は最強だ!だが、お前のパワーは異常なんだ!」
サラ「全然異常じゃないわ、正常よ!あんたが貧弱なの!」
すれ違う人々が、男も女も関係なくサラに振り向き感嘆の声を漏らすのは、単に顔立ちまたはスタイルがよいと言うわけではない。
彼女の背負うその荷物が人々の視線を釘付けにしているのだった。
屈強なオークでさえ持てそうに無い荷物を背負い、疲れるそぶりも見せずに風を切って歩く。
荷物が動いているといっても過言ではない、そんな光景を目の当たりにしたら、立ち止まりじっと見てしまうのは仕方のないことだった。
そんなこんなで、2人は問題の店へと到着した。
アルストが窃盗容疑をかけられたあの店である。
アルスト「本当にこの店で売るのか?
別に売るのは他の店でもいいんんじゃないか?」
サラ「いいのよ。あんた無実なんでしょ?
だったらこの方が手間も省けるじゃない」
荷物が扉より大きいため、サラが荷物を降ろして店主を呼びに行く。アルストは荷物の見張りだ。
すぐにあの店主が店から出てきた。
アルスト(あのババアだ!)
店主「売りたい物ってこれかい!?
はー、こりゃまた凄い量だ。よく運んでこれたもんだねぇ。
どれどれ・・・」
店主は荷物をゴソゴソと探り、これはいくらだと計算してゆく。
店主「終わったよ」
サラ「え?もう!?」
店主「はっはっは・・・!
あたしゃプロだよ。このくらいはお手の物さ。
・・・あまり珍しいものはないから、全部で6万ってところだね。
重い鎧ばかり、よくこんなに集めたもんだよ」
サラ「6万・・・凄い。じゃあそれで・・・」
アルスト「待った!
おいバアさん、6万じゃ安すぎる。
7万だ!」
店主「いや、これでも十分高くしてあるんだよ?・・・」
アルスト「7万だ」
店主「・・・・・・・
はっはっは!分かった。分かったよ、仮面のお兄さん。
数も多いからそれでもいいよ」
サラ「えええ!い、いいんですか!?」
アルスト「当然だ!」
店主は驚くサラを「いいんだよ」と言ってなだめ、中に小分けにして運ぶから手伝ってくれと言った。
店の中に荷物を全て運び込み、お金を受け取ると、サラはアルストがこの店から持ち出してしまった杖を懐から出した。
店主「・・・?
あっ!そ、その杖は!」
サラ「このお店から盗まれたもの・・・ですよね?」
店主「そうだよ!お譲ちゃんが取り返してくれたのかい!?」
サラ「・・・そうじゃないんです。それは誤解なんです」
そして店主に真実を語り始めた。
Kvatchでアルストが言ったデタラメな部分は既に聞きだしてあった。
いくら騙されやすいサラでも、アルストとの冒険で彼の性格を理解し、疑ってかかるようになっていたのだった。
店主「そうだったのかい・・・」
話を聞き終えた店主は、うつむいて言った。
店主「その人には悪い事をしたねぇ・・・」
サラ「その人って言うのが、ここに居るこのアルスト・・・」
サラが言い終わる前にアルストは仮面をバッと脱いで、叫んだ。
アルスト「ようやく分かったかこのババアが!
お前のせいで俺は・・・!!」
今にも飛び掛りそうなアルストをサラが押さえつける。
サラ「ちょっとやめなさいよ!」
店主「あ、あんたは確かにあの時の・・・!
兄さんがそうだったのかい、悪い事をしたねぇ。本当に・・・ごめんねぇ・・・」
本当に申し訳なさそうな顔をして謝罪する店主を見たアルストは、体から力を抜いた。
サラもアルストから手を離し、3人はしばらく無言のままだった。
アルスト「・・・・。
う、うむ。まぁそのなんだ・・・
いくら歳をとっていても女は女。さすがにお前を肉奴隷にする事はできんが」
と、話の途中でサラが言った。
サラ「こんな時にまでふざけるな!」
アルスト「あ〜・・・あ、あれだ。
終わってしまった事は仕方が無い。
次から気をつければ、それでいい」
店主「そうかい?・・・すまなかったねぇ、あたしが居眠りしてたばっかりに・・・」
アルスト「き、きにするなって言ってんだろうが!
・・・よし、次からもこの店を利用しよう。その時は大サービスしろよ!
それでチャラだ!どうだ!?」
その言葉に多少は気持ちが楽になったのか、店主は沈んだ顔をやめて言う。
店主「・・・あぁそうだね!出血大サービスでもしてやろうじゃないか!」
言い合いながら徐々に打ち解けて行く2人を見て、サラはホッと胸を撫で下ろしていた。
サラ(店主さんがいい人で良かったわ・・・
アルストがいつもの調子で喋っても合わせてくれてる・・・)
店から出た二人は、宿をとるにはまだ早いと町をブラついていた。
サラ「ねぇアルスト」
アルスト「何だ?」
サラ「アレって、もしかして服屋?」
一軒の店を指差してサラが聞いてくる。
アルスト「そうだ。
まぁ俺はこの装備が普段着でもあるから用事は無いがな」
サラ「あんたの事はどうでもいいの。ちょっと寄っていくから」
アルスト「じゃあちょっと金くれ。俺はその辺みてくる」
「あんた働いてないじゃない」と渋るサラであったが、人の良い彼女は結局アルストにお金を渡して店に入って行った。
する事もなくただ店や町を物色するアルスト。
久々の平和でのんびりした時間を過ごしていた。
そんな時間を過ごしていたが、辺りが夕日に赤く染まり始めた頃、「スターップ」と叫びながら走り寄る人物によって平和な時間は中断させられた。
アルスト「し、しまったああああ!
そう言えば、ガードどもの誤解を解いてなかったあああああ!」
店主と和解した事で満足してしまい、ガードに話をつけておくのを忘れていたのだ。
しかも、走り寄ってくる人物は、アルスト曰く「不死の男カイム・アラゴナー?」であった。
カイム「見つけたぞ罪人め!
まさか堂々とこのインペリアルシティへ戻ってきていたとは!
その度胸は認めるが、これで貴様はお終いだ!」
夕暮れに染まるインペリアルシティで、二人はまたしても対峙したのだった。