翌朝、傷の癒えたアルストは気分爽快に目覚めた。
かなり早起きしたようで、窓からは清々しい朝日が差し込んでいる。
アルスト「ふぁ〜あ・・・今日はいい日だなぁ。
ん?なんだ、もう起きてたのか」
扉の側に居たサラを見つけて声をかけた。
サラ「・・・えぇ。おはよ・・・・」
外の陽気とは逆に、サラの周りだけどんよりとした空気が流れているようだ。
アルスト「?・・・さては昨日の夜、俺に相手してもらえなかったから元気が無いんだな!?」
サラ「・・・」
いつもならここで「そんなワケないでしょ」などと言って、常人ならば即死するほどのツッコミが来るのだが、今日はそれが無かった。
アルスト「なんなんだ?本当に元気が無いな。
まぁいいや。飯まで時間あるし、散歩にでも行って来る。
その方が朝飯もうまくなるぞ。お前もどうだ?」
サラ「私はもうちょっと休んでるわ・・・」
アルスト「・・・そうか?」
結局アルストはサラがなぜ落ち込んでいるのか分からずに、部屋から出た。
そしてここはどこの宿なんだと、ようやく根本的な疑問に辿り着いた。
しかし結局まぁいいやで終わらせたアルストは朝の首都へ散歩に出かけた。
朝が早すぎたのだろうか、町には全く人が居なかった。
アルスト(し、しまった!そういえばガードどもに追いかけられてたんだ!
でもま・・・いいか。何かガードも見当たらんし。
後で武器屋のオバさんとこ行ってガード達に説明しとくように言っておくかな)
普段なら、夜中でも見張りのガードがうろついているのだが、今日はそれすら見当たらない。
それどころか24時間必ず居るはずの門番すら居なかったのだ。
アルスト(なんだ、どうなってんだ?いくらなんでも変だぞ?
首都から人が居なくなっちまったってのか?)
キョロキョロと人を探すように歩き回るアルスト。
しばらく歩き、ようやく人を発見した。
小さい少女のようだ。スケルトンを召還しているのか、一緒に歩いている。
アルスト(あ、あれはもしかして・・・
この町に来てたのか!)
アルストは少女とスケルトンに向かって走り出した。
サラは昨夜から一睡もできずに、昨日自分がしでかしてしまった事を悔やんでいた。
今も部屋の中で突っ立って一点を見つめて考えにふけっている。
サラ(本当にどうしよう・・・アレって勝手に元に戻ってくれないよね・・・
はぁぁ・・・どうしよう・・・)
何度も何度もため息をつきながら、居ても立ってもいられずに扉の前まで歩を進める。
だが何もできないと思い、外に出るのを無意識に嫌がって扉から離れる。
そんな風にグルグルと部屋を回り続ける事を繰り返していると、ドタドタと自分の部屋に向かう足音が聞こえた。
部屋をノックする音にサラは「はい」と返事した。
扉がガチャリと開いて、宿の主人が入ってくる。
主人「お、おい!あんたが昨日背負ってきた連れの男が外に出て行ったぞ!」
サラ「え?・・・散歩に行くって言ってましたけど」
主人「なんだって?!
あんたら昨日の事件の事を知らないのか?」
サラ「事件・・・?なにかあったんですか?」
主人「あったも何も・・・!
空に浮かんでる星の一つをぶっ壊した奴がいるんだ!まだ町をうろついてるかもしれない!」
サラ「・・・!!ご、ごめんなさい!」
主人「いや・・・何を謝ってるんだ?
噂じゃ、凶悪な顔と性格の女らしい。名前は確か・・・サラ!ガード達は鉄拳のサラって呼んでいたな。
あんたの連れがその女に出会ったら命は無いぞ!
クソッ・・・あんだけ外に出るのはやめろって言ったのに、聞きゃしねぇ。
とりあえず、伝えるだけは伝えたぞ」
俺は死にたくないから探すのは手伝えない、と言うと宿の主人は部屋から出て行った。
サラはショックのあまり体から力が抜けてしまい、その場に座り込み、
サラ(あぁああ・・・鉄拳のサラって・・・・何で名前がバレてるの・・
あ!そういえばアルストがあの時私を呼んでたような・・・・
ど、どうしよう・・・めちゃくちゃ悪名あがちゃったよ・・・・もうお祈り捧げれないかも・・・)
などと頭を抱えて唸るのだった。
しばらくして、アルストがさきほど会った二人を連れて部屋へ戻ると、頭を抱えて悩むサラの姿があった。
アルスト「まだなんか悩んでんのか・・・?」
サラはアルストの後ろの二人が目に入らない様子で喋り始めた。
サラ「もう私ダメかも・・・鉄拳のサラとか言われて・・・悪名が・・・」
アルスト「そういやそうだった!
さっき武器屋のオバサンに聞いてきたぞ!いつの間にか一人で有名になりやがって!」
サラ「そんなつもりないわ!
・・・あぁああ・・・どうやったらあの星直せるの・・・」
アルスト「なんだ?せっかく星ぶっ壊してハクつけたのに、直したいのか?」
サラ「当たり前じゃないの!ハクなんてつけたくないわ!」
アルスト「ふ〜ん、そうか。
じゃ、師匠。悪いけどちょっと後で直しといて」
「ちょっとその醤油取って」みたいな気軽さで、アルストは後ろの人物に言った。
そこでサラがはじめて見慣れぬ少女とスケルトンに気づく。
サラ「え?誰?・・・師匠って、その子が!?」
驚いた様子で少女を見るサラ。
アルスト「何言ってんだ?
そんなワケないだろ・・・こっちが俺の師匠だ」
そう言ってアルストはスケルトンの方を指した。
サラ「そっちの方がありえないんだけど!?」
アルスト「ありえない?何で?
まぁいいや、紹介してやる。
こっちが俺の師匠のスケレーdで、こっちがエール。
エールは記憶喪失で、なんか俺を兄貴だと思ってるらしい」
アルストはそう言って自分の背の半分くらいの高さの少女を促す。
エール「お、おはよう・・・ございます!
エールです!お兄ちゃんがいつもお世話になっています!」
多少緊張している様子であったが、少女は元気よく言った。
アルスト「うむ、いい挨拶だぞエール。
だがな、俺がサラを世話してるんだ。そこは間違えるな」
エール「うん、わかったー」
サラ(何だかよくわからないけど・・・
あのスケルトンが師匠って・・?
もしかして、アルストってスクゥーマ中毒?
・・・あ!昨日のダメージで頭がやられちゃって、それで自分で召還したスケルトンを・・!?)
アルスト「おい、サラ。なぜ挨拶をされたのに黙っているんだ」
サラ「ッハ!
ごめん、ちょっと考え事・・・
私はサラ。よろしくねエール・・・と、スケレーd?」
自分のせいでアルストがおかしくなったのだと思ったサラは、合わせるつもりでスケルトンにも挨拶をした。
インペリアルシティから出て旅に出るとアルストが言ったので、サラも旅支度を始めた。
一睡もしていない体は重く、何より精神的なダメージが大きいサラであったが、アルストの頭が元に戻るまでは着いて行こうと思ったのであった。
支度を終えると、サラはアルストにたずねた。
サラ「それで、どこに行くの?」
アルスト「武器屋のオバサンに聞いた話じゃ、何でも浮かぶ城が見つかったそうだ」
エール「Anvilの近くにお城に行ける洞窟があるんだって。
早く乗ってみたいなー」
アルスト「ふふふ、乗るだけじゃないぞ。
その城を乗っ取るんだ!
そして俺は城を肉奴隷城とし、肉奴隷王国を建国する!」
エール「すごーい!
お兄ちゃん王様になるの!?」
アルスト「いや、俺は生まれながらの王だが、城が無かった!
だから城を手に入れる!」
話はじめたサラを無視し、2人で盛り上がるアルストとエール。
サラ(それって多分、危険なところよね・・・
アルストに、女の子に、なぜかいつまで経っても消えない召還されたスケルトン。
心配だわ・・・
でも、一番心配なのはアルストがエールに変な事を吹き込みそうってことだけど・・・)
こうしてそれほど詳しい説明も無しに、少女とスケルトンが仲間に加わり、4人の旅が始まった。
インペリアルシティを出るまでサラはビクビクとしていたが、結局インペリアルシティでは誰ともすれ違わなかった。
人の居なくなったこの首都に、以前の活気が戻るまでには、3日かかったと言われている。