避難民のキャンプへ入って行くと、夜中であるにも関わらず、人々はこれからについて話し合っていた。
クヴァッチが破壊されてからまだ一週間足らず、復興の目処は全くたっていない。
顔に絶望を浮かべてはいるが、彼らはこんな夜中まで話し合いをしている。まだ諦めていないのだ。
Deadraにどれほど町を壊されようとも、家族や友人恋人を失っても、不屈の心で立ち上がろうとしている。
今がどれほど辛くとも、きっと彼らは成し遂げる。
それが、クヴァッチの民なのだ。
アルストとサラの姿を見ると、話し合っていた者達が駆け寄り、我らがクヴァッチの英雄などといって囃し立ててくる。
エールは少し驚いてスケレーdの側へ寄って、多少の警戒をしながら周囲を見回している。
アルスト「ハハァアアッハハハハハ!
その通り!俺は英雄だ!さぁ皆の者、俺の前にひれh」
ゴズッという音と共にアルストの顔が地面にめり込む。
白煙の上がる拳を下ろしてサラが言う。
サラ「みんな、ありがとう。
これから大変だと思うけど、くじけずにがんばって!」
オー!と歓声が上がった。
サラ「それでね、少し聞きたい事があるの…」
アルスト「空に浮かぶ城へ入るための鍵を探している。
ここのキャンプの誰かが持っていると聞いてきたんだが…」
いつの間にやら立ち直っていたアルストがサラを制し言った。
周囲の人々は互いに顔を見合わせている。
その中から一人の男が歩み出て、懐から何かを取り出し掌の上に乗せ、こちらに見せながら言った。
男「その鍵とは、多分コレの事だろう。
私の家に代々伝わっているものだ」
アルスト「おおそうか!じゃあそれくれ」
男「…あんた達にだったらいいだろう。
私が持っていても意味の無いものだ。言い伝えが本当だとしても辿り着けるとは思えないからな」
そのまま受け取ろうとするアルストを押しのけてサラが鍵を受け取り、お礼の言葉を言った。
彼らと少し話していると、以前一緒に戦ったガード隊長のマティウスについての話題があがった。
マティウスはガードをやめてクヴァッチの復興に全力を尽くしているのだという。
このキャンプに見当たらないところをみると、まだ町や城の片づけをしているのだろう。
その後4人は開いている寝床を借りて休み、翌朝にはキャンプを出発した。
キャンプから離れるまでずっと応援や賞賛の言葉で背中を押され、
アルスト以外の者達はいつしか気恥ずかしくなり、だんだんと早足になりながら教えてもらった目的地へと向かうのであった。
南西に7時間ほど歩いた場所と聞いていたが、途中で嵐にあってしまい結局辿り着けたのは日が落ち始めた頃だった。
目的の遺跡は、霧に包まれており発見は難しいと、鍵をくれた男が言っていたが、それは遠くからでも一目瞭然なほどに目立っていた。
遺跡は海に囲まれた小さな島に建てられている。
光の加減か、輝くような霧がその遺跡を覆い、霧から上空に逃れるようにして像が見える。
あの像はアイレイドの遺跡に多く見られる建造物だ。
アイレイドとは遥か昔に滅びたハイエルフの一族である。
凄まじいほどに発達したテクノロジーを開発し、様々な場所にその遺跡を残しているが、数千年経った今でさえそのテクノロジーのほとんどがどうやって動いているのかすら解明されていない。
アルスト一行の求める浮かぶ城も、そのテクノロジーによって開発されたものであろう。
海を泳いで渡った4人は遺跡の入り口を見つけ、慎重に扉を開いて中へと入って行った。
遺跡は10m四方程度の1つの部屋で構成されていた。
部屋の中心には何かを置く台座が置いてあり、一番奥には青白い光の壁がある。ゲートのようなものだろう。
内部にモンスター等が居ない事を確認すると、エールがゲートへ向かって走り出し、光の壁を通り抜けた。
エール「あれ、何もおこらないよ?
ここを通るんじゃないの?」
アルスト「ふむ、その両端にある棒に鍵を挿すんだろう」
光の壁を作り出していると思われる棒を調べてアルストが言った。
アルスト「おい、鍵を貸してくれ。
多分これだ。ここに何かを挿すような窪みがある」
サラが道具袋から鍵を取り出してアルストに渡す。
そして鍵を窪みに挿し込んだ。
サラ「…何も、起こらないわね?」
なんでだろう、と言いながらエールがゲートに手を触れた瞬間、エールの体から一瞬だけゲートと同じ青白い光が放たれた。
そして次の瞬間にはエールが消え、青白い光の玉が数個、その場で浮遊しながらゆっくりと消えていった。
アルスト「おわっ!?…動いたみたいだな。
行くぞ!」
残された3人もゲートに触れて、どこかへと移動した。
移動した先は狭い部屋だった。
4人がそこに居ると狭くて仕方がないほどに狭く、遺跡の中にあったのと同じゲートがある以外は何も置いて無い。
ゲートから出たり入ったりをして遊ぶエールの手をサラが掴んでやめさせ、正面にあった扉を開いた。
そしてついに空飛ぶ城へと辿り着いたのだった。
炎の燈された通路の先に、小さくはあるが城がある。
下を覗けば、この城とその周囲は地面から切り離されており、確かに宙に浮いていた。
アルスト「ハ…ッハァーッハッハハハハ!!
ついに俺は城を手に入れたぞ!」
エール「見て見てー!地面があんなに遠いよ!」
サラ「山と同じくらいの高さに浮かんでるみたいね。
お城の中も見てみましょう」
通路を進んで庭へ入る。
そこにはなぜか、クヴァッチにもあったAntusPinderの像が建てられていた。
アイレイドが彼を知っているはずはない、きっと鍵をくれた男の先祖がここに住んでいた事があり、その時に故郷を思って造ったのではないだろうか。
そして4人は城の正面の大きな扉へと辿り着いた。
アルストが取っ手を引いて開こうとしたが、ビクともしない。
どうやら鍵がかかっているようだ。
アルスト「ぬうう…ここにも鍵がかかってやがる。
…師匠頼んだ。鍵だけをぶっ壊してくれ。扉には傷をつけないでくれよ?」
アルストの言葉を聞き、スケレーdが扉の前へ歩み出る。
サラ「ちょ、ちょっと!
鍵だけなんて無理よ!扉が開かなくなったらどうするの!」
アルスト「安心しろサラ。師匠ならこんなもん楽勝だ」
エール「そうそう、大丈夫だよ。
…多分ね」
サラが心配そうに見つめる中、スケレーdは気にもかけず斧を腰から抜いた。
足を肩幅に開いて、両手で斧を頭上に掲げるようにして構える。
しばらくの静寂の後、右足を素早く前に踏み込み、腰を深く落としながら全体重を乗せるように両手で斧を振り下ろす。
が、斧は扉にあたらず、地面スレスレで止まった。
サラが何かを言おうとし、口を開いた瞬間。
ズバッと扉から音がして、扉と扉の隙間から一瞬だけ光が放たれた。
サラ「ちょ…何か壊しちゃったんじゃない?!」
アルスト「いや、違うな」
そう言ってもう一度、アルストが扉の取っ手を引いた。
すると、ギィと音を立てながら扉が開いた。
エール「やったっ!さすがおじいちゃんだね!」
サラ「だまされちゃダメよエール!
最初から鍵なんてかかってなかったのよ、きっと!
そうなんでしょ!?
なんでスケレーdを使って私達をだまそうとするの!」
アルスト「だまそうとなんてしてねぇ!
何でお前はそんなに疑り深いんだ!」
エール「あっ見て!お城の中に火柱があるよ!」
扉の先を覗いたエールが言った。それにつられてアルストもそちらを見る。
アルスト「うお!?何だありゃ!
…あああ!その前にあるアレはあああ!」
火柱の手前に何かを見つけたアルストが走り出し、エールもそれに続く。
まだ納得のいかないサラであったが、仕方なく気を取り直して2人を追った。
アルスト「玉座だ…!やはり城にはこれがないとな!」
エール「座ってみていい?!」
アルスト「いいぞ。
だがなエール、それは基本的に俺のだ。
お前にも貸してやるが、玉座は俺のだからな」
エール「うん、わかったー」
交互に座り子供のように遊ぶアルストとエール。
玉座で遊ぶ2人の先をじっと見つめてサラが言った。
サラ「アルスト、この火柱ってオブリビオンの…」
アルスト「ん?あぁ、あそこにも似たようなのがあったな。
多分アイレイドが技術をパクったんだろ」
サラ「そう…なのかな…」
アルスト「そんな事より別の場所も探検するぞ!」
サラ「そうね、じゃあその階段の上へ行ってみましょうよ。
もしかしたらSigilStoneがあるかも」
アルスト「な、何!?
それはヤバイぞ、もしもSigilStoneを誰かが取ったりしたらヤバイ事になる!」
階段を駆け上がった先には、またも青白い光を放つゲートがあり、4人は光の壁に触れてゲートをくぐった。
ゲートの先は寝室だった。
部屋の中心にベッドが置かれ、そのベッドを囲むようにして3本の木が生えている。
部屋の中を調べたが、取り敢えずSigilStoneのようなものは手の届く場所には無さそうだ。
ホッとした一行は寝室にあった扉を開けた。
扉を開けると、城の外に出た。
長い道の先に展望台のような場所が見える。
一行は休憩がてら夜の景色を楽しもうと、そこへ行く事にした。
サラ「え?あ、あれ?なにか居る?」
展望台へ近づいたところで、サラが何かを見つけて言った。
アルスト「お、ありゃ幽霊だな」
サラ「なに普通に言ってるのよ!」
エール「もしかして…魂を盗むお化け!?」
アルスト「あれは人間の幽霊だぞ?
魂を盗むお化けは、化け物の幽霊って聞いたって師匠が言ってただろ」
エール「あ、そっか」
サラ「もう!ふざけ合ってる場合じゃないでしょ二人とも!」
アルスト「別にふざけてはないんだが…。そうだな、俺に任せろ」
言ってアルストはどこか遠くを見つめ続けている幽霊へと近づいた。
と、アルストが話しかけると、幽霊はこちらに気づいて振り向き、何かを言い出した。
幽霊「ペラペーラ。ペラペーラ、ペラ」
アルスト「…」
幽霊「ペラララペペーラ。ペペ〜ララ、ペラッペラー」
アルスト「うむ」
一度頷いてアルストは3人へと振り向く。
サラ「なんて言ったか分かるの!?」
アルスト「どうやらお前達では、何を言っているのか分からなかったらしいな…」
そしてもう一度幽霊へと向き直る。
アルスト「おい、幽霊」
幽霊「ペラ?」
アルスト「日本語でおk」
サラ「アンタも分からないんじゃない!」
アルスト「当然だ!
だがしかし、言葉が通じていなくとも伝えておかなければならん。
幽霊よ、もしもお前がここの所有者で、ずっとここを守ってきたのなら、もうそんな事はしなくてもいいぞ。
なぜなら、もはやこの城は俺のものだからだ!」
その後もしばらくの間、アルストと幽霊は同時に喋っていた。
2人とも言葉が理解出来ていないため、自分勝手に喋っているのだろう。
二人はひとしきり話した後、満足したのか同時に頷き、幽霊は回れ右してまた遠くを見つめ始めた。
アルストも回れ右して3人の元へ歩く。
アルスト「奴は見張りとして働く事になった」
サラ「絶対違うわ!
…っていうか、本当にここに住むの?」
アルスト「当たり前だ。ここはもう俺の城だぞ。
お前達もここに住むといい」
アルストの言葉を聞いてエールは飛び上がって喜んだ。
エール「やったっ!
お城に住めるなんてうれしいな〜。ね、サラ」
サラ「え?!私も?
ま、まぁ他に行くところも無いし、ありがたいけど。
勝手に住んじゃっていいのかなぁ」
そして一休みする前に城の掃除をしようという事になった。
はじめのうちは勝手に住んでいいのかと不安げなサラであったが、みんなと掃除をしているうちにそんな不安も吹き飛んだようだ。
結局大掃除をしてしまい、終わった頃には朝日が昇り始めていた。
アルスト「あ゙〜…徹夜した後にこういう朝日見るとドッと疲れが出るぜ…」
庭に座り込み疲れたとヘタっているアルストとは対照的に、他の3人は元気であった。
サラ「みんな見て!インペリアルシティが見えるわ!」
身を外に乗り出してサラが下の方を指をさしながらみんなを呼ぶ。
なんだなんだとサラの隣へ行き、その光景を見た途端、アルストは疲れが一気に吹き飛んだ気がした。
朝もやに浮かぶインペリアルシティを望む景色は、本当に美しいものだった。
そのまま4人は、あっちにはアレがあるこっちにはコレがあると、辺りが完全に明るくなるまで景色を楽しむのであった。