目を覚ますと、天井には青々とした木の葉が見える。
自分が寝ていたのはベッドの上で、ここは室内であったが、なぜか周囲を数本の木に囲まれてる。
寝ぼけた頭がだんだんとハッキリとしてきて、ようやく状況が理解できた。

 アルスト「あぁ〜そうだった。浮かぶ城を手に入れたんだ。
  ここはその最上階の部屋だったなぁ…」

寝癖になった髪の一部分を手で押さえ、まだ重いまぶたを懸命に開きながら体を起こす。
そしてそのまま一度伸びをして、ベッドから立ち上がり、寝室から出て下の階へと降りていった。

寝室へと繋がる玉座の後ろの階段から降りると、食堂からなにやら声が聞こえてきた。

 エール「できたー!
  これなら大丈夫だよー」

 サラ「そうね。町を回って…でもどこに貼ろうかな…」

アルストが声に誘われて食堂へ入ると、そこではサラとエールが何やら紙を持って話している。

 アルスト「よう、二人とも。
  何をしてるんだ?」

 エール「あ、お兄ちゃん。おはよーぅ!」

 サラ「おはよう、アルスト」

 アルスト「うむ、おはよう。…と言っても、もう昼みたいだがな。
  で、それは一体何だ?」

二人が持つ紙を指してアルストが言った。

 サラ「あ、これ?
  家を手に入れても仕事が無いと生活に困るでしょ。だからね…」

 エール「ここでお店を開く事にしたんだよ。
  ほら見て!私とサラが作ったんだよ!」

そう言ってアルストに紙を広げて見せた。

アルストはその紙を読みながら話し始めた。

 アルスト「ぬぅ…便利屋か。
  ギルドに断られたらって…お前らこれじゃ難しい依頼がくるかもしれんぞ…。
  それにこのファストトラベルっていうのは、プレイヤーだけの特権じゃないのか?」

 サラ「問題ないわ。誰でも出来る事になってるから」

 アルスト「なるほど。ならばいい」

 サラ「それで、この張り紙をいろんな町を回って貼ってこようと思うんだけど、貼っちゃいけない場所ってあるの?」

 アルスト「それは知らんな…。だがこういうのは酒場にでも頼んで貼らしてもらえばいいんじゃないか?
  ん?…待てよ、ここで店を開くって事は、まさか王であるこの俺も働くのか!?」

 サラ「当たり前じゃない」
 
エール「そうだよ」

 アルスト「いやだ!一生ふんぞり返って生きていきたい!」

 サラ「じゃあふんぞり返ったまま餓死すれば?」

 アルスト「ぬぅぅ…!」

こうしてアルストも便利屋をする事になったのだった。

 

 エール「あ、そういえばご飯もう冷めちゃったかな」

 アルスト「ん?誰が作ったんだ?
  …まさか、師匠が!?」

 サラ「スケレーdが作れるわけないでしょ!
  エールが作ったのよ。とてもおいしかったわ」

エールはサラの言葉を受けてエッヘンと胸を張り、アルストはなぜかホッとした様子で言った。

 アルスト「そ、そうか。なら問題ないな。
  師匠の料理は栄養の事しか考えてないからクソマズイんだよ…」

 エール「だよねー。あれはビックリだったよ…体にいいのか悪いのか分かんないもんね」

 アルスト「う…うむ…。
  しかしエールよ。うまい飯が作れるとは、女としての嗜みを多少は心得ているようだな。
  体さえ大きくなればすぐにでも俺の…」

そこまで言ったところでサラがアルストの頭を掴み、そのまま横の石壁へ頭をドゴッと埋め込ませ、黙らせた。
埋まっていた頭を必死になって出すと、アルストが言った。

 アルスト「まだ話の途中だろ!って、ああ!
  もう城が傷ついただろうがあああああ!」

 サラ「お城が傷つくのが嫌なら、なんでトマトみたいに潰れないのよ!」

 アルスト「死ぬだろが!!」

 

エールの作った料理は、冷めていてもおいしかった。
そして食事をとったアルストとサラは町を回って張り紙を貼ってくる事にした。

出発する直前に…

 エール「ねー、私も行きたい」

 アルスト「いや、それはいいんだが…
  もしも誰か来て、師匠だけだったらダメだろ?」

 エール「あ、そっか。
  おじいちゃん恥ずかしがって喋れないかも」

 アルスト「だろ?だからお前も留守番していないと駄目なんだ」

 エール「うん…。
  分かった!でも今度は連れていってね!」

 アルスト「うむ。ならば約束だ」

というやり取りがあり、アルストとサラだけで町を回る事になったのだった。

 

まず一番最初にシェイディンハルという北東の町に張り紙をする事となった。
この町はシロディール地方でも有数の美しい町並みで知られている。

家々は、みな素晴らしい石細工やカラフルなガラスで飾られ、
道を歩けば、優美な木々や手入れの行き届いた庭に咲く花々が目を楽しませ、町を流れる川のせせらぎが心を落ち着かせてくれる。
金属品や木工品などの生産も盛んで、それはこの町が栄えていることを示している。

シェイディンハルへ着くなり、店を回って張り紙をしてもいいかと訪ね歩いたが、どこも了承してはくれなかった。
前述した通り、この町は清潔で美しい町である。
きっと住民達はその外観を壊したくないと考えているのだろう。

途方にくれた二人は、町の住民に張り紙をしてもいい場所があるのか尋ねることにし、丁度近くを歩いていたオークの男に声をかけた。

 サラ「すみません、ちょっといいですか?」

オークの男はこちらへと振り向き二人を一瞥すると、そのまま何事もなかったかのようにまた歩き出した。

 サラ「え?あ、あの…」

サラがまた呼び止めようと声をかけると、オークの男は今度は振り向きもせずに何やら歌いだした。

 オーク「ブンブンブン〜♪ハエが何か言ってるぜ〜 ブンブンブブン〜♪」

オークは2人の事を馬鹿にするような歌を歌いながら、川に架かった橋へと歩いてゆく。
サラは突然馬鹿にされてしまった事で、怒りが沸いてくるどころか、何が何だか分からずその場に立ち尽くしている。

少しの間オークが歩いてゆくのを黙って見ていた2人だったが、橋の側までオークが行くとアルストは走り出した。

 サラ「ちょ…アルスト!」

サラが止める間もなくアルストは風をまいてオークへと走り寄る。
そして…

 アルスト「あぶなああああぁぁぁぁあい!」

と、叫びながらオークの背中を蹴り飛ばした。

 

蹴り飛ばされたオークは目の前の岩を飛び越えて川へと落ちていった。
バシャーンと盛大に水飛沫が上がる。
オークは何が起こったのか理解できないまでも、必死に水中でもがいて水面へと顔を出した。
水面から顔を出すと、岩の上に立って腕組みをし、こちらを見下ろす男が目に入った。その男が喋りだす。

 アルスト「危ないところだった…。
  川に落ちるとは、運が無いな。緑の豚の親戚よ」

オークは豚の親戚といわれて腹が立ったが、それ以上に川に突き落とされた事に怒り、顔をゆがめて言った。

 オーク「な、なにを…!これは一体…なにをするんだ!」

 アルスト「うむ。俺に感謝するがいい。
  もう少しでお前が橋に乗ってしまうところだった」

 オーク「俺は橋を渡ろうとしていたんだ!橋に乗るのは当たり前だ!」

アルストは橋を見て、橋に語りかけるように言った。

 アルスト「危ないところだったな…橋よ。
  あんな奴に乗られたら、お前が壊れてしまうところだったな」

そこへサラがやってきて、アルストを叱り付ける。
いつもならすぐに飛んできて鉄拳制裁をしているはずだが、今回はそんな事もないようだ。

ガードがすぐ近くを通りかかっているのを見つけたオークは、声を上げて助けを呼んだ。

 オーク「おーい!そこのガード!
  俺を助けろ!今すぐにだ!」

声を聞きつけてガードが走り寄ってくる。
なぜかその逆方向からは酷くうろたえた様子の男も走ってきた。

 

ガードが二人に何があったのかと聞こうとした時、うろたえた男がガードに向かって助けを求めた。

 「頼む!助けてくれ!
  娘が…娘が山賊にさらわれた!」

アルストとガードが同時に言った。

 二人「なんだと!?」

そして続けざま、アルストが男にこう怒鳴った。

 アルスト「お前の娘は何歳だ!!!」

いきなり何を言っているのだとサラに殴られ、アルストは横へ一直線に吹き飛んだ。

 

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