男「2…27歳だ!」
娘がさらわれたと喚いていた男が、殴り飛ばされて、もはや目の前には居ないアルストの問いに律儀に答えた。
サラ「あの…別にアイツの事は放っておいてもいいんですよ?」
アルスト「27…まぁ問題無い!外見は!?」
先ほどサラに殴り飛ばされたはずのアルストが、いつの間にやら男の前に立っていて言った。
鼻から血を流しながらも、不死鳥の如くその場に一瞬にして舞い戻っていたアルストに驚いて、サラはビクッと肩を緊張させた。
シェイディンハルガードはそんな事は気にもかけずに、2人の会話へと入っていく。
ガード「外見などどうでもいい!
娘さんがさらわれたのは町のすぐ側ですか!?」
アルスト「いいや!外見はじゅうよ…」
アルストの言葉をさえぎり、男がここぞとばかりにまくし立てる。
男「ああ、すぐ近くだ!
正門から出たすぐの道で、この町での用事を済ませた我々が帰ろうと歩いているところを山賊が襲ってきたんだ!
奴は私を突き飛ばし、娘を抱えて北の方角へ逃げて行った!
早くしないと娘がどんな目に合わされるか!
クソッ!こんな時にあの指輪があったら…!
こんな事になるのなら…手元に置いておけばよかった!」
取り乱す男をなだめるようにしてガードが言う。
ガード「なるほど、北ですか。後は我々に任せて、あなたはここで待っていてください。
…くれぐれも馬鹿な真似はしないように。
私はすぐにこの事を報告して…」
男「報告だって!?今すぐに助けに向かってくれ!
そんな事をしていたら、娘が!」
ガードに詰め寄る男に、懐から何かの紙を出し見せ付けるようにしながらアルストが言った。
アルスト「おい、オッサン。俺がお前の娘を助けてやるぜ。
これを見てみろ」
男はアルストが差し出した紙を受け取り読んだ。
男「こ、これは…!まさか噂の空に浮かぶ城では!?
な、なんと便利屋を…!!
なんて事だ!料金は…応相談!?
どんな依頼もスパッと解決だってえええぇええええ!
頼む!スパッと頼む!」
溺れる者は藁をも掴む。男は紙を読むと、すぐさまアルストに助けを求めた。
アルスト「うむ。任せろ。
で、その娘の事なんだが…そんなにアッサリと山賊にさらわれたって事は…」
男「ああ、とてもおしとやかでスレンダーな子なんだ」
アルスト「フッ…それだけ聞けばもはや聞く事はない。
おしとやかでスレンダー = 美人、この方程式に間違いは無いだろ?」
男「一理ある…!!
確かに娘はシロディールで一番の美人だ!」
アルスト「ハッハッハ。さすがにそれは親馬鹿だろうガッ!?」
サラは男と話し込むアルストの手を思いっきり引っ張って自分の後ろに追いやると、
男に向かって「必ず娘さんはお助けします」と言って走り出そうとした。
そこへガードが声をかける。
ガード「君達、本当に行く気か?
ならば北へ行くとすぐにある洞窟に向かうんだ。
以前そこに何者かが住み着いているという報告があった。きっと山賊はその洞窟に居るだろう。
私は報告してからでないと町から出ることはできん。
腕に覚えがあるようだが、私が味方を連れて行くまであまり無理はするなよ」
サラはその言葉に分かったなどと返事をし頷いて、「まだ料金の話が…」と言っているアルストを引きずりながら走り出した。
こうして便利屋として始めての仕事がはじまった。
はじまったばかりで依頼を達成したわけではないが、サラはもう充実感を感じていた。
昔から人の為になる仕事をしたいと夢見ていた。
まだ語られてはいないが、彼女は特殊な生い立ちなため、夢は夢と諦めていたのだが、こうして夢は叶ったのである。
今はいいが、これからどうなるのかは分からない、そんな不安も少なからずはあった。
だが、ニルンのタムリエル大陸へと来る事ができ、やりたいと思っていた仕事にも就くことができたのだ。
きっとこれからも何とかなる。何とかしてみせる。
彼女は希望と幸福に後押しされて、そんな事を思っているのだった。