アルスト「おい!サラ!待てって言ってるだろ!」

呼びかけに気づき、サラが「何?」と振り向いた。

 アルスト「お前・・・さっきあった洞窟見えなかったのか?!
  主人公ぶってるからこういう事になるんだぞ」

実は先ほど洞窟にたどり着いていたのだが、いざ入ろうと後ろを振り向くとサラが居なかった。
そして周囲を見渡すと、サラはなぜかあらぬ方向へと歩いていっていたのだ。

以前、クヴァッチからインペリアルシティへの道のりでもこういう事が幾度となくあった。
つまるところ、彼女は重度の方向音痴なのだろう。

 サラ「えぇ?!う・・・しゅ、主人公ぶってなんていないわ!
  それに・・・そう、地図よ。地図が無いから迷っちゃうんだわ!」

二人はそのまま喋りながら洞窟の入り口へと歩いた。

 

洞窟の前に到着すると、流石の二人も黙りこくり、慎重に扉に手を伸ばす。

と、その時だった。
突然背後から下品な笑い声が響き渡った。
二人は何事かと振り向き、声の出所を探る。

 アルスト「おい、サラ。
  あそこだ、坂の上にキャンプがあるぞ。妙な二人組みが話してやがる。
  ありゃ多分、山賊だ・・・高そうな鎧つけてやがるぜ」

アルストが小声で言って、方向を指で指し示す。
そこでは山賊らしき二人組みが何やら嬉しそうに話していた。

 山賊1「ハッハッハ!やったな兄弟!
  あの女を見世物小屋に売れば、かなり高くつくぜ?」

 山賊2「ありゃぁ、ある意味上玉だ。
  それもとびっきりのな!」

アルストとサラは身を低くしてみつからないように山賊へと近づいて行く。
声を低くしてサラが言った。

 サラ「間違いないわ・・・奴らが犯人よ。
  洞窟の中を探して回る手間が省けたわね。
  どうするの?突撃する?」

 アルスト「いや、ここは俺に任せろ。
  もしも仲間が他に居たら、さらった娘を盾にしてくるかもしれんからな」

そう言ってアルストはそのままゆっくりと、足音を出さないようにして山賊へと向かって行った。

サラはアルストが見つかった時に備えて、剣の柄に手を当てて集中力を高めている。
山賊との距離が見つかるギリギリにまで詰まると、アルストは雄たけびを上げながら山賊に飛び掛った。

言葉通り、飛び上がるように立ち上がり、棒を力いっぱい山賊1の頭に打ち込み気絶させると、山賊2は何事かと驚いて一歩下がる。
そして腰に下げていた斧を右手で掴む、が、掴んだときにはすでにアルストの棒が喉へと食い込んでいた。

 

 サラ「あんたって、不意打ちとかになると凄いわね。」

山賊を倒すと、サラが走ってきて言った。

 アルスト「正々堂々でも俺は最強だ!
  ってそんな事を言ってる場合じゃない!どこだ!?美女はどこだ!?
  何とか小屋に売ると相当な値になりそうな上玉はどこに居る!!」

必死に周囲に目を凝らしたが、それらしい人物は見当たらない。

 サラ「まさか、この山賊の仲間に連れて行かれたんじゃ?」

 アルスト「な、何!?
  クッソー!起きろお前ら!」

アルストはゲシゲシと山賊を蹴り起こそうとしたが、山賊たちは全く起きる気配が無い。
その時、サラは何か声のようなものを聞いた気がした。

 サラ「・・・?
  何かしら?ちょっとアルスト、静かにして」

サラは耳を澄ませて周囲をうかがい、アルストは周りの物を覗いて回る。

確かに、何かの音がした。
助けてー、という声の後に、ドンドンと物を叩くような音が。

 サラ「ちょ、ちょっと。
  もしかして、コレじゃない・・・?」

 アルスト「た、確かに女の声が・・・
  まさかこの箱は・・・四次元ボックスか!?」

 サラ「四次元・・・なにそれ?」

 アルスト「じっちゃんの名にかけて!お前知らないのか!?
  かの有名なネコ型ロボットの伝説を!
  そのネコ型ロボットは未来から来たというハッタリを押し通すため、四次元を自在に操り、
  そこから様々な道具を出現させて、その日の気分で世界を救ったり壊そうとしたりしたらしいぞ!
  一説によれば、地球より大きな宇宙船すら出現させてだな・・・」

その後もアルストによる間違ったドラえも○に関する演説は延々と続いた。
サラはそんな話を無視し、箱を開ける。
すると、その中には小さな動く何かが入っていた。箱からその何かが這い出てくる。

驚く事に、それは人であった。

 小人「はぁ〜苦しかった・・・助かりました〜。どうもありがとうございました。
  実はつい先ほど山賊に襲われて、この箱の中に閉じ込められてたんです。
  もうどうしようかと・・・あれ?」

小人は固まっている二人を見上げ、どうしたんだろうと首をかしげると、ハッとした表情でまた話し始めた。

 リン「・・・あぁ!すいません、自己紹介がまだでした。
  私はリンと申します。
  重ねてお礼を、どうもありがとうございました」

 アルスト「う、うむ・・・。
  俺の名はアルスト、この世の全てを統べる王だ。
  リンとやら、一つ聞くが・・・お前本当に27歳なのか?」

 リン「えっ、なんで知ってるんですか!?」

リンが答えると、アルストの表情が険しくなった。

 アルスト「・・・いい加減にしろおおおお!」

突如として怒りだしたアルストをサラが制するように言った。

 サラ「な・・・落ち着きなさいよ!突然どうしたのよ?」

 アルスト「これが落ち着いていられるか!!
  お前そんないい歳コイて何でチビっ子体形なんだ!
  本気で大きくなる気がないのか!?ビッグになりたいと思わないのか!?」

リンと名乗った小人は、突然怒られたことで身をすくませて言った。

 リン「ひぃっ・・・ご、ごめんなさい!なりたいです!
  ビッグになりたいです、けど無理でした!ごめんなさい!」

 アルスト「・・・諦めたら、そこで成長期終了なんだよ!安西先生の言葉を思い出せ!
  よし・・・!今日から牛乳を2リットル飲め!そしてビッグになるんだ、分かったな!?
  まったく・・・エールといいリンといい、何で出てくる女はサラ以外チビっ子ばかりなんだ・・・
  これじゃ俺のにくどr」

そこまで言ったところでサラがアルストを殴り、地面に埋め込んだ。
深呼吸をし、怯えているリンに向かってなるべく優しい声でサラが言った。

 サラ「ごめんね、驚かせちゃって。
  ・・・私はサラ。私たちはあなたのお父さんに頼まれて、あなたを助けに来たの。
  リンさん、シェイディンハルへ戻りましょう。お父さんが心配して待っているわ」

 リン「パパが?そうだったんですか。
  でも、私・・・」

リンはうつむいて何やら悩んでいるような仕草を見せた。

 サラ「?・・・どうしたの?」

 リン「わ、私・・・
  牛乳を2リットルなんて無理です!牛乳飲むとすぐにおなか壊しちゃうから・・・」

 アルスト「そんな情けないことでどうする!
  リンよ・・・大きくなるための道は、遠く険しいのだ・・・
  例え腹を壊そうとも、下痢になってしまっても!カルシウムを取り続けろ!
  その茨の道を踏破することができてやっと、俺のにくd」

突然ムクリと起き上がり、まくし立てたアルストにまたしてもサラの鉄拳が迫る。
そして・・・

 サラ「先に町に帰ってろー!」

と叫ぶと、渾身の力で殴りつけた。

殴られたアルストは空中に赤い軌跡を残しながら、シェイディンハルの方向へと飛んで行った。
その方向を眺めていると、丁度シェイディンハルガードが3人、洞窟の入り口へと入ろうとしているのを見つけ、サラが彼らを呼んだ。

 サラ「あ。あれってもしかして・・・。
  こっちよー!山賊はもう退治したわ!
  さらわれた子も無事よ!」

声を聞きつけたガード達は急いでキャンプへと走ってきた。

 ガード1「おお、これは!
  洞窟の側にこんなキャンプを張っていたとは・・・
  急いで来たんだが、どうやら我々の出番は無かったみたいだな。よくやってくれた」

 ガード2「おい、見てみろ。こいつら噂のサンゾック兄弟じゃないか?
  しかもまだ生きてるみたいだぞ」

 ガード1「サンゾック兄弟だって!
  あの凶暴で通っている兄弟を生け捕りにするとは・・・
  ん?もう一人の男性が見当たらないが、彼はどこに?」

 サラ「アイツの事なら心配しないで、先に帰ったから」

 ガード1「そうか。それで・・・さらわれた子はどこに?」

そう言ってガード達はリンの姿を探し始める。
どうやらリンがガード達に近づきすぎて、彼らの視界に入っていないらしい。

このままではリンが踏み潰される。そう思ったサラは少し語気を強くして言った。

 サラ「う、動かないで!
  下よ!下に居るわ!」

ガード達は「下?」と不思議そうに言いながら下を見た。
そして彼らもまた、しばらく固まり、リンの事を妖精だなんだと言って騒ぐのであった。

そしてサラとリンは3人のガードに護衛されながら、シェイディンハルへと戻っていくのであった。

 

 

――――――――おまけ――――――――――――――――――――――――――――
この話はALUST.STORYとは関係の無いオマケのストーリーです。

サラとリンが、ガード達に護衛されながらシェイディンハルへと帰る道中で・・・

サラは謎のダンボール星人を発見した。

 サラ「ちょ、みんな!
  み、見て!怪人ダンボール男よ!」

ダンボールの人、つまりダンボーはサラの声に驚いたのか、シュッとどこかへ走り去った。

 ガード1「ん?ダンボール男・・・?どこだね?」

 サラ「し、信じられないくらい素早いわ!
  今そこの木の陰からこっちを見てたのよ!本当よ!?」

ガードはグルリと周囲を見回してから言った。

 ガード2「・・・?・・・何かの見間違いでしょう。
  ダンボール男なんて、そんなもの居るはずがないでしょう、はっはっは!」

そして一番前を歩いていたガードが話し始めた。

 ガード1「サンゾック兄弟と戦って疲れていたんでしょうな。
  ハハハ、さぁ早く町へ戻りましょう。そしてすぐに宿をとるといい」

みんながガード1の方を振り向く、すると突然ダンボーがガード1の背後にジャンボジェットを超えるスピードで取り付いた。

 リン「あ、あぶなーい!」

 ガード1「ぬおおお!?」

ダンボーが何か言ったため、ガード1も驚いて振り向くが、もはやそこには何も居なかった。

 ガード1「か、感じたぞ・・・!悪の気配を!
  お金で動くとか何とか・・・。なんと言う腹黒さだ!
  限りない悪が、確かに今居た!!」

ガード達は武器を取り、サラとリンを囲むようにして隊列を整える。
サラも剣を抜いて臨戦態勢だ。

 リン「みなさん気をつけて!
  多分あの怪人は戦ったら超強いです!」

だが、そんな彼らをあざ笑うようにして、今度は違う変態が彼らの隊列の中へとまぎれこんだ。

手を広げて高笑いをする謎の変態を目の前にして、ついにサラは自分を忘れるほどに恐怖した。

 サラ「へ、変態仮面!理由は無いけど、覚悟ー!!」

目を硬くつむり、剣を大きく振りかぶって思い切り踏み込み、全体重を乗せて剣を振り下ろす。
ザシュッという手応えとともに、「ギャアア!」という悲鳴が響き渡った。

サラが恐る恐る目を開くと、足元にガード1が倒れていた。

 ガード1「い、痛い・・・!
  き、君!私は変態仮面などではない!
  それにこれがオマケのストーリーじゃなかったら確実に私は死んでるぞ!」

 サラ「ご、ごめんなさい・・・」

どうやら仮面の変態はサラの剣を避けたようだった。
そしてその剣は不運にも、変態の後ろに居たガード1へと直撃していたのだ。

その後、ダンボーと謎の仮面の男が現れる事はなかったが、サラたちはシェイディンハルへ着くまでの間、ずっと武器を構えて周囲を警戒していたのだった。

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