オーク「神々の血にかけて!
おぉ、なんと言う事だ・・・娘さんが小さいまま育っただなんて・・・」
少し前にアルストに蹴飛ばされて川に落ちたオークの男は、まだ川から上がっていなかった。
そしてそのまま、娘がさらわれたと騒いでいた男、リンの父親と今まで話していたようだ。
リン父「それでも体は丈夫で、今まで病気一つした事がないんだ。
それに、心の優しい子に育ってくれた。・・・それだけで私は満足さ。
だが・・・将来の事を考えると、あの子が不憫で仕方がない・・・。
あの子はとてもいい子だ。どこへ出したって恥ずかしくはない。体さえ、普通のブレトンと同じならばな・・・」
オーク「将来か・・・確かに娘さんの体がそれほど小さいのなら、仕事を探すのも難しいだろうな」
リン父「ああ・・・・。
もうどれだけ雇ってくれと言って回ったか分からんよ、どの仕事でも断られるばかりさ・・・
いつまでも私が生きている、という訳にもいかないからな・・・
あの子にも出来る仕事を見つける、それが私と私の妻の今一番の目標なんだ」
オーク「俺には応援する事しかできんが・・・がんばれよ。
・・・それにしても、あの便利屋のハエ2匹とガード達は何をやっているんだ!
もうあれから2時間は経っているぞ!」
言ってオークは川につかりながらも門の方を覗いた。
かなり覗きにくそうである。そんな苦労をするのなら川から上がればいいのだが、どうやら彼にその意志はないようだ。
すると、上空から何かがヒュルルル〜と落ちてくるような音がした。
リンの父とオークは、無意識に音のする上空を見た。
何か、人の形をした赤い尾を引くモノが激しく回転しながら落下してきている。
そしてそれは川に浮かぶオークの方へと向かっていた。
オーク「うわあぁ!新手の攻城兵器か!?
確か、どこかの世界の昔の攻城兵器に、牛の死体を敵が篭城する城へと投げ込んで、疫病を発生させるという攻城兵器があった気がする!
まさかその改良版が、ぎゃあああああ!」
驚きながらも理性的にオークが説明している間にも、飛んできたモノはオークのすぐ側へと着水した。
派手に水飛沫が上がり、驚いたオークの悲鳴も上がる。
二人が固唾を呑んで落下物を見守る中、ついにそれは水面へと浮かび上がってきた。
アルスト「ブハァ!・・・こ、ここは?」
オーク「こ、ここはシェイディンハルだが・・・ぁあ!貴様は便利屋!
まさか山賊にやられたのか!?」
アルスト「やられただと!?この俺が誰かに負けるわけないだろが!
これは・・・そう、斬新ではあるがファストトラベルだ!そんな事は基本中の基本だろ!
・・・てか、お前あの時のオーク?まだ川の中に居たのか?」
アルストは川から上がりながら、自分が突き落としたオークに気づいて言った。
オーク「当たり前だろう!
本当なら18話の辺りで川から上がっているはずだったんだが、書き手と見直しをした者に完全に忘れられていたのでな。
だから俺はお前に突き落とされたという状況証拠を残していたんだ。
今度こそ書いてもらうからな!」
リン父「おかしい人かと思っていたら、そういう事だったか・・・!」
アルスト「うむ、ならば仕方がないな」
川から上がったアルストは、リンの父親を見つけると肩をいからせて詰め寄り、言った。
アルスト「おい、娘を見つけたぞ!
あれはどういう事だ!」
その言葉を聞くと、リンの父親は詰め寄ってくるアルストの肩を勢いよく掴み、揺さぶるようにして問いかけた。
リン父「ほ、本当か!?あの子は、リンはどこに?!
ま、まさか君と同じようにどこかに飛ばされてしまったのか!?」
あまりの必死さにさすがのアルストも一瞬ひるんだ。
アルスト「リ、リンは無事だ・・・サラと一緒に居る。
・・・それよりも、あの体の小ささはどういう事だ!呪いか!?」
リン父「そうか、無事か・・・よかった・・・」
そしてリンの父親は、リンの体がある歳を境に成長しなくなってしまったと、説明を始めた。
アルスト「そういう事だったのか・・・」
説明を聞き終えたアルストは、先ほどの剣幕はどこへやら、神妙な面持ちで言った。
リン父「あの子はあんな体だ・・・私は幸せに、とまでは望まない。
ただ、人並みの生活さえ自分自身の力でできるようになってくれれば・・・」
アルスト「・・・うむ、そうだな・・・。
牛乳をもっと沢山飲ませなければならんな・・・」
サラ「アルスト!」
アルストは突然呼びかけられ、そちらの方を振り向いた。
サラとリンの二人が、ガードを引き連れてここシェイディンハルへと帰ってきたようだ。
ガード達はいまだに気絶している山賊を肩に背負っている。
そしてサラにお礼の言葉を言うと、早く山賊達を牢獄へ運びたいのだろう、城の方へと歩きだした。
それを見たオークが川の中からガード達に向かって必死に手を振り、何かを叫んだ。
だが、ガード達はオークに向かって引きつった笑いをしながら手を振り返すと、少し早足になってスタスタと歩いて行ってしまった。
どうやら、川で遊んでいる変人と思われたようだ。
オーク「 。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。 ウワァーン!! 」 (顔文字 提供:桜吹雪 紙吹雪)
せっかく今まで待っていたのに、などと喚きながら、オークは川から上がり大粒の涙を撒き散らしながら去って行った。
アルスト「・・・・・・・」
そしてサラとリンがこちらへと小走り気味に歩いてきた。
サラ「どうしたの?あの人?」
アルスト「うむ。奴は人生の厳しさを学んだのだ」
キラキラと光る涙を纏い走り去るオークの姿は、・・・・・・。
リンの父親は愛しい娘の無事を大変よろこんだ。
リン「パパ、心配かけてごめんなさい・・・」
リン父「いいんだよリン、無事でいてくれたんならそれでいいんだ・・・!
君たちには、何とお礼を言っていいか!
ありがとう、本当にありがとう!」
アルスト「気にするな。それが仕事だ。
さて・・・それじゃあ料金をいただくとしようか」
リン父「ああ、もちろん忘れてはいないさ。
・・・1000ゴールドだ。受け取ってくれ」
この世界で1000ゴールドといえばかなりの大金だ。
以前アルスト達が探検で手に入れた装備品を売った時には、その中にレアな物がいくつか混じっていたために7万ゴールドもの大金になったが、
普通に働いていると思われるこの父親が1000ゴールドを稼ぐ為には、それこそ寝食を惜しんで来る日も来る日も働くしかない。
それに父親の服装を見るに、リン達はお世辞にも裕福には見えなかった。
きっと体が小さい娘の未来を思い、溜め込んでいたお金なのだろう。
この父親はそのお金を使う事をいとわないほど、今回の事に感謝していたのだ。
だが・・・
アルスト「ハハッハハハハ!笑わせるな!それっぽっちで足りると思うか!
俺達は命を賭けて戦ったんだぞ!」
サラ「ちょっと・・・!何を言うの!?これだけで十分じゃない!」
リン父「・・・。
いや、いいんだ。ならば我々の家に来てくれ。あと2000出そうじゃないか」
リン「えぇ!?
パパ、それって私達の全財産なんじゃ・・・」
リン父「リン・・・心配はいらないよ。お金なんて失っても後でいくらでも稼げるさ。
もう少しで私は世界で一番大事な娘を失うところだったんだ。
だから・・・」
リンの父親の話が終わる前に、アルストが遮るように言った。
アルスト「足りんな!」
その言葉についにサラが本気で怒り始めた。
サラ「いい加減にしなさいよアルスト!
あんたって本当に最低ね!そんなにお金が欲しいの!?なら・・・」
怒りに任せてアルストを怒鳴りつけるサラ、今にも飛び掛りそうな彼女を止めるようにしてリンの父親が言った。
リン父「ま、まぁまぁ落ち着いて。元はといえば貧乏な私が悪いんだ。
だが困ったな・・・私はもうこれ以上なにも出す事ができない・・・」
アルスト「出すものが無いだと?そんな事はないだろう?
そこに居るお前の娘、リンをいただこうか」
リン「わ、私を!?」
リン父「ば、馬鹿な・・・そんな事、出来るわけがない!」
あまりの事に驚くリン親子。サラは怒りのあまりに震えている。
アルスト「だが、他に何も無いんだろう?ハハァーッハハハハ!なら決まりだ!
丁度俺の城は人手不足でな、掃除とかをやってくれる人間が二人しかおらん。
それに一人は小さ・・・いや、リンよりは大きいが、・・・幼いっぽい女だからな。
どうだ?いい話だろう!?
給料もちょっとは出してやるぞ!」
リン父「・・・!!
まさか君は・・・私の話を聞いて、それでそんな事を?」
アルスト「話?何の?」
リン父「・・・私に気を使わせないために知らないフリを・・・すまない、何から何まで・・・
そういう事ならばぜひ頼む!娘を働かせてやってくれ!」
アルスト「ハァーッハッハッハッハッハ!では娘はいただいた!
どうだこの俺の交渉術は!見たかサラ!?
まだ候補だが、これでまた一人俺の肉奴r・・・」
そう言ってアルストは横に居るサラの方を向いた。
すると、そこに居たサラの体がスッと消え、アルストの上半身がバキィと音を立てて横へと大きくのけぞった。
それと同時に、消えたと思っていた彼女が元居た場所に右拳を突き出した形で現れた。
パンチを繰り出すスピードがあまりに速かったため、体全体が消えたように見えたのだ。
殴られたアルストは横へ吹き飛び、橋を壊して川の対岸へと大の字になって叩きつけられ、そのまま地面をえぐりながら大地へとめり込んだ。
リン「・・・パパに・・・売られちゃった・・・」
喜ぶ父親の横で事情を知らないリンが、そう言って涙をこぼした。
その涙を見て、これまた事情を知らないサラはさらに怒り、アルストへの追撃のため大地を蹴って高く飛び上がった。
サラとリンが事のあらましを聞いたのは、サラがアルストをボコり終わった後であった。
元の顔がどうであったか分からないほど腫れ上がった顔で、それでも、もう体は回復したのか胸を張って腕組みをしながらアルストが言った。
アルスト「ぼばヴぇ・・・ぼうぼっぼぼびぼヴぁヴぁヴぃヴぁっばばぼうば」
サラ「何言ってるか全然分からないけど、とにかくごめん。
でも、今度からこう言う事は先に言って。
アンタの話し方って悪党っぽいから・・・勘違いしちゃうわ」
サラは、アルストがリン親子に気を使い、先ほどのような事を言ったのだと勘違いしていた。
もちろんアルストはそんな事は考えていない。ただ単に、すでに言葉がまともに喋れなかったため、何を言ってもスルーされてしまっていただけだ。
アルスト「ぼべヴぁばぶいっべぼば!!」
サラ「・・・・・。
リンさんは・・・それでいいの?」
サラはアルストが何を言っているのか分からなかったため、少し困った顔をし、リンの方を向いて問いかけた。
リン「もちろんです!
パパとママにいつまでも迷惑かけてはいられないですし・・・
それに、今日シェイディンハルへ来たのだって、買い物と私の仕事を探すためだったんです。
だから、私からもお願いします!便利屋さんに雇ってください!」
こうして、リンは天空の城で働く事になったのだった。
シェイディンハルの門の前で、リンの父親は娘の事を心配してか離れるのを惜しんでか、アレはコレはと、ずっとリンに話しかけていた。
リン父「便利屋に就職したからと言って・・・あまり無茶をするんじゃないぞ?」
リン「パパ、そんなに心配しなくても大丈夫。私はもう大人よ?
ママにもちゃんと伝えておいてね」
リン父「ああ、さすがは我が娘!ママの事まで心配してくれているなんて!
何と頼もしく育ったんだ!」
彼らの話は夕方ごろまで続いた・・・。
そして辺りが赤く染まる頃、ようやく3人はシェイディンハルから旅立って行った。
遠ざかって行く3人の姿を、リンの父親は姿が見えなくなるまでずっと見守り続けていたのだった。
その横をガード達がもの凄いスピードで走り抜けて行った。
橋を壊した奴らはこっちへ行ったらしいぞ、と喚きながら。