アルスト「まったく・・・お前のせいで捕まるところだったぞ」

顔の腫れも治り、少しだけ不機嫌そうな顔をしたアルストがサラに向かって言った。

 サラ「だからごめんって言ってるでしょ」

 リン「まぁまぁ・・・。
  山賊を捕まえた事でガードの人達も今回は目を瞑ってくれたし、貼り紙もしてくれるって言ってましたし・・・
  もういいじゃないですか」

3人はつい先ほど、シェイディンハルでサラが壊した橋の事で追いかけて来たガード達に捕まりそうになっていたのだ。
運良くその場に居合わせたガードの一人が山賊退治のことを知っており、今回に限っては、と言うことで不問としてくれたのである。
ドタバタしていた事で貼り忘れていた広告も、そのガードに頼むと、なんと城の入り口の城壁に張ってくれる事となっていた。

 アルスト「うむ。まぁ結果オーライか・・・。
  だがなサラ、今度から物は壊すんじゃないぞ!」

 サラ「わ、分かったわよ・・・」

シェイディンハルを出てからすぐに辺りが暗くなってしまったため、戻ろうかという話も出たが、
次に向かうブラヴィルまでの道中に宿があったはずだとアルストが言ったため、その宿を3人は目指して歩いた。

 

歩く事数時間、彼らはついにその宿を見つけた。

それは想像していたものより、はるかにボロボロの宿だった。
壁に穴は空いていないものの、木造の壁は今にも崩れそうなほど痛んでおり、
床を歩けばギシギシと音が鳴り、底が抜けそうなほどに心もとない。

この辺りの道は人通りが少なく、まったく繁盛していないせいであろう。
お金を落としていってくれる客が居なければ、宿の補修は出来ない。
補修もされていない不潔そうな宿には、泊まりたくはない。
きっとこのような負の連鎖とも言えるものがあって、このようなボロボロの宿になってしまったに違いない。

そしてアルスト達3人も、例に違わずこのような宿には泊まりたくはないと、ブラヴィルへと日の落ちた暗い道を月光を頼りに歩むのだった。

 

シロディールの中心に位置するインペリアルシティから南西の地点にブラヴィルはある。

ブラヴィルは河に面した地形に街が作られているため、乱雑に家々が立ち並び、街並みはいいものではない。
さらにこの街に住む人々は全体的に貧しく、犯罪者も多く出没するため治安もかなり悪いという、あまり住みたいとは思えない街である。

治安が悪いこの街でこそ、ガード達が厳しく取り締まらなくてはならないのだが、
もはや自分達ではどうにも出来ないとでも思っているのか、軽犯罪程度なら見逃してしまっているようだ。

事実、貼り紙をしてよいかとたずねると、適当な場所に張っておけといわれたので、
アルストが門に一枚、広場にある幸運の老女の像に「アルスト参上」という落書きと共にもう一枚張ったが、誰にも注意される事はなかった。

しかし、結局アルストはサラに殴られ、落書きはリンが必死に消して行ったという。

 

次に一行が向かった先は、ブラヴィルからさらに南のレヤウィンである。

レヤウィンとは、シロディール最南端に位置し、他の地方とを結ぶ重要な交易路を守るため、
石造りの壁と駐屯部隊によって守られた強固な城塞都市として発展してきた街である。

家々はみな大きく、漆喰の塗り壁で作られたものが多く、他の街と比べても色彩豊かなものが多い。

人々も楽しげで活気付いており、貼り紙の事もそれほど珍しくはないのだろう、2つ返事で承諾してくれた。

 

そして次に一行はインペリアルシティへと向かった。

ここではサラが都市の中に入る事を拒んだため、アルストとリンだけで貼り紙をして歩く事となったのだった。

しかし、一悶着を起こした武器屋以外では全て断られてしまい、
途方にくれたアルストはリンの見ていないところで、グレイフォックスという盗賊の指名手配書の上に、こんなに沢山張ってあるのならちょっとくらいいいだろう、と何枚か上に重ねて張り、
何事も無かったかのように首都をあとにしたのである。

後に天空の城へと苦情が来たのは言うまでもない。

 

インペリアルシティから出た一行は北へと向かった。
北にあるのは一年中雪に覆われる街、ブルーマである。

山脈の高地に位置するこの街は、とても寒く、住み心地が悪いとされる。
それがどれほどのものかといえば、あらゆる区域に置かれた常に火を絶やさぬようにしている大きな火鉢を見れば分かるだろう。

この街は山脈の豊富な木を活用しており、ほとんど全ての物が木で作られている。
だが、鉄器が作れない訳ではない。恐ろしく寒いため、使えないのだ。
冷えすぎた鉄に触れれば、触れた部分の皮膚が張り付いてしまう。
そして鉄から皮膚をはがすときに皮膚まで一緒にはがれてしまうため、この街では冷えても安全な木が好まれるのである。

この街に多く住むノルドと言われる長身の種族は、寒さに強く穏やかな性格であり、彼らの好意で何事もなく貼り紙をする事が出来た。

 

さらに一行はその西、コロールへと向かう。

5つの地区が寄り集まって出来たこの街は、とても清潔である。
寄り集まって出来た、とは言っても街並みは美しく、整備も行き届いている。
それ以外に特筆すべき点は無いが、逆にそれはこの街が理想的な街という事ではないだろうか。

だが、この街を守るガードには問題がありそうだった。
門番に貼り紙を頼んだら、めんどくさそうに自分の横の城門へと適当に張ってしまったのだ。
他のガード達も、何か覇気が無いような対応ばかりであった。

 

そして一行はコロールから南のスキングラードへと辿り着いた。

シロディールでも最も栄えた街の一つに数えられるスキングラードは、良質のワイン、トマト、チーズで有名である。
立ち並ぶ家は全てが豪邸であり、住民はみな教養豊かで独立精神が旺盛である。
街の外には農場まで有し、この街を統轄する伯爵の手腕も伺い知る事が出来る。

このような街では貼り紙など到底断られるだろうと思っていたが、意外にも度を越すようなものでない限り自由だそうだ。
独立精神旺盛な彼らは、新しい仕事に対して寛容なのだろう。

 

そこから西のクヴァッチに辿り着くと、アルスト達はまたしても熱烈な歓迎を受けた。
天空の城を見つけた事をアイレイドの遺跡の鍵をくれた男に伝え、便利屋の貼り紙を彼に渡すと、彼は大変驚き、喜んだ。

持て囃されていい気分だったのであろう。街の復興も手伝うのでいつでも呼んでくれなどと、珍しくアルストが言った。
そして一行はそのままクヴァッチのキャンプを離れたのだった。

 

 アルスト「よーし、これで残る街はアンヴィルだけだな」

クヴァッチからさらに西、シロディール最西端の街アンヴィルを一行は目指していた。

 リン「アンヴィルって港町ですよね?船もありますよね?
  一度大きい船を見てみたかったんですよ〜」

 サラ「あれ?インペリアルシティにも船はあったと思うけど、見なかったの?」

 リン「ええ!そうだったんですか!?」

 アルスト「うむ、確かにあったが、あの地区はオンボロだから今回は行かなかったのだ。
  それに、小さいのなら他の街で見ただろ?」

 リン「大きいのが見てみたかったんです。この間見た本に・・・」

 

そして一行がクヴァッチのキャンプから30分程度行った街道を歩いていたとき、突如としてそれは現れた。

それは4足歩きでのっしのっしと大きな体を揺すりながら街道へと歩み出ると、
鋭い爪と牙を見せびらかすように2本足で立ち上がり、地の底から響いてくるかのような低い声で喋った。

 ???「止まれクマー!」

 サラ「ええ!クマが喋ってる!?」

 リン「し、新種!?もしかして新種ですか!?」

それは一見すると普通のクマのようであった。だが、喋るクマなどこの世に居るだろうか。
アルストは驚く2人の前に歩み出ると、こちらを威嚇していると思われるクマに言った。

 アルスト「貴様・・・!クマの分際で喋るとはなかなかやるな!
  名を名乗れ!」

するとクマのような生物は大きな口を開けて笑い、答えた。

 クママン「よくぞ聞いたクマ・・・俺の名はクママン!
  あるお方から力を授かったクマだクマー!」

 アルスト「クママン・・・!
  なんという語呂の悪さだ・・・!
  ・・・いいだろう、今日からお前はクマンだ。これからはクマンと名乗れ。
  これは命令だ!分かったな!?」

 クマン「なんでお前にそんな事を命令されなきゃならないクマ!?
  ま、まあいいクマ。
  どうせお前らはここで俺に殺されるんクマからなー!」

クマー、と咆哮を上げてクマンがアルストへ突進する。

棒を構えじりじりと前に出ながら、迎え撃つ体勢のアルストの横へサラが割って入り、両手剣を突進するクマンへと振り下ろした。
一直線に突進してきたクマンはそれを見て減速し、剣を防ごうと左前足を剣へとかざす。

すると、重く柔らかい物を叩くような音がして、サラの剣は受け止められた。

 サラ「な・・剣が効かない!?」

 クマン「クマーックマックマックマッ!
  凄いクマ!あの方の言った通り、本当に普通のクマの60倍は強くなったクマー!」

剣を受け止めていた前足をそのまま力任せに押し出すクマン。
力には自信のあったサラであったが、押し返される剣と一緒になすすべ無くそのまま吹き飛ばされ・・・

 サラ「きゃあ!」

2、3メートル後ろへ吹き飛ぶと、背から地面へと叩きつけられた。

サラの一撃で決まると思っていたアルストはその光景に驚きを隠せなかった。

 アルスト「ば、馬鹿な・・・!
  このクマ野郎が!俺の女に手を出すとは!」

そう言ってすぐに気を取り直すと、棒を振り上げクマンとの距離を詰めて振り下ろそうとした。

だが次に見せたクマンの動きは、最初の突進の比ではないほどに早かった。
アルストが振り上げている棒へと飛びかかり、棒を器用に爪ではさんで掴むと、アルストを飛び越えざまに飛び掛った勢いを利用しながら全く重さを感じさせずに放り投げた。

それは普通のクマでは考えられない動きだ。

放り投げられたアルストは、後ろでどうする事も出来ずに右往左往するリンの側まで飛ばされたが、
その余りある打たれ強さで、すぐリンに背を向けるように立ち上がると、クマンを睨み付けながら言った。

 アルスト「こ、このクソ熊が調子に乗りやがって!
  おいサラ!大丈夫か!」

 サラ「このくらいなんともないわ!」

アルストがやられているうちに立ち直っていたサラは、言うと同時にクマンへ向かって駆け出した。アルストもそれに続く。

 クマン「挟み撃ちクマ!?」

 アルスト「フハァーッハハハ!
  これで終わりだクマン!」

クマンは襲い掛かってくる二人を交互に見て、どうしていいか分からぬようなそぶりを見せた。
が、二人が同時に攻撃を繰り出した瞬間、高く垂直に飛び上がり攻撃を避け、敵を見失い隙の生じた二人へ太い前足と後ろ足で打撃を放った。

打撃を受けた二人は、まるでボールのように弾き飛ばされた。
その様を見たクマンは楽しくて仕方がないと笑う。

 クマン「クマー!クマクマクマックマックマックマ!
  人間をいじめるのがこんなに楽しいなんて知らなかったクマ!
  でも運動したら何か腹が減ってきたクマ・・・そう言えばもう何日も何も食べてなかったクマ・・・
  あ、丁度いいところに子供が居るクマ。
  あれを食べるクマー」

アルストとサラに興味を失ったクマンは、腹が減ったと言い、辺りを見回しリンを見つけると、猛スピードで走り出した。

 リン「ひっ!」

 アルスト「な、何だと!?おいクマン待て!」

 サラ「リンさん!逃げてー!」

自分へと迫るクマンを見て必死に逃げるリンだったが、体の小さい彼女は走るのも遅く、このままではとても逃げ切れない。
アルストとサラはクマンを止めようと必死になって追いかけ、クマンがリンに追いつく寸前、何とか追いついたアルストがクマンへと飛び掛かった。

だがそれを意に介さず、クマンは走るリンに向かって口を大きく開けて迫り、恐怖で悲鳴を上げる彼女に狙い定めた口をパクリと閉じた。
クマンが顔を上げると、リンの居た場所には誰も居なくなっていた。

 サラ「嘘!?」

 アルスト「リン!?
  何しやがる!吐き出せこの熊が!」

飛び掛ったアルストは、棒を何度も叩きつける。

 クマン「何か小さすぎて何も食った気がしないクマ」

棒で殴りつけられながらも、平然と口をモグモグと動かしゴクリと喉を鳴らすと、クマンはこれでは物足りないと言い捨てた。

 

 

そこから少し離れた木の影に、アルスト達の様子を伺う謎の男が居た。

 「心配でついて来ていたが・・・まさかこんな事になるなんて!
  待っていろ!今私が・・・!」

走り出そうとした男を、どこからかやってきた女が腕を取って止める。

 「だめよ、あなた!
  今私たちが出ていったらあの子の為にならないわ」

 「き、君は!?
  なぜ君がここに!?」

 「あなた達が履歴書を忘れていったから、街まで届けに行ったの・・・。
  そこで話を聞いて・・・心配であなた達の後をつけてきたのよ」

 「・・・さすがは我が妻!履歴書を持ってきてくれたなんて、なんて気がきくんだ!
  だがなぜ止める?・・・このままではあの子が・・・」

 「あの子は私達の子よ?
  大丈夫、信じましょう。
  それに、指輪の無い私たちが出て行っても足手まといになるだけよ?」

 「確かに、そうかもしれない・・・
  よし・・・あの子を信じよう!きっと、きっとあの子は何とかする!
  君の言う通り、あの子は私達の子なのだからな!
  それに、今私達が助けに入ってしまえば、あの子はこれからも私達に頼ってしまうかもしれない。
  ・・・君は、そう言いたかったのだろう?」

女はその言葉にニッコリと微笑むと、男と同じように木の陰に身を隠した。
そして謎の男女は、クマンと戦うアルスト達の様子を一緒になって伺うのだった。

 

inserted by FC2 system