ここは天空の城の一室。

クマンとの戦いからは、ちょうど2週間経っていた。

最近は便利屋へ仕事の依頼をしに来る人も増えてきており、3日に1回くらいは城へ依頼が来ている。
だが、それほど難しい依頼が来るわけではなく、ネズミ退治や人探し程度の仕事ばかりなのでそれほど忙しいというわけではない。

アルストは「もっとカッコイイ仕事がいい」などとわがままを言っていたが、今ではそんな事も無くなり素直に仕事を手伝うようになっていた。

最初の頃は緊張していたリンも、今では皆に打ち解けており、よくエールと一緒に色々な街へ遊びに行ったりしている。
エールとリンの2人だけで外出させては危ないのではないかと危惧もしていたが、
最近では様々な街、場所に、スパイダー・リンという正義のヒーローが現れてシロディール全体の治安をよくしてくれた事と、
2人が旅慣れてきた事もあり、もうそれほどの心配はなくなっていた。

そう、アルスト達の生活は安定していたのである。

ただ一つ、サラが抱える悩みを除いて。

 リン「スケレーdさん、いい所に!
  ちょっと手伝って欲しい事があって…
  …………
  はい!そうなんですお願いします」

サラが抱える悩み、それは……自分以外の者はあの謎のスケルトン、スケレーdと喋れるようだと言う事だった。

 サラ(ま、また聞き逃してしまったわ…)

このようにスケレーdが誰かと喋っているような気配を感じると、
聞き耳を立てて本当に喋っているのかどうかを確認しようとしているのだが、いつもスケレーdの言葉だけは聞き逃してしまっていた。

 サラ(私が話しかけてもスケレーdはすぐにどこかへ行っちゃうし。
  本当に喋れるのかしら…もしかしたらみんなアルストにスクゥーマをかがされているんじゃ…
  でもそう思ってエールに3日くらいずっとついてたけど、そんな事はなかったのよね…しかも隙をついてスケレーdと何度も喋っていたようだったし…
  うぅ〜気になる、気になるわ!
  こうなったら今日こそ真実を確かめてやるんだから!)

サラはそう決意すると、スケレーdをストーキングしはじめた。

スケレーdはリンに何か頼まれごとをされたようで、彼女について歩いて行った。
そして食堂へ着くと、リンが戸棚の上を指差し、ジャンプしてそれを取り彼女に渡した。

 サラ(高いところのものを取ってって頼まれたのね。
  …やっぱり意思疎通が出来てる!
  それに、今も何か話してるっぽいわ!)

スケレーdはリンと別れると城門から外に出て行った。サラも気配を消しながら続いて外に出る。

だが、外へ出るとスケレーdの姿は忽然と消えており、見失ってしまった。

サラがスケレーdに続いて外へ出たのは本当にすぐだった。
見晴らしのいいこの庭をいくら早く走っても、そんな短時間で目の届かない場所へ行けるとは思えない。

 サラ(居ない!いったいどこへ?!
  ………
  …アルストね?
  アルストが別の場所でスケレーdを召還したんだわ!)

 

そう思いつくとすぐに天空の城を駆け回り、アルストを探した。
食堂、鍛冶場を探して居ないとみると、彼の部屋に向かい、そこで彼を発見した。

 サラ「アルスト!!」

鏡の前で筋肉を強調させるようなポーズを取り、上半身裸だったアルストは、突然の声に驚いて振り返った。
そして声の主がサラであることを確認すると、鏡に視線を戻し、またもやボディービルダーのようなポーズを鏡に映しながら言った。

 アルスト「…なるほどな。
  お前のその慌てようは…」

いきなり上半身裸のアルストを見てしまい、目のやり場なさげにサラは言う。

 サラ「な、何よ?」

 アルスト「この俺のあまりの肉体美に、辛抱たまらなくなってしまったんだろ?」

 サラ「全然!?いいから服着てよ!
  1人で何やってんの!?」

 アルスト「筋肉の確認だ」

 サラ「…………」

サラはアルストがスケレーdを召還していないような気がし、すぐにその場を立ち去った。

そして彼女は考えた。
どうすればスケレーdを確実に追い詰める事が出来るのか、と。

 サラ(アルストは…ダメね。何か筋肉の確認とかで忙しいみたいだし。そうじゃなくても最初からアテにならないわ。
  リンさん…は、歩幅が小さくて逃がしてしまうかもしれないわね。
  …となると、やっぱりエールに頼むしかないわ。
  スケレーdと一番頻繁に話をしているみたいだし、もしかしたら説得してくれるかも)

 

そしてサラは次に食堂へと向かった。

エールは食事を作るのが得意で、今では朝昼晩とほとんどの食事を彼女が作っている。
昼食間近のこの時間なら、食堂で食事の準備をしているはずだと思ったのだ。

そしてその予想は正しく、エールは上機嫌に鼻歌を歌いながら食事の準備をしていた。

 エール「♪〜♪♪〜」

 サラ「ねえエール、ちょっといい?」

言葉をかけられたエールであったが、料理に忙しいのであろう。手を止めずに言った。

 エール「サラ?おなか減っちゃった?
  ごめ〜ん、もうちょっと待っててね〜」

 サラ「違うの。実は…
  スケレーdを追い詰めるのを手伝って欲しいの」

 エール「え〜!?
  追い詰めるって、おじいちゃん何か悪い事したの!?」

突然の言葉に驚いて料理をする手を止め、エールが言った。

 サラ「ううん、何も悪い事はしていないわ。
  ただ…私もスケレーdと話がしてみたいのよ。
  私が話しかけても何も言わずにすぐどこかに行っちゃうし…
  エールはスケレーdと仲がよさそうだから、何とかしてくれないかなって思って」

 エール「そっかぁ。
  おじいちゃん恥ずかしがり屋だもんね、まだサラと話せてないんだ…
  …そういう事なら私に任せて!
  絶対おじいちゃんと話をさせてあげるからね!」

「でも昼食を終えてからにしよう」とエールが提案したので、サラはそれに従ってお願いねと言いその場を離れた。

 サラ(やったわ!これでスケレーdの謎が解けるかも!
  っていうか、最初から誰かに手伝ってもらえばよかった…)

 

そして昼食になった。

みんなが賑やかに食事を取る中、問題のスケレーdは食堂の入り口でどこを見るでもなくただ正面を向いて立っている。

彼は食事の時間にはいつもそうやってただ立っているのだった。

一度エールが食べ物を食べさせたが、骨だけの外見どおり、食べた物は腹の辺りから落ちてしまう。
アルスト曰く、スケレーdは何も食べなくても生きていけるのだそうだ。

元々スケルトンという存在は、死した人間が古代文明の異物などによる何らかの力によって、
または邪悪な魔法使いによって生き返らされたモンスターである。
このシロディールでは洞窟、遺跡に限らず様々な場所に存在する比較的ポピュラーなモンスターだ。

だが、このスケレーdのようなスケルトンは見た事も聞いた事もない。

たとえ召還されたスケルトンであっても、敵と戦う以外の事は出来ないはずだ。
棚の上の物を取ったり、サラに殴られたアルストが開けた大穴を塞いで直してくれたりなどはしないはずなのだ。

それでいてさらに喋る事もできるだなどと、その骨だけの体のどこに声帯があるのか小一時間問い詰めたいとサラは思った。

 サラ(でも、やっとその謎も解けるわ…
  本当にスケレーdが喋るのか、みんなが集団催眠になってしまっているのかを確かめる事ができるのよ!)

不敵な笑みを浮かべ、スケレーdをチラチラ見ながらサラは昼食を取った。

 

そして昼食をみんなが取り終えると、エールが少ししたら部屋に来てねと耳打ちしてきた。
その言葉に無言で頷いて、サラは食堂を出た。

 

約束通りに時間をおいてエールの部屋へ来ると、何やら話し声が聞こえてきた。
エールとスケレーdが部屋で話しているようだった。

サラは扉を一度ノックをすると、すぐさま部屋の中に入る。
そこには予想通りにエールとスケレーdが居た。

 エール「サラ〜、やっと来た。
  ほら。おじいちゃん、約束したよね?サラと話してあげて」

エールに押されてスケレーdはサラの前に出た。

 スケレーd「…」

だが、彼は何も言わなかった。

それどころか骨の頬を赤らめると、そのままサラを素通りして外に出ようとする。

 サラ「ちょっと待ってよ!
  なんでいつもそうやって私を避けようとするの?!」

サラはスケレーdの進路を妨害しながら言った。

エールが後ろでがんばってと声援を送っているが、それでも彼は何も言わない。

 サラ「私の事が嫌いだから?
  本当に喋る事が出来るんなら、何か言ってよ。
  嫌いなら嫌いって言ってくれれば、もうあなたに近寄らないわ」

少し不機嫌な顔でサラが言うと、エールが不安そうにスケレーdの腕を掴んで言った。

 エール「違うよ、おじいちゃんはちょっと恥ずかしがり屋なだけで…
  サラの事が嫌いなんて、違うよ誤解だよ…」

その様子を見たサラとスケレーdは、無言のまま互いに視線をそらし、そのまま数秒が過ぎた。

そしてサラが何か言おうとスケレーdの方を見たときだった。

視線をそらしたまま固まっていたスケレーdが一歩後ろに下がり、
掴まれていた手をやさしく振り解きエールの頭に乗せると、ついに喋り始めた。

 スケレーd「…す、す、す、すまなかった、サ、サラ。
  ワシがお前の事を避けていたのは、決して嫌いというわけではない。
  ただ………大人の女が苦手なんじゃ」

はじめて聞いたスケレーdの声に、サラは少し驚いた。
それは老人のような声と、少し低い声が2重になって聞こえるような不思議な声だったのだ。

そしてスケルトンが喋ったという事実も多少予想していたとはいえ信じられるものではなく、
サラは頭の中が真っ白になり、それこそ数秒固まってしまった。

 サラ「…!
  ほ、本当に喋れたのね。
  ごめんなさい、変な事言って…」

 スケレーd「いや…ワシの方こそ、謝らねばならん。
  今まで避けていて、すまなかった」

そう言っている間にも、スケレーdの頬はどんどん赤くなっていく。

 サラ「うん…いいのよ。
  どうしたの?大丈夫?
  何でそんなに赤く…あ、大人の女性が苦手なんだっけ。
  でもリンさんは平気なの?あれでも27歳なのよ?」

サラはあまりにも赤くなるスケレーdを心配して、少し距離をとりながら言った。

 スケレーd「…
  言い方が悪かったな、ワシは大人の体系の女が苦手なんじゃ」

 エール「そうそう!だからサラから逃げちゃってたんだよ〜」

 サラ「そ、そうなんだ…」

 

こうして、ついにサラはスケレーdが喋るという事実を突き止める事ができた。

だが、なぜスケレーdは喋る事ができるのか、という根本的な謎がまだ残っている。

その謎を解くため、立ち姿は堂々としているように見えるが、頬が赤くなるのが止まらない様子のスケレーdにさらに問いかけるのだった。

 

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