顔に朝日がかかる。
目を閉じていても明るく、優しい陽の光と、漂ってくるいい匂いに気付けられ、小さき女リンは目覚めた。

大きく伸びをして窓に目をやると、青い空に雲がそろそろと流れ、空気は澄んで遠くの山々まで見渡せた。
今日もいい天気だ。

リンは着替えながら身支度をすませると、小さい体でも開ける事ができるように改造された部屋の扉を開けた。

そこへこの世の終わりでも来たのか、というほどの悲鳴が響き渡る。

 リン「この声は、アルストさん!」

悲鳴のした方向を突き止め、リンはその場所へ向け駆け出した。

 アルスト「!!
  リンか!?今すぐ逃げろ!俺はもうダメだ!」

声はするが、その主が見当たらない。
リンは辺りを見回し、警戒するそぶりを見せながら姿の見えないアルストに言った。

 リン「アルストさん、何かあったんですか!」

 アルスト「止まれええええ!
  それ以上近づくな!お前まで死ぬ事は無いんだあああああああああああ!」

普段から自分は最強などと言っているアルストがこれほどうろたえるとは、きっと何かもの凄い事件に違いない。
そう思ったリンは、こともあろうか走りだした。

 アルスト「なんでだああああああああ!
  そこにある椅子には近づくなああああああ!」

アルストから椅子と言うヒントを得て、リンはあえて椅子へ近づく。

 リン「ここに何か居るんですか!?
  ・・・あ」

問題の椅子を隅々まで調べた彼女はそこで何かを見つけたようだった。

 アルスト「い、居るのか!やはりまだ居るんだな!?」

彼女が見つけたモノ、それは小さなクモだった。

 リン「蜘蛛悟郎、おはよう。
  ここになにか・・・」

そのクモに当たり前のように挨拶をし、何かを語りかけるリンの言葉の途中で、アルストが叫んだ。

 アルスト「何クモと喋ってんだ!しっかりしろ!気を強く持てええええええええ!
  この俺でも恐れるクモを目の前にして、どうかしてしまったのか!?
  逃げろ!逃げるんだリン!」

どうやらアルストはクモが怖いらしい。

 リン「あの・・・このクモは私の友達で、蜘蛛悟郎っていうんです。
  皆に言い出す機会が無くて・・・クモだし別にいいかなって思って、内緒でここに住んでました」

 アルスト「!!!・・・しっかりしろリン!それはお前の妄想だ!
  今お前はショックで現実と妄想の区別がつかなくなってるんだ!
  いいか、クモは友達には・・・」

未だに姿を見せずどこかで喋るアルストの言葉の途中、何者かの甲高い声が割り込んだ。

 蜘蛛悟郎「ビックリさせてごめんだっち。
  ワスはクモ・チャンピョンの蜘蛛悟郎ザンス」

 アルスト「俺もなんか幻聴が聞こえてきたあああああああああ!」

 

あまりにアルストが喚き散らすので、何だ何だと皆が集まった。

そしてこれ幸いにとリンは蜘蛛悟郎の事について説明した。
この喋るクモの蜘蛛悟郎は、ハエ取り蜘蛛にしてクモ・チャンピョンにまでなったクモらしい。
そしてスパイダー・リンに助けられたところで知り合い、友達になって、この城に内緒で住まわせていたと言う事らしかった。

 リン「黙っててごめんなさい・・・」

 エール「別に謝らなくてもいいよー」

 サラ「そうそう、私達だって無断で住んでるんだから」

 アルスト「ま、まぁお前達がいいんならいいが・・・
  なるべく俺には近づけさせないでくれよ」

渋々ではあったが、他のみんなが蜘蛛悟郎の事を認めると怖がっていたアルストもここ天空の城へ住んでも構わないと言った。

 蜘蛛悟郎「みんな、ありがとうごぜぇますだ」

 リン「実はもう一つお願いがあるんです。
  このお城にはハエがいないから蜘蛛悟郎のご飯が少なくて・・・」

 エール「それならブラヴィルに行って取ってきて、庭に放せばすぐに増えるんじゃないかなぁ」

 アルスト「待て!
  俺の城に変な生態系を作るんじゃない!」

 リン「は、はい・・・」

そうですよね、と残念そうにガックリと頭を垂れるリン。

 サラ「そのくらい別にいいでしょ?」

 蜘蛛悟郎「増えすぎないようにするでゴンス。
  それに、ハエが居なかったら飢え死にするかもしれねぇッス」

 アルスト「ぬぅぅ・・・
  ・・・仕方が無い。蜘蛛悟郎、お前が増えすぎないようにちゃんと管理しろよ?
  増えすぎたら殺虫剤をばら撒くからな。
  それにしても、その混沌とした方言というか、語尾はなんだ?」

 蜘蛛悟郎「これはクモの標準語でゴワス」

 アルスト「ヒィィ!
  流石、足が8本あるだけの事はあるな・・・!」

 

 

 サラ「みんな、ちょっと聞いて」

蜘蛛悟郎の一件の後、皆は朝食をとっていた。

突然サラが真剣な顔で話し始めたので、彼女に注目が集まる。

 サラ「実は、お金がもう無くなりそうなの」

横に居たアルストが意外そうに立ち上がって言った。

 アルスト「そんな馬鹿な!
  仕事もちゃんとやってるし、この前大金を手に入れただろ!?」

アルストが言う大金とは、クヴァッチからインペリアルシティへ行った時にサラが一人で遺跡や洞窟から手に入れてきた物を売った時に手に入れた金である。

 サラ「・・・ええ。普通なら絶対こんな早くにお金がなくなるなんて事はないわ。
  誰かさんが毎日お金を勝手に持ち出してどこかに遊びに行ってなければ、ね。
  一体何に使ったのよ!アルスト!」

 アルスト「知ってたのかお前・・・まぁ、その、ナニだ」

 サラ「何よ!?
  どうせ街の女の子にお金払ってデートでもしてもらってたんでしょ!」

 アルスト「なんでこの俺が金を払ってまでデートしてもらわなくちゃならねぇんだ!
  ベッドの上だけの関係だ!」

 サラ「なお悪いわ!」

そう叫ぶとサラは右手をアルストに振り下ろした。
脳天に平手の一撃を受けたアルストは、椅子ごと地面へと埋め込まれ身動きしなくなった。

だが、そんな光景はもはや見慣れたものであり、誰一人として取り乱す者はなかった。

 リン「今は仕事も無いみたいですし・・・どうするんですか?」

 サラ「うん・・・だから今日は私とアルストで遺跡探索に行こうと思ってるの」

エールが勢いよく手を上げて名乗り出る。

 エール「はいはいはーい!私もー!」

サラに埋め込まれた穴から這い上がり、椅子の残骸を引っ張り出そうとしているアルストが言った。

 アルスト「俺は決定なのか・・・まぁいいけど。
  リンはどうするんだ?」

 リン「えっ、私は・・・どうしようかな。
  あっ、そういえば、前は結局アンヴィルには行けなくて貼り紙も出来ませんでしたよね?
  私は貼り紙してきます」

そして食堂の入り口に立っていたスケレーdが歩み出て言った。

 スケレーd「ならばワシが留守番をしよう」

 アルスト「師匠が?もしも女が依頼持って来たらどうするんだ?
  見張りの幽霊はペラペラ語しか喋れないぞ」

見張りの幽霊とは、アルスト達がこの城を見つける前からずっと居たと思われる幽霊だ。
雨の日も風の日も定位置から動かず常に遠くを見つめており、誰もその言葉が分からないため、アルストは彼を見張りだと勝手に決め付けていた。

 スケレーd「女か・・・厳しいがそれも、修行だ」

 サラ「そうそう、アルスト。あんたのお小遣いは今日から1日1Gね」

 アルスト「嘘だろ!?」

こうして、アルストとサラとエールは遺跡の宝探しへ行く事になり、
リンはアンヴィルへ、スケレーdは天空の城で留守番をする事になったのだった。

 

 

サラが探索すると言った遺跡は、スキングラード付近の遺跡であった。
方向音痴な彼女には珍しくその場所を正確に覚えていたので、3人はすんなりとその遺跡に到着する事ができた。

そして遺跡の中へ入ろうとした時、エールが2人に待ったをかけた。

 エール「お兄ちゃん、喉渇いた・・・」

天空の城を出てからここまで一切休憩をとっていなかった為、彼女の足取りは目に見えて重かった。

 アルスト「うむ、そうか。じゃあ遺跡に入る前にちょっと休憩するぞ」

そして3人は丁度よい日陰を見つけ、そこに座って道具袋から水の入った瓶を取り出した。
アルストはそのうちの一つをエールに手渡す。

ピクニックに来たわけではないので、コップのような物は持ってきておらず、
エールはそのまま瓶に口を付け、喉の渇きを癒そうと一気に飲み干した。

 サラ「ちょっとエール!?」

彼女の呷っている瓶のラベルを見たサラが驚きの声を上げた。

 サラ「それ、はちみつ酒じゃないの?!」

 アルスト「うおおお!マジか!
  待て、飲むな!」

そう言ってエールから取り上げたが、すでにその瓶の中身はカラッポになっていた。

 アルスト「や、やっちまった・・・
  この俺とした事が、未成年に酒を飲ませてしまうとは」

アルストはそう嘆き、サラはエールに駆け寄って大丈夫かと声をかけた。
酒を飲んだ彼女の顔は、どんどんと赤くなってゆく。

 エール「未成年ららいよ〜ぅ
  ラウィンのおりいらん24歳れ、言っれあも〜ん」
  {未成年じゃないよ。レヤウィンのおじいちゃんが24歳って言ってたもん}

血行がよほどよいのかどうなのか分からないが、一瞬にして酔いが回りロレツが回らなくなったエールが言った。

 アルスト「何!?24だと!
  や、やるじゃねぇか・・・だが、俺がお兄ちゃんだ!そうだな!?」

 エール「うん〜」

なぜか突然うろたえだした20歳のアルストは、意味不明な事を言い出した。

 

一度天空の城へと戻り、エールを置いてこようかと話していたアルストとサラだったが、
その隙に酔いが回ったエールはフラフラと遺跡に入って行ってしまい、急いで追いかけて遺跡に入りそのまま探索を続ける事にしたのだった。

サラに手を引かれるエールは明らかに千鳥足であり、もしも変なところに罠でもあったら大変な事になりかねない。

 サラ「アルスト、罠があったら手当たりしだいにひっかかっておいてね」

 アルスト「嫌だ!」

 

罠も無く、モンスターもそれほど居なかったので、3人は何とかではあったが危なげなく遺跡の最深部らしき場所へと辿り着いた。

そこには豪華絢爛に輝く様々な武器が置いてあった。
アルストとサラは武器の置いてある場所へと駆け寄ると、手にとって吟味し始めた。

 サラ「凄い!見た事もない武器が沢山!」

宝の山を発見したと喜ぶサラとは対照的に、武器をまじまじと見つめるアルストは冷静に言った。

 アルスト「いや、なんかこれレプリカばっかりみたいだぞ?
  こんなもん売っても金になるか分からん」

言われてサラも武器を取って確かめる。

 サラ「・・・本当だわ、この剣なんて刃が潰してあるみたい・・・」

そして2人が意気消沈している時、
獣の荒い息遣いと、複数の足音が部屋中に響き渡った。

宝に気を取られていた2人が振り向くと、そこには絶望的な光景があった。

フラフラと頼りない足取りのエールの目の前に、凶暴で知られるトロールという名のモンスターが3匹おり、彼女に襲い掛かろうとしていたのだ。

トロールの腕力は異常に高く、並みの甲冑であればその一撃で破壊されてしまうほどだ。
軽装のエールなどはひとたまりも無いだろう。

たとえ一撃を奇跡的に避けられたとしても、敵は3匹、酔ってフラフラの彼女の運命はすでに決まっていると思われた。

しかしアルストとサラはそんな嫌な想像を振り切って、彼女の元へと走る。
だが距離は遠く、どうしても間に合わない。

なぜ自分はずっと彼女の手を引いてやらなかったのか、
と一瞬でも宝物に目を奪われてしまった2人は同じような後悔の念を心に抱き、絶望を感じながらも逃げろと声を荒げていた。

筋肉によろわれ硬い毛に守られたトロールの長い腕がエールに襲い掛かる。
普通の人ならば絶叫し逃げ惑ったであろうそんな状況でも、千鳥足で体をフラつかせるエールは自分に降りかかった運命を理解していないのか、
逃げようともしなかった。

そしてついに、トロールの打撃が彼女に到達した。

逃げろとエールに向かって怒鳴るサラは、その光景を見るのを無意識に嫌がって目を瞑った。
グシュ、という肉の潰れる嫌な音が3回、部屋に響き渡る。

そして目を瞑ったサラとは違い、事の次第を全て見ていたアルストは絶叫した。

 アルスト「何だとおおおおおおぉぉぉ!
  い、今のは・・・!」

恐る恐る目を開けたサラが見たもの、それは・・・

凄まじい力で壁に叩きつけられた様子で絶命していた3匹のトロールだった。

 サラ「な、なにが起こったの?!」

そして、いつの間にか棍棒を手に持っており、無傷だったエールがフラつきながら何か言った。

 エール「こえが、おぅうぃふくざつこっすつ!」

 アルスト「な、なぜだ!?
  なぜお前が骸骨剣の奥義、複雑骨切を!」

骸骨剣。それはスケレーdが生涯をかけて磨き抜いた剣技だった。

 エール「アタイ〜あの骸骨い修行つぇてもらってた〜」

一人称すら変わるほどに酔っているエールは、骸骨に修行を付けてもらったのだと言った。

 アルスト「しかし、師匠の話だと全然上達してないって・・・
  いや、待てよ・・・まさかこれは!聞いた事があるぞ、酔骨剣か!?」

酔骨剣とは、スケレーdですら極める事の出来なかった骸骨剣の変形である。

その頼りない千鳥足の足運び、そしてフラフラとした体重移動は全て攻撃の予備動作であり同時に回避・フェイントでもある。

全ての体さばきが攻撃・防御に繋がるこの千鳥足の動きは、完全に酔っている状態のため常人には予測できず、
回避・攻撃を自然な動作で繋げる体捌きによる体重の全てを乗せるその攻撃の威力は、計り知れない。

現に、細身であり非力なエールでさえ屈強なトロール3体を一撃で壁まで吹き飛ばしている。

隙だらけなようで、その実、隙の無いこの酔骨剣で戦うのは極端に難しい。

なぜならば、完全に泥酔しなければならないからだ。

人の筋肉には脳の働きによってリミッターのようなものが絶えずかかっている。
それは自分の筋力による骨折を防ぎ、また極端な筋肉の伸縮による筋断裂・肉離れを防ぐためだ。

しかしこの酔骨剣の真骨頂とも言える千鳥足の足運びや体捌きを実現させるには、どうしてもそのリミッターを外さねばならない。

だから泥酔し、脳を麻痺させなければならないのだ。
もっとも、泥酔したからと言ってそのリミッターを外す事が出来る人も少ないのだが。

そしてさらに、泥酔し麻痺した脳は判断能力を低下させ、思考力を無くすだろう。

そんな状態で戦う事が出来る人などさらに少ない、だから酔骨剣で戦うのは難しいのだ。

 

遺跡の奥にあった武器や防具を持ち出した3人は、それを近くの街、スキングラードで売ろうと森の中を歩いていた。

 アルスト「まさか酔骨剣を知らずにとはいえ、会得していたとはな」

 エール「えっへん」

そう言って胸を張ったエールは、トロールを倒した後、すぐに正気に戻っていたのだった。
運動してアルコールが飛んだのかもしれない。
すぐに酔った事といい、すぐに酔いが醒めた事といい、エールの血行は信じられないほどよいようだ。

 サラ「エールが無事だったのはよかったけど、こんなレプリカしか無かったのが憂鬱だわ・・・
  どうしよう、お金が無いと本当にみんな飢え死にしちゃうわよ・・・」

偽物ばかりだったからな、と言って道具袋から一振りの剣を取り出したアルストの表情が一瞬にして驚愕のものへと変わった。

 アルスト「おいいいいいい!
  これ!見ろお前ら!
  これ、なんか、何らかの伝説の剣だぞ!」

 エール「この図鑑によると、何かの伝説の人の剣で・・・
  200万ゴールドだって!」

なに変な事言ってるの、といってアルストから剣を受け取ったサラは、驚きで剣を落としそうになりながら言った。

 サラ「嘘ー!何で!?
  何で偽物ばっかりの中にこんな剣が!?」

 アルスト「知らん!
  にしても、これはいいものを見つけたぞ、その剣俺にくれ」

 エール「ダメだよ、これを売らないとみんなが飢え死にしちゃうよ!」

 アルスト「伝説の剣を売る気か?!
  もしもこれが魔王を倒せる唯一の武器だったらどうすんだ!」

 サラ「そんなの根性で何とかするわ!
  それに、アンタが無駄遣いばっかりしてるからお金がなくなったんでしょ!
  我慢しなさい!」

そんなこんなでモメながらも、剣は結局売る事になり、
一行は突然手に入った伝説の剣を売って得たお金で豪遊生活が出来る、と期待に胸膨らませてスキングラードへの道を急ぐのであった。

 

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