そして3人はスキングラードへと辿り着いた。

そのままの足で賑わう街の中心まで歩き、そこで一番大きな武器屋を見つけ中へ入る。

 

 主人「こいつは凄い!」

遺跡で見つけたレプリカの武器と防具はすぐに売り払った。
アルスト達の見立て通り似せて作られたニセモノではあったが、祭事用に特別に作られたものらしくそこそこの値段となった。

そしてその中に紛れ込んでいた伝説の剣を見せると、武器屋の主人は目を丸くして驚き、
はじめて見る伝説の武器を興味深く、拡大鏡まで取り出して眺めながら言った。

 主人「これはある神殿に封印されていた剣で、とんでもない貴重品だぞ。
  一説によれば、アイレイドがある脅威を殲滅するために作ったもので、
  他のアイレイド製の剣とは形態が違う事からも分かるとおり、剣自体の切れ味はそれほどでもないが、持つ者に強大な魔法の力をもたらすらしい。
  その為、ありとあらゆる大魔法使いと呼ばれる者達が神殿の封印に挑み剣を手に入れようとしたが、どうしても封印を破る事が出来なかったんだ。
  やっと最近になってその封印は破られたが、それを知った死霊魔術師の1人がこの剣を盗み出して行方不明になっていたんだ・・・
  よく見つけたな」

 アルスト「まぁな。
  でもそれ売れるのか?盗品だったんだろ?」

 主人「心配はいらない。
  最近とは言っても、もう100年前の話だ」

それを聞いてホッとした様子のサラが言った。

 サラ「じゃあ売ります。
  この図鑑には200万の価値があるって書いてあるけど、いくらになりそう?」

サラはエールの持っていた図鑑を武器屋の主人に見せた。
だがその図鑑は間違った事が書いてあったらしく、値段も違うそうだ。

 エール「その図鑑もニセモノなんだ・・・
  じゃあ、安くなっちゃうの?」

 主人「とんでもない!
  280万出そう、この剣にはそれほどの価値がある!」

主人の言葉に、アルスト達3人は驚きの声を上げ、そして喜んだ。

だが、店にはそれだけの大金は置いてなかったため、少し時間をおいてからまた来てほしいと主人は言った。
3人はそれを了承し、店から出た。

店から出ようとする3人へ、武器屋の主人は声をかけた。

 主人「絶対他の店には売らないでくれよ!
  他の店がもっと金を出すんなら、私はそれ以上出す!だからもう一度ここへ来てくれ!」

 

主人の言葉を聞いたアルストは他の武器屋も回った。
だが、どの店も大金を出すと言っていたが、一番最初に行った店以上の金額ではなかった。

 アルスト「こうなったら、あのオヤジに嘘言ってやろうぜ。
  他の店じゃ400万出すって言ってたってな」

 エール「嘘はダメだよ」

その時だった。

3人の前を歩いていたガードに、アルゴニアンの親子らしき女が2人、飛びついて助けを求めているのが目に付いた。

助けてくれと必死に叫ぶ親子の願いも虚しく、ガードは首を振りながら去って行った。

その場に泣き崩れた親子を見かねてサラが声をかけた。

 サラ「どうしたんですか?」

手で顔を覆うようにして泣いていた母親と思われる方がアルゴニアン特有のしゃがれた声で言った。

 母親「どうか夫をお助けください・・・
  ガード達は自分の意思で行ったのなら、そんなものに構っていられないと・・・」

母親はかなり動揺している様子で、要領を得ない事ばかり言っていたが、そのうちに落ち着きを取り戻して事の次第を説明し始めた。

 母親「私達には1万ゴールドもの借金があるんですが、突然に夫は職を失い、自暴自棄になっていました。
  その時に噂を聞いたらしいんです、近くの洞窟に高価な剣があると。
  夫はそれを取りに行くと言い出しましたが、私たちは反対しました。
  この街の近くの洞窟に、そんな剣があるなんて嘘に違いないと思ったからです。
  ですが夫は行ってしまいました!こんな手紙を残して!」

サラは母親が差し出した手紙を受け取り、読んだ。

そこには、必ず噂の剣を取ってきてこの母と娘に楽をさせてやる、というような事が書かれていた。

 母親「あの人は馬鹿です!
  私たちはそんな危険な場所に行ってもらってまで楽をしたいと思いません!
  それにあの人には戦いなんてできないでしょう。喧嘩も出来ないような人なんですから。
  あぁ・・・ガードにまで見捨てられてしまって・・・どうすれば、どうすれば・・・」

そう言ってまた母親は泣き出した。
泣く母を娘が抱きしめ、その娘もまた涙を流す。

サラは手紙を返し、言った。

 サラ「そういう事なら私達に任せてください」

 エール「私達は便利屋をしてるの!
  どんな依頼もスパっと解決だよ〜!」

便利屋という言葉を聞いて、親子はハッとして顔を上げた。

そして3人に洞窟の場所を教え、どうか夫の事を頼みますとしきりに頭を下げていた。

 

3人は教えてもらった洞窟への道を急いでいた。

そこは街のすぐそばで、とても珍しいものなど置いてありそうもないと思われた。
なぜなら、街のそばの遺跡や洞窟など、誰でも手軽に冒険できる場所であり、探索されつくしているはずだからだ。

それどころか、そのような場所は街を行き来する商人を狙いやすいため、盗賊の根城になっている可能性もある。
たとえ盗賊が居なくても、探検されつくしているために誰もそこに近寄らず、モンスターの巣窟になっているかもしれない。

だから3人は急いでいたのだった。

教えてもらった場所の近くで洞窟の入り口を見つけると、アルストは勢いよく中に飛び込んだ。

 アルスト「待っていろアルゴニアンの娘!
  今オヤジを助け出して、君を俺のものにしてやるからな!」

棒を構えて勇ましく言ったが、周囲にモンスターや盗賊の姿は無かった。

 エール「無人っぽいね。これなら心配いらないかも」

そして3人は少し拍子抜けしながらも静まり返った洞窟の奥へと進むのであった。

 

それほど広くはないこの洞窟の一番奥へと差し掛かった時、ついに何らかの気配を感じ取った。
身を屈ませて足音を消し、奥の方を覗き込む。

そこには、モンスターの大群がひしめいていた。

声を押し殺してエールが言う。

 エール「モンスターの会議かな?」

表情をこわばらせたサラが答える。

 サラ「違うわ・・・これは、最悪の事態よ」

エールはその答えの意味が分からずに首をかしげた。

 アルスト「モンスターが奥に固まってるって事は、
  誰かが入り口からここまで、モンスターの注意を引きながら走ってきたって事だ。
  ・・・例のオヤジが、松明でそこら中照らして悲鳴でも上げながらここまで来たんだろうな」

アルストが言い終わると、サラは剣を構えて大群へと突っ込んだ。
そしてアルストはエールにここで待っていろと言うと、側に落ちていた鉄の剣を拾い上げてサラに続く。

 アルスト「ははははああああっははははっははは!
  丁度いいところに剣が落ちてたぜ!
  もう俺は無敵だ!」

そう叫んでモンスターの一体に切りつけた。切りつけられたモンスターは真っ二つになって、ガサガサという変な悲鳴を上げて倒れた。

 アルスト「どうだサラ!見たか!」

押し潰されそうな乱戦の最中でも、アルストは自分の戦果をサラに自慢した。

アルストがまともに戦って、しかもモンスターを倒すところを初めて見たサラは、
やれば出来るじゃないかという視線を返してそれに答えた。

だが、勝ち誇るアルストが持っている剣が、異変をはじめたのを彼女は見逃さなかった。
その変貌に驚いて、モンスター達から距離を取って言った。

 サラ「剣にヒビが!
  な、何で!?どんどん広がっていってるわよ!」

言われたアルストが剣を見た瞬間、鉄の剣の刃は乾いた音を立てて粉々になってしまった。

 アルスト「うわっ!
  ク、クソ!近頃ずっとこんな調子なんだよ!
  ・・・待てよ、あの剣なら折れないんじゃないか?」

そう言って、280万ゴールドで売る予定の剣を装備して構える。
その光景を見たサラは悲鳴を上げてしまった。

 サラ「キャーーーー!!!!!!
  剣の扱いがヘタクソだから折れるのよ!
  その剣は使わないでー!」

彼女は叫びながら何匹ものモンスターを一瞬でかわし、アルストの側まで辿り着くと、エールが居る方向へと彼を殴り飛ばした。

アルストは2転3転と転がると、体勢を立て直して伝説の剣を高く掲げてまたもモンスターの大群へと挑もうとした。
しかし近くに居たエールが彼に抱きついて、止めた。

伝説の剣を折られないためにエールも必死だ。

 エール「もうやめてお兄ちゃん!
  お兄ちゃんは最強のソードブレイカーだよ!だから戦っちゃダメ!」

 アルスト「放せエール!
  俺の戦う雄姿を見てしまったんなら、抱きつきたくなるのは女として当然だ!
  だがお前にはまだ早い!お前はまだ子供なんだ!」

背後でアルストとエールが騒いでいるのを確認したサラは、これでしばらくは大丈夫だろうと戦いを再開した。

敵の数はかなり多い。
だが、早くしなければアルストがエールの制止を振り切ってあの剣を使用してしまうかもしれない。

それは絶対にさせてはならない事だ。

先ほど折れた鉄の剣が最初からボロボロの状態であったとしても、あんな折れ方はありえない。
何もしていないのにヒビがどんどんと広がっていって、まるでガラスのように粉々になるなど信じられない。

 サラ(あの剣の扱いがヘタクソなアルストに使われたら、いくら伝説の剣でもひとたまりもないわ!)

そしてサラは剣を振るった。

目の前の敵を剣を防ごうとする腕ごと切り裂いて、
左右から襲い掛かってくる敵に対して、一方に剣の突きを一方に蹴りを入れて倒すと、
腕ごと切り裂いた敵が倒れる前にその股をくぐり、その先に居た敵を下から剣で突き上げた。

その戦いぶりは水が川を流れるの如く、最初から最後までどこでどう動くかが決まっているかのようであった。

戦っている間、彼女はただこう考えていた。
早く敵を殲滅して伝説の剣を危機から救いたい、と。

その為にほぼ無心となり、その場その場で普段の実力以上を出して、まるで踊るかのように敵を屠っているのだった。

 

敵を全て倒しつくすと、ドッと疲れが襲ってきて彼女はその場に膝を突いた。

しかし、剣を鞘に収めてはいたが、まだそれを装備しているアルストがエールとなにやらもみ合っているのを見ると、立ち上がってそちらへ歩いた。
そして息も絶え絶えにこう言った。

 サラ「ぜー、ぜー、お、終わったわ・・・
  アルスト、さっさと剣をしまって棒を装備しなさい」

鬼気迫るサラの顔を見たアルストは、素直に棒を装備するのだった。

 

そしてそのすぐ側の通路で、3人は救出を依頼された男を発見した。

 アルスト「・・・ダメだな」

うつぶせに倒れていた男の首筋に触れて、アルストが言った。

 サラ「そんな・・・」

男の手には銀の剣がしっかりと握られていた。

モンスターの大群に襲われながらも、洞窟の奥にあり噂に聞いた剣だと思って取ったのだろう、
鞘に収められたままのその剣は、ボロボロの男の体とは対照的に傷一つ無かった。

 アルスト「普通の銀の剣だ。
  高そうに見えるかもしれんが、1万の借金を返せるほどの値打ちはない」

 サラ「この剣だけは持って行ってあげましょう。
  それで・・・ちゃんと全部話すの」

そして剣だけを道具袋にしまい、帰ろうとした時エールが言った。

 エール「この人も連れて行ってあげようよ!」

 サラ「でも・・・」

 エール「この人がかわいそうだよ!
  だって・・・だって、こんなにがんばって剣を持って帰ろうとしたんだよ!
  きっと今だって家族のみんなの所に帰りたがってるよ!」

サラは困ってアルストの方を向いた。
彼は無表情で言った。

 アルスト「依頼もこのオヤジを連れて帰ってくれって事だしな。
  まったく、手間のかかるオヤジだぜ」

そう言うと、血まみれの男の死体を背負い、アルストは歩き出した。

死んだばかりの人の体は熱く、時折ビクビクと筋肉を痙攣させて動き、無理と分かっていても道中で何度も声をかけてしまうのであった。

 

スキングラードの門まで行くと、彼らはガードに止められた。

事のいきさつを話すと、ガード達が男の死体を運んで行き、すぐにアルゴニアンの親子も駆けつけた。

そしてそのまま、シロディールの習慣に則った葬儀が行われた。

娘は声をおさえて泣き崩れたが、母は気丈にも泣かなかった。

サラとエールの2人は、親子に間に合わなかった事を謝罪すると、居た堪れなくなったのであろう、すぐにその場を立ち去ってしまった。
そしてアルストも報酬の話をしようと思ったが、親子の様子を見て出来ず、逃げるようにその場を立ち去るのだった

 

 

スキングラードを出ようと3人は門に向かって歩いていた。
この街はさっき3人が経験した出来事など露知らず、いつもの賑わいを見せている。

 エール「そうだ、伝説の剣を売っていかなくちゃ」

 サラ「・・・そうね。
  アルスト、私が行ってくるから剣を貸して」

アルストはビクっとして視線をそらしながら言った。

 アルスト「あ、あ〜・・・あれか。
  なんか・・・無い。無くした」

その言葉にエールはハッとして言った。

 エール「も、もしかしてさっきの戦いで・・・!?」

 サラ「折った!?折ったのね!?
  それで無くしたなんて嘘ついてどこかに捨てたんでしょう!
  もー!私の苦労は一体なんだったの!
  せっかく大金が手に入ると思ってたのに!」

言い訳をしようとするアルストに向けて、サラの拳がうなりを上げた。
そしてドムッという音共に彼の腹に拳が埋まり体がくの字に折り曲がったかと思うと、吹き飛ばされてスキングラードの門を飛び越え見えなくなった。

すると賑やかだった街が、別のざわつきに支配されていった。

 街人1「人が飛んでいったぞ!」

 街人2「あの女だ!あの女が殴り飛ばしたんだ!」

 街人3「ま、まさかあの女は・・・インペリアルシティで噂の『鉄拳のサラ』じゃないか!?」

 街人4「マジか!?あの星を割ったとかいう破壊のプリンセスか!?」

そしてざわつきは次第に悲鳴へと変わり、街から人の姿はいつの間にやら消えていった。

サラとエールは街人をこれ以上怖がらせないように、極力笑顔のままスキングラードを後にするのだった。

 街人5「み、見たか・・・!?
  人を殴り飛ばして、もの凄く嬉しそうに去って行ったぞ」

 街人6「ヒィィィ・・・!噂は本当だった!あれが破壊のプリンセスなんだ・・・!」

 

 

 

そして、アルスト達に依頼をした親子は、葬儀が終わると自宅へと戻った。

家の様子は何も変わってはいなかったが、そこには無くてはならない何かが足りないような気がして、まるで自分達の家ではないようにすら思えた。

 「・・・?なんだろう、この剣」

未だに悲しみで涙が止まらぬ娘が、薄暗い部屋で何かを見つけて言った。

 母親「それはお父さんが持ち帰ろうとしていた剣らしいわ。
  便利屋の人達が持ってきてくれたのよ。
  ・・・・・・
  ・・・こんなもの!
  こんなもののためにあの人は!」

そう言って剣を手に取った母親は突然堰を切ったように感情をあらわにし、剣を床に叩きつけようとした。

 「ダメよお母さん!
  それはお父さんが私達のために、命を賭けてまで取りに行った剣じゃない。
  ちゃんと売りましょう?
  たとえ価値の無いものだったとしても、お父さんはきっとそう望んでる」

 母親「・・・そうね・・・ごめんなさい。
  でも売りに行くのは明日にしましょう?
  今日はもう休みたいの・・・」

そして親子は自分達の部屋に入っていった。

それぞれの部屋の扉が閉まりしばらく経つと、その扉からはすすり泣きの声が漏れてくる。

母と娘のすすり泣きが聞こえる薄暗い部屋には、傷一つ無い立派な剣が2本立てかけられていた。

2本の剣には魔法でもかかっているのか、親子の泣き声に反応し、

暗くなったこの部屋を、いや、この親子を明るく照らそうと、健気にもまばゆく光り輝くのだった。

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