サラとエールの2人は足早にスキングラードから出ると、アルストの行方を捜し始めた。

辺りはすでに日も落ちかけ、あらゆる景色が黄金に近い赤に染まり始めていた。

夜になってからでは合流するのは難しくなるだろう。
そう思い辺りを見回しながらアルストを呼んでいると、ついに一帯が真っ赤に染まってしまった。

 エール「サラ、何か変じゃない?」

異様な雰囲気に少し怯えて、辺りを見回しながらエールは言った。

なぜ、ただの夕焼け時だというのに彼女は怯えるのか。それはこの現象が夕焼けとは全く違うものであったからだ。

目に見えるあらゆるものは朱に照らされ、薄暗い中でも不気味に浮かび上がり、
空には薄く白い雲がかかり、風も無いのに信じられないほどの速さで動いている。
薄い雲の向こうには黒い雲がいくつも浮かんでおり、端々が朱に照らされて空に赤いヒビでも入っているかのようにさえ見えた。

サラからの返答が無いのを不振に思ったエールは、彼女の顔に目をやった。
彼女は驚きと焦りを顔に滲ませ、エールの言葉も耳に入っていない様子で、横を向いてただ一点を見つめている。

その視線につられ、無意識のうちにそちらへと目をやると、その先にはドレモラと思われる者と、謎の白い人が歩いてくるのが見えた。

ドレモラとは、オブリビオンの次元において人間と同じのような存在の事だ。

デイドラの王の一人であるメエルーン・デイゴンを神のように崇拝し、社会性もある。
社会性があるとは言っても、一応のものであり、彼らはトレーニングと戦闘と戦争の準備にしか興味が無い完全なる戦闘種族だ。
しかし戦争が出来ると言う事は、高度な社会性を持つと言うことなのだが・・・まぁその辺はいいだろう。
男性がその社会を支配し、女性の地位は低く、その数も少ないという。

そして彼らこそがクヴァッチを破壊した張本人であり、ここシロディール地方に住む人々だけでなく、ニルン世界に住む人々全体の敵である。

ドレモラと謎の白い人は一直線にこちらへと歩いてくる。

エールはすぐさま腰に吊るしていた棍棒を手にとって身構えた。
だが、それをサラが制止する。

 サラ「エールいいのよ。彼らはすぐには襲ってこないと思うから」

大丈夫だとエールをなだめるサラであったが、その目は厳しく、歩み寄ってくる2人を睨み付けたままだ。

サラに大丈夫と言われたエールであったが、周囲の異様さも相俟って気が気ではなく、棍棒を手から離せなかった。

そして彼らが彼女らに手の届く距離まで近づくと、サラは口を開き何かを言おうとした。
だが、先に彼らから笑い声が発せられたようだった。

 ???「ははははあああああっははははははあああ!」

エールは突然の声に驚いて棍棒で身を守ろうと、手に持っていたそれを体の前に構えた。

だが、その先に居たドレモラと謎の白い人も、笑い声に面食らっているようだった。

そして次の瞬間には、彼らの背後から棒のようなものが一瞬見えた。

ドレモラはそれに反応し、素早く身を翻して棒を片手で掴み、受け止めた。

 アルスト「なんだと!?
  俺のスニーキングハイパーアタックを受け止めるとは!」

どうやら、アルストは先に2人を見つけ、そしてこのドレモラ達が彼女らに近寄っているのを見て、不意打ちのチャンスをうかがっていたようだ。

 ドレモラ「・・・こざかしい常命の者め。
  だが褒めてやろう、我々に気づかせずにここまで近づいた事は」

そう言いうと、ドレモラは受け止めていた棒を強く握り、右足を浮かせてアルストの腹を蹴り上げた。
しかしアルストはその程度ではビクともしなかった。それどころか棒を掴む両手の片方を放し、拳をつくってお返しとばかりにドレモラの顔面へと叩き込んだのだ。

そうしてアルストとドレモラによる、棒を掴み合ったままのデスマッチが始まろうとしていた。
が、サラがそれを声を張り上げて止める。

 サラ「やめなさいアルスト!茂羅乃介(モラノスケ)も!」

その声で殴り合っていた2人はピタリと止まった。

 アルスト「も、茂羅乃介・・・www
  お前茂羅乃介っていうのかwwwww」

なぜサラがこのドレモラの名前を知っているのかと一瞬思ったアルストであったが、もはやそんな事はどうでもよかった。
そして彼は途方も無い笑顔で言った。

 アルスト「お前のフルネーム、怒零 茂羅乃介(ドレ モラノスケ)だろwwwwwww」

言われた茂羅乃介は、掴んでいた棒を振り払い、驚愕の表情を湛えながら答えた。

 茂羅乃介「!!!!
  なぜ常命の者が私の名を?貴様、超能力者か?」

 アルスト「いやwwww
  俺はただの世界を統べる王だwwwwwうぇwうぇwww」

 茂羅乃介「なんと・・・この世界を統べる王が居たとは。
  ならば我々の背後をたやすく取れたのも頷けますな」

 サラ「頷かなくていいわ!
  それに白い鎧のアンタは・・・」

そして白い謎の人はサラの言葉に答えるかのように、なぜか浮かび上がりながら妙な言葉を喋りだした。

アルストとエールは言葉の意味が分からずに顔を見合わせ、何と言ったのだと目だけで会話した。

そして理解できる言葉を喋っていたドレモラに問うた。

 アルスト「おい茂羅乃介、アレは何語だ?
  何ていってるんだ?」

 茂羅乃介「この世界の王といえど、我らの言葉は分かりませんか。
  常命の者にも分かりやすく言うのならば、ドレモラ語です」

そして白い謎の人にドレモラ語で話しかけられたサラも、同じような言葉で何かを言い始めた。

 アルスト「・・・・・・」
 
エール「・・・・・・」

その後も2人はドレモラ語で何かのやりとりを続け、茂羅乃介はどうしていいか分からぬ風に2人を見つめていた。

そして業を煮やしてアルストが叫んだ。

 アルスト「いい加減にしろお前ら!!!!!
  ペラペラ語の見張りの幽霊といいお前らといい・・・何を言ってんのかわかんねぇんだよ!
  読者にも分かるように日本語で喋れ!」

すると白い謎の人は、今やっとアルストに気づいたかのように言った。

 謎の人「これは驚いた。
  最近の蛆は喋るのだな」

 アルスト「何だとこの野郎!この俺を馬鹿にするとは身の程知らずな野郎だ!
  だが・・・まぁ今回だけは許してやる。それよりも日本語が喋れるんなら最初からやり直ししろ!」

さきほどの会話を最初からやり直せと言われ、白い謎の人は舌打ちをしてからしぶしぶ了承した。
しかしサラはどうしても嫌なのか、下を向いてうつむいていたが、このままでは読者が混乱すると意を決してやり直し始めた

 

 

 

デスランドとは、オブリビオンの次元の事だ。
ドレモラ達は自分達が住むオブリビオンの世界の事をデスランドとよんでいる。

 

サラがなぜそれほどまでに日本語でやり直すのを嫌がったのかと言うと、それは自分がこの謎の男の子供である、と言う事実を知られたくなかったためだろう。

 謎の人「我はついにヴァルキナズへと昇格する事が許されたのだ。
  この白くナイスな新型デイドラ装備はその証。
  我と共にデスランドへと帰り、昇格の儀に参加するのだ。さすればお前を完全なるドレモラにしてやる事ができる」

ヴァルキナズとは、ドレモラ社会において最も高い地位を持つ者達が名乗れる称号のようなものである。
それは、分かりやすく言うのならば王や王子である。
そしてヴァルキナズに昇格すると言う事は、彼はその一つ下の階級マルキナズであろう。こちらは公爵のような地位だ。

この事からも分かるとおり、彼はドレモラである。
と言う事は、その子であるサラもドレモラだと言う事になるのだ。

だが、彼女の外見はインペリアル族と、つまりこのシロディールに多く住む人間と変わりないように見えた。

 エール「サラ・・・?」

 サラ「・・・・・・」

またもうつむいてしまった彼女を心配しエールは声をかけたが、言葉は何も返ってこなかった。

うつむいたサラはこんな事を考えていた。

 サラ(エール・・・ごめん。
  私はドレモラの子なの。
  半分はドレモラの血を、もう半分はインペリアルのお母さんの血を引いているけど、もうあなたと話す資格なんて私には無いと思う。
  だってドレモラはみんなの敵だよね?だから私もみんなの敵・・・って言う事になるんだと思う。
  黙ってれば今までと同じようにみんなと楽しく暮らせていたかもしれない。
  でもそれももう終わり。
  このクソオヤジの言いなりになって帰るような事はしないけど、これからは一人で旅を・・・)

その時だった。
黙って話を聞いていたアルストがサラに歩み寄ってきたのだ。

サラはそれに少しだけ身構えた。
人の気持ちを考えないアルストの事だから、実は敵で、みんなを騙してた自分に何かひどい事を言うに決まっている、と思ったからだ。

しかしそれも仕方ないと、彼女は全てを受け止めるつもりだった。

 アルスト「おいサラ、この宇宙服野郎が言ってるのは本当か?
  お前がドレモラの子供だって?」

サラは無言で、うつむいたまま頷いた。

 アルスト「クックック・・・ハハハハハハハハハアアハハハハアハハハハハハ!!!
  そうか!お前ドレモラだったのか!
  最高だ!最高だぞサラ!
  俺の夢を覚えているか!?
  そうだ。俺の夢はこのシロディールを乗っ取って肉奴隷王国にする事だ!
  その肉奴隷第1号のお前がドレモラとは!
  ハッハハハハ!よくやったぞサラ!
  おい、そこのサラの親父。そうと分かったらサラを帰すわけにはいかんな!
  コイツはもうずっと前から俺のものになっているからだ!
  なんならその証拠を見せてやるぜ?」

と、人の気持ちを考えないアルストは、サラの苦悩の一切を無視し、彼女の所有権を主張した。
そしてサラの横に立つと、サラの父親に見せつけるように唇を突き出してサラに迫った。

思いがけない時に乙女のピンチに晒されたサラであったが、いつものように、迫ってくるアルストの頭の斜め上から拳を振り上げた。
頭を強打されたアルストは、四つんばいになり頭だけ地面に埋まった。
息が出来ないため、必死に頭を引き抜こうともがいている。

 サラ父「我の子を肉奴隷だと?
  そんな場面は見ていないぞ・・・?いや、我の見ていないところでそのような事をしていたのか。
  馬鹿め。逃げ出さず、我が城に居ればそのような目に合わずにすんだものを・・・」

 サラ「そんな目には合ってないわ!
  もう、早く帰ってよクソオヤジ!アンタの顔なんて見たくもなかったわ!」

 サラ父「顔は見えておらぬ筈だ。
  なぜ素直に帰れん?お前を完全なドレモラにしてやろうと言っておるのに」

 サラ「お母さんの血を追い出すなんて嫌よ!
  それに、帰ったらまた私を部屋の中に閉じ込めておくつもりでしょう!」

 サラ父「部屋に閉じ込めておかねば母親のようにどこかに連れ去られ、行方知れずになるかもしれんのだぞ?
  常命の者とドレモラの混血では、その後どのような悲惨な目に合わされるかわからぬ」

 サラ「・・・うるさい!お母さんの事を探しもしないで放っておいたくせに!」

 サラ父「それは、ヴァルキナズの仕業だったからだ。
  上の階級の者に逆らうわけにはいかなかったのだ。
  母親の事はもう忘れろ。忘れられぬのならば我と共に帰れ。
  完全なるドレモラとなれば、そのような事は気にならぬようになるだろう」

アルストへの一撃で吹っ切れたのか、サラは父親に当り散らすかのように喚きだした。

 茂羅乃介「お嬢様、どうか落ち着いてください」

どうしていいか分からずオロオロとしていた茂羅乃介も、サラが喚きだしたのでついに止めに入った。

 サラ「クソオヤジが帰らなきゃ落ち着けないわ!
  ・・・アンタもアンタよ茂羅乃介!
  私を城から逃がしてくれたクセに、何でこのクソオヤジを連れてきたの!?」

 茂羅乃介「私がお館様を連れてきたワケではありません。
  お館様が私を・・・
  もういいでしょうお館様?
  あなたはお嬢様を逃がした私に、何の罰も与えなかった。
  今回も、お嬢様は帰るのを嫌がるだろうから、私をお嬢様の護衛にと・・・
  そろそろ素直におっしゃられたらどうです?」

 サラ父「何を言うか茂羅乃介。我はサラを連れて帰りたいのだ」

そしてついに頭を地面から引き抜いたアルストが紫の顔で言った。明らかにチアノーゼであった。

 アルスト「そうはさせんぞクソオヤジ!
  サラを連れて帰るってんなら、この俺に勝ってからにしろ!
  ・・あ、あれ。何かクラクラする。ま、まぁいい。丁度いいハンデだ!
  お前をぶっ殺して名実共に俺がサラのご主人様だ!」

その挑発に乗るかのようにサラの父親が言った。

 サラ父「よかろう。
  我が子を穢した蛆よ。お前だけはひねり潰さねばと思っていたところだ」

そして茂羅乃介がサラを促した。

 茂羅乃介「・・・なぜ素直になれないのですか、お館様・・・
  
お嬢様、もう行きましょう」

エールもそれに続いた。

 エール「そうだよ。
  ねぇサラ・・・帰ろうよ。普通の空が見たいよ」

だが、サラはまたしてもうつむいて言った。

 サラ「でも・・・私は敵の、クヴァッチを滅ぼした奴らの子供なのよ?
  この色違いの目がその証。青い方がインペリアルの、もう片方がドレモラの・・・」

その言葉にアルストが答えた。

 アルスト「目なんてお前・・・そんなの関係ねぇだろ。
  お前は俺のものだし、クヴァッチでも、俺以下の活躍だったが貢献したろ?」

そしてサラはスケレーdの話を思い出した。
アルストがクヴァッチ伯爵の子供だったという話を。

そして思った。彼はその事実を知らない、もし知っていたら今と同じ事を言っただろうかと。

その事を言葉に出そうとしたサラであったが、結局濁した言葉しか出てこなかった。

 サラ「アルスト、もしも私がアンタの親の仇と同族だったら・・・いやでしょ?
  だから私は・・・」

 アルスト「お前が殺したワケじゃないだろ。っていうか人種差別はあんまりよくないぞサラ。
  それに、俺の親は生きてるしな。
  いや、骸骨で生きてるってのも変かもしれんが・・・
  まぁそんな事はいいからさっさと天空の城に帰れ!
  俺がお前の親父を殺すところがそんなに見たいのか!?
  おい茂羅乃介、俺の城に行っても女には手を出すなよ!全員俺のだからな!」

その言葉を聞いて、サラは後悔した。
アルストはそんな繊細な心など持ち合わせてはいないと確信したからだ。

そして脱力してしまい、促されるままエールと茂羅乃介と共に天空の城へと帰ろうとした。

 アルスト「ちょっと待て!
  帰る前に剣貸してくれ。決闘が棒じゃカッコつかないぜ」

それに答えるように茂羅乃介が剣をアルストに投げてよこす。

 エール「お兄ちゃんに剣を貸したら、折られちゃうかもしれないよ?」

 茂羅乃介「な、なんですと?
  ニルンの王よ!なるべく剣は折らないでください!」

 アルスト「世界最強の俺がそんな凡ミスするとでも思ってんのか!」

そしてサラとエールと茂羅乃介は、決闘を始めた2人を無視して天空の城へ帰ろうと歩き出した。

 

道中、サラが浮かない顔をしていると、茂羅乃介が話しかけた。

 茂羅乃介「お父上の事が心配ですか?
  それならご心配なさらぬよう、あのお方はドレモラの中でも有数の・・・」

 サラ「・・・そうじゃないわ」

それではあのニルンの王が?と聞く茂羅乃介の言葉にも、サラは首を横に振った。

 エール「サラ。ドレモラの子供なんて事、気にする事ないよ。
  私は全然気にならないし、お兄ちゃんだって気にしないっていったし、お城のみんなだってきっとそんな事気にしないよ」

エールに笑顔で元気付けられると、みんなとの生活の記憶が脳裏に浮かび上がり、彼女の言うとおりかもしれないと思えてきた。

そして今までその事を隠していた自分を恥じて、帰って皆が揃ったら全てをもう一度キチンと話そうと決意した。
自分で自分の頬を叩いて気合を入れると、早く帰って皆に打ち明け、この胸のモヤモヤをどうにかしたいという気持ちが溢れてくる。
すると失われていた活力も湧いてきて、だんだんといつものサラに戻っていくのであった。

コンプレックスというものは、いつだってこんなものである。
自分では気になって仕方が無い事も、他人から見ればそんなものはどうでもいい事であることが多いのだ。
しかし、サラのように恵まれた環境に居て、すぐに気持ちを切りかえれる人も中々居ない、というのも事実だろう。

 

 エール「でもお兄ちゃん大丈夫かなぁ」

 サラ「アルストは不死身よ。
  負けても、多分・・・死なないわ」

 エール「じゃあサラのお父さんは?」

 サラ「アルストに負けるほど弱くないと思うけど・・・
  別にあんなクソオヤジどうだっていいわ」

 

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