辺り一帯は静寂に包まれていた。
オブリビオンゲート内にでも入ったかのような空模様、赤暗い周囲の異様さに、動植物でさえも息を殺して身を潜めているようだ。
と、そんな静寂を掻き消す、金属同士がぶつかり合う甲高い音が絶え間なく聞こえてきた。
音の先には、剣で戦う2人の姿があった。
一人は妙な白い鎧で全身を覆い、デイドラ製の大剣を片手で軽々と扱う男。
もう一人は、物語の主人公アルストだ。
どちらも引かぬ熾烈な戦いは長く続き・・・
疲労からか、アルストがイカれ始める。
そして、戦いは今まさに熾烈を超越したアクロバッティクな領域へと到達しようとしていた。
2人はお互い手の届く距離に身を置いて剣をぶつけ合う。
アルストが剣を頭上に振り上げてそのまま打ち下ろすと、白い鎧の男は半身になって体を横へずらし、それを避ける。
そして剣を振り下ろした状態のアルストの首めがけて、大剣を片手剣のように軽々と横薙ぎに振った。
アルストは自分の首に迫る剣を見やり、右足を踏み込み体を前かがみにした状態から後ろ宙返りをした。
剣が鼻先をかすめるような身の毛もよだつ状況、そして宙返りをする無理な体勢であるにもかかわらず、彼は男の腕を断ち切ろうと右手に持った剣を振るった。
白い鎧の男はその殺気を感じ取ったのか、剣を横に薙ぐ途中、体全体を前に押し出すようにして宙返りをするアルストを弾き飛ばした。
今まで戦闘では全くと言っていいほど活躍していなかったアルストと、この白い鎧の男、つまりサラの父は実力伯仲しているようであった。
弾き飛ばされたアルストは、地を一転するとすぐさま体を起こし、剣を正眼に構えて言った。
アルスト「なかなかやるじゃねぇかクソオヤジ!
まぁ俺は剣を折らないように手加減してるがな。
本気出してたらお前ぐらい一発だぜ」
サラの父親は手に持った大剣をアルストに向かって力強く突き出し、言った。
サラ父「ほざけ蛆虫。
我はまだ実力の20%も出しておらぬわ」
アルスト「俺は10%も出してないぜ?」
サラ父「我とした事が、数字を間違えるとは・・・
2%も出していないの間違いだ」
似たような虚勢を張り合いながら、またも2人は肉薄し剣を打ち合う。
戦いは激しさを増していったが、決着はなかな付かず、夜遅くになるまで2人は剣を交えあった。
その頃には空はいつもの状態を取り戻していた。
暗闇の中、甲高い金属音を絶え間なく鳴らす2人は、剣戟で飛んだ無数の白い火花を明かりにまだ剣をぶつけ合う。
そしてついに、その時はやってきた。
体勢の崩れたサラの父親めがけて、アルストは剣を体ごと叩き込んだ。
サラの父親はその剣をあわやの所で自らの剣で受けた。
が、その時だった。
2人の剣はぶつかり合うと同時に、混ざり合うかのように砕け散ってしまったのだ。
アルストは剣の支えを失って、そのままサラの父親へと体当たりしてしまった。
そして2人は一緒になって倒れたこみ、同じように夜空を見上げた。
アルスト「ぜ〜、ぜ〜・・・
ク、クソ力を入れすぎたか」
サラの父親も息が上がっているのか、顔までを覆うマスクのような兜からコーホーコーホーと音を出している。
もしかするとこれはガスマスクなのかもしれない。
サラ父「コーホー、この我が仕留め切れぬほどの腕前だったとはな。コーホー」
アルスト「と、当然だ。
俺は、世界最強の王だからな。
ていうか剣がもっと頑丈で、骸骨剣の奥義さえ使えればもっと強いぜ〜、ぜ〜」
サラ父「ふん・・・コーホー、減らず口を。
我が昇格しさらなる力を手に入れれば、貴様などゴミ同然だ。コーホー」
2人は息も絶え絶えながら、強がりを言い合い始める。
アルスト「なんだとこの野郎!
じゃあその時にもう一回勝負だ!」
サラ父「よかろう。
その時には我が真の力をもって貴様に本当の地獄を見せてやる」
しばらくして息を整えたアルストは、流れでうやむやになっていた事を聞き出そうと口を開いた。
アルスト「おいクソオヤジ」
サラ父「なんだ蛆虫」
アルスト「お前と一緒に居たドレモラは何者だ?
なんか流れ的に俺の城に住むっぽいんだが」
サラ父「茂羅乃介か。
あの男はアレの教育係をしていた者だ」
アルスト「アレ?アレってサラの事か。
しかし・・・教育係だと?どっからどこまで教育しやがったあの野郎!」
サラ父「学問から武術までだ」
そしてさらにしばらくして、2人は同時に立ち上がった。
アルスト「剣も折れたし、決闘はこれまでだな。
それで、俺の勝ちだから・・・サラは俺のものでいいんだよな?」
サラ父「愚か者!どこからどう見ても我の勝利だ!
それと、我が子を穢された恨みは忘れておらぬぞ。
今度会う時、それは貴様の命が終わる時でもある。
今から十分に恐怖しておくがいい」
2人してまたも意味の無い事をあれやこれやと一通り喚きあっていたが、話にも決着がつかないと見るや、ほぼ同時に回れ右して別々の道を歩き出した。
そしてそのまま振り返りもせずに、それぞれの住処へと帰って行くのであった。