ヒーローらしき人物の声を聞いたウルフマンとウルフガールは、なにやら辺りをキョロキョロと見回している。

 スパイダー・リン「こ、こんな事が!?あなたは一体!?」

なぜか驚いているスパイダー・リンが問いかけると、ヒーローらしき人物は、ほぅ、と感嘆の声を漏らした。

 ???「僕の居場所を一瞬で見抜くなんて・・・
  スパイダー・リン、君は噂以上の力を持っているようだ」

スパイダー・リンの視線を追って、辺りを見回していた2人もそちらを見る。そして驚いた。

 ウルフウーマン「信じられない!
  スパイダー・リンと同じくらいの身長だなんて!」

そう、この謎の人物はスパイダー・リンのように小さかったのだ。
だからスパイダー・リン以外の者は彼を見つける事が出来ず辺りを見回していたのだろう。

 ウルフマン「それにこの悪の気配はなんだ!?」

 タランチュラ・テツヲ「僕はタランチュラ・テツヲ。
  悪の気配だって?ハハハ!そうだよ僕は悪だ!
  お前達が今倒したゴブリンマン3兄弟に力を与え、このアンヴィルを破壊しろと命じたのは僕だ!」

 スパイダー・リン「あなたがタランチュラ!
  ・・・その仮面、どこかで見たような気が・・・」

 タランチュラ・テツヲ「やはり君は噂以上だよ!スパイダー・リン!
  19話の辺りにあるオマケストーリーを本編に絡めるなんて、普通じゃ絶対に出来ない事だ!」

そしてスパイダー・リンがタランチュラ・テツヲに歩み寄ると、彼女の衣装が突然喋り始めた。

 衣装「ま、まさかタランチュラでゲスか!?
  なぜ君がこんな悪い奴に手を貸しているのでゴザル!?」

 スパイダー・リン「手を貸して・・・?
  ま、まさか!クモゴロウ、タランチュラ・テツヲにはあなたと同じクモチャンピョンが!?」

スパイダー・リンは喋る衣装をクモゴロウと呼んだ。

クモゴロウの声は甲高く、混沌とした語尾を付けて喋り、名前も似ているため、リンの友達の蜘蛛悟郎と間違えてしまいそうだ。
全く、ややこしい事この上ない。

 クモゴロウ「タランチュラはクモチャンピョンではないでケズが、オイどんと同じように噛んだ人を超人に変えられる力を持っているで候。
  でも噛まれた人の生存確率は340億分の1で、ワスの6倍も危険な毒を持っているだよ」

ウルフマン達はその会話が理解できず、何を言っているのだといぶかしんだが、次の瞬間にその疑問は晴れた。
タランチュラ・テツヲの衣装が喋り始めたのである。この衣装がタランチュラなのだろう。

 タランチュラ「久しぶりね、クモゴロウ。
  ふふ・・・あなたのクモ語はいつ聞いても綺麗よ。ゾクゾクしちゃうわ」

 ウルフマン「よく分からんが、とりあえずスパイダー・リンのスーツとタランチュラ・テツヲのスーツは知り合いなのだな?」

 クモゴロウ「知り合いも知り合いナリ。
  タランチュラはミーの恋人だったんでガス」

 スパイダー・リン「だったらなぜ!クモゴロウみたいな正義の人・・・と言うか、あの・・・アレの恋人だった人が、
  なぜ悪人に手を貸しているの!」

するとタランチュラ・テツヲは本当に愉快そうに笑って言った。

 タランチュラ・テツヲ「ククク、ハハハハハッハハハ!
  タランチュラは正義が大嫌いなんだよ!そして僕も!
  君たちのような偽善者を見ていると気がどうにかなってしまいそうだ!」

彼はひとしきり笑うと、喋る間にその声が怒りのものへとガラリと変った。一触即発の空気が漂い、ヒーロー3人は身構える。

そして倒されたゴブリンマン3兄弟が、ここぞとばかりに大声を上げてタランチュラ・テツヲに助けを求めはじめた。

 ゴブリンマン弟「タランチュラ様ー!助けてくださいゴブー!」

 ゴブリンマン「もっと力をくださいゴブ!」

 ゴブリンマン兄「力さえもらえれば、次こそ必ず約束を果たすゴブよ!」

 タランチュラ・テツヲ「・・・まだ生きていたのか。
  馬鹿どもめ・・・使えない奴らなどいらない!僕が止めを刺してやろう!」

タランチュラ・テツヲは、「ハァッ!」という掛け声と共にゴブリン3兄弟へ向かってジャンプした。

 ウルフウーマン「いけない!」

ヒーロー3人も彼を追ってジャンプし、そのまま空中で格闘戦が始まった。
しかしタランチュラ・テツヲはヒーロー3人がかりでも敵わないほど、とんでもなく強かった。

凄まじい反撃を受けながらも、ウルフマンとウルフウーマンが彼にすがり付き、地上に引き降ろす。

スパイダー・リンは何とか3兄弟のもとに辿り着き、残り二人を案じて後ろを振り返り見た。
そこには、目を見開いて言葉を失ってしまうほどの光景があった。
ウルフマンとウルフウーマンの二人が揃えば、スパイダー・リンすら凌駕するほどに強い。
その強いヒーロー2人が、地面に倒れ付していたのだ。タランチュラ・テツヲにすがり付いて地面に引き降ろしてから、一瞬の間に。

彼は凄まじいスピードでスパイダー・リンと3兄弟の方へと走り寄る。そのスピードはまさに、天を一瞬で駆け抜ける流れ星のようだった。

スパイダー・リンは猛スピードで近づいてくる黒き流星に恐怖した。
脚が勝手に逃げようとする。しかし彼女は正義の心でそれを制し、3兄弟に背を向け、両腕を一杯に広げてタランチュラ・テツヲに対峙した。

 スパイダー・リン「やめなさい!自分の仲間にトドメを刺そうとするなんて!」

スパイダー・リンとタランチュラ・テツヲが衝突する一歩手前で、彼は止まって言った。

 タランチュラ・テツヲ「仲間・・・?ふん。
  脚が震えているぞ。なぜ逃げないんだ偽善者。
  そんなに正義のヒーローと持て囃されたいのか?」

 スパイダー・リン「こ、この脚はあなたへの怒りで震えているんです!
  なぜなら、正義のヒーローは怖がらない!」

彼女は自分に言い聞かせるように、真っ直ぐタランチュラ・テツヲを見据えて言った。

 タランチュラ・テツヲ「・・・なら、逃げたくなるようにしてやろう!」

そう言い捨てると、腕を振りかぶって両手を広げたスパイダー・リンに飛び掛ろうとする。

 ウルフマン「待て!我々が相手だタランチュラ・テツヲ!」

倒れていたはずのウルフマンとウルフウーマンが、彼の背後に立っていて言った。言葉の力強さとは裏腹に、明らかにダメージを受けている様子だ。
するとタランチュラ・テツヲは「しぶとい奴らだ」と言い捨て、突然緊張を解き、その場からジャンプし傍にあった家の屋根に乗って言った。

 タランチュラ・テツヲ「まぁいい。3兄弟の事なんてどうだっていいんだ。
  今日はスパイダー・リン、君を近くで見てみたかっただけだから、これで帰る事にしよう。
  偽善者の化けの皮を剥がし、このアンヴィルを破壊するのはまた今度だ!」

 スパイダー・リン「待ちなさい!なぜあなたはアンヴィルを!」

 クモゴロウ「タランチュラー!待つゴブー!」

そしてタランチュラ・テツヲは屋根の上から姿を消した。

 

タランチュラ・テツヲの居た場所を睨み付ける3人のヒーローに、ゴブリンマンが問いかけた。

 ゴブリンマン「なんで、俺達を助けたゴブ?」

スパイダー・リンがその問いかけに答える。

 スパイダー・リン「あなた達は利用されているだけ、って言ったでしょう?」

 ゴブリンマン「俺達はタランチュラ様から力を貰う前から人間を襲ってやろうって計画してたゴブ。
  それを知ってても助けたゴブか?」

彼女はコクリと頷いた。

 スパイダー・リン「もちろん」

 ゴブリンマン兄「俺達はモンスターだゴブ!問答無用で人を襲うゴブリンゴブよ!
  なんで助けるゴブか!?」

 スパイダー・リン「それは・・・
  私が正義のヒーローだから。
  私は今まで沢山の悪人やモンスターと戦いました。でも、倒す事はあっても殺すような事は絶対にしない」

すると、ウルフマン達について熱く語った男がまたしてもしゃしゃり出てきた。

 住民「よく言ったスパイダー・リン!それでこそ正義のヒーローだ!
  そう、30年ほど前のウルフマンとウルフウーマンも殺しは絶対にしなかった!
  セィフュークや、その手下達に至るまで、殺すような事はしなかったんだ!
  〜〜、〜〜〜〜〜〜〜〜〜!〜〜〜〜〜!〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、〜〜〜〜!
  〜〜!〜〜〜〜〜〜〜〜〜!〜〜〜〜〜、〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

長くなるであろう話を途中から無視した正義のヒーロースパイダー・リンは、長話の間に高まって行く住民の男の声に負けじと声高らかにこう続けた。

 スパイダー・リン「あなた達は人と喋れるようになったんだから!
  もう悪い事をしてはダメ!
  人を!モンスターを助けるのよ!」

ゴブリンマンも住民の声に自らの声を掻き消されぬように大声で言った。

 ゴブリンマン「人助けをするゴブリンなんて聞いた事ないゴブ!」

 スパイダー・リン「だって!あなた達はゴブリンマンでしょう!
  あなた達はもう普通のゴブリンじゃないの!
  それに!悪さをしたらまたクモと一緒におしおきです!」

 ゴブリンマン弟「ゴブリンじゃない!ゴブリンマン!?」

 ゴブリンマン兄「落ちこぼれだって言われて!群れから追い出された俺達が!?」

 ゴブリンマン「ゴブリンマン!」

 スパイダー・リン「そう!あなた達はゴブリンマン!
  正義のゴブリン、ゴブリンマンよ!」

 ゴブリンマン「スパイダー・リン!俺達はもう落ちこぼれじゃないゴブか!?」

 スパイダー・リン「落ちこぼれなんかじゃない!あなた達は強くなったの!
  だから!その力をみんなの為に役立てて!」

3兄弟は住民による騒音のような長話が続く中、話し合いを始めた。

 ゴブリンマン「兄ちゃん!弟よ!俺は!」

 ゴブリンマン弟「言わなくても分かるゴブ!」

 ゴブリンマン兄「なんで問答無用で人を襲わなくちゃならないんだって!俺も思ってたゴブ!
  スパイダー・リンありがとう!俺達は正義のゴブリンマンになってみるゴブ!
  ・・・って、居ないゴブ!?」

結論を出したゴブリンマン3兄弟がヒーロー3人の居た場所を振り返ったとき、すでに彼らの姿はどこにも無かった。

 ゴブリンマン「風のようにやってきて、風のように去ったゴブ。これが正義のヒーロー・・・」

ゴブリンマン3兄弟が3人のヒーローが居た場所を見つめ、ガード達が耳を塞ぐ中、アンヴィル住民の男による大声での長話はまだ終わりそうになかった。

 住民「〜〜〜!!〜〜〜、〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!〜〜〜!!!!!!!」

 

 

 

そして安全な場所へ避難させられたリンは――――――

なぜかまだ港区画に居て、胸を押さえて咳き込んでいた。

 リン「い、痛い・・・まだ痛いよ蜘蛛悟郎・・・」

彼女の近くには街中へ続く階段がある。ここから転げ落ちたのかもしれない。

 蜘蛛悟郎「ダメージが噴出したアル。
  でも一日眠れば治るってやんでぃ」

リンの体のどこかに張り付いているであろう、蜘蛛悟郎が言った。

 

しばらくその場で休んでいると、誰かのリンを呼ぶ声が聞こえてきた。

 テツヲ「リンちゃん!大丈夫!?」

その声はテツヲであった。

 リン「テ、テツヲ君・・・
  ちょっと、その・・・そこの階段から落ちちゃって」

やはりリンは階段から転げ落ちたらしい。
胸を押さえて咳き込むリンを心配そうに見て、テツヲが言った。

 テツヲ「司祭様を呼んでくるからここで待ってて!
  司祭様は回復魔法が得意なんだ!きっとすぐに治してくれるよ!それまでここを動いちゃダメだ!」

そしてテツヲは階段をよじ登るようにして登り、走って行った。

 

しばらくすると、司祭を連れたテツヲが戻ってきた。

司祭はリンを見ても驚く仕草は一切見せず、回復魔法を唱え、彼女に手をかざした。

 司祭「これでもう大丈夫だ」

治療を終えて優しく微笑んでそう言った司祭を見て、リンは父親と母親の笑顔に似ていると思った。

 リン(この人がテツヲ君の育ての親。
  パパとママに雰囲気が似てる・・・私を差別してない本当の笑顔だ・・・)
 リン「ありがとうございます。
  ・・・?テツヲ君、それは何?」

そしてテツヲが両手一杯に何かの瓶を抱えている事に気がついた。

 テツヲ「え?あ、これ?
  これは回復薬とか毒消し・・・いらなかったみたいだけど」

照れ隠しに笑うテツヲ。本当にリンの事を心配していたようだ。
リンが「心配してくれてありがとう」と言うと、視線を泳がせて照れくさそうに微笑んだ。

だが、その顔はみるみると青くなっていった。

 リン「テツヲ君?どうかしたの?」

 司祭「い、いかん!テツヲ!」

 テツヲ「だ、大丈夫、大丈夫」

顔を真っ青にしたテツヲは、苦しそうに大丈夫だと言いながらその場に倒れてしまった。
彼の持っていた瓶が地面に落ちて、カランカランと音を立てて転がっていく。

 リン「テツヲ君!テツヲ君!?」

 司祭「教会へ連れて行かねば!」

司祭は倒れたテツヲを丁寧に持ち上げると、足早に教会へと向かった。
リンもその後を追った。

 

 

 司祭「この子は生まれつき心臓が悪いんだ」

教会へと戻ると、テツヲにはすぐに治療が施された。
今は容態が落ち着いて、彼の眠る部屋で司祭とリンが話をしている。

 司祭「少しの運動もいけないと言われていたのに・・・
  君が苦しんでいるのを見て、そんな事も頭から離れてしまったんだな」

司祭はなぜか嬉しそうに言ったが、リンは恐縮してしまった。

 リン「ご、ごめんなさい。私のせいでテツヲ君が・・・」

 司祭「いや。
  すまない、私の言い方が悪かったね。君を責めているのではないよ。

  ・・・・・・

  この子は、これでも昔は友達が多かったんだ。
  運動は出来なかったが、頭が良くて優しい子でみんなにも慕われていた。
  だが、数年前のある日を境に、変わってしまったんだ・・・
  突然友達を遠ざけるようになり、話をしなくなって、最近では私の事も避けているようだ。

  私は保護者失格だ。テツヲがなぜ人を避けるのかが全く分からない。
  アンヴィルの住民達はテツヲの事を昔から知っている。
  旅人はこの子を見て驚くが、それは昔からそうだった・・・体が小さいと言う事で彼が悩む事など無いはずなのだ。
  なぜ、なぜなのだ・・・」

リンにはそれが信じられなかった。
街を案内してくれている時の彼は明るく、人を避けるようなそぶりは全く無い。
それどころか自分によく話しかけてくれていて、司祭の言うとおりにアンヴィルの人々の目は温かかったからだ。

 リン「テツヲ君が?」

司祭は頷いて続けた。

 司祭「だが、君は特別らしい。テツヲにとってのヴェルダース・オリジナルだな」

 リン「ヴェ、ヴェルダース・・・?ヒーローか何かですか?」

なぜだ、こんな時にもネタを入れてしまうのはなぜなんだ。意味の分からない人は「特別な存在」でググろう。

 司祭「いや、話がそれた。
  ・・・さっき私のところに飛び込んできて、友達が大変なんだと必死に訴えていたよ。
  人を避けるようになっていたあの子が、友達を助けてと必死に。自分の病気のことも忘れて・・・
  リンさん、と言ったね?テツヲの良い友達になってやって欲しい」

 リン「私はもう友達のつもりです」

 司祭「そうか、ありがとう」

司祭はリンへ優しい笑顔を向けて、その笑顔のまま今度はテツヲを見つめた。
リンは確信した。この笑顔には本当の愛が確かに存在する、と。

 司祭「さぁ、今日はもう帰りなさい。これ以上ここに留まっては暗くなってしまう」

リンは頷くと、テツヲが自分の為に持って来てくれたポーションを袋から取り出して、司祭に渡した。
司祭はそれを笑顔で受け取った。

そしてそのまま正義のヒーローの話題で持ちきりのアンヴィルを後にするのであった。

 

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