遺跡から少し歩いた森の中、木漏れ日で無数に差し込む小さな光の柱たちを前に考える。
お金が無いのなら稼げばいい。だが、普通の仕事では時間がかかりすぎだろう。

 アルスト「しょうがねぇ、その辺の山賊ぶっ殺して身包み剥ぐか」

一番効率の良い方法はこれだ。それに最近の山賊は羽振りがいいらしく、高価な装備品を身に付けている事が多い。
もしかしたらレアな装備が手に入るかもしれない、だとしたら一石二鳥だ。

自分の名案にニヤついた笑みを浮かべ、ブツブツと独り言を言いながら森の奥へと入っていった。

 

 

そして日がどっぷりと暮れた頃。
暗い森の中に松明の明かりが一つ灯っていた。

 アルスト(なぜだ…こんだけ歩いてもモンスターにすら会わなかった…)

一日中獲物を探して歩いたが、この日はなぜか鹿の一匹も見かけはしなかった。
確かに、シロディールの治安が最近現れたヒーロー達の活躍によって良くなり始めたと聞いた事はある。
だが、これほど何も居なくなるとは考えにくい。

ヒーローの数は3人。
たったそれだけでは街中や、その周辺の治安をよくするだけで精一杯の筈だ。
こんな人里離れた森の中まで安全になっている筈が無い。

ただ単に運が悪かったのだろう。
この森の中に山賊は居る。確実に。その痕跡はあったのだから。

 

丁度正午くらいか、深いこの森の中にポツンと建っていた家を見つけたのだ。
当然のように金目の物が無いか確認するためその家に忍び込む事にした。
周囲を見渡して誰も見ていないのを確認し扉に手をかける。

鍵がかかっているだろうという予想は外れ、扉はすんなりと開いた。

中を覗くと、まだ人が住んでいそうな雰囲気はあった。

だが遅かった。家の中は荒らされていたのだ。

これは複数の山賊の仕業だと思った。
盗賊であれば、このように家をひっくり返した程には荒らさないからだ。

ここを襲った山賊を探さなくてはならない。
その山賊を皆殺しにすれば装備品も手に入るし、この家から彼らが盗んだ物も戦利品として手に入る。
これまたまさに一石二鳥だ。

家の中が片付けられていないと言う事は、山賊が入ってからまだ時間が経っていないからかもしれない。
そう思い、外に出て辺りの様子を伺った。
この家に来た時と風の向きが変わっている。すると、妙な臭いが風にのってくるのが分かった。

裏の方か。姿勢を低くして物陰に隠れながら移動し、家の裏までやってきた。
そして置いてあった樽から顔を覗かせて臭いのする方を覗き見る。

そこにはゾンビが2体倒れていた。最初はそう思った。

ゾンビとは動く腐った死体である。主に湿った洞窟や、魔法の影響が高い遺跡に多く出現する。

そう、ゾンビだと思った。

だが違ったのだ。

それは人の死体であった。腐敗しており、異臭を放つ惨たらしく傷んだ死体だ。

腐敗していると言う事は時間が経っていると言うことだ。
これでは山賊はもう近くには居ないだろう、そう思い落胆したが、何か持っていないかとその死体を一応調べるために近づく。

鼻を摘みながら近くに寄ると、着ている衣服からどうやらこの死体は男と女の死体であると言う事が分かった。
きっと夫婦だったのだろう。

死体周辺の地面は血によって汚れたのか変色しており、この悲惨な死体がさらに禍々しく見える。
だが、その変色した地面から生える草は青々しくみずみずしかった。
その事からも死んでから時間が経っているという事が伺えた。

そして2つの死体を調べたが、やはり何も持っていない。

服だけは手付かずだったが、剣で切り裂かれ血で汚れて異臭を放つ服などに価値などあろう筈も無かった。

 

 

 アルスト(こうやって松明でも焚いてれば山賊が寄ってくるかと思ったが、もういい。帰ろう)

明かりを消して帰ろうと顔を上げると、暗闇に慣れぬ目に何かがボンヤリと映った。

 アルスト「うおっ!?」

目の前にいつの間にやら何かが立っていたのだ。

不意をつかれ、なさけない声を出して後ろに飛びのく。一瞬山賊かとも思ったが、襲ってこないところを見るとどうやら違うようだ。
よくよく見ればかなり小さい。5〜6歳の子供のようだ。

 アルスト「おい、子供がこんな夜に森の中で何をしているんだ?」

子供は答えず、肩を震わせて俯いている。

 アルスト「…ふむ。さては迷子だな?」

すると子供は顔を上げた。男のようだ。
暗くてよく分からないが、その目からは涙が流れているように見えた。

 子供「お兄ちゃん、強い?」

その言葉を聞いて少しだけハッとした。
泣きそうな声ではあった。だが、目は真っ直ぐにこちらを見据え、震える声には力が確かに篭っている。

十中八九泣きついてくるだろう、そんな予想とは全く違う強い言葉だった。

 アルスト「当然だ。俺は世界最強だぞ」

子供は突然大きな動作で頭を下げて言った。その姿にまたも驚いてしまった。
いや、5〜6歳の子供が頭を下げて、こんな事を言えば誰だって驚くか。

 子供「殺して欲しい奴らが居るんだ!お願いします、手伝ってください!」

 アルスト「な…こ、子供が何言ってやがる。
  ムカツク奴と喧嘩でもして負けたのか?
  そういう時は棒切れでも持ってって、後ろからメッタ打ちにしてやれ!そうすればお前の勝ちだ!
  でもお前はまだ子供だ、殺すなよ!ハハハハハッハッハッハッハッハ!」

そう言って笑っていると、子供は顔を上げてキッとこちらを睨み付けてきた。
否応無く笑いは止まってしまう。

そして真剣な眼差しで言った。

 子供「そんなのじゃない!
  山賊を、僕の家を襲った奴らを殺して欲しいんだ!
  お金ならあるよ、お母さんが僕を逃がすときにくれたんだ。
  これで誰かに助けを求めなさいって…」

ゴソゴソとポケットを弄る子供。そして握り締めるように取り出したのは2Gだった。
山賊退治の相場は安く見積もっても100〜200Gくらいするだろうに。

普段なら他に頼めと言うところであったが、今回は特別だ。
山賊から身包み剥いでお金を稼ぎたいし、多分この子供は今日の昼に見つけた家の子供だろう。

 子供「あ、あれ?300Gくらい貰ったのに!
  どこかに落としちゃった!」

目に涙を浮かべ焦る子供。

 アルスト「…うむ。
  今回は特別だ。2Gでいいだろう。でも本当はこんなはした金じゃダメだからな。
  で、奴らの居場所は知っているんだろうな?」

2Gを受け取ると子供はホッとした様子を見せた。

 子供「うん。もうすぐここを通るよ」

 

子供の言ったとおりその場で山賊が現れるのを待つ。
空に浮かんでいた星はいつの間にやら黒い雲で覆い隠され、雨がポツポツと降り出した。

そして雨が強くなってきたので今日はやめにしようとしたとき、
暗い茂みがガサガサと揺れ、2人組みの山賊と思われる者が素早く飛び出してきた。

 山賊1「ちょっと待ちな!ここらは俺らの縄張りだ!」

 山賊2「先へ行きてぇんなら通行料を100払って貰おうか!」

山賊が茂みから出ると同時に子供はサッと俺の後ろに隠れた。

俺は腕組みをして胸を張り、ムチャクチャな事を言い張る山賊達に向かってこう言った。

 アルスト「ここがお前らの縄張りだと?勘違いしてんじゃねぇぞクズ野郎どもが!
  この世界の全ては俺のものなんだよ!
  お前らこそ、その汚ねぇ存在料を100万払え!」

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