山賊1「な、なんだお前?同業者か?」

 アルスト「俺が山賊?ナメてんじゃねぇぞクズ野郎!
  …と、普通なら問答無用でブチ殺しにかかるところだが、俺は心が広い。ザコ山賊のお前達にも選択権をやろう。
  有り金全部と金目の物を置いて立ち去るか、殺されて全てを奪われるか…どっちがいい!?さぁ選べ!」

 山賊2「やっぱ同業者じゃねぇか」

 山賊1「俺らのがマシだろ」

と、俺の後ろに隠れていた子供が震える声で言った。

 子供「コイツらだ…コイツらがお父さんとお母さんを!」

雨が降ってきたから戦うのが面倒くさくなって山賊達からカツアゲしようとしたが、これではこの子供は彼らを付け狙い続けるだろう。
その挙句に返り討ちだ。

 アルスト「しょうがねぇ、メンドくせぇけど殺すか。2G貰ったしな」

山賊達は「2G?何を言っているのだ」と首をかしげた。
しかしもう喋る必要など無い、背の棒を抜き、目一杯に引かれた弓から放たれる矢のように走り出す。

山賊達はそれぞれの獲物を手に身構えた。

いくら武器を構えても無駄だ、と空気を裂くように唸る棒をアルゴニアンの山賊へと打ち込んだ。
一撃で岩をも砕けそうな棒の一撃、だがしかしアルゴニアンは奇跡的にそれを避けた。

 山賊2「そ、それで本気なのか?」  ←アルゴニアンの山賊

俺の攻撃で腰を抜かしそうなはずなのに、アルゴニアンは無理して強がりを言っているようだ。

 アルスト「マグレで避けたくせに何言ってやがる!」

 山賊2「いや、普通に後ろに動いただけだろ」

アルゴニアンの山賊は自分の内に芽生えた圧倒的な恐怖を態度には出すまいと必死のようだ。

ならばその恐怖から一刻も早く解き放ってやろう、俺はターゲットをアルゴニアンに絞った。
地面に突き刺さった棒を引き抜くと、相手の喉元へと棒の先端を突き入れる。

だが、またしても奇跡は起こった。

アルゴニアンが首を横に傾けてその攻撃を避けたのだ。いや、きっと緊張を和らげようと首をゴキゴキ鳴らす為に横へ勢いよく首を振ったのだ。
間違いない。

 アルスト「運のいい野郎だぜ!」

 山賊2「うるせぇ!」

山賊はそのままパンチを浴びせてきた。

攻撃直後で避けられず、そのパンチをまともに受ける。
だが所詮は山賊の攻撃、そんなもので俺はビクともしない。

そこへオークの山賊が後ろから雄たけびを上げて斬りかかってきた。
流石に斬られてはたまらないと、横へ飛びのいて剣をかわし、山賊と距離をとる。

 山賊1「すばしっこい野郎だ!」

オークは剣をしっかり構え、アルゴニアンは弓に矢を番えた。
これでは少しだけ梃子摺るかもしれない。
そう思って棒を構え直したとき、子供が山賊達に立ちはだかった。

 アルスト「おい下がってろ!」

子供は言葉が耳に入っていないのか、短剣を両手に持って山賊を睨み付けたまま微動だにしなかった。

 山賊1「さがってろ?
  …何言ってんだ?」

 山賊2「イカレたんじゃねぇか」

山賊達は自分達の目の前に居る子供が目に入っていない様子で言った。

 山賊2「いいからさっさと殺しちまおうぜ」

アルゴニアンは弓をさらに引き絞る。このまま矢が放たれれば正面に居る子供に当たるのは火を見るより明らかだ。
俺は子供に向かって怒鳴りながら走りだした。

だが叫びも虚しく子供は微動だにせず、アルゴニアンは矢を引く指を離した。番えられた矢がヒュンと音を立てて飛ぶ。

そしてそれは子供に突き刺さる。

はずだった…が、矢は子供を突き抜けて俺の胸にまっしぐらに飛んで来たのだ。
その矢は左手に持っていた棒に運良く当たり、どこかへ飛んで行った。

そして子供を突き飛ばそうと、走る勢いもそのままに右手を伸ばす。

子供に右手が当たる。

すると、短剣を構えて山賊を睨み付ける子供は、水のようになって地面にバシャリと広がった。

そして変化は起きた。

水の広がった場所は草が消えて地面むき出しになり、生い茂る背の高い草は背の低い草へと変わっていった。

その変化は瞬く間にあたり一面に広がってゆく。

木々を消し去り山賊達を消し去って、しまいには雷雨の空模様さえ晴天へと変え、夜だったはずなのに空には太陽が浮かんだ。

 

澄み渡った空の下、俺はそこが見覚えのある場所だと思った。

そして辺りを見回して理解した。ここはあの家だ。

 

 山賊1「金と食料は全部いただくぜ」

 「は、はい。どうぞ持って行ってください」

男女の腐った死体のあった場所で、夫婦と見られる男女とその子供、そして今まで戦っていたはずのオークの山賊がなにやら話していた。

 山賊1「隠し部屋なんてもんはねぇだろうな」

 「み、見ての通りのボロでございます。そんなものはありません」

 山賊1「そうかいそうかい、それじゃ…死ね!」

オークが突然男に斬りつけた。
男は鮮血をあたりに撒き散らしながら倒れふし、女と子供は抱き合って怯えた。

 山賊1「それじゃお前らは…うおっ!?」

血の滴る剣を持ったまま抱き合う2人に歩み寄ろうとしていたオークの足を、男の手が掴んだ。

 山賊1「この野郎!放せ!」

 「今よ、さぁ早く!」

女はそう言って子供の手を引いて走り出した。
そして近くの茂みまで走ると、そこへ身を隠して子供に言った。

 「逃げて、お願い。どこか遠くへ」

 子供「お母さんは?お父さんは?」

 「私たちはまだここに居ないといけないの。
  これを持って誰かに助けを求めて…」

そして女は袋を取り出して子供に持たせた。中からはジャラジャラと音が聞こえる、多分お金だろう。

 「何かあった時のためにこれも…」

自分の懐にあった短剣も子供に持たせた。
子供は渡された袋と短剣を重そうに抱えると、不安そうな表情で女を見つめた。

女はこんな状況であるにも関わらず、そんな子供に優しい表情を向けて言った。

 「さぁ行って。私たちなら大丈夫。
  あんな山賊なんてやっつけちゃうんだから」

いつも自分に向けてくれる母親の優しい顔を見て子供は安心し、走って茂みに消えていった。

そして女は茂みから走り出た。
あの子を連れていてはいつか追いつかれる。それが分かっていたのだろう、自分の子供を守るためこの女は自らを犠牲にしようというのだ。

 

そして見たのだ。
妻と子を守るため山賊の足を掴んでいた夫がズタズタにされ血まみれで息絶えていたのを。

 山賊1「てこずらせやがって」

何度剣で突かれても、斬られても、決して手を放そうとしなかったのだろう。
その傷の多さが彼の強さを物語っている。

女は近くに落ちていた棒切れを手に持って、力無く横たわる男を蹴飛ばす山賊へと襲い掛かる。
少しでも彼らの気を子供からそらす為か、夫の為かはわからない。

振り向いた山賊はその勢いに驚いたが、戦いなど出来ない女を切り伏せるのは簡単だった。

斬られて倒れた女だったが、それでもまだ諦めなかった。
血の吹き出る腹部を押さえ、立ち上がって棒を手に山賊へ向かう。その虚ろな目は、もはや何も捉えていないようにすら見えた。

幽鬼のように歩み寄る女に、オークの山賊は恐怖した。
彼女の圧倒的な強さの理由が理解できなかったのだ。

 

俺はこれ以上好き勝手させるかと思い動こうとしたが、体が全く動かせない。
そして今気づいた。自分の体がどこにも存在していない事を。

 

女をメチャクチャに斬りつけ動かなくなったのを確認すると、オークはその場に尻餅をついた。
そこへ呼び声がかかる。

 山賊2「なに休んでんだ」

 山賊1「お、おう。どうだ、金はあったか?」

 山賊2「それがねぇんだよ。コイツら持ってねぇか?」

そう言うと、アルゴニアンの山賊は男と女の死体を探った。

 山賊2「何もねぇぞ…」

 山賊1「そういやガキが居たな。あのガキに持たせたのかもしれねぇ」

 山賊2「逃がしたのかよ!?
  ったく。女も殺しちまうし、お前らしくねぇぞ」

そう言うと、山賊達は子供が逃げた方向へと走り始めた。

 

そして子供は――まだ母親と別れたはずの場所で震えていた。

母親が最後に言った言葉、「あんな山賊なんてやっつけちゃうんだから」この言葉を信じ、父親と母親のカッコイイところを見ようと帰って来ていたのだ。
そしてこの一部始終を茂みの中から全て見ていたのだ。

それは子供には凄惨過ぎる光景だった。

山奥に住み、まだ外の世界を知らないこの子供にとって父と母は絶対的な存在であった。
そんな父と母が殺された。それも惨たらしい方法で。

死というものはもう理解できた。飼っていた犬が少し前に死んだのだ。その時は悲しくてずっと泣いていた。
そう、泣いていた。傍にまだ頼れる者、父と母が居てくれたから。

子供は父と母の死を認めたくないが故に、ただ震えていたのだ。

 山賊2「お。なんだ、ここに隠れてやがったぜ」

そこを山賊に見つかってしまった。
山賊が何かを言っていたが、もはやそんな事は聞こえない様子でただただこの殺戮者たちを睨み付ける子供。

「生意気なガキだ」と言ってアルゴニアンが子供を蹴った。

だがそれでも子供は泣かなかった。それどころか母親に渡された短剣を構えて山賊に立ち向かおうとした。

その姿を見たオークは半狂乱になって子供に斬りつけた。
子供もまた、オークが望んでいる恐怖や激痛に歪んだ表情は最後まで見せなかった。

 

そして子供と一緒に斬られた袋からお金が流れ出る。

 山賊2「見ろよ!やっぱりコイツが持ってやがった!」

山賊達は袋を子供の死体から奪い取り、さらに手に握り締められた短剣をも奪おうとした。
すると子供の目が突然カッと開き、その瞳からついに涙が流れた。

 山賊1「そ、そんなもんいいからとっととズラかろうぜ」

 山賊2「ギャハハハ!なんだよビビったのかよ!」

そこまで見たところで山賊達の声は遠のいていき、視点の中心からは白い光が広がり、ついには何も見えなくなっていった。

 

いつの間にやら目を閉じていたらしい。
目を開くと、オークとアルゴニアンの山賊2人が目に入った。

 山賊1「矢を防いだのは驚いたが、残念だったな!」

どうやら先ほどの不思議な体験は、あの子供の記憶の断片だったようだ。

 アルスト「コイツらに盗られたから2Gしか持ってなかったのか」

あの袋が破れ中身がこぼれた時とっさに握った2Gだったのだろう。

 山賊2「また妙な事言ってやがるぜ。こりゃもう完全にイカれちまってるな」

伸ばした右手の先に居たはずの子供の姿は無く、代わりに俺の右手は短剣を握っていた。
見覚えのある短剣だ。これはあの子供を逃がす時に母親が渡した物に違いない。

 山賊1「ガハハハ!俺らにビビってイカれちまうなんてコイツどんだけヘタレなんだよ!」

なにやらおかしそうに騒ぐ山賊達を無視し、短剣に視線を落として物思いにふける。

 アルスト(まさかあの子供が幽霊だったとはな…
  にしても、こんなザコ野郎どもを殺す報酬に2Gとこの短剣か…おつりが出るぜ)

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 アルスト(コイツら絶対許さねぇ!)

フツフツと怒りが込み上がって来る、自分ではどうする事も出来ない激しい怒りが。
そして感情もあらわに山賊を睨み付け、言った。

 アルスト「お前らだけは絶対に許さねぇ!
  骸骨剣が骸骨剣と名付けられる事になったのは、この最強奥義があったからだ!
  今回は特別に見せてやるぜ!ありがたく思え!」

 

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