2人の山賊の笑い声がさらに高まる。
山賊2「ギャハハハハハ!
何言ってんだコイツ!」
山賊1「貧相な短剣見て何考えてるかと思ったら、ハッタリ考えてたのかよ!
素直に命乞いでもしたらどうだ!?ガハハハハハハ!」
どうやらこの山賊達は、この最強奥義の構えを見て自らの死期を本能的に悟ったが、理性がそれを認めようとせず俺がハッタリを言っているのだと思い込んでしまったようだ。
アルスト「ハハハハハアアアアッハッハッハッハハハ!
死の恐怖に耐えられず、ついにおかしくなったかクズども!
だが安心しろ!死を一度体験すればもうそんな恐怖は感じなくてすむぞ!」
俺の言葉を聞いてさらに笑う山賊達。
アルゴニアンの山賊は一瞬で笑うのをやめ、弓を構えて矢を放ってきた。
アルゴニアンとの距離は約5m、これでは普通の人間の反射能力を超える到達時間しかかからないだろう。
普通の人間がこの距離で矢を避けようと思ったら、放たれると同時に動くしかない。それでも難しいだろうが。
だが、俺は最強の超人だった。
元の棒を装備している状態でも世界最強の天才なのに、今は剣を装備している。
剣を装備し骸骨剣を使える状態の俺に勝つ事は、神ですら不可能だ。
意識を集中する。
すると脳の機能が高速化し、通常の人には発現しないはずの時間分解能力が目を覚ました。
この能力を分かりやすく言えば、全てをスローモーションで見る能力だ。
人の反射神経さえ超える速さで迫る矢も、今はゆっくりとした動きで見える。
だが周囲の時間が遅くなったわけではない。
自身の動きもスローモーションのままだが、その程度スケレーd師匠から修行を積んだ俺には枷にならない。
迫る矢に向かい下の方にあった左手を上げてゆき、そのまま矢に触れてゆっくりと上に持ち上げてやる。
すると矢はしなりながら上にグングンと上がっていこうとする。
ゆっくりと感じる時間の中でこちらへ向かうスピードより早く上に押し上げてやったのだ。
このまま集中を切れば、矢は天高くへと舞い上がって行くだろう。
どうせなら奴らの方へ行くようにしてやりたかったが、ゆっくりとした時間の中であってもそれは力学的に難しい事だった。
そしてスローモーションが終わる。
山賊2「?」
山賊1「ガハハハ!気を抜きすぎだぞ、この距離で外すなよ!」
アルゴニアンは外すはずの無い攻撃を外したと怪訝な表情をし、オークはそれを間抜けだと笑った。
アルスト「ハハアアアッハッハハハハ!俺の動きが全く見えないとは、やっぱザコだな!
まぁいい。もうトドメを刺してやろう、奥義『骸骨剣』でな!」
山賊2「笑ってんじゃねぇ!そこを動くなよ、今度こそ…」
これは山賊なりの命乞いなのだろう、だがもう遅い。お前達が死ぬ事はもう決まっているのだ。
目にも止まらぬスピードで山賊達へと肉薄する。
俺が今まで居た場所ではソニックブームが起こり、降りしきる雨の一粒一粒が空中で弾けた。
駆け抜けた大地は走る足との摩擦力に負け、抉れる。
山賊はもう目の前、今こそ奥義『骸骨剣』を繰り出す時だ。
山賊1「消えたぞ!?」
山賊達は俺を見失って慌てふためいて辺りを探した。
そして後ろまで移動していた俺をようやく見つけ、言った。
山賊1「い、いつの間にそんなとこに!」
赤い霧が彼らの体から発生し、辺りを赤く染め上げる。まだ彼らは気づいていないようだった。
俺は後ろの山賊を振り返らずに言った。
アルスト「まだ気づいてねぇのか」
山賊2「何がだ?驚かせやがって、ただ移動しただけじゃねぇか」
彼らがもう死んでいる事に。そして俺は彼らにその事を告げた。
そう告げると、持っていた短剣がガシャンとガラスのように砕けた。
その音が彼らに届くと、彼らの体から立ち上る赤い霧の発生が増え…
彼らの体は骨だけになって、そのままバラバラと崩れ落ちた。
そう、骸骨剣最強の奥義『骸骨剣』とは、その名の通り、受けた相手を骸骨にしてしまうという恐ろしい技だ。
極限にまで高められた剣の技で肉体を分子レベルにまで切り刻む。
分子となった体を構成する物質は、血の色素と結合しながら空中へと舞い上がる。赤い霧の正体はこれだ。
そして最後には付着物の一切無い綺麗な白い骨だけが残るのだ。
なぜ骨に分子が付着しないのかは別として、なぜわざわざ骨を残すのかは奥義を編み出したスケレーd師匠しか知らない。
白骨化した山賊達を見つめ、俺は表情を曇らせた。
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子供「ねえ、ねえってば!」
子供が何かを言っているが、もうアルストにはその言葉は届かず、その姿も彼の目には写らない。
子供「なんで?聞こえないの?お礼が言いたいのに…」
そしてアルストが歩き出す。
子供は力いっぱいに「待って待って」と叫んだが、彼に言葉は届かない。
父と母を失い、また一人ぼっちになってしまったのだ。悲しみで子供は大粒の涙を流し、大きな声で泣き出した。
両親の仇を討って、それからどうしたらいいのか分からないのだ。
と、その時だった。
子供(だれ?)
呼び声が聞こえたような気がして、子供は涙に潤んだ目を拭いて後ろを振り向いた。
そこには子供に向かって手を振る男と女の姿があった。
それを見た子供はわき目も振らずに駆け出した。
女が手を大きく広げて屈み、走ってくる子供を受け止める。
子供「お母さん!お父さん!」
手を振っていた男女は子供の両親だった。
子供の泣き声を聞きつけて、探しに来たのだろう。
泣きじゃくる子供を母親がなだめると、父親が言った。
父親「彼にお礼は言ったか?」
子供「ううん。だって、あのお兄ちゃん僕の声が聞こえなくなったみたいだから」
父親「そんな事はないさ。彼は君の頼みを聞いてくれたんだから」
子供はそうかもしれないと思った。そして大きな声でこう叫んだ。
子供「ありがとう!!」
すると、遠くを歩いていたアルストが勢いよくこちらを振り向いた。遠すぎて表情は分からないが、こちらを見ているような気がする。
アルストの心の声 ←カコイイアルストが見たい方はクリックしないでください
父親が「ほら」と言って同じように「ありがとう」と叫び、母親もそれに続いた。
アルストは本当に聞こえているかのように、彼らの声が森に消えると踵を返しまた歩き出した。
そして父親と母親がそれぞれに子供の手を握って、「いこう」と言った。
子供はそれが本当に嬉しかった。もう会えないと思っていた両親とまた一緒に居られるのだ。
もうこの手が離される事は無いだろう、これからはずっと一緒だと言う事が分かったのだ。
子供が頷くと、3人は光る玉になった。
寄り添い離れる事の無い3つの玉は踊るように回りながら天へと昇っていき、天に消えた。
すると雨が止み、空には満天の星空が浮かんだ。
きっとあの3人はこの星々の一つになったのだろう。
そしてアルストは3人の家に戻り、彼らの死体を手厚く葬って一心不乱に祈りを捧げるのだった。