それではいつものように俯瞰視点でお楽しみください。前回からそうでしたが,書き忘れていました。

 

 

 大男「い、いきなりなんだすか!?」

大男は見た目に似合わぬ動作で驚くと、アルストから一歩離れた。

 アルスト「お前に恨みは無いが、ちょっとタイマン張れ。
  そんで俺が勝ったらお前は俺の手下な?
  いや駄目だ…手下だとなんか…
  よし、俺が勝ったらお前俺の城の雑用係な」

 大男「意味が分からんだす!
  まさかあんた…オラをOROGだと知ってイジメるつもりだすな!?」

 アルスト「OROG?お前の名前か?
  お前に恨みは無いって言ってるだろ」

OROGという種族の事をアルストは知らないのであろう。

 大男「恨みが無いんなら、何でタイマン張るだす!?」

 アルスト「うむ…見ての通り俺は最強なんだが、その事を信じてない女達が居てな。
  これではいかんと思ったワケだ。
  そこでお前をタイマンでぶっ倒して雑用係にして連れて行けば、アイツらも俺を見直すだろう。そう思ってだな…」

 大男「そんなの知ったこっちゃないだす!
  オラ喧嘩なんてしたくないだ!」

 アルスト「でかい図体して情けない奴だ…
  いいだろう。なら、その気にさせてやる!」

突然に拳を構えて大男の腹部を殴りつけたアルスト。
そして得意げな顔をして、言った。

 アルスト「決まったな…
  俺の拳を受けて立ち上がった奴は居ない」

そして殴られた大男はというと、表情一つ変えず仁王立ちしたままだった。

そう、アルストに殴られて立ち上がった者は居ない。
なぜならば、剣を装備していない彼はその辺の子供より弱く、そのパンチが当たった事など無いからだ。

剣を装備していない彼は、ただ異常に打たれ強いだけで弱かった。本人はその事に全く気づいていないが。

 大男「何してるだすか?」

 アルスト「なにぃ!?
  なかなか打たれ強いようだな!」

大男の腹部に打ち付けていた拳を戻し、さらに2発3発と打ち込むアルスト。

痛くも無く、ちょっとくすぐったいパンチをされる大男はどうしていいものかと思ったが、アルストの片手を掴んで彼を止めた。

 大男「や、やめるだす。こんな事しててもしょうがないだすよ」

手をつかまれたアルストは、その力の強さに驚いた。
あまり力を入れている様子でも無いのに、万力でも使って締め付けられているかのように右手から血管が浮き出してくる。

 アルスト「!?
  は、離せこの野郎!」

そう叫んで相手の足を蹴りまくる。するとふいに手を離されてバランスを崩した。
野郎!と吐き捨ててさらに蹴り続けるアルスト。

 大男「いて、いてて」

避けずに攻撃を受け続けた大男も、流石に少しだけ痛いのだろう。
体を庇うようにしてその場から逃げ始めた。

 アルスト「待ちやがれ!」

 

逃げる大男を全力で追うアルスト。
大男は身体能力が相当に高いのか、軽業師のようにピョンピョンと跳ねながら逃げて行く。
普通のOROGは力は強いがこのような事は出来ないはずだ。

だが、少し行くと大男がぬかぬみに足を滑らせて転んだ。

それを好機と見たアルストはそのまま駆け寄って、倒れた大男の頭を踏んづけた。

頭を手で覆って「やめてくれ」と大男が叫ぶ。

そして「これで終わりだ」とアルストが足を振り上げた。

大男は足を振り上げるアルストの表情を見て、誰かもそんな表情をしていたと思った。

過去の記憶が蘇る。

あの、村人が、惨殺された、光景。
自分はその中心に居た。誰かと。

その顔が思い出される。自分の父親の首を持って、お前達が気に入らないから殺したと笑っていた男。
その男の表情とアルストの表情とが重なると、頭が破裂しそうに痛んだ。

何かが体の奥底から湧き上がる。
筋肉は膨張し、頭はズキズキと脈打って破裂しそうだ。

もう耐えられない。そう思ったとき、大男の理性は消し飛び、野生の本能が目を覚ました。

 大男「グヲヴォオオオオオオォォォオオオオオ!!」

怪物のような咆哮を上げて、迫り来るアルストの足に向けて岩のようにゴツゴツとした拳を倒れたまま叩き込んだ。

アルストは自分の足を信じられない力で押し戻され、その勢いで後ろへと吹き飛んだ。
背後に生えていた木を2、3本折りながら吹き飛び、ようやく勢いが収まるとゴロゴロと転がって立ち上がる。
森を上から見れば、一面に渡る木々の一部分がバキバキと音を立てて崩れている。

突然の事に驚いて倒れた木の方を見たアルスト。
そちらからは、地を震撼させ獣の咆哮を上げる大男が迫って来ていた。

慌ててその場から飛びのくアルスト。
大男の腕が飛びのいた場所に突き刺さり、雨でぬかるんだ泥が大量に撥ねる。

泥の飛沫が上がっても、大男の怒りの眼差しはアルストを見失うことなく、飛びのいた彼に向けてさらに攻撃を繰り出した。

丸太のような腕で殴られたアルストは、またしても後方へなす術無く吹き飛ぶ。

大男はアルストを追うようにその場から飛び掛った。

たった一度のジャンプで、もの凄いスピードで吹き飛ばされるアルストに空中で追いつくと、
その丸太のような腕でアルストを殴りつける。

上方から殴りつけられたアルストは、一気に下まで叩き落され地面にぶつかってめり込んだ。
このままではさらに追撃されると、急いで自分との衝突で出来た穴から這い出る。
すぐに大男は上から降ってきた。

ドスンと地面が揺れる。

警戒して身構えるアルスト。
だが、大男はそのまま蹲って頭を両手で押さえた。

 アルスト「…何なんだ?」

あれほどの攻撃を受けても大丈夫らしいアルストは、大男に近寄った。

 大男「ま、またやっちまっただ…」

大男は頭を押さえて何やらつぶやいている。

 アルスト「どうした?もう終わりか?」

すると大男は驚いて顔を上げた。

 大男「し、死んだんじゃないだすか!?」

 アルスト「この俺があの程度で死ぬわけないだろが!
  あのぐらいいつもサラにやられてんだよ!」

 大男「サラ…?その人もOROGだすか?」

 アルスト「OROGって、種族か?
  サラは半ドレモラだ」

 大男「ドレモラ!?」

 

そして大男はOROGが何なのかをアルストに説明し始めた。
両手を組んで「うんうん」と頷くアルストに気をよくしてか、自分の過去も話し始める。

この大男は破壊した街から逃げた後、30年以上も人を避けて森の中を移動し続け、
いつしかこのシロディールまで来て生活していたらしい。

 アルスト「30年もか」

 大男「そうだす。
  …って、ついつい話し込んじまっただす。
  わかったなら、もうどこかに行って欲しいだすよ」

 アルスト「そんなワケにはいかん。
  なぜならもうお前は俺の城の雑用係だからだ」

 大男「だからそれはイヤだって言ってるだす」

 アルスト「なんだとこの野郎!
  さっきの続きをやろうってんだな!?上等じゃねぇか!」

食って掛かるアルストに向かって大男はため息を吐くとしょうがないといった風に言った。

 大男「もう喧嘩はイヤだす。
  そんなにオラを雑用係にしたいんなら、その城に行ってそこの人達に聞いてみるだすよ。
  オラがOROGだって分かったら、きっとイヤだって言うはずだすよ」

 アルスト「ふむ、なら皆が認めたらお前は雑用係になるんだな?」

 大男「本当は行きたくないだすが、仕方ないだす」

 アルスト「よし。なら決まりだ。
  …ところで、さっきのタイマン俺が勝ちだよな?
  まだ決着が着いてないっていうなら、まだお前を連れて行くわけにはいかん」

するとまたため息を吐いて大男が言った。

 大男「喧嘩はイヤだっていってるだす…もうアンタの勝ちでいいだすよ。
  えぇと、そういえば名前を聞いてなかっただす」

 アルスト「俺はアルストだ。お前は?」

 大男「お、オラ?オラは…」

そこで言葉を詰まらせる大男。

 アルスト「…さてはお前、名前が無いな?
  まぁ子供の頃から30年も森の中じゃそれも仕方ないか。
  よし、じゃあ俺が決めてやろう。
  ………
  お前はOROGで自分の事をオラとかいうから…オラグでどうだ?」

 大男「お、オラの名前は…
  …いんや、やっぱオラグでいいだす」

 アルスト「うむ。
  …おいオラグ!」

 オラグ「な、なんだすか?」

 アルスト「呼んでみただけだ。
  …あ、そうだったそうだった。
  天空の城へ行ったら、俺に負けたって正直にみんなに言うんだぞ」

オラグは「分かった分かっただす」と諦めたように言い、先ほどのテントに戻って一応の身支度を整えた。

そしてアルストに先導されて天空の城へと向かうのであった。

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