相変わらずの暗い森を、アルストとオラグは天空の城へと続く遺跡へと歩いていた。

先頭を行くアルストは、先ほどまでの疲れはどこへやら松明を持って意気揚々と歩く。
彼にとって、自分はこんなに強そうな奴に勝ったんだぞ、と言ってみんなに自慢話をするのはそれほどの楽しみであった。

一方のオラグの表情は硬い。
種族的に最初から恐ろしい顔をしているが、遺跡へと近づくに連れてその表情は硬くなり、ときおり「やっぱり帰るだ」などと言って帰ろうとする。

もちろん帰るのはオラグの自由だ。何せ彼はアルストにタイマンで負けたわけでもなく、いう事を聞いてやる義務などない。
しかし彼はその大きな体とは対照的にとても気が小さかった。

そのため「逃げたらもう一回タイマンだ」アルストにそう言われると、仕方なく帰るのをやめてついて行くのだった。

 

 オラグ「遺跡って、ここの事を言ってただか」

光る霧に包まれた遺跡へ到着するとオラグが言った。

 アルスト「なんだ知ってたのか」

 オラグ「そりゃこんなにも目立つなら見た事はあるだすよ。
  恐ろしくて中に入った事はないだすが」

天空の遺跡へ繋がるゲートのあるこの遺跡は、確かに目立つ。
本当は遺跡を隠すため周囲にある池から霧を発生させているのだろうが、その霧がなぜか光り輝いているからだ。

 アルスト「モンスターは居ないから安心しろ」

モンスターが居ないと聞いたオラグは胸を撫で下ろしながら言った。

 オラグ「そうだすか、それなら安心だすな」

2人は池を泳いでわたり、遺跡の石扉を開けて中へと入った。

正面で青白い光を放つゲートを指差してアルストが言う。

 アルスト「あれだ。あの青い光に触れ」

 オラグ「あ、あれだすか?…本当に大丈夫なんだすか?」

臆病なオラグは未知の物に触れるのが嫌なのだろう。アルストがいくら押しても動こうとしない。

 アルスト「大丈夫だって言ってんだろ!
  さっさと行けよ!」

 オラグ「い、イヤだす!アルストが先に行くだすよ!」

 アルスト「俺が先に行ったらお前逃げる気だろ!そうはさせねぇぞ!」

なんとかしてオラグをゲートに触れさせようと力いっぱい押すが、彼の両足はその場に張り付いてしまったかのように動かない。

そして2人がギャーギャーと騒いでいると、突然に怒鳴り声が遺跡の中に木霊した。

 サラ「やめなさいアルスト!嫌がってるでしょ!」

サラと茂羅乃介が入り口からこちらへと歩み寄ってくる。

それを見たオラグはワナワナと震えだして、叫んだ。

 オラグ「ギャアアアアアアアア!!」

何事かと驚いてアルストが振り返ると、オラグは青白く光るゲートに一直線に向かい、ゲートに触れて天空の城へとワープして行った。

 サラ「な、何やったのよアルスト!」

 アルスト「何もしてねぇよ!
  アイツ、ビビリだから茂羅乃介見て逃げてったんだろ」

 茂羅乃介「私を見て?
  …こう言っては何ですが、先ほど逃げて行った彼の方が恐ろしいと思いますが」

 サラ「失礼でしょ茂羅乃介。
  それで、さっきの人は誰?便利屋に依頼に来た人?」

 アルスト「いや。
  新しく城で働く事になった雑用係だ。
  俺が倒して連れてきたんだぜ?」

凄いだろと胸を張るアルストに、「この人攫い」と叫ぶサラの拳が襲い掛かった。

 

 

そしてアルストとサラと茂羅乃介は揃ってゲートを抜けた。

 サラ「な、何これ?」

ゲートの先はいつもの狭っ苦しい部屋だったが、その扉は破られて粉々になっていた。

 アルスト「なんでこっちまで穴が空いてるんだ!?」

向こうの遺跡にも先ほど大穴が空いた。サラがアルストを殴ったせいで空いたのである。

 茂羅乃介「先ほどの大きな方が、あの勢いのまま体当たりしたんでしょう」

 アルスト「オラグの野郎か!
  って、まさか!城の玄関にまで突っ込んだんじゃないだろうな!?」

そう言うとアルストは目の前にある城まで一気に走った。
途中で城の扉には穴が空いていないのを見たが、その扉の前には倒れた誰かを囲むようにスケレーdとエールとリンが集まっていた。

 リン「あ、アルストさん。
  大変なんです。謎の怪人さんがお城に体当たりしようとしたらしくて、スケレーdさんが…」

 スケレーd「気絶させただけじゃ。扉を壊されてはたまらんからな」

 アルスト「危ね〜、師匠が居てよかったぜ」

扉の破壊を免れホッとするアルスト。

そしてみんなで力を合わせてオラグを城の中まで運び、アルストは事の次第を話していった。

 

そうこうしていると、気絶していたオラグが目を覚ました。
辺りを挙動不審に見回し、アルストを見つけると彼に話しかける。

 オラグ「こ、ここは一体…オラはどうしただすか?」

 アルスト「ここが俺の城だ。
  お前は茂羅乃介見てテンパってこの城に体当たりしようとしたところを、このスケレーd師匠に気絶させられたんだよ」

そう言ってスケレーdを指すと、オラグは体を震わせて怖がった。

 オラグ「ヒィィィィィ!モンスターだす!
  オラを喰うつもりだか!?」

 

またしてもパニックを起こしたオラグをみんなで鎮めると、アルストが言った。

 アルスト「いちいちビビるなよお前は。
  …みんな聞け、まぁさっき話したとおりだ。コイツは今日からここの雑用係になった。
  めんどくさい事は全部押し付けてやってくれていいぞ」

 サラ「オラグ一人に押し付けるのは駄目よ。
  アンタも雑用係みたいなものなんだから、アンタも一緒にやるのよ」

 アルスト「王であるこの俺が何で雑用係になってんだ!」

騒ぎ始める一同を、オラグは呆然として見ていた。
酷い事を言われるのだと思っていた。
今までもずっとそうだったのだから。

山の中で人に見つかれば、「OROGだ」と言われて殺されそうになり、食べ物を探して街の側まで行って街人に見つかった時は石を投げられた。
ここでもそうだと思っていた。
自分を雑用係にしようとするアルストはそれで諦めて、自分はまた山に戻るのだろうと思っていたのだ。

だが違った。ここに居るみんなは誰も自分をOROGだと言って馬鹿にしない。石を投げつけたり剣で斬り付けたりしてこない。
そしてオラグは口を開いた。

 オラグ「ほ、本当にオラを住まわせる気だか?」

その問いにサラが答えた。

 サラ「もちろんよ。
  私たちだってこのお城には無断で住んでるんだから、気は使わないでね」

 オラグ「そうじゃないだす!
  オラはOROGなのに、いいんだすか?
  みんなはオラの顔を見て、醜いとか恐ろしいとか思わないだすか!?」

 

 

 

 オラグ「じゃ、じゃあ…
  OROGは馬鹿で力が強くて凶暴だから側によるなとか…」

 

 

 

 アルスト「おいオラグ!
  お前は俺に負けたんだから俺の言うとおりにしてればいいんだよ!
  今さら山になんて帰さねえぞ!みんなに俺がどんだけ強いかさっさと説明してやれ!」

 サラ「アルストは無視していいわよ。
  …オラグは山に帰りたいの?」

オラグはうつむいて何やら考え込み、そのままの姿勢で言った。

 オラグ「だってオラ、世界中のみんなに嫌われてると思ってた…」

 エール「そんな事ないよ、だからもう山になんて篭らなくてもいいんだよ?」

 スケレーd「うむ。
  ワシも何十年か山に篭っていたが、それは修行のためじゃ。
  お主は修行のために山に篭っていたのではないのじゃろう?なら屋根のあるところで生活するべきじゃ」

 茂羅乃介「種族間の事を気にしているのなら、問題無いと思います。
  現にオブリビオンのデイドラの次元の住民である私の事も、ここの方々は受け入れて下さっています」

 リン「そうですよ!一緒に便利屋さんをやりましょう!」

すると、オラグの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

自分の生まれ育った村、あそこも山での生活も同じように貧しかった。
だが、山での生活はとにかく寂しかったのだ。

村人が虐殺されてから森に逃げた後に他の街へ行き、そこで石を投げつけられて追い払われた。他のところでもそうだった。
だから自分は、OROGという種族は他の人々とは一緒に生活できないものだと思っていた。

そして自分の知る同族は殺された村人のみ、もう一生寂しい生活を続けなければならないと思っていた。
だがここへきて、昔の、ほんの少ししか覚えていないが、賑やかだった村の生活と同じような事が出来るかもしれないと思うと、嬉しくて涙が止まらなくなった。

 

そしてオラグは涙に濡らした顔を上げて言った。

 オラグ「こ、ここに、住まわせてほしいだ」

まだ不安が消えたわけではない、だがしかしオラグは一歩を踏み出そうとしている。

そこへアルストが間髪入れずに言った。

 アルスト「違うな。
  城の雑用係として働く、だ」

 オラグ「し、城の雑用係として働かせてほしいだ!」

 アルスト「よし、その調子で俺の言う事を聞いてればいいんだ。
  さて、さっそくだが命令だ。俺の強さを皆に…」

そこまで言ったところで、サラによって頭を地に埋め込まれ、アルストは黙らされた。

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