ブルーマの門までスケレーdがやってくると、すかさずガードが剣を抜いて寄ってきた。
スケレーd「待て、ワシは怪しいスケルトンではない」
普通ならば絶対に通らないであろうその言葉に、ガードは目を丸くした。
ガード「もしかして、スケレーdか!?」
スケレーdがコクリと頷く。
ガード「懐かしい!5年ぶり・・・だな?」
スケレーdはアルストと共にこのブルーマに2年ほど住んでいた事がある。
クヴァッチでアルストを引き取ったスケレーdは、かつて自分が住んでいたこのブルーマに助けを求めた。
生まれたばかりのアルストを育てるにはどうしても暖かい部屋、それに母乳が必要だったからだ。
その昔スケレーdが生まれ育ったブルーマとは別物のように変わってはいたが、教会の場所は変わっておらず、門を見つけると飛び込むようにして中へと入った。
そしてそれから2年間もの間教会に居つかせてもらい、当時悪行を働いて街人を困らせたモンスターの30からなる集団を世話になったお礼だと言って一人で討伐し、
アルストを連れてそのまま街を去った。
それからは何年かに一度顔を見せに来ていたのだった。
スケレーd「5年か。
もうそんなになるか」
ガード「ああ・・・。
そうだ。アンタなら解決できるかもしれない。
街の者に力を貸してやってくれないか?」
スケレーdは分かったと言うと、門の方へと歩き出した。
ガードは追随するようにして話しかける。
門をくぐり街の中へ入ると、スケレーdを見つけた街の住民が一言二言声をかけている。
この街の住民は本当にスケレーdを人として理解しているようだ。
ガード「実は数日ほど前に冒険者が来たんだ。
そいつはこの街の近くにお宝のあるダンジョンがあるんだと言って、一泊した後に出かけていった」
スケレーd「その冒険者が戻らんのか?」
ガード「いや、戻っては来たんだが・・・
厄介な武器を見つけたらしくて、呪われて帰ってきたんだ。
冒険者は街に備え付けられている火鉢に帰ってからずっと当たっていたんだが、その間も寒い寒いとうわごとのように繰り返して・・・
そのままその剣で自殺してしまった・・・あの死顔の恐ろしさは今でも夢に出てくる程だ。
マジシャンズギルドにその剣を見てもらった所、どうやら魂を吸い取る魔剣らしくてな。
斬られた者は永遠の闇を死に際に見て、恐ろしい形相で死んでいくんだと・・・」
教会の前まで来ると、話していたガードが教会を指差して、そこに魔剣はあると言った。
スケレーd「マジシャンズギルドにあるのではないのか?」
ガード「はじめはマジシャンズギルドで封印してもらってたんだがな。
どんな封印もあの魔剣には効果がなかったらしい。しかもあの魔剣は喋って周囲を寒くしてしまう。
それに困ったギルドが教会に預けたんだ」
スケレーd「馬鹿な。魔法の達人が揃ったマジシャンズギルドでも手に負えないような物を・・・」
2年間も教会に住まわせてくれた恩人がそのような事に関わらされていたのかと、ガードをおいてスケレーdは足早に教会の扉へと歩いた。
扉を開けて中へ入ると、濁声が響いた。
濁声「誰だァ!この俺のテリトリーに勝手に入ってきた奴ハ〜!」
声の出所は正面の祭壇のようだ。
そしてその祭壇の前で何やらしているのが、スケレーdとアルストが教会に住む事を許した恩人アントスだった。
スケレーd「アントス」
スケレーdはアントスに声をかけながら祭壇のほうへと歩く。
アントス「おお、また会えて嬉しいよスケレーd」
祭壇を見ると、2振りの剣が祭られているようだった。
一本は柄の部分に細かな細工が施され、刃に何かの文字が掘ってある大きな剣で、もう一本は青い模様が描かれた普通の剣に見える。
そこからまたしても濁声が響いた。
濁声「なんだこいつハ?スケルトンのクセに喋ってんじゃネ〜ヨ!」
どうやら喋っているのは2振りの剣のうち柄に細かな細工が施された方のようだ。
スケレーd「厄介な事を押し付けられたそうじゃな」
アントス「厄介な?ああ、この剣の事かね?」
濁声「この魔剣ストームプリンガー様に向かって厄介とはなんだ!
魂を吸い尽くすゾ!」
アントス「ハハハ、口で言っているだけさ。そんなに悪い剣ではないよ。
だが参拝に来た人たちを怒鳴りつけて追い払ってしまうのは困るな」
困ると言ったアントスであったが、その表情はあまり困っているようには見えない。
彼の落ち着き様から見ても、この魔剣はそれほどの悪さをするわけではないのだろう。
スケレーd(しかし参拝客を追い払われて困るというのは確かじゃろうな)
シロディールの参拝には、お賽銭などは必要ない。ただ祭壇に向かって一心に神に祈るのが一般的だ。
補助金は国から十分に出るし、
教会に必ずと言っていいほど居る魔法の先生などが訪れた人に有料で教えを授ける、という業務までやっているためそれほどお金には困らない。
だから参拝者など来なくても十分に運営していけるのだが、やはりそれでは教会とは言えないだろう。
それに一番困っているのは多分街の人々だ。
このシロディールには不思議な事に医者が存在しない。それでもこれほど大きな国として成り立っているのは、各街にある教会のおかげなのだ。
祭壇で祈りを捧げると、神の影響力が大きいために全ての病魔が振り払われる。
その際に悪行を積んでいれば、神は答えず、魔法で病気を治すしかない。
病気を治す魔法はなかなかに高度なものであるため、街人はなにかあるたびに教会を訪れて祈りを捧げている。
それなのに魔剣が居ついたせいで恐ろしくて寄り付けないというのなら、早くに解決しなければ大変な事が起こるかもしれない。
スケレーd「魔剣よ、おぬしがそこにおると人々に迷惑がかかる。
ここから出て行く事はできんのか?」
魔剣「無理に決まってんだロ!
所有者無しでこの祭壇から離れたら俺が消えちまうだろうガ!」
わけの分からない事をいう魔剣に、スケレーdが首を傾げるとアントスが言った。
アントス「どうやらこの魔剣は正式な所有者無しで魔法の影響が無い場所に行くと消えてしまうらしいのだよ。
そのせいで何度マジシャンズギルドに預けてもここに戻ってきてしまうんだ。
最後にはギルドから私にこの剣を預かってくれと言ってきて、その横のもう一本の剣を代金だと言って置いていってしまった」
スケレーdは魔剣の横の青い模様の剣を見て言った。
スケレーd「その剣も魔剣か?」
魔剣がその問いに答える。
魔剣「コイツはちょっとした魔法の金属で出来た安物ダァ!俺と一緒にスンナ!」
アントスが付け足す。
アントス「なんでも神の時代の物で絶対に折れないらしい」
魔剣「俺みたいに激レアじゃネーヨ!
アイレイドの遺跡にもたまに落ちてるようなモンダ!」
スケレーd「そうか。
・・・・・・
話を戻すが、おぬしは誰かに所有されればその場から動くのじゃな?」
魔剣「動くゼ?っつーか所有者にどこまでも付いてって敵の魂吸い取りまくるゼ〜?」
するとスケレーdは少しの間沈黙し、何かを考えているようだった。
スケレーd「うむ・・・ワシがおぬしの所有者になろう」
この言葉に魔剣は大きな声で笑い、アントスが驚いて止めに入った。
アントス「スケレーd!あなたは冒険者の話を誰からも聞いていないのか!?」
スケレーd「それは、呪いの話か?」
魔剣はさらに大きな声で笑った。
魔剣「ギャアアアアアアッハハハハハハハ!
俺は呪いなんてモンをかけるようなタチの悪い魔剣じゃネーヨ!
ただ所有者はその魂を俺のすぐ側に置かなきゃならねーから、それを呪いだとか言って騒いでんダヨ!」
スケレーd「すまんがもう少し分かりやすく説明してくれんか?」
アントス「つまり所有者になるためには、この魔剣に魂を預けなければならない、という事さ。この魂を吸う魔剣の中に、ね。
ギルドの話では、あの冒険者は魂を不安定な場所に置かれ、魂を吸う闇に魂が触れ続けたために耐えられなくなって自殺した。という事らしい。
恐ろしい事だ。魂がいつその闇に飲まれるともしれない状態にずっと置かれるなどと。
精神が耐えられる筈はない」
魔剣「でもヨー、スケルトン。
たったそれだけの事で世界最強の剣が手に入るんだゼ?ここは一発所有者になろうゼー!
そうすりゃお前はスーパースケルトンだ!ギャアアアアアアアアハハハハハッハハハ!」
魂を魔剣に預けると言う事は、その生死すらも握られるという事なのだろう。
だがスケレーdは臆する事などなく、こう答えた。
スケレーd「魔剣よ。ワシが所有者となろう」
魔剣「マジカヨ!?最高にカッコイイぜスケルトン!
これで俺もこんなとこからおさらばだ!」
魔剣は青白く眩い光を柄の部分から発するとフワフワと浮き上がり、スケレーdの目の前で止まった。
スケレーdの体から青白いモヤのようなものが立ち上がり、魔剣へと吸い込まれて行く。
その時スケレーdは自分の体が浮き上がっているような感覚を感じていた。
そして自分の体から出ていたモヤが全て魔剣へと移ると、心臓のすぐ横に大穴が空いたように感じた。
元から骨だけの身であったが、その大穴は大きくなったり小さくなったりしているようで、いつか自分の体の全てにその穴が広がるのではないかとさえ思えた。
スケレーdは空中に浮遊する魔剣を手に取った。
少しでも気を抜けば、すぐに気を失ってしまいそうな感覚に陥る。
そして体の全てが何かに吸い込まれそうになっているのを感じる。
スケレーd(なるほど、確かにこれでは並の冒険者では耐えられん。
いい精神修行になる)
「これでワシがお主の所有者じゃな?」
精神を集中する。これは毎日やっている事だった。
そして魂を魔剣の中でも安定させるように、一点に集めるようなイメージを作る。
すると体の違和感が消えうせて行き、いつもの状態に戻った。
魔剣「そうだゼ!これでお前は最強の剣の所有者ダ!
お前の名前なんていうんダ?ご主人様の名前ぐらい知っとかねーとナ!」
スケレーd「スケレーdじゃ。おぬしはストームプリンガーじゃったな」
ストームプリンガー「ギャハハハハハハ!スケレーd!お前に相応しい名前ダナ!
よーし、じゃあスケレーd。早速俺に魂を吸わせてくれヨ!
横に居るアントスとかいう奴ぶった切ろーゼ!」
その言葉にアントスは驚いて一歩後ろに引いた。
だがスケレーdは平然とストームプリンガーを背に背負った。
スケレーd「安心せいアントス。そんな事はワシがさせん」
背のストームプリンガーが非難の声を上げる。
ストームプリンガー「1人ぐらいいいじゃネーカ!
言う事聞かねーとお前の魂を吸い取るゾ!」
スケレーd「ワシの魂を吸おうというのなら、その前におぬしを叩き折って魂を取り戻すまで」
ストームプリンガー「俺が折れるわけねーだロ!」
スケレーd「簡単じゃ。
もしも折れぬのならば遠くに放り投げるまで。おぬしは魔法の影響がある場所におらんと消えてしまうのだったな?」
ストームプリンガー「て、テメー!卑怯だゾ!」
そしてスケレーdはアントスの方へと踵を返し、言った。
スケレーd「ではアントス。今日は用事があるのでワシはこれで行く。
また今度ゆっくりと寄らせてもらおう」
アントス「あ、ああ。もちろんだ。いつでも来てくれ。
しかし…スケレーd、本当にそのままで大丈夫なのか?」
アントスはスケレーdの背にあるストームプリンガーを見て言った。
スケレーd「大丈夫じゃ。問題はない」
そう言って去ろうとするスケレーdにアントスが声をかけて止める。
アントス「スケレーd、待ってくれ。
ありがとう。また助けられたよ。・・・お礼と言ってはなんだが、この剣も持っていくといい。
高値で売れるらしいから」
祭壇に置いてあった青い模様の剣を取ってスケレーdに渡そうとするアントス。
スケレーd「いや、ワシはいい。このストームプリンガーもあるからな。
高値で売れるのならおぬしが売って金にするといい」
アントス「私にお金など必要ないよ。
それに、あなたにはいつも助けられてばかりいる。たまには恩返しをさせてくれ」
そしてアントスはスケレーdの手を取って剣を持たせた。
スケレーdは分かったならば受け取ろう、と言ってそのまま受け取り、教会を出た。
ずっと外で待っていたらしいガードがスケレーdの姿に気づいて駆け寄ってきたが、背のストームプリンガーを見ると足を止めて距離を取った。
ガード「す、スケレーd!その剣は!」
スケレーd「うむ。ワシの新しい剣じゃ」
ストームプリンガー「オイ!俺に魂を喰わせロー!」
ガード「うわあああああああ!」
ガードは魔剣に恐れをなして脱兎の如く逃げ出した。
ストームプリンガー「ギャハハハハハハハ!ちょっと言っただけでビビって逃げター!」
スケレーd「これ、いたずらをするでない」