街を歩くスケレーdにブルーマの人々が「大丈夫か?」と声をかけてくる。
数日前、魔剣に耐えられずに自殺した冒険者の事を思い出し、心配しての事だろう。

スケレーdはそんな声に、いつものように「大丈夫だ」と一言だけで返事を返した。
そして目的の店へとやってくる。

店の扉を開いて店主に「氷の魔法が付与された杖はあるか」と尋ねると、
店主は背後の戸棚を開けて杖を取り出しスケレーdに手渡し頼みたい事があると話を持ちかけてきた。

ここ何週間は冷え込みが酷く、街の北の山が凍りつくような寒さになってしまい普通の人では入れない。
その山にしか生えていない燃草を取ってきて欲しい。
と店主が言ってきた。

燃草とは、このブルーマにいくつもある大きな火鉢の燃料として使われる植物で、
極寒の強アルカリ性の大地にしか根付かず、タムリエル大陸全土でも希少価値の高い植物だ。

そしてそれはブルーマに無くてはならない物だった。
この年中寒い土地では、長時間燃え続ける事ができる燃草を古くから使用している。
この植物無くしては今日のブルーマは無かったとまで言われるほどなのだから。

燃草が何週間も採れていないと言う事は、街の備蓄も減ってきているのだろう。
スケレーdが頼みごとを快諾すると、店主は喜び杖を2割引にしてやると言った。ここでタダにしないのが彼のいいところだ。

 

 

スケレーdが街から出るとまばらに雪が降り始め、その勢いは止まる所を知らぬのかというくらいに吹雪き始めた。

寒さは平気なスケレーdでも強い風に押されよろめき、高く積もる雪に足を取られ前に進む事すらままならなくなっていった。

 ストームプリンガー「おいおい大丈夫かヨ?」

背に背負ったストームプリンガーがスケレーdに声をかけた。
この魔剣の濁声はこの吹雪にも掻き消されなかった。

 スケレーd「大丈夫じゃ」

答えるスケレーdの声も吹雪の影響を受けずに響く。

 

そしてどうにかこうにか目的の場所へと辿り着いた。
余りの寒さに凍りついて光る木々や草に雪が積もっていた。店主の言っていた通り、これでは普通の人では立ち入れないだろう。
その一角に燃草が生えている。
この不思議な草だけは凍りつかず青々と茂り、降りしきる雪が草の中空で吸収されているかのように消えていっている。

スケレーdは店主に渡された大きな皮袋を開くと、手際よく草を摘む。
皮袋が一杯になるとすぐさまブルーマへの道を引き返していった。

 

帰り道、吹雪はさらに激しくなった。
空は夜のように暗く、雪崩のように降る雪でさらに視界が悪くなる。
このままではいずれ迷ってしまう、そう思いしばらく吹雪が収まるのを待つ事にした。

近くにあった大木まで行くと、その場で立ったままじっとする。

しばらくそうしていると、ふいに吹雪が止んだ。いや、スケレーdの周りだけ吹雪が止んでいた。

 スケレーd「ストームプリンガー。こんな事が出来るのなら最初からやってくれ」

 ストームプリンガー「俺はこんなマネできネーヨ。
  向こうから歩いてくるアイツがやってるみたいだゼ?」

そしてスケレーdは顔を上げた。気配も何も感じはしないが、確かに前方から誰か来る。
精神を集中して辺り一体の全てを感じ取ろうとするが、どうしてもその誰かの気配も何も感じ取れない。
目に見えているのに、そこには誰も居ないようだった。

だが、それは確かに存在した。しわがれた声で話しかけてくる。

 ???「おやおや、変わったスケルトンだこと」

それは老女だった。顔はしわくちゃで、今にも倒れそうなほど痩せた老女だった。

 

老女はスケレーdに自らの住まいで吹雪がおさまるのを待つといいと言った。
スケレーdはこのままでも問題ないと答えたが、それでは大変だろうと老女は何度も言う。

魔法が使えるとはいえ、これほど歳をとった老女をここで足止めするのはまずいとスケレーdは考え、仕方なくついて行く事にした。

 

 

老女がスケレーdを案内した場所は、彼にとっても思い出の場所だった。
そこは若き日の彼がブルーマを出て剣の修行をしている時に住んでいた家だった。
一風風変わりなこの家は、当時と全く変わらぬ佇まいで建っていた。

 スケレーd(信じられん。
  残ってはいないだろうと思っていたのだが)

スケレーdが家を見上げて固まっていると、老女が声をかけた。

 老女「さあさ・・・こっちへいらっしゃいな。変わったスケルトンさんや」

老女に促されて玄関をくぐる。

そこにも懐かしい光景が広がっていた。
シロディールのものとは一風変わった家具や装飾品、その全てが過去の記憶と同じ場所に置いてある。

もしもスケレーdに目が残っていたのなら、きっとその目を丸くするほどに見開いて驚いていたに違いない。

 老女「さあ早く戸を閉めて。
  私の魔法はもう長くは効かなくてねぇ」

スケレーdは一度頷くと戸を閉めた。
座敷に上がるとストームプリンガーが感嘆の声を漏らす。

 ストームプリンガー「こいつはスゲー。
  この家の物のほとんどは時間が止まってやがル」

 老女「おや、そちらの剣さんも変わった剣さんね。私の魔法が分かるだなんて」

 ストームプリンガー「ま、俺は魔剣だからナ」

時間が止まった物質。
それは絶対に壊れないし、変形もしない。ただその状態を保持し続けている物質のことだ。

スケレーdは確かに畳の感触が昔と違うと思った。昔はもっと柔らかかったはずだが、今は鋼鉄のように硬く感じる。
だがどんなに叩いても音は鳴らないし、拳にはなんの手応えも無かった。

 

 老女「この吹雪は明日まで止みそうにはないねぇ。
  今日はここに泊まっていきなさい」

しばらくの間、喋るでもなくその場に2人して座っていると、老女が突然に口を開いた。
その視線を布団の方へともっていき、何やら呪文のような言葉を聞き取れぬくらいの声で言うと、布団は浮き上がって広がり畳の上に丁寧に敷かれた。

 スケレーd「遠慮する、ワシは眠れん。この体になってからは眠れた事など一度もない」

それに眠るにはまだ早い。どう考えてもまだ正午くらいだろう。

 老女「それはあなたがそう思い込んでいるからでしょう。
  眠りとは安らかなもの、体を失ったあなたはそれを不安に思っているだけ。
  でも大丈夫、あなたは眠っても消えはしない」

それはまさに核心であったのかもしれない。
眠くなる事など今までなかったが、老女が言うように眠ったら自分が消えるのではないかという不安を感じ、あえて眠らなかっただけかもしれない。
このスケルトン体にはほとんどの感覚が無いのだ。
目を閉じる、この表現はスケレーdをさしてはおかしい表現であるが、そうすると自分がその場に本当に居るのかも分からなくなる。
だからそうする時はいつも世界を心で感じ、自らの存在を各個たるものにしているのだが、眠ると言う行為はそれすら放棄する事だった。

 老女「今日くらいは休みなさいな。
  ずっと不安と戦い続けたのだもの、あなたは疲れているでしょう」

スケレーdはどうしようかと考えた。
人生は経験だ。自分が眠れるかどうか少し試してみるのも悪くはない。
それにこの老女からは何の悪意も感じられない。
だが、魔法を使える者を前にして、そんな無防備になってしまってもいいのだろうか。

布団を前にそう考えていると、老女は別の布団を敷いてその中に潜り込んでしまった。
この老女の気配だけはどうしても読めないが、本当に眠り始めたようだ。

そしてスケレーdも、ものは試しだとストームプリンガーを置いて布団の中に潜り込んだ。

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