床に入って”目を閉じる”

いつもなら周囲の色すら感じ取れるほどに研ぎ澄ました感覚も閉じる。
すると、無防備な自分自身が無重力の闇の中を漂っているように感じた。

死と言うのはこのように恐ろしいものなのか?いや、死ならばもっと安らかなはずだ。

長い時間生きて見た様々な死に顔。
戦って死んで行った者ならば怒りか恐怖に引きつった死に顔であるが、家族に看取られて死んで行く者は、安らかな死に顔が多かった。
だから死はこんなものではない筈だ。

スケルトンの体にはほとんどの感覚が無い。
重力を大地を感じる事のないこの体で唯一世界を見る事の出来る目を閉じると言う事は、とても恐ろしいことだった。
何も無い真っ暗な闇の中を縦横無尽に漂う感覚、自分がどこかへ行ってしまって戻れなくなるような気さえする。

だが音は聞こえた。
外で吹雪がびゅうびゅう吹く音の中にスースーと寝息が聞こえてくる。
離れ行く意識の中にもその寝息を聞いたスケレーdは、そこで意識を手放した。

 

 

そしてスケレーdは夢を見た。

夢の中で魔剣ストームプリンガーを持って誰かと共に強大な敵に立ち向かっている夢だった。

 スケレーd(夢の中でまで戦うとは。
  よほどワシは戦いが好きだったのじゃな)

この世のものとは思えないほど煌びやかで巨大な宮殿の中、スケレーdと誰かは人智では理解できないほど強大な敵に勝利を収めた。

 

 

そして場面は移り変わる。
ここは老婆がスケレーdを案内し、今眠りについた場所だった。
背後から声がかかる。

 ???「やっと来た」

振り向くと、そこには見覚えのある女性が立っていた。

 スケレーd「ジュリエット!」

それは過去にスケレーdが愛した女性であった。

 スケレーd「・・・・・・
  夢と言うのは、やはりいいものじゃな。
  また君に会えた」

 ジュリエット「これは夢ではないのスケレーd。
  あなたはさっき夢から醒めたの。どんな夢を見ていたのかは分からないけど、長い夢だったわね」

 スケレーd「いいや、これは夢だ。
  ここにはあの老婆も居ないし、ストームプリンガーもない」

 ジュリエット「老婆なら・・・ここに居るでしょう?」

ジュリエットはそう言って自分を指した。

 ジュリエット「待ってたんだからスケレーd・・・
  あたなたが去ってから私は家を抜け出してここに戻ってきたの。
あなたは絶対にここに戻って来るんだって・・・
  148年も待たせるなんて、どういうつもりなの?
  それに、その姿のあなたと会ったのはこれで2度目よ?覚えてる?20年前のクヴァッチを」

そこでやっとスケレーdがハッとする。
ジュリエットとあの老婆の着ているローブは同じだった。そしてクヴァッチで出会った魔女とも。
まさかアルストを助けたあの魔女が彼女だったとは。
スケレーdが口を開こうとすると、突然ジュリエットが透明になり消えそうになった。

 ジュリエット「ああ。もう時間が無いわ」

 スケレーd「じゅ、ジュリエット?」

 ジュリエット「早くしないと。
  私の魔法ももうすぐ消えてしまう。
  スケレーd、私たちがした約束を覚えてる?」

 スケレーd「あ、ああ」

 ジュリエット「あの場所も?」

 スケレーd「もちろんだ」

 ジュリエット「ならあの場所に行って。残りの力の全てを送るから。
  そして、この世界を守って」

 スケレーd「何を言ってるんじゃジュリエット?
  それだけでは分からん。世界がどうにかなるとでも言うのか?」

 ジュリエット「時間が無いの。
  私と約束をしてスケレーd。世界を守るって約束して」

世界を守る。それの意味するところはスケレーdには全く分からなかった。

 スケレーd「・・・約束しよう」

 ジュリエット「今度こそ、約束を守って。
  前みたいに破ったら許さないんだから」

半透明になったジュリエットの瞳から涙が零れ落ちた。

 スケレーd「すまなかった。だが今度の約束は必ず守る。
  もう一つ約束しよう。ワシは今度こそ君を幸せにしてみせる。だから・・」

悲しそうに泣いていたジュリエットは一度微笑むと、そのままスーっと消えて行った。

 スケレーd「待ってくれジュリエット!ワシを蘇らせたのは君なのか!?
  待つんだジュリエットー!」

 

 

横になっていた体を素早く起こして周囲を確認する。

ここはあの家だ。
布団の横には魔剣が置かれているし、あの老婆も布団の中で眠っている。

 ストームプリンガー「やっと起きたのかヨ。吹雪止んだみたいだゼ」

魔剣の言うとおり、もう吹雪は止んでいるようだ。外から聞こえていた喧しい風の音がしない。

 スケレーd(この老婆が、ジュリエット・・・?)

先ほどの夢でジュリエットは自分がこの老婆だと言っていた。
無意識のうちに老婆の気配を探る。今は簡単にその気配が感じ取れた。
そしてスケレーdは愕然とした。

 ストームプリンガー「この婆さん、さっきマジ力をどっかに放出して死んだゼ?」

そう、この感覚は死んだ者特有の感覚だった。
気配そのものが急速に失われていっている。

 スケレーd「まさか・・・馬鹿な!
  ジュリエット!ジュリエットー!」

気が狂ったように呼びかけ、ジュリエットの体を揺さぶるが結局何の反応も無く、ジュリエットの気配は完全に消えてしまった。

 

 

スケレーdは家の側に穴を掘り、そこにジュリエットを埋葬した。

何もかもが遅すぎた。
自分がもっと早く気付いてやれば、この場所に一度でも戻ってきていたら。
ジュリエットは魔女と呼ばれるようになってまで自分を待っていてくれたのに。

そしてジュリエットの指にはまっていた指輪を見つめる。

 スケレーd(ワシが贈ったこんな安物までずっとつけていてくれたのだな)

しばらくその場で佇んでいると魔剣が言った。

 ストームプリンガー「いつまでここに居るんだヨ?早く行こうゼ」

そうだった。いつまでもここに留まっているわけにはいかない。
自分は彼女と約束したではないか。

 スケレーd(約束を果たさねば。
  今度こそは、必ず)

彼女とは2つ約束をした。

世界を救う。彼女を幸せにする。

ならば彼女を幸せにする方法も探しながら世界を救おう。

世界を救う・・・それがなんの事だかはまだ分からないが、ジュリエットが言ったのだ。何かの危機が迫っているに違いない。

その為には、あの場所へ行かなければならない。

スケレーdはジュリエットの指輪を墓に見立てた石の側に置き、

歩き出した。

あの幸せな約束をした懐かしい場所へ向けて。

不可能を可能とするために。

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