白昼の首都インペリアルシティ。
人々がまぶしい光に照らされて街道を闊歩する中、門番とガードの2人は息を弾ませて物陰に隠れ、アルストとオラグを監視していた。

 門番「ぜー、ぜー・・・奴らめ、わざわざ一通りの犯罪を犯そうとしおって」

 ガード「やっぱり鉄拳のサラの仲間は相当にあくどい奴らだな」

アルストがオラグに根性をつけさせるためと言って無茶を言い、あらゆる犯罪をオラグに犯させようとしたのだが、それをこのガード達は律儀にも全て阻止していた。

何度街行く罪も無い一般市民に飛び蹴りを喰らわせたのだろうか、おかげでもう疲労困憊である。
これ以上は体力がもたない。もう犯罪を犯そうとするなよ、そう願っていると背後から声をかけられた。

声の主はカイムであった。
元老院からの許可が下りたのだろう、彼は後ろに何人ものガードを従えている。

 カイム「ご苦労だった、お前たち。後は私に任せて休むがいい」

 門番「た、隊長ー!」

門番は屈強なガード達を従えたカイム見て安心したらしく、目を涙で潤ませてカイムへと走りより抱きつこうとした。

 カイム「やめんか、汚らわしい」

走り寄る門番を避けてカイムが言った。

 門番「け、けがらわ・・・!?」

 カイム「それで、奴らはどこへ向かっているのだ?問題は起こしていないだろうな?」

 門番「はい。奴らは商業区画方面へ、あらゆる犯罪を犯そうとしながら向かっていると思われます。
  問題等は我々が止めていたので起こしていません」

 カイム「商業区画だと?何をする気だ奴らめ・・・
  お前たちは下がって一旦休め」

カイムは後ろのガード達に向き直ると、隊を3つに分けるぞと言い、忙しく指示を始めた。

 

 

 

 

 

そして商業区画へ。
人っ子一人居ない商業区画を物陰から見やってカイムはニヤリとした。

 カイム「フフ、流石は強者揃いのインペリアルガード。
  これなら奴らも問題は起こせまい」

優越感タップリに言い放つ。

 ガード「隊長、外に出ていた市民達の誘導が終わりました」

 カイム「市民には鉄拳のサラの仲間が来た、などとは言ってないだろうな?」

 ガード「はい。問答無用でスタァーップ済みです」

 カイム「ならいい。鉄拳のサラの仲間が来た事が知れたら大パニックがおきかねんからな・・・
  む、奴らが来たか」

そこで丁度アルストとオラグが商業区画に入ってくる。

区画の入り口のガードも撤収済みであったので、見渡す限りには彼ら2人しか居ない。

 アルスト「さっきこっちの方で大騒ぎしてるような音が聞こえてたが、誰も居ないな。
  というか首都の商業区画に誰も居ないってどういうことだ?まさか今日は全店休みなのか?」

誰にとも無しにアルストが言うと、一人の男が店の中から姿を現した。

 アルスト「なんだ、丁度誰も外に居なかっただけか」

ホッとした様子のアルストとは対照的に、カイムは店の中から男が出てきた事で同様を隠せなかった。

 カイム(そ、その手があったかあああああ!
  店の中の市民達はスタップしておらん!これは、まずい事になったぞ・・・!)

隠れていた箱の端を掴んで悔しそうに2人を睨み付けるカイム。
ガードが小さい声でカイムにささやいた。

 ガード「隊長、第3隊が『骨は拾ってくれよ』だそうです」

 カイム「なんだと?・・・まさか!
  危険だ!やめさせろ!」

そう叫ぶカイムの声を掻き消すほどの大声が別の場所から響いた。

猛々しい大きく多い声たちは、まるで100倍の数の敵を前にして命を捨てる覚悟を決めた兵達が決死の突撃を敢行する時の必死だが信念は失っていない、そんな勇敢なる声に聞こえた。

 オラグ「ヒィィィィ!オラを殺しに来ただか!?」

大量のガードが突如として出現し、鬼の形相で店から出てきた男を引っつかんで店へと駆け込む。
その様子にオラグが驚いて飛び上がった。

大量に湧き出したガード達は、商業区画の全ての店にそれぞれが飛び込んでいく。

 アルスト「・・・お前はビビリすぎだオラグ。
  にしてもアイツらあんなに急いで何を買う気だ?全部の店に入って行ったぞ」

ガード達が全員店に入るまで、彼らの必死な叫び声が商業区画を満たしたが、ガードが店にはいって居なくなるとまた元の静けさを取り戻した。

 

 

その様子を緊張の面持ちで見ていたカイム。

 カイム「彼らの勇気は万の援軍にも匹敵するな・・・
  だが無茶をしすぎだ。何も無かったからよかったようなものの、今の行動であのorogを刺激したら首都が崩壊するところだった」

3つに分けられたガードたちのうちの第3隊は、全ての店に入って中の者を外に出さぬようにしようとしたのだった。

だがそれは彼らから見れば大変危険な行為である。

鉄拳のサラは星を簡単に砕くほどの脅威。その仲間も当然危険。
orogは言わずもがなタムリエル大陸で最も危険な種族であるし、あの男も星にぶつかっても星が割れただけで死ななかった。きっと人ではない。
こう思っているガード達には、アルスト達に姿を見せる=標的にされ死と同義になってしまっているのである。

そしてさらにアルストがオラグに根性をつけさせるためと、あらゆる犯罪をさせようとした事で、危険な犯罪者と認識されてしまっているのであった。

 アルスト「まぁいいか。
  見ろベストディフェンス、あの店だオラグ」

一軒の店をアルストが指差し言った。

 オラグ「ベストディフェンス・・・かわった名前の服屋だすな」

 

 

 

 カイム(お、おのれなんと大胆不敵な!
  我らガードの一人が入って行ったのを見たであろうに、それを意に介さずあの店を今日の犯罪の標的にする気だな!?
  そうはさせんぞ!)
   「第2隊も呼び戻せ!我らは・・・あの店の入り口から内部の様子を伺うぞ!」

 

 

 

防具専門店ベストディフェンスの前にインペリアルシティのガードの3分の2が集結し、緊張の面持ちで整列した。

カイムはその一糸乱れぬ隊列に感嘆の声を漏らす。

 カイム「うむ・・・いい錬度だ」

片手を上げると、整列したガード達が一斉にカイムの方を振り向いた。

 カイム「よろしい、では全員店の壁に耳を当て・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてアルストとオラグは防具専門店ベストディフェンスへと入り、青ざめた表情をしたガードの横をすり抜け店員らしきオークに言った。

 アルスト「ここにコイツに合う鎧はあるか?」

オラグを指して言うと、店員らしきオークが寸法を測らせてくれと言ってオラグの肩幅などを測り始めた。

このオークはこの若さでこの店を持ち、それぞれ軽装備と重装備の販売を1人でしているらしい。
寸法を測り終わったのか、巻尺を机に置いて言った。

 オーク「こりゃ驚いた。デカイな。
  今俺の店にはこんな大きなorog用の装備は・・・」

話しの途中で地下室へと続く扉から、ガシャンと大きな物音が響いた。

 オーク「な、なんだ?泥棒か!?畜生、とっちめてやる!
  おいそこのガード!一緒に来てくれ!
  悪いなあんたたち、ちょっと待っててくれよ」

未だに青ざめた表情のガードを連れて、オークは慌しく地下室へと降りて行った。

 オラグ「この店の人はオラを見ても驚かなかっただすな・・・」

 アルスト「そりゃそうだろ。オークもお前も似たようなもんだしな」

 オラグ「違うだす。今まで会った種族の中で一番怒ってオラに襲い掛かってきてたのは、オークなんだすよ。
  不思議だす・・・」

 アルスト「気のせいだろ。お前にそっくりなオークがなんでorogを嫌うってんだ。
  それも一番嫌われてるなんてありえねぇよ。どっちかと言えば親近感湧くはずだろ、奴らは」

そうしていると、地下室へと降りて行った2人が戻ってきた。

 アルスト「早かったな。もうぶっ殺したのか?」

 オーク「いや、しまってあった鎧の1つが倒れただけのようだ。
  ・・・それで、そっちのorogの防具だったな。今うちの・・・」

ガシャンという物音がまたも響く。

店の中に居た全員が地下室への扉を注視する。

オークは間髪入れずに悪態をつきながら駆け、勢いよく扉を開いて地下室へと入った。
するとオークの悲鳴と共に、何かが転げ落ちる音が盛大に響いた。

これには今まで青ざめた表情をしていたガードも驚いて、スターップと叫びながら地下室へと飛び込んだ。
地下室の扉からは中の物品をガチャガチャと弄る音がしたが、またしてもすぐにガードと1は地下室から出てきた。

 アルスト「やっぱなんか居たんだろ?」

 オーク「・・・先ほど倒れていた鎧の一部が扉のすぐ側に落ちていたんだが、やはり誰も居なかった・・・
  どうなっているんだ・・・まさかあの鎧が・・・」

その事がよほどショックだったのだろうか、オークは心ここにあらずといった風にブツブツと独り言を言い始めた。

 アルスト「気にすんな。幽霊だろ多分。
  幽霊なんてよくいるぞ?俺も幽霊の見張りを雇ってるしな」

 オーク「そ、そうなのか?
  まぁいい商売の話をしよう。今ウチにはお前のサイズに合う鎧は・・・」

そこで一層大きなガシャンという音がして、今度こそオークも動けなくなってしまった。

 アルスト「俺が見てきてやるよ」

その場に固まってしまったオークと震えるオラグを置いて、アルストは地下室への扉を開けて中へと入った。

そこはとても足場が悪かった。何かが散らばっていて足の踏み場も無いほどだ。

 アルスト「てかこれ・・・鎧じゃねぇか。アイツが言ってた鎧ってこれだな?
  おい!幽霊でもなんでも出てきやがれ!俺がぶっ殺してやる!」

そう叫びながら地下室へと降りていき、中をくまなく探したが何も居ない。

 アルスト「おい見張りの幽霊出てこい!お前なら一発で探し出せるだろ!」

天空の城に居るはずの幽霊を呼ぶが、出てくるはずもない。
だがアルストは諦めず、見張りの幽霊を呼び出そうと出来もしない召還魔法を適当に使おうとした。

 アルスト「うおおおおおおおおおお!!!!
  ゆうれーーーーーーーーい!!!」

腹に力を命一杯込めて幽霊を呼ぶ。

その叫びの反響で地下室は満たされ、すぐに静寂がシーンと辺りに立ち込める。

本当の名前すら知らずに召還しようという試みは、あっけなく失敗した。

 アルスト「よし。何も居なかったな」

恥ずかしさを紛らわすためそう言って、地下室の入り口に散乱していて邪魔な大きい鎧を店の中に蹴っ飛ばした。

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