地下室の扉から邪魔な鎧を蹴り出して店に戻ると、オークが青ざめた顔を向けて話しかけてきた。
オーク「その鎧・・・どこにあった?」
アルスト「どこって、この入り口のとこだ。
こんなとこに置いとくからすぐ倒れるんだよ。飾るならこの辺に飾っとけ」
オーク「やはり、そうか・・・
その鎧はさっき奥に片付けておいたはずなんだ」
そうだろう、とオークがガードに同意を求めると、ガードは声も無く首を縦に振ってそうだと返事した。
オラグ「ヒィィ!」
その鎧こそが幽霊の正体だ、オラグはそう思い体の大きさに見合わぬほどのか細い悲鳴を上げて机の影に隠れた。
数瞬の後、今度は大声を上げて転がり後ずさった。
オラグ「な、なんでここに鎧があるだす!?」
後ずさるオラグの足元を銀に輝く鎧が追いかけている。
アルストはその銀の鎧を見てハッとし、先ほど自分が蹴っ飛ばした鎧があったはずの場所を見るが、鎧は無くなっていた。
アルスト「あれ!?
幽霊鎧め!待ってろオラグ俺がぶち壊してやる!」
オーク「ま、待ってくれ」
文字通りオラグの足元に擦り寄る鎧を破壊しようとすると、この店の店主であるオークが止めに入った。
オラグ「アルスト〜!」
オラグがアルストに助けを求める。
オーク「あの鎧は決して幽霊などではない、あれは・・・」
オークはちらりとガードに目をやった。この話を聞かれては困るのかもしれない。
だがガードはその場で品物を吟味するフリをして目をそらしただけで、外に出て行く事はなかった。
仕方がない、とオークが話を再開する。
オーク「あの鎧は、orogの英雄ベルセリウスの鎧だ」
ベルセリウス、と名前が上がったとたんにオラグとガードがビクッと振り向き不信そうな視線をオークに投げかけた。
アルスト「orogの名前がベルセリウスぅ?オラグと同じ奴だろ?」
アルストが邪魔はするなよ、とガードを睨み付けると、ガードは口笛を吹きながら視線を逸らした。
オーク「そうだが」
アルスト「けしからん。名前がちょっとカッコイイとかなめてんのか。
・・・まぁいい。英雄の鎧のクセになんで呪われてるんだ?」
オーク「まさかベルセリウスを知らないのか?タムリエルでは有名な話のはずだが」
アルスト「聞いた事もないな。
orogの話を知ってるなら話せ。俺もこいつらがなんで嫌われてるのか興味ある」
全てをか・・・簡略化するが少し長くなるぞ。
アルスト「問題ない」
オラグ「は、早くこの鎧をどけて欲しいだす・・・!」
orogという種族の始まりは、呪われたものだった。
遥か昔、オークの住む小さな村がオーガの大群に襲われた。
昔より戦いに長けるオーク達はオーガを追い払う事に成功したが、その折一人の女が攫われてしまう。
もちろん勇敢なるオーク達は女を助けようとオーガに戦いを挑んだ。
小さな村とオークの群れの戦いは長年続き、多くの血を流し合った。
その戦いで、もう殺されているであろう少女の無念を晴らす為だけに、その何倍もの命が失われた。
やっとの事でオーガを駆逐すると、とっくの昔に殺されていると思っていた女がひょっこりと姿を現した。
そしてオークを駆逐しつくした村人達に女は叫んだ。
「私の夫を殺したな」
そして何かに憑かれたように村人達に襲い掛かった。
村人達は、女は狂気にとり付かれたのだ、そう判断してやむなく女を返り討ちにした。
女は血まみれになりながら耳を覆いたくなるような呪いの言葉を残し息絶えた。
するとオークの群れの住処で女が出てきた洞窟から「おぎゃあおぎゃあ」と赤ん坊の声が聞こえるではないか。
赤ん坊の泣き声は次第に大きくなり、村人達の不安を煽る。
泣き声は洞窟の入り口のすぐ側で止んだ。
村人達は不安に駆られ武器を構えて洞窟を睨み付ける。
そしてそれらは現れた。
それらは赤ん坊だった。
インペリアルの10歳前後程もある大きな赤ん坊。
その皮膚はゴツゴツとしてひび割れて、顔はオークと似ていたがもっと凶暴そうであった。
村人達は思った。これは悪しき奇跡だと。
オークとオーガは全く違う生き物で、どのような事があろうとも決して子をなせる事などない。
だが現実にそれらしき赤ん坊が存在している。それも3人も。
女がさらわれてまだ1年経っていないというのに。
息絶えた血まみれの女を目指して、3人の赤ん坊は不恰好にモゾモゾと這う。
そして血まみれの女に顔を擦り付けるようにした。
乳を欲しがっているのかもしれない、そんな考えはその様を見ていた村人達には浮かびもしなかった。
血まみれの女に顔をこすりつけ、血に濡れて赤黒く光る顔。
村人達はこの赤ん坊は死んだ女を食べているのだと錯覚してしまった。
おぞましい、誰かが言って斧を振りかざし赤ん坊に向けて振り下ろした。
オークはみな優れた戦士であると同時に、優れた鍛冶の腕も持っていた。オーク製の斧・重鎧といえばその機能性から高値で取引されるものである。
優れた武器と腕を持ってすれば、赤ん坊を真っ二つにする事など簡単のはずだった。
だがこの赤ん坊は、斧の一撃を受けても真っ二つになる事も死ぬ事もなく、ただ大声で「おぎゃあおぎゃあ」と泣くだけであった。
とうとう村人達は半狂乱になる。赤ん坊達をその場に居た全員がかりで殺そうと武器を振り下ろす。
だが赤ん坊は1人として死ななかった。
ただ泣き声が大きくなり。
赤ん坊の金色の目は赤く充血していった。
顔についた母親の血と目の色が同じになった時、赤ん坊達に異変が起きた。
それまでは身を守ろうと丸まらせていた四肢で立ち上がり、勢いをつけて村人に飛び掛って殴打した。
殴られた村人の頭が破裂する。赤ん坊の攻撃にも関わらず頭が破裂するとは、その衝撃力は数値にしていかほどのものであったろうか。
3人の赤ん坊によって、赤く火を伴わない花火が3つ破裂した。
周囲に血や肉などが降り注ぐ。
そんな地獄絵図の中で、3人の赤ん坊は天に向かって雄たけびを上げた。
それはオーガの血の目覚めとでも言うべきだろうか、極端に攻撃的になった赤ん坊は武装した村人達を次々と殺して回る。
そして、無数のオーガの死体の上に、オークの死体が積み上げられた。
こうして、呪われし奇跡によって生まれたorogは、この無邪気な罪深い行いによってまるでモンスターのような扱いを受けていく事になる。
オラグ「・・・この話は、オラも始めて聞くだす」
アルスト「赤ん坊にやられるような情けない奴らが負けたからってorogをハブにしてたのか」
そういうわけじゃないと思うぞ・・・
それに、一時的にだがorogも他の種族との共存は経験している。
そのキッカケを作ったのが、orogの英雄ベルセリウスだ。
そしてこれからの話は・・・巷に流れる間違ったものではなく、真実だ。
アルスト・オラグ・ガード「?」
ベリセリウスとは、とある戦争で活躍し、時の王に認められて騎士の位とあの銀の鎧を受け取ったorogだ。
その功績で世界を渡り歩くorog達はその王国に招かれた。
王国の人々は悪名高いorogを恐れたが、orogの穏やかさに気付き、時間と共に種族の壁は少しだけだが無くなっていきそうであった。
それから10年の歳月が流れ、白銀に輝く鎧を纏ったベルセリウスの猛勇はタムリエル大陸全土に知れ渡った。
ある日。
ベルセリウスは王に呼ばれ、王宮を訪れた。
王の前にひざまずき言葉を待つ。側には2人のインペリアルと3人のオークが居た。
王が告げる。近隣にスプリガンという精霊が多量に出現し、何人もの死傷者が出ている。これを退治せよ、と。
ひざまずいていた6人は快く王の申し出を受け入れ、スプリガンが多量に出現しているという場所に向かった。
そこは見通しの良い草原だった。
王国の兵士が所狭しと並んでいなければ、さぞや気持ちの良い風景が広がっていたであろう。
ベルセリウスが「スプリガンを倒したのか」そう聞くと、兵士達はベルセリウスだけを隊の中に招いた。
ベルセリウスはいざなわれるままに隊の中へと入る。すると、周りの兵士達が彼を囲むようにして、剣を抜いた。
共にこの場所へと来たオークの1人が叫んだ。
「何をする」
兵士の一人がベルセリウスに斬りつけた。だが、大きな英雄の厚い皮膚を両断するには至らない。
兵士達はベルセリウスに群がり、滅茶苦茶に斬り付ける。
ベルセリウスの銀の鎧が真っ赤に染まる。それでも彼は抵抗しなかった。ただ「なぜだ」と言うだけで。
ついに力尽きたベルセリウスが地面に倒れ付すと、ベルセリウスと共にこの場所へと向かったインペリアルの騎士が告げた。
それはorogにとって、驚くべき内容であった。
orogは、この王国内では同胞として認められている。
だが、他の国では違ったのだ。
他の国では、orogは野蛮なモンスターとまだ思われていたのだった。
それでもこの王国の王は、ベルセリウスから受けた恩を尊び、orogらを保護しようと奔走したがついにそれも不可能となった。
他の国の王達がorogの英雄ベルセリウスの首を取り、王国からorogを追い出さなければ危険な王国として戦争を挑まざるを得ない、そう言って圧力をかけてきたらしい。
そして今回の事に至ったのだ。
ベルセリウスの居る場所から離れた場所には、何種類もの他の王国の兵士達がこの処刑を見にきていた。
この一部始終を見届ける。それが彼らの要求だったに違いない。
インペリアルの騎士はすまないと告げ、絶望と体の傷で絶句したベルセリウスに止めを刺した。
ベルセリウスの死顔は怒りと憎しみに溢れ、首だけとなった今でもその鋭い牙を誰かの喉もとにつきたてようとしているかのようだった。
そしてオークの騎士に言った。
「彼の銀の鎧とorog達を頼む。我々は出来る限りの時間稼ぎをしよう。
王はその為に君たちも呼んだのだ」
と。
それからベルセリウスは英雄などではなく、邪悪で野蛮で卑劣な男という嘘がタムリエル大陸を駆け巡った。それが今日のorogの評価を悪化させる原因だ。
そしてorogを絶滅させようという動きがどんどんと活発化していった。
アルスト「なんでそこまでする必要があるんだ?」
昔は今とは違う。
昔の人々にとって、モンスターとの間から生まれた忌み子は不吉の象徴だったんだ。
その忌み子の1人がタムリエル大陸一番の英雄と言われているのが我慢ならなかったのだろう。
時間が経ってorogも人と言われるようになったが、長きに渡る迫害の歴史と流された嘘によって未だに迫害が絶えないんだ。
オークの話が終わり、オラグは足元にまとわりつく鎧の事を忘れるほど何かを考え込んでいる。
無理も無い。オラグは自分の先祖に何があったかなど聞いた事もなかったし、orogと他の種族は結局は相容れない、そう言われているのも同じだったからだ。
オラグ「・・・・・・・」
アルスト「で、なんでお前みたいな武器屋がそんな事を知ってるんだ?」
オーク「ベルセリウスの鎧を託され、orogを逃がしたのが俺の先祖だからさ。
そしてこの鎧は、代々俺の家計が受け継ぎ、磨き上げたものだ」