ベストディフェンス防具店の店主であるオークは続けて言った。
オーク「その鎧はベルセリウスの血が染み込んで真っ赤に染まっていたが、
我々が何代にも渡って手入れをし、3代前の時にようやく今のような完璧な白銀に戻ったんだ」
オラグはまだ俯いて、話を聞いていないのか微動だにしなかった。
アルスト「ふーん、そうか。
orogの事は大体分かった。それで・・・」
オーク「?」
アルスト「あの鎧はorogの英雄の鎧だからオラグの物だよな?
という事はめぐりめぐって俺の物って事だな」
そう言ってアルストはオラグの足元に纏わりついている鎧を手に取り眺めた。
美しく光を放っているかのように見えるまで磨き上げられた鎧は、アルストに持ち上げられると低く唸った。
アルスト「っ、あっつ!」
その鎧は突如として熱を持ち、あまりの熱さに驚いてアルストは反射的に鎧を投げ捨てた。
オーク「大丈夫か?!
その鎧は我々の一族とorog以外が触るといつもそうなるんだ」
アルスト「やっぱまだ呪われてるのか」
オークはアルストが投げ捨てた鎧の一部とオラグの足元で怪しくうごめく鎧を拾い上げ、大きな布に一纏めにして包んだ。
重そうに抱えあげて台の上に包まれた鎧をガシャンと置く。布の中で鎧がモゾモゾと動いているのが分かる。
オーク「呪いか・・・赤かったこの鎧の色が落ちたときにベルセリウスの憎悪と無念の魂は癒されたのだと思っていたが、それは違っていたのかもしれんな。
・・・だが、この鎧は間違いなく君を求めている」
そう言ってまだ呆然としているオラグに、布で包んだ鎧をずいっと押し出した。
オラグ「オラを・・・?」
アルスト「俺は?」
オーク「この鎧が君を、orogの君を選んだんだ。
持って行ってほしい。元々我らの一族はこれを預かっていただけなのだから」
そして――――
ベストディフェンスの外で店の壁に耳を当てて中の様子を伺っていたカイムは。
カイム(何を世迷いごとを・・・子供の頃から聞かされてきたorogの話は嘘で、orogは何も悪くはないだと?
そんな話が信じられるわけが・・・)
なにを馬鹿な事を言っているのだ、そうつぶやきながらも全神経を耳に集中させるカイム。
ふと、ドスンドスンと大きなものが歩いているような規則正しい地響きがなると、それは一瞬で増えた。
ガード「隊長!モンスターが!」
カイム「なに!?」
部下に呼ばれてようやく壁から耳を離し、街を振り返るカイム。
インペリアルシティはオーガで溢れかえっていた。
カイム「何が起きたんだ!?」
状況を判断しようと縦横無尽に目を走らせると、視界の片隅に赤いローブを頭からスッポリとかぶった怪しい人物が逃げていくのを見つけた。
カイム(あの赤ローブは、まさか・・・皇帝を暗殺した一味!?)
このシロディールの皇帝は、ある日突然に暗殺された。
それも執拗なやり方で。
皇帝の血筋の者は、老若男女に至るまで全員、突如として表れた大軍によってその日のうちに暗殺された。
その手際の良さには舌を巻くほどで、ガードは出し抜かれた形になっていた。
そしてシロディールの守り火、ドラゴンファイアまでもが消されてしまう。
皇帝の血筋しかその炎は点せず、最近の元老院はいつもその事で頭を悩ませていた。
ドラゴンファイアはなくてはならないものなのだ。
そして、その暗殺者達というのが、先ほどカイムが見たような赤いローブで全身を覆った者達だった。
何らかの神の加護を受けていると思われる赤ローブの暗殺者達は、見た事も無いような武器防具を召還する。
その戦闘能力は、皇帝直属の精鋭部隊ブレードと渡り合える程だ。
カイム「まずい、皇帝を暗殺した一味かもしれん!赤ローブの者は探して片っ端から捕まえろ!」
ガード「オーガが多すぎます!このままでは前にも進めません!」
カイム「副隊長、お前が指揮して路地を回れ!あそこにはオーガが居ない!
5人は残れ!私と共にこの商業区画のオーがどもを片付けるのだ!」
カイムと残った5人のガードが大声を張り上げて剣を高くかざし、オーガの注意を引くと、
残りのガード達は家々を縫うようにして走り出し、他の区画の状況を探るべく散って行った。
カイム(他の区画では市民達の避難などはやっていない。急がなければ、大惨事になるかもしれん。)
殴りかかってくるオーガの脇に剣を突き立てて、オーガ以上に獰猛な唸り声を上げながら、カイムとガード達はオーガの大群へと立ち向かった。
ベストディフェンス内部では――――
オラグ「その鎧がオラを?
でも、オラの体にはその鎧は小さすぎるだす」
orogはもともと大柄な種族ではあるが、オラグの大きさは破格のものであった。
普通のorogの身長は、アルストより頭1個ほど大きいのが普通である。
ではなぜ巷ではorogが巨人のように言われているかというと、昔の人々が総じて背が低かったからである。
アルストのようなインペリアルもorogへの差別が絶頂期の頃は、もっと背が低かったのだ。だが、その頃のorogの平均身長は今と変わらない。
今はorogの数も激減し、その実態を知る人は少ない。だからorogは昔から巨人と信じられているのだ。
そしてベルセリウスの身長もアルストより頭1つ大きい程度のため、ベルセリウスの鎧はオラグにとっては小さすぎた。
アルスト「くれるって言うんだから貰っとけ。
呪いを解いたらお前から俺が貰ってやるよ」
アルストに言われると、オラグはおずおずと鎧が包まれた布に手を伸ばした。またしても鎧が中でガチャガチャとうごめく。
オラグ「ヒィィ!
や、やっぱりいらないだす!」
目の前で不気味にうごめくのを見て、鎧が勝手に動く事を思い出したオラグは飛び上がって離れた。
すると、外から地響きのような鈍い音と誰かの叫び声が突然に湧き上がり、一気に騒がしくなる。
店の中で挙動不審に物品を見て回っていたガードが何事かと扉を開いて出て行く。
その隙間から見えた店の外には、大量のオークたちが居た。
アルスト「モンスターが見えたぞ?」
オラグ「ヒィィ!この鎧の呪いだす!
この鎧がモンスターを呼んだんだすよ!」
アルスト「いつまで鎧にビビってんだ!そんなわけないだろ!
行くぞオラグ!モンスターをぶっ殺してガードから謝礼をたんまり貰ってやろうぜ!」
背負っていた棒を手に取ると、アルストもガードを追いかけるように店から出て行った。
だがオラグはモンスターを怖がって店から出れず、その場でどうしようと立ち尽くしているだけだった。
オーク「・・・・・・
この鎧を受け取ってくれ。この鎧は君のものだ」
オークはorogの事を知っていた。
この体の大きい種族は、それと反比例するように気が小さいのだという事を。
オーク「さあ」
オラグ「そ、そんな鎧を貰っても、オラじゃ役立たせる事はできんだす。
今だって、オラはここでこうやって怖がってる事しかできないんだすよ・・・」
オーク「鎧は君を選んだんだ」
外に出て行く事も出来ず、鎧が包まれた布を見つめていると、鎧から何かの声が聞こえた気がした。
オラグは空耳だろうと思ったが、その声はどんどんと大きくなっていく。
何を言っているのかは分からない。オークには聞こえていないようだ。
鼓膜が破れるのではないかと思うほどその声が大きくなると、オラグはその場から逃げ出した。
悲鳴を上げながら出口まで勢いよく走り、扉が壊れるのではないかというほどに勢いよく飛び出した。
アルスト「おせえんだよ!っ・・!ぐはあああ!」
オラグに気付いたアルストがオーガに殴り飛ばされた。
オラグ「ひ、ヒィィ!なんでこんなにモンスターが!」
それも自分の、orogの先祖のオーガばかりが何体も首都に。
オラグは恐怖で体を震わせ、その場に屈み込んだ。
オーガ一匹が迫り、オラグの巨体に拳を打ち付ける。
オラグ「痛い!だ、誰か助けてくれだす!」
普通のインペリアルくらいならば、一撃で頭蓋骨すらも砕かれる。そんな攻撃を受けてもオラグはビクともしなかった。
だが彼に戦う気は全く無く。このままでは殺されるのを待つだけだ。
オラグはアルストに助けを求めようと視線を彷徨わせた。そしてふと先ほど武器屋の中に居たガードを見つける。
ガードは盾でオーガの攻撃をうまくいなし、勇敢にも剣で攻撃を返している。
さらに視線を彷徨わせる。オーガの自分への攻撃はまだ続いており、とても痛くて怖い。
アルストはここからでは見えない。もうあのガードでいいから助けを求めよう。
そう思ったオラグが、必死で戦うガードに助けを求めようとした、その時だった。
ガードの背後にもう一匹のオーガが迫っている。ガードはそれに全く気付かず、目の前のオーガとの戦いに必死だった。
嫌な予感がオラグの脳裏に走った。
危ないと声を上げようとしたが、声が出ない。
ガードの背後に忍び寄ったオーガは、その大きく丸太のような腕でガードを後ろから殴り倒した。
勢いよくうつ伏せに倒れるガードの頭に目掛け、オーガは全体重を乗せた追い討ちを振り下ろす。
ガードの鉄の兜はその攻撃に耐えられずに簡単に潰れ、あっけなくガードの首から上が無くなった。
そしてガードの首の辺りからは、
地面から湧き出してくるかのように多量の血が広がっていき、
赤い小さな池を作った。
オラグは、あの赤い池はどこかで見た事がある、と漠然として思った。