そう、子供の頃見たあの光景と同じだ。オラグはそう思った。
漂ってくる血生臭い香り、足元のネバついた感触。見たくないものを見せられる。恐怖。
あの時も一面の血の池の中で、ただ怖くて嫌だった。
だが、その奥深くには何かがあって、それが這い上がってくると、意識が無くなった。

今みたいに。

 

 

 

 

オーガに殴り飛ばされたアルストは、頭を振りながら立ち上がった。

 アルスト「いてぇ・・・」

顔を上げると視界にオラグが映った。
背後からオーガに滅多打ちにされているにもかかわらず、抵抗する様子すら見せずに棒立ちしている。

アルストはオラグに声をかけようとしたが、オラグの赤く光る目と異様な雰囲気を感じ、押し黙った。

 

オラグは背後で暴れるオーガに振り向き、

 

 

 

 

振り上げられた拳を掴んで、オーガの体から引き抜いた。

噴き出した血がオラグの顔にかかる。
血で赤く染まった顔で、赤い目は一層と輝いた。
そして、重低音の叫びを天に響かせた。

 オラグ「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

その「音」は法螺貝のように響き渡り、大地をも共鳴させる。

無くなった腕の付け根を押さえるオーガの頭を掴んで放り投げる。それが、オラグが虐殺を始める合図だった。

絶大なる膂力を持ったオーガたちを、それを遥かに超える膂力でなぎ倒す。

 

 

 

 

 

 

もはやその目にはオーガしか映らないのか、壁や階段を巻き添えに破壊しながら虐殺は続く。

それはすでに戦いと呼べるものではなかった。
ただ一方的にオラグがオーガたちを殺していく。石壁は崩れて整備された石畳がバラバラになった。

溢れる勇気と正義感でオーガ達に立ち向かったガード達も、その勢いの前には逃げ出さざるを得なかった。

 カイム「引け!引くんだ!」

倒されたオーガ達は半透明になって消えていった。これは召還されたモンスター特有の現象である。

 

 

 

 

全てのオーガを倒しつくすと、オラグはキョロキョロと辺りを見回した。

何かを探している様子のオラグへとアルストが歩み寄る。

 アルスト「よくやったぞオラグ。やればできるじゃねぇか」

声をかけたアルストにオラグは振り向いた。その目はまだ真っ赤だった。

 アルスト「なんだよ?」

無防備に近づいたアルストにオラグは突然殴りつけた。まだ正気を失っているのだろう。
アルストはベストディフェンス防具店の石壁に衝突し、壁を破壊して店内にまで吹き飛ばされた。

そこでやっとオラグの目から赤色が抜けた。

 オラグ「・・・・?あ、あれ?オラどうしただ?」

何が何だか分からないと、正気に戻ったオラグが辺りを見回していると、アルストが破壊された壁から飛び出してきて怒鳴った。

 アルスト「いてぇな!なにしやがんだ!」

 オラグ「アルスト、何やってるだすか?」

 アルスト「何すっとぼけてやがる!テメェがいきなりぶん殴ったんだろうが!」

 

 

 

そして物陰に隠れたカイムは――――――

 カイム(orog・・・やはり危険すぎる種族だ!
  あの男もオーガを一撃で屠っていったあの拳を受けても平気とは、やはり人ではない・・・!)

驚愕の表情でアルストたちを眺めていると、ガードの一人が小声で報告をした。

 ガード「隊長、他の区画ではモンスターは見当たらなかったそうです」

 カイム「ぬう、ではこの商業区画だけか・・・
  赤いローブの者はどうなった?」

 ガード「帝都宮殿の元老院本会議場まで追い詰めたそうなのですが、ついに見失ってしまったらしく・・・
  2階より上は厳重に警備されていますし、どこへ行ったのか見当もつかないそうです」

 カイム「うむ・・・皇帝暗殺の時もそうだった。透明化の魔法でも使ったか・・・
  第2・3隊はそのまま街の見回りだ。他の者はこちらへ回せ」

ガードが命令を伝えるために走り去ると、カイムはアルスト達の行方を険しい表情で監視しはじめた。

 

 

 

アルスト達は、インペリアルガード達の苦労も知らず、そのまま一直線に首都を出た。

空を見上げれば高い位置に太陽がある。まだ昼ごろだろう。

 アルスト「ったく、次から敵かどうか確かめてから攻撃しろよ」

正気を失っていたオラグに殴られた事をまだ根に持っているのか、アルストは少し怒った風な口調だ。

 オラグ「す、すまんかっただす。でもそんな覚えないだすよ
  ・・・・・・
  ところでアルスト、オラたち服を買いに来たんじゃなかっただすか?」

 アルスト「その通りだ。
  だがお前にそれ以外の服なんて似合うはずないからな。代わりに鎧を買った」

 オラグ「え?いつ買ったんだすか?」

 アルスト「・・・ちょっと後ろ見てみろ」

オラグは言われたとおりに何も考えずに後ろを振り向いた。後ろになにやら塊のようなものが這い寄ってきている。
それを見ると大声を上げて飛び上がった。

 オラグ「ヒィィィィィィィ!!!
  あ、あああ、あの呪われた鎧がまたオラを付け狙ってるだす!」

そう、オラグの後ろをついてきていた塊とは、あの鎧だったのだ。ズリズリと引っ張られているかのようにオラグに詰め寄っていく。

 アルスト「あの店からずっとついて来てたぞ。気付かなかったのか?」

 オラグ「ヒィィィ!誰かああああああああああああああ!」

叫び、オラグはまたしても逃げ出した。

 アルスト「おい待てオラグ!
  ったく・・・なんでアイツ鎧なんかが怖いんだよ。
  ちょっと呪われてた方が絶対防御力上がるだろ、常識的に考えて」

そしてオラグの服代だと言って渡された100Gをネコババしたアルストは、ものすごい勢いで鎧と追いかけっこをしているオラグを追って駆け出した。

 

 

 

アルストたちが走り去ると、インペリアルシティで様子を伺っていたカイムはホッと胸を撫で下ろし、

無実の罪で捕まえた商業区画の市民達へのいいわけを考えて悩むのであった。

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