突然の来訪者に驚いたサラは少し上ずった声でたずねた。

 サラ「だ、誰?」

黒ずくめの男は、それこそ世間話でもするかのように平然と答える。

 

ルシエン・ラカンスと名乗った男はダークブラザーフッド、つまり暗殺者ギルドに属しているようだ。

 サラ「私が殺人者?なんの事を言っているの?」

 ルシエン「・・・お前の所業、お前の殺人技術・・いや破壊技術、ナイトマザーはお喜びになっておられるぞ。
  それゆえ、お前にはチャンスが与えられた。我ら、幾分特殊な家族に加わるための・・・チャンスがな・・・」

どうやらルシエンはサラの評判を聞いて、彼女を暗殺者ギルドに誘おうと来たようだ。
いくらオブリビオンに住んでいたとはいえ、こちらで長い間生活してきたのだ。サラも暗殺者ギルドの事は知っていた。

 

今でこそ暗殺者ギルドなどと呼ばれるダークブラザーフッドであるが、その源流は古く、2nd Eraにまでさかのぼる。

 

その時既にMorag Tongと呼ばれる組織があった。
デイドラの精霊メファラを崇拝し、無秩序に人々を殺す集団。ただその活動は比較的穏やかであり、当時にはそれほど重要視される組織ではなかった。

そこへ現れたのがダークブラザーフッドの生みの親、ナイトマザーである。
ナイトマザーの犯罪がはじめて確認されたのは2ndEra324年。
とある人物が、ある宮殿で殺された。
そこには殺された人物の血を用い、荒々しい字で壁にMORAG TONGと書きなぐられていた。
ナイトマザーはそうして殺人者の正体を知らしめ、MoragTongの名は一躍有名となり、組織は活発に活動を始めた。

 

しかし、終わりは突然にやってきた。

MoragTongが有名になりしばらく時間が経つと、タムリエルが長きに渡った戦争で荒廃し始めた。
するとあらゆる支配層がこの殺人教団の排除を最優先に定めたのだ。
荒廃し、秩序が失われてゆく中で、支配者達が最も恐れたのは依頼による暗殺だったからだ。

そこで公的にはMoragTongの幕は下ろされたとされている。

 

それからいつMoragTongのナイトマザーを崇拝する者達がダークブラザーフッドとして活動を再開したのかは定かではない。
ダークブラザーフッドはポリシーなき暗殺集団と呼ばれ、ビジネス志向の強い組織となった。
巨額の報酬か、自らの血縁者の誰かの命を生贄とされれば、例え王であろうとも暗殺する。
支配者と裕福な商人たちはこの教団を暗殺者のギルドとして利用してきた。
ブラザーフッドは有益な企業として明確に報酬を得ていた上に、統治者たちにはもはや彼らを積極的に迫害することが出来ないという二次的な利益があった。
いつしか、極めて高潔な指導者ですら、ブラザーフッドを重用するほどに分別を失っていった。

彼らは必要とされていたのだ。

彼らは重要な必需品の提供者であった。

死という強制力は、何よりの商品だったのだ。

 

 

公的には壊滅させられたと記述されるMoragTongであるが、彼らはモロウィンドにてまだ活動してる。
仁義の暗殺集団。Morag Tongは現在そう呼ばれ、Writ(書)と呼ばれる暗殺指示書にしたがってのみ、迅速かつ美しく殺しをこなす。
下院戦争からあだ討ち、派閥問題にまで駆り出され、仕事が手広い。
ポリシーなき暗殺集団のダークブラザーフッドとは現在犬猿の仲であり、激しく対立しているようだ。

 

そのような暗殺組織に勧誘されるなど、正義を心がけて行動してきたつもりのサラにとっては心外であった。

 ルシエン「一度しか言わぬから良く覚えておけ。
  ブラビルへと続く緑の道の途中、イルオーメンという宿がある。
  そこにはルフィオという名の男が居る。彼を殺せ。
  それでダークブラザーフッドへの加入の儀は完了する」

 サラ「何で私が・・・」

 

あからさまに嫌な顔をして言うおうとすると、ルシエンの背後から突然に抜き身の剣が伸び、ルシエンの首筋に当てられた。

ルシエンは目をむいて驚いたが、体は微動だにせず見開かれた目だけで自分の背後から伸びる剣を睨み付け、低く唸るように言った。

 ルシエン「何者だ」

ルシエンの背後の影が身じろぎしたかと思うと、デイドラの鎧が現れた。

 茂羅乃介「曲者に名乗る名などない」

この天空の城で禍々しくも機能に優れたデイドラの鎧を着ている者は茂羅乃介しかいない。
サラの護衛として、サラの父親に送り込まれたこの男は、怪しい男ルシエンを見つけてその背後をつけて来ていたのだろう。

 ルシエン「音も無く闇に紛れて忍び込んだうえで、背後をとられるとは・・・
  なるほど、この便利屋のポスターにあった煽り文句の『どんな依頼もスパッと解決』は、伊達では無いようだ」

 茂羅乃介「常命の者よ、その口を閉じろ。
  お嬢様は困っておいでだ。命が惜しくば今すぐにここから立ち去れ。
  私はお前を次の瞬間にはバラバラに破壊できる」

両者の間に緊張が走り、空気がピンと張り詰めた。
ルシエンは反撃のチャンスを伺って背後の茂羅乃介の息使いに耳を澄ませ、
茂羅乃介は殺気立って手に持つ剣からは殺気のオーラが迸る。

 サラ「ちょっ・・・!」

このままでは殺し合いになる、そう思ったサラが2人を止めようと動くと、張り詰めていた何かが決壊した。と、思われたが違った。

 ???「そこまでだ卑劣な糞どもが!
  お前らの狙いは全部分かってんだぞ!」

茂羅乃介の背後から怒鳴り声が響く

思いがけないところから怒号が飛び出して、殺気立っていた2人はビクリと肩を震わせた。
そしてルシエンの背後に隠れていた茂羅乃介の背後から出てきたのは、アルストだった。

 ルシエン「なっ!?」

 茂羅乃介「おぉ!?王よ、いつの間に!?」

 アルスト「何がいつの間にだ!卑劣な手を使いやがって!」

茂羅乃介がルシエンに向けていた剣を無理やり下に降ろさせるアルスト。

 茂羅乃介「卑劣・・・とは?」

 アルスト「とぼけてんじゃねぇ!
  お前そこの変なおっさんにサラを襲わせて、絶体絶命になったサラを助けて自分に惚れさせようとしてただろ!
  古い手使ってんじゃねぇよ!
  っつーかサラは俺の物なんだよ!手を出す奴はぶっ殺す!」

いきりたって剣を抜くアルスト。
すると、アルストの背後からはまたしても何者かが現れた。

 スケレーd「喧嘩はよせ」

 アルスト「うおおお!?」

またしても驚く一同を尻目に、ルシエンは力なく膝を突き、項垂れた。

 ルシエン「わ・・・私は・・・暗殺者で・・・闇に紛れ・・・背後・・・」

ブツブツと独り言を漏らしている。

 サラ「ちょっと。何でこんな夜中に知らない人と一緒に電車ゴッコしてるのよ」

それぞれの背後に4人ピッタリとつらなっている所を想像したサラは、それが電車ゴッコであると思ったようだ。

 ルシエン「電車・・・ゴッ・・コ・・」

暗殺者としてのプライドを深く傷つけられたルシエンの目には光るものがあった。
ポタポタと涙で床を濡らして行く様を見た便利屋達は、一瞬言葉を失った。

 茂羅乃介「いや、そこまで思いつめる必要はないのでは・・・?」

 サラ「そ、そうよ!何だかよく分からないけど、あなたは私に話があったんじゃないの?
  い、依頼かしら?言ってみて」

男泣きを見て一番うろたえたのは、ドレモラの人々であった。

orz ←こんな感じの姿勢で涙を流していたルシエンは、涙をぬぐう仕草し、床を見つめながらしばらく黙っていた。
そして意を決したように口を開く。

 ルシエン「ルフィオの件か・・・アレは、私が処理しよう。
  私には暗殺者は向いていなかったようだ。今までずっとこの仕事をしてきたが、どうやらここが止め時だ。
  彼は私が保護する。そしてその行動によって、私は家族から破門されるだろう」

 サラ「は?」

それが何を意味するのか、便利屋達には分からなかった。

ルシエンは立ち上がると、他の誰にも目もくれずにサラの部屋から出て行った。

 アルスト「なんなんだアイツは?
  いきなり泣き出したり、家族から破門とか何言ってるんだ?家族からは勘当じゃないのか?
  なぁ師匠」

 スケレーd「分からん。分からんが、奴は何かを悟った目をしておった」

 サラ「・・・私はもう寝るわ。
  あんた達も電車ゴッコはもうやめて寝なさい」

 

 

ルシエンが帰ると、3人はサラに部屋から追い出された。

茂羅乃介はサラの部屋の前で護衛をすると言ってその場に残り、アルストとスケレーdは部屋に戻ろうと一緒に廊下を歩いている。

 スケレーd「アルスト」

唐突にスケレーdが口を開いた。

 アルスト「ん?」

 スケレーd「ワシは今から旅に出る。皆にはお主から言っておいてくれ」

 アルスト「また突然だな。明日まで待って自分で言えよ」

 スケレーd「・・・・」

 アルスト「恥ずかしいんだな?」

アルストが茶化して言った。

 スケレーd「・・・頼んだぞ」

スケレーdはそんな事も気にかけずに、ただ頼むと言って足早に去った。
長年親子のように生活をしてきた仲だ。
それだけでも十分両者には伝わっていた。

アルストは思った。
スケレーdがどうにかなるなど考えられないが、帰るのは遅くなるだろうなと。

その夜は雲ひとつ無い空模様だった。

明るい夜ではあったが、風は無く、空気は冷たく澄んでいて、誰もそばに居なければ世界に自分一人しか居ないのでは無いのかと思うほど、寂しい夜だった。

 

 

 

 

――――――――おまけ――――――――

↓ルシエン・ラカンス、天空の城に忍び込むの巻

↑マジで電車ゴッコです本当にありがとうございました

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