エール(誰だろう、サラと茂羅乃介と……?)
聞こえる足音は3つ、カチャカチャと金属音を鳴らしながら柔らかい絨毯の上を歩いている。
3つの足音は、規則正しいリズムで同じ歩幅を維持しながら、玉座から3〜4m離れた位置まで歩き、止まった。
エール(ドキドキ)
エールは誰が帰ってきたのだろうと思いつつ、第一声を待つ。
しかし聞こえてきた声は、彼女の知る人の声ではなかった。
カイム「し、失礼。
貼り紙を見て来たのだが、ここは便利屋でよろしかったかな?」
エール(え?誰?)
予想外の出来事に、エール眉をピクリと寄せた。
ス・ガード「ひぃ」
そしてようやく事態を把握し、
エール(お客さんだ!)
目を開いて立ち上がった。
目の前には鎧を着た3人のガードがうろたえた様子で立っている。
カイム「わ、我々にはあなたに敵対する意志はない。
どうか武器を収めて欲しい」
そこでエールは自分の手に握られた棍棒の事を思い出した。
エール「あ、これは…ちょっと王様ゴッコしてて…」
アハハと笑ってごまかすと、エールは棍棒をしまった。
カイム「そうでしたか。負うさ孫粉を……
聞いた事のない行為ですが、魔王どのとしては普通の行為なのでしょうな」
エール「魔王どの?」
訳の分からない事を言われ、エールはなにそれと首をかしげた。
エールはカイム達が自分の事を魔王だと勘違いしていると感づき、自分は魔王では無いと説明した。
しかしカイム達は「またまたご冗談をw」などと言って聞く耳を持たない。
そもそもエールを魔王と思うほうがよっぽどの冗談であるが、
シロディールのガードの性質は一貫して、思い込んだら一直線、つまり猪突猛進であり、誤解を解くのは難しい。
事実、シロディールのガード達は、店の物を持ち上げただけで窃盗だと瞬時に勘違いし、スターップ(逮捕)してくる。
仕方が無いのでエールはそのまま話を続けることにした。
エール「えーと、一緒に遺跡の探索してくれる人を探しに来たんだ?」
イ・ガード「はい。便利屋に依頼に参りました。
このお城に居られるのですよね?」
イ・ガードは便利屋はどこに居るのだろうと辺りを眺める。
そこでエールは腰に手を当て胸を張り、自分が便利屋だと名乗った。
エール「うん。私が便利屋のエールだよ」
カイム(な……そうきたかあああああああ!)
ス・ガード(魔王が便利屋!)
イ・ガード(そりゃ依頼するわ!
戦士ギルドと魔術師ギルドも依頼したくもなるわ!)
勘違いし続けるガード達をよそに、エールはうーんうーんと唸っている。
今現在ここに残っていて、すぐに仕事を始められるのはエールだけなので、依頼を受けようかどうしようか迷っているようだ。
カイム「そ、それはとんだご無礼を。
では、魔王どのに改めて依頼いたします。
お礼のご心配は無用です。元老院がいくらでも支払うでしょう」
よろしくお願いします、と言って頭を下げるガード達。
一方のエールは自身に直接依頼をされて慌てた。
エール(私!?私が遺跡探検のお仕事するの!?)
首をひねってどうしようかと悩むと、ガード達がエールをせかす。
カイム「ではすぐに遺跡に向かいましょう。
先ほどお話した通り、我々には時間が無いのです」
エール(……もうこうなったらやるしかないよね!
私だって今までずっとお仕事してきたし、探索くらいなら!)
エール「じゃあ用意してくるからちょっと待って!」
ガード達に言い残すと、エールは駆け足で自分の部屋に戻り旅支度を整え、リンに「少し出かけてくるからご飯食べてね」と声をかけた。
そしてある事を思い出し、一度食堂へ寄ってからカイム達の待つ広間へと戻った。
空中に浮いた城の橋の上、カイム達とエールは号令を掛け合った。
カイム「では出発だ!
我らには魔王どのがついている!
死を恐れるな!ガードの誇りを穢される事だけ恐れて行動せよ!」
エール「お〜!!」(まだ私のこと魔王だと思ってるんだw)
エールは自分の事を魔王と信じて疑わないガード達がおかしくて上機嫌だ。
そして4人は歩き出した。
アイレイドの遺物があるという遺跡に向かって。