カイム「そういえば、自己紹介がまだでしたな。
  私はアダムス・フィリダ。インペリアルシティでガード隊長を務めております」

遺跡へ向かう道中で、カイムがエールに思い出したように言った。

 エール「アダムス……隊長…?
  うーん……?」

 カイム「はい。隊長というものはまた大変でして」

饒舌にガード隊長の仕事がいかに大変かを話すカイム。
しかしエールはそんな話は上の空だった。

 エール(アダムス…聞いた事あるような……?
  鎧ピカピカも知ってる……
  ……あ!!)

 エール「カイムだ!お兄ちゃんに聞いたことある!」

 カイム「か、カイム?」

ガードの苦労話を気持ちよく話していたところを邪魔されたカイムは、いぶかしげに言った。

 カイム「その、カイムと言うのは私の事ですか?」

 エール「でしょ?お兄ちゃんが言ってたよ?
  カイムはホントはカイム・アラゴナーだけど、アダムス・フィリダっていうガード隊長って偽名使ってるって。
  不死身だって」

一陣の風が吹き抜けて、ザワザワと草木を揺らす。
そしてカイムも思い出した。

 カイム(…カイム、はて、誰かも私をそう呼んでいたような……
  そうだ、あの男!!鉄拳のサラの仲間の男!あの男も確か私をカイムと!
  やはり魔王ともなると鉄拳のサラとの親睦も深いのか!?
  ……しかし、なぜだ。
  なぜ私はカイムなんだ?そんなにそのカイムとやらと似ていると言うのか)

カイムは便利屋の中にアルストやサラが居る事を知らない。
それもそのはず。サラはインペリアルシティに行くのを嫌がったし、アルストもカイムが居るなどと言って行きたがらなかった。

そもそもイペンリアルシティの貼り紙はすぐに撤去されてしまっていて、便利屋の知名度は低かった。

 カイム「な、なるほど。ですが人違いでしょう。
  現に私は不死身ではありませんので」

 エール「あー、やっぱりお兄ちゃんの言った通りだよ〜。
  カイムは絶対ごまかすって言ってた。前半は記憶喪失でそのうち思い出すんだって。
  ねぇねぇ、ちょっと生き返ってみて?思い出すかもしれないよ?」

 カイム(それは一度死ねという事か!?)

しれっととんでもない事を言われ、とぼけているようでもやはり魔王は魔王だなと思うカイムであった。

 

 

 

 

 

 

そして遺跡へと辿り着いた。

一見なんの変哲もないアイレイドの遺跡だ。
鳥が木々の間を自在に飛び回り、遺跡の外壁に根を張ったツタが長い年月この遺跡が放置されていた事を物語る。

地上に出た遺跡部分はとても小さい。それはアイレイドの遺跡の特徴だ。
この遺跡を作った超技術を持つ種族は、地上よりも地下に大きな遺跡を作る。
それが年月を経て地上部分が雨風によって浸食され破壊されたためか、地下に作らなければならない理由でもあったのかは未だに謎である。

 カイム「ここか」

 イ・ガード「はい。間違いありません」

 カイム「では入るぞ。早く遺物を発見しなければ」

カイムは扉に手をかけ、ゆっくりと開いた。
たちまちカビくさい空気が中から漏れ出て、一瞬エールは中に入るのをためらったが、構わず入るガード3人を見てまけるもんかと気合を入れ、中に飛び込んだ。

 

遺跡の中は、明るかった。
手付かずの遺跡であるため松明などの明かりは灯されていなかったが、天井に吊るされたウェルキンドストーンという魔法の石が、辺りを青白く照らし出している。

イ・ガードが天井に吊るされたウェルキンドストーンを弓で射て地面に落として拾い上げ、松明のように持って先頭を歩く。

螺旋に降りる階段が、入り口からずっと続いていた。
誰も口を開こうとはしない。青白く照らし出された周囲の異様が、一行を緊張させているのだ。

全てが青白く映る。

この遺跡だけ現実から切り離されたように見え、
一行はそこが全て魔法で出来た空間のようにさえ思えて仕方がなかった。

 

 

長い長い螺旋階段が終わり、一行は広間に出た。

 ス・ガード「ここもだ。一面が青白い光で照らされている」

陰影の少ないのっぺりとした広間を眺めてス・ガードが身震いする。

あまりにも周囲が青いためか、ウェルキンドストーンが白く見えた。

そこでついに、敵が現れた。

どんな敵が待ち構えているのであろうと不安だった一行だが、その敵を見て少しだけ安堵した。

 カイム「なんだあれは、ゾンビか?
  このような異様な遺跡でも、モンスターは普通なのだな」

強力なモンスターではないと判断したカイムは、腰に差した銀の剣をスラリと引き抜いた。
ガード達やエールもそれに続いて武器を取る。

青い広間がガード達の裂帛の気合で満たされると、ゾンビも走る速度を上げ、戦いが始まった。

 

 

 

戦いは、10秒とかからずに決した。
ゾンビと言えばタフが売りのモンスターであるが、襲い掛かってきたゾンビは剣で一度切りつけられただけでピクリとも動かなくなった。

 イ・ガード「腐りすぎていたのではないでしょうか?」

冗談交じりにイ・ガードは言ったが、ゾンビを調べるカイムの表情は、まだ険しいままだ。

 カイム「これは……ただのゾンビではない。見てみろ」

ゾンビは死体が魔法の影響下で動くモンスターである。

魔法の効果は体を動かす事にのみ機能しているのが当然であり、死体の腐乱を抑える魔法などは使われる用途が無いため開発されていない。
禁術とされる死霊魔術にはそのようなものもあるかもしれないが、ゾンビにそんな魔法を使う意味は無いため、ゾンビというものは全て腐っており鼻をつくような腐敗臭がするのが普通だ。
だが、このゾンビからはそんな腐敗臭など一切しなかった。

 カイム「腐っていないだけではない。見ろ。
  この体中にある継ぎ接ぎのような後を。
  間違いなく人が、生きた人の体を繋ぎ合わせて何らかの目的で作ったものだ。まだ体温も残っている」

そう言って継ぎ接ぎゾンビにカイムが手を触れると、継ぎ接ぎゾンビの体がビクリと跳ね上がった。

 カイム「な、なんだ!?」

継ぎ接ぎゾンビは激しく体を痙攣させる。

その腹から青白い火の玉のようなものが顔を出し、断末魔のような声を上げた。

 エール「……」

青白い火の玉はギャアギャアと喧しく騒ぎながら、一行の周りをグルグルと回り、エール以外の者は火の玉を追い払おうともがいた。
ひとしきり一行の周りを回った青白い火の玉は、断末魔の声を絶やすことなく
遺跡の奥深くへと去って行った。

 ス・ガード「なんなんですか、今のは?」

 イ・ガード「あれが魂というものでは?」

 カイム「馬鹿な。魂が人の目にうつる訳がない。
  魔王どの、アレに心当たりはありませんか?」

エールの事を魔王と思い込んでいるガード達が一斉にエールを見た。

青白い火の玉が出てから虚ろな表情をしていたエールであったが、ガード達が視線をやると少し不機嫌そうな顔になって言った。

 エール「魂。アイレイドの作った人工の。
  シロディールより北の地方によくあるガーディアン。この遺跡は北の王からの送りもの」

その口調は厳しく突き放すかのようであり、いつものエールの声より低めの声だった。

 カイム「な、なるほどぉ」

ガード達は、突如様子の変わったエールを見て、ついに魔王が本領を発揮し始めたと震え上がった。

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