遺跡にエールとカイム達が入ってどのくらいの時間が経ったろう。
遺跡内部は相変わらず青白く光輝き、同じような構造がずっと続いていた。

エールは様子がおかしくなってからずっとガード達を先導し、遺跡の奥へ奥へと歩く。

カイムは時間の感覚どころか、ここがどの辺りなのかすら分からなくなってしまっている。

 カイム「一体どこまで続いているんだ。
  もしも一人で来ていたら、気がどうかなってしまっていただろうな」

誰にともなしにカイムがポツリとつぶやいた。

同じような景色が延々と続き、罠も無くモンスターも入り口付近に居た継ぎ接ぎのゾンビにだけしか遭遇してはいない。
そんな終わりの無い迷宮のような遺跡に嫌気がさしたガード達が、もう何度目かも分からない諦めの言葉を吐く。

 ス・ガード「隊長、やはり我々だけでは無理なのでは?
  これほどの規模の遺跡、私は見た事も聞いた事もありません。アイレイドの遺物があったとしても、運べないほどの大きさなのでは?」

 カイム「例えそうであったとしても遺物の存在だけでも確認せねばならん。もう少し辛抱しろ」

そこで「しかし」と言って言葉を区切り、エールに向かってカイムは言った。

 カイム「私も、このように薄気味悪い遺跡からは早く逃れたいものです。
  そろそろ教えてはくださいませんか魔王どの。何かご存知なのでしょう?」

今までいくら話しかけてもただ黙々と歩を進めていたエールに痺れを切らし、ついにカイムが強い口調で問いかけた。

 エール「この世界なら全てを。
  あなた達の言うアイレイドの遺物とは、私が目指す3度の秘法。
  元老院は望むものを欲しがっている。ただ、ここにある物は存続を望む者を選ぶしかない」

 カイム「…な、なるほど……できれば、後どのくらいで目的の物に到着できるかなどを…」

 イ・ガード「隊長!アレではありませんか!?」

イ・ガードが何かを見つけて叫んだ。
彼の指す方向には、遺体の知れない何かがあった。

 

 

 

それは文字のようだった。
ALUST.STORYのシロディールで使われる言語は当然のように日本語であるが、その文字はミミズが這ったような文字で読めるようなものではない。
そんな文字が、真っ暗で天上も床も壁も無い部屋の中を揺ら揺らと無数に飛び交っている。

飛び交う文字達は時折、「単語」を表しているかのように並び、また散り散りになりを繰り返す。

 カイム「文字の飛び交う部屋…まさか、これがアイレイドの遺物?」

 エール「そう。
  今は星が飛び交っている。
  アルタイル、フォーマルハウト、アルゴル、アルデバラン……もう選んでいた」

文字が並ぶ度、エールはそれを読んでいるかのように何かの単語を言い放つ。
そしてまた文字が単語のように並ぶ。すると、その単語は突然一行に向かって来た。

 カイム「うわあ!」

空中に浮かんだ文字達は、カイムの一歩手前まで近づくき並びを変えた。それをエールが読む。

 エール「あなたがヴェガ。降り立つ鷲。
  決まっていたのなら仕方がない」

厳しい口調で言い捨てると、エールはクルリと向きを変えて元来た道を戻り始めた。

 カイム「どこへ!これを持ち帰る方法はありませんか!」

 イ・ガード「無理ですよ隊長、こんな物持ち帰れるわけがありません。
  遺物の無事は確認できましたし、我々も戻りましょう」

イ・ガードに言われると、カイムはもう一度文字の飛び交う部屋を振り向き、仕方が無いとつぶやいてエールを追いかけた。

 

 

 

 

気の遠くなるような道のりを引き返す。
屈強なガード達でも流石に疲労が見え始め、前を歩くエールに幾度となく「少し休みませんか」と提案した。

しかしエールは来た時と同じように、ただ黙々と歩を進めていた。

 カイム「魔王どの、少し休みましょう。
  あなたは平気でも、我々はもう…」

カイムは肩で息をしながら、駄目で元々ともう何度も繰り返した言葉をまた言った。

すると今まで彼らの言葉を無視して黙々と歩き続けていたエールが歩を止め、キョロキョロと辺りを見回した。

 カイム「やっと休む気になってくれましたか」

 エール「あれ〜?継ぎ接ぎのゾンビは?」

突き放すような厳しかったエールの口調が、いつもの間延びした口調に戻った。

 カイム「はい?
  最初の部屋で倒したっきり、他のモンスターは出てきてませんが?
  それより少し休みましょう」

そう言って、カイムとガード2人はその場に腰を下ろした。
だがエールだけは立ったままで、カイムの後方を指差しこう言った。

 エール「あ、居た」

 カイム(また訳の分からない事を)

やれやれと疲れた顔で後ろを振り向いたカイムが振り向くと、そこはごった返していた。

ゾンビで。

 カイム「い、いつの間に!?」

驚き、素早く立ち上がり剣を抜くカイム。

 イ・ガード「帰り道には敵は居ません、逃げましょう!」

 

 

 

疲れた体に鞭打って、ガード達は螺旋階段を駆け上がる。
エールも軽い身のこなしで階段を2つ飛ばしに上がって行く。

ゾンビ達の足は速かったが、階段を上るのには不慣れらしく遅れはじめていた。

 エール「これなら逃げ切るね!」

エール達一行は疲れていたが、止まれば洪水のように押し寄せるゾンビの群れに飲み込まれると必死に走った。

 

そしてついに最初に継ぎ接ぎゾンビを倒した部屋まで辿り着いた。

 カイム「こ、これは……」

そこで一行の足は止まった。嫌な汗がカイムの額に浮かぶ。

その部屋もゾンビの群れでごった返していたのだ。

 カイム「く…ドレッドゾンビか!止まっていても仕方がない!
  行くぞ!敵を倒しながら道を作るのだ!」

 エール(私も手伝わなきゃ!)

そしてエールは思い出した。出掛けにあるものを持ってきていた事を。
勇ましく鞘を払ったカイムの横で、エールは道具箱から瓶を取り出し、おもむろにそれをゴクゴクとあおり始めた。

カイムはそれを横目で見ながら思った。

 カイム(あ、あれはまさしくワイン!
  流石は魔王。このような絶体絶命とも思える状況であっても、酒を飲む余裕があるとは!!)

カイムをはじめ、エールを魔王と思い込んでいるガード達は、期待の篭った眼差しでエールが酒を飲み干すのを待つ。
ガード達は相当に疲れていたので、なるべく自分達では戦いたくはないと思っていたのだった。

ワインを飲み干したエールは、瓶を床に叩きつけるように投げ捨てた。
ガチャンと瓶の割れた音が響く。

 イ・ガード「よろしくお願いします魔王どの!
  今こそ魔王のなんたるかを、浅ましいゾンビどもに見せ付けるときです!」

イ・ガードの言葉に答えるように、エールは腰に下げた棍棒に手をかけ、勢いよく引き抜いた。
するとその体が棍棒を抜いた時の遠心力に耐えられぬかのようにフラフラと泳いでしまう。それでも何とか体勢を整え力強く言った。

 エール「りォォォオオオオオイ!
  からってくぉーー、ヒック!!」

完全に呂律の回っていない言葉が響くと、ゾンビ達が一斉に踊りかかってきた。

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