凪いでいた風がそよそよとふき出し、サラの青いポニーテールがサラリと流れ、キラキラと光を反射した。

ここは天空の城の庭。
石畳を突き破って生える草木。
24時間、雨が降ろうが雪が降ろうが消える事のない不思議な青白い炎。
どれを取っても不思議に満ち溢れたこの古代の遺跡であるが、サラはもっと気になるものを見つけていた。

 サラ「あの小さな塔、どうやって行くのかしら?」

この城にアルスト達と住み始めてからもうかなりの時間が経っている。
全ての部屋を回り、全ての通路も知っている。

だが、あの離れた場所に浮かぶ小さな塔に繋がる道は、サラの記憶の中のどこにも無かった。

そうして一人物思いにふけっていると、後ろから誰かが近づいてくる気配がした。
振り向くと、そこには城の修理道具を持ったオラグが居た。

 オラグ「こんなところでなにしてるだす?」

 サラ「あの塔にはどうやって行くんだろうと思って…」

サラが離れた場所に浮かぶ塔を指して言うと、オラグは意外そうな顔をした。
そして両手に持っていた修理道具を下ろすと、すぐ横にある魔方陣を指して言った。

 オラグ「そこにある魔方陣に乗れば行けるだす。知らなかったんだすか?
  オラ、昨日あの塔の雨漏りを直しただよ」

 サラ「え?この魔法陣って飾りじゃないの?
  一度乗った事あるけど、その時は動かなかったわ」

この天空の城には、他にも空間を移動する仕掛けは沢山ある。
サラはその全てを試しており、一度ここの魔法陣にも乗ったのだが、うんともすんとも言わなかったためただの飾りなのかと思っていた。

 オラグ「乗ったときに、ふんって気合入れるだすよ。オラは昨日そうやっただす」

 サラ「そ、そうなんだ。気合が足りなかったのね……」

 オラグ「うんだす。
  じゃあオラはもう行くだす。昨日壊れた床と壁と食器棚を直すんだすよ。
  あとサラ、今度からアルストを殴る時は、なるべく何も壊れないようなところに殴り飛ばして欲しいだす」

 サラ「…あれはアルストが…」

サラは言い訳を言おうとしたが、オラグは修理道具をもって忙しく去ってしまった。

 サラ「アルストが悪いのに」

それでもサラは、自分も悪いのだろうと分かっていた。
アルストを戒めるために殴るとき、いつも力の制御ができなくなってしまうのだから。

 サラ(そんな事よりも)

と、サラは気を取り直して魔方陣を振り向き。
おもむろに魔方陣に乗った。

オラグのいう事が正しければ、これであの小さい島へ行けるはず。
……なのだが、全く何も反応がない。

サラは魔方陣をポンポンと叩いたり、もう一度勢いよく飛び乗ったりして魔方陣を起動させようと色々試した。

 サラ(動かないじゃない!なんで?!)

そこでオラグの言葉が頭の中で響く。

 オラグ《乗ったときに、ふんって気合入れるだすよ》

 サラ(気合、やっぱり私には気合が足りないのね)

そしてサラは気合やら何かの力やらを込めて魔方陣に語りかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

夢中で魔方陣を動かそうとするサラに、誰かが背後から近づいて声をかけた。
恥ずかしいところを見られてしまい、ぎこちなく振り向くサラであったが、近づいてきた人物を見るやいなや素早く背に背負った剣を手にとって身構えた。

 サラ「なんでこんなところに居るのよ!
  クソオヤジ!」

白い鎧に身を包んだサラの父親は、自らの娘に剣を向けられても動ずる事なく答えた。

 サラ父「お前を連れに来た。急がねばならなくなったのでな」

 サラ「なによいきなり!
  なんでそう自分勝手なの!?絶対帰らないから!」

 

 

 

 

サラの怒号が城内部まで響き、城の修理に取り掛かろうとしたオラグがそれに気付いた。

 オラグ(またアルストが何かしただすか!?)

サラがまたアルストを殴って城が破壊されるかもしれない、と思ったオラグは修理をほっぽり出して外に飛び出した。

 

 

 

 オラグ「サラ?!」

外に出たオラグは、グッタリとしサラの父親に担がれたサラを見て動揺した。

 サラ父「orogか」

サラの父親は、無造作にオラグに手をかざした。
するとオラグの体が2〜3秒間振動でもしているかのようにブレた。

気分が悪く、立っていられない。
オラグは自分が何らかの魔法を受けたのだと理解した。なんとか踏ん張ろうとするも、体から力が抜けてしまう。
抗いきれぬ力の前に、あっけなくオラグは膝を突いた。

 オラグ「な、何者だすか……サラを…どうする……」

 サラ父「蛆虫に伝えよ。ヴィルヴァリンで待っていると」

ぼやけてゆく意識と視界の中で、その声だけはオラグの耳にしっかりと残った。

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