城内にまで響く奇声を聞きつけ、茂羅乃介は天空の城を飛び出した。
するとそこにはオラグが倒れており、甲高い声はオラグの近くからなおも響き渡る。

 ???「茂羅乃介どん!オラグが倒れてゴザルよー!」

 茂羅乃介「何があったのですか?蜘蛛悟郎どの」

何の規則性もない語尾を聞き、茂羅乃介は奇声の正体がリンの相棒でハエ取り蜘蛛の蜘蛛悟郎であると理解した。

 蜘蛛悟郎「知らないザマス!ワスが来た時にはもう倒れてけつかったんや!」

茂羅乃介はうつぶせに倒れたオラグの巨体をゆさゆさと揺さぶり声をかけたが、オラグには何の反応も無い。

 茂羅乃介(特に外傷は無い。が、完全に気絶させられている。
  オラグどのほどの大男をどうやって…)

とりあえず誰かを呼ぼうと立ち上がると、エールが城の外へと飛び出してきた。
エールも蜘蛛悟郎の奇声を聞きつけたのだろう。

 エール「オラグ?オラグー!」

オラグが倒れていたのを見たエールは、目の色を変えて駆け寄り、オラグの名を呼んだ。

 茂羅乃介「あまり揺さぶってはいけません」

あまりに必死にエールがオラグを揺さぶったので、茂羅乃介がエールを制しようとしたのだが、
エールは止まらず、ただ必死にオラグの名を呼び続けた。

カイムが遺跡と共に消えてから、まだそう日は経っていない。
表面上はそんな事など気にもかけず、いつも通りに明るく振舞っているエールであったが、
その心中には、仕事を失敗し人を死なせてしまった、という負い目がやはりあるのであろう。

 エール(もう知ってる人が居なくなるのは嫌!)

エールは必死にオラグを呼び続けた。
するとその思いが通じたのであろうか、オラグは頭を押さえ苦しそうに上体を起こした。

 エール「オラグ!」

 蜘蛛悟郎「目が覚めたのん!一体なにがあったナリ!?」

 オラグ「頭がクラクラして、気持ち悪いだ…」

そしてアルストもそこへ駆けつけた。

 アルスト「どうかしたのか?」

オラグはアルストの顔を見て、何があったのかを思い出し、苦しさを堪えて事の成り行きを話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 アルスト「サラが浚われただと!?」

 茂羅乃介「一体誰に!」

アルストと茂羅乃介が噛み付くような勢いで問う。

 オラグ「なんか白い…宇宙服のような全身鎧着た人だす」

 茂羅乃介「白い全身鎧…?まさか、お館様?」

 アルスト「サラの親父か!
  上等だ!あのクソ親父!あの時の決着つけてやろうじゃねぇか!
  で、どこ行ったんだソイツは!?」

 オラグ「確か、ヴィルヴァリンで待ってるって言ってただす」

 アルスト「そんな街聞いた事もねぇぞ!」

誰か知らないかと、その場に居た全員は相談を始めた。
しかし、ヴィルヴァリンという場所について知っている者は居なかった。

 エール「どこかの街に行って聞いてこようよ!」

 アルスト「それしかねぇか。
  あのクソ野郎、場所の名前だけじゃなく地図も置いてけってんだ」

アルストが悪態を吐いていると、背後からか細い声が聞こえてきた。

 リン「あの…私知ってます」

か細い声で言ったのはリンだった。
いつの間にやら階段の影に隠れていたリンが、気まずそうに歩み出る。

リンは最近ずっと塞ぎこんでおり、ほとんど部屋から出てこなかったのだが、騒ぎを聞きつけて様子を伺っていたのだろう。

 アルスト「マジでか!」

体調が悪いのだろうか、リンは青白い顔をしている。

 リン「はい。首都の北にある遺跡です」

 アルスト「よし!!それだけじゃよく分からん!
  この地図に場所書いてくれ!」

リンはアルストが懐から出した地図を受け取り、ヴィルヴァリンの場所を書き記した。

 アルスト「ここか!」

 茂羅乃介「王よ、私も共に参ります」

茂羅乃介はアルストを王と呼ぶ。
ドレモラには嘘をつくという習慣がなく、アルストが「自分はこの世界の王だ」と言った嘘を真に受けてしまっているのだ。

 リン「私も…行きます。私も行かなきゃならないんです。
  ……
  そう、だよね?蜘蛛悟郎?」

なぜか自身なさげに目を反らし、リンは蜘蛛悟郎に意見を求めた。

 蜘蛛悟郎「……」

蜘蛛悟郎が答えるのを待たず、先にエールがリンを止めに入った。

 エール「リン、駄目だよ。顔色もよくないし、きっと危ないよ?」

 アルスト「うむ。そう心配するなリン。
  世界最強の俺が行くんだ。
安心して待っていろ」

実はアルストは剣を持つと強いのだが、その事はここに住む便利屋の誰にも知られてはいない。
便利屋の面々が知るアルストの実力とは、棒を装備し、ゴブリンに負けないけれど(HPは高いままで打たれ強いから)勝てない程度の実力だった。

 オラグ「そうだすよ。危ない事は任せて、オラたちと一緒に留守番するだ」

 アルスト「お前は来い」

 オラグ「嫌だす」

アルストとオラグが行く行かないと言い争う中、リンは蜘蛛悟郎を見つめてもう一度問うた。

 リン「私も行かなきゃならないんだよね?
  だって、私は…」

リンが言い終える前に、蜘蛛悟郎はピョンピョンとリンの頭に飛び乗って言った。

 蜘蛛悟郎「違うとばってん。そうじゃないっぺ。
  きっと……今のままじゃ変身してもパワーがでないんぞなもし。
  大切な事を忘れてしまっているっち」

 リン「大切な事…?」

 

 

 

 

ヴィルヴァリンへ行く事になったのは、アルストと茂羅乃介とオラグの3人に決定した。
3人はすぐに出発し、城にはエールとリンが残った。

リンは虚ろな表情をして空を見上げている。

 リン(どうすればいいの?私は今までどうしていたの?今までとどう違うの?
  大切な事って、分からないよ蜘蛛悟郎。
  前は分かってた気がするのに。それはきっと言葉じゃない大切な事。
  分からなくなっちゃった、テツヲ君……)

そんなリンの暗い雰囲気を横目で見ていたエールは、サラの事を心配しているのであろうと思い、リンを精一杯に励ました。
だが、どんなに励ましてもリンは作り笑いしているだけで、心ここにあらずである。

エールは、またこの前の仕事の時のように、友達にさえも、自分では何もしてやれないのだと思い、泣きたくなった。

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