そもそも国政は
国民の厳粛な信託によるものであって
その権威は国民に由来し
その権力は国民の代表者がこれを行使し
その福利は国民がこれを享受する
我輩は「メメリカ合衆国」大統領、バラク・オバマ゙である。
3ヶ月ほど前、我々はここヴィルヴァリンという遺跡を、浅ましい山賊の手から解放し、偉大なる国家、メメリカ合衆国を建国した。
だが突然の国家建設は、代表者を誰にするかで揉めに揉めた。
そこで我々は解決策として、民主制度を導入する事とした。
その時にはまだ国として機能もしていなかったし、民主制はタムリエル大陸でも希有な構造であるが、
代表者を決めるにあたって多数決で決めるというのは問題解決の一番有効な手段だと判断し、導入する運びとなったのだ。
1人一票の投票権を持ち、多数決で国の代表者たる大統領を決める。
その試みは見事に成功し、混乱は収まった。
メメリカ合衆国は平和で国民の笑い声の絶えぬ、よき国家となる事ができたのだ。
だが、今まさにその平和は脅かされ、我が国民が窮地に陥っていた。
アルスト、茂羅乃介、オラグの3人は、サラの父親が向かったと思われる遺跡、ヴィルヴァリンへと到着した。
ヴィルヴァリンも他のアイレイドの遺跡と変わらず、地上部分の遺跡は朽ち果てている。
入り口を探そうと辺りを眺めていると、誰かの悲痛な叫びが聞こえてきた。
オバマ゙「ショージィィィイイイイイイ!!
何があったのだショージイイイイイィィ!!」
アルスト(そういや街道をパトロールしてたガードが、ヴィルヴァリンには山賊が住み着いたとか言ってたな。
誰か襲われてんのか?…丁度いいな)
アルストは茂羅乃介とオラグを連れだって、声のする方へと歩いた。
声の主は、遺跡の入り口らしき場所でなにやら喚いていた。
やはり山賊のようだ。
硬い鱗に覆われた肌、目は大きくギョロっとしていて、するどい牙が並ぶ口。
山賊は1人の、トカゲのような特徴を持つアルゴニアンという種族だった。
アルゴニアンの山賊は、死亡しているらしき仲間の山賊の亡骸に気をとられ、アルストたちには全く気付く様子もない。
アルスト「おい、お前。
お前らか?この遺跡を根城にしてる山賊ってのは?」
オバマ゙「な、なんだ貴様ら!ここは我がメメリカ合衆国の領土であるぞ!
ハッ……!貴様らか!?
我輩の愛する国民を!ショージ・ワシントンをこんな無残な姿にしたのはあああああ!!」
山賊は怒りに任せてアルストに詰め寄った。
アルスト「俺らじゃねぇよ。でもま、ソイツを殺した奴に心当たりはある」
オバマ゙「なんだと!誰がやった!?
ハッ……!そうか!
貴様の知り合いだなああああああ!!」
アルスト「知り合いってほどじゃねぇよ。さっきから耳元でうるせぇな。
ソイツに合いたきゃ遺跡の案内をしろ。お前、ここを根城にしてる山賊だろ?」
オバマ゙「山賊ではない!我輩は栄光のメメリカ合衆国大統領バラク・オバマ゙であるぞ!」
アルスト「…なに言ってんだコイツ…おい、茂羅乃介」
アルストが目で合図をすると、茂羅乃介は剣を抜き放ってオバマ゙の喉元に突きつけた。
アルスト「大統領だがなんだかしらねぇが、さっさと遺跡を案内しろ山賊。
俺は急いでんだ。
それとも、あの世に案内してもらいてぇのか?」
その言葉に答えるように、茂羅乃介はさらに剣を突き出し、オバマ゙の喉にピタリとあてた。
剣先から伝わる冷たさに、全身が凍えたようにオバマ゙は身震いし、言った。
オバマ゙「お、お、おのれ!いったい何者だ貴様!」
アルスト「俺がこの世界の王で、史上最高の英雄のアルストだ。分かったかトカゲ」
オバマ゙(どこの世界に剣で脅してくる英雄がいるというんだ!)
脅しをかけられたオバマ゙は、仕方なくアルストたちをヴィルヴァリンの中へと招きいれた。
オバマ゙(フフ、馬鹿な奴らだ。
この大統領である我輩の作戦にまんまとかかるとは。
ここメメリカ合衆国内部には、罠がわんさと仕掛けてある。そこまでこの不届き者達を連れて行けば我輩の勝ちだ!)
オバマ゙がよからぬ事を考えている事など全く知らないアルストたちは、案内されるがままにオバマ゙の後をついて歩く。
ヴィルヴァリン内部は所々が壊れていたが、その傷跡は真新しく、今さっきできたような傷跡ばかりだった。
オバマ゙「おのれぇぇぇ。ショージを殺した者の仕業か!」
壊れた遺跡の一部に誰かが倒れているのを見つけたオラグが指差して言った。
オラグ「あそこにも山賊が倒れてるだす。サラの親父さん、おっそろしい人だすな」
オラグの指す方向を見たオバマ゙は、取り乱して死体の側に駆け寄った。
オバマ゙「り、リソカーソ!エイブラハム・リソカーソーーーー!
ああ!こっちに倒れてるのはまさか!フランクリン・ルーズベノレトオオオオオオオオ!!
なんとおおお!向こうには!・・・・!!」
オバマ゙は仲間の死体を次々に見つけ、わざわざ名前を大声で連呼している。
アルスト「うるさい奴だ」
オラグ「ちょっと可哀相だす。あのオバマ゙って人、悪い人じゃなさそうだすし」
茂羅乃介「お館様に挑んだのであれば、仕方ないことです。
それよりも急ぎましょう。
私はお館様がお嬢様になにをするつもりなのかが全く理解できません」
茂羅乃介は酷く焦っている様子だった。
彼は無口というわけではないが、いつでもポーカーフェイスであり、感情など外に出す事もなく冷静に行動していた。
だが今回は自分がサラをすぐに守れる立場に居ないためか、焦りもあらわに苛立っている。
アルスト「サラをオブリビオンに連れ戻す気なんじゃねえのか?」
茂羅乃介「いえ、それならばオブリビオンゲートを開いてお嬢様を連れて行けばよいことです。
ですが今回は、違う。お館様はお嬢様に何かをするつもりなのでしょう」
アルスト「あのクソオヤジの部下だったお前でも、その何かには心当たりも無いのか?」
茂羅乃介「見当もつきません。
ただ、お嬢様を気絶させてまで連れて行った事から、お館様には時間の猶予がなかった、と言う事はわかります」
それからも通った道を示すかのように、サラの父親とヴィルヴァリンに住んでいた山賊達との戦いの傷跡は続いた。
美しい彫刻があったであろう壁は無残にも崩れ落ち、
遺跡の内部を照らしていたウェルキンドストーンが粉々に砕け、一面光の絨毯を敷いたようになっていた場所もある。
そして、それらの破壊の傷跡と一緒にオバマ゙の仲間の死体もいくつも転がっており、
ヴィルヴァリン内部では、壮絶な戦いが繰り広げられた事を物語っていた。
オバマ゙(愛すべきメメリカ国民達よ、我輩がこの3人と侵入者を退治したら、すぐに立派な墓を建てると約束する。
いま少し、そこで辛抱していてくれ)
オバマ゙は、アルスト達3人を罠にかけようと先導していた。
オバマ゙(フフ、我がメメリカ合衆国が誇る最新式の罠、AGM-84 HARPOONまで後わずかだ。
愚かな3人組め、我らが誇る兵器技術の前に屈するがいい)
先導して歩くオバマは、先ほどから笑いを堪えるのに必死だ。
オバマ゙(ここだ。ここにAGM-84 HARPOONが仕掛けられている!
奴らではあの巧妙に隠されたAGM-84 HARPOONを始動させるトラップに気付く事すらできまい!
さぁ引っかかれ痴れ者ども!
そして後悔するのだ!このオバマ゙大統領に刃を向けた愚かさを!)
そのとき、茂羅乃介が何気なく言った。
茂羅乃介「王よ、お気をつけください。
そこにブービートラップがあります」
見ればアルストの足元に、縄がピンと張られている。
アルスト「おっと、ひっかかっちまうところだったぜ」
アルストは縄をヒョイっと飛び越え、罠を回避した。
オバマ゙(き、気付かれたああああああああ!)
必殺の罠を回避され、オバマ゙が顔を真っ青にして後ろを振り向いた。
すると、ブチっという音が響く。
オラグ「あ、踏んじまっただす」
アルスト「馬鹿かああああああああ!!」
オバマ゙「馬鹿めえええええええええ!!」
アルストと茂羅乃介は急いで伏せ、オバマ゙は喜色満面で叫んだ。
真っ暗な天上から、何か巨大な影が出現し、勢いよく迫る。
アルスト、茂羅乃介、オバマ゙の3人は素早くその場に伏せていたが、
遺跡探索など経験がなく、ましてや罠にかかった事のないオラグはその場にボーっと突っ立っていた。
アルスト「馬鹿伏せろ!」
罠にかかった時の対処法は、取り合えず伏せるかその場から離れる、だ。
それらの行動を即座に取れば、回避できる罠もある。
だが、反射的に行動できなければ、罠はすぐさま牙を剥くだろう。
天上から現れた影の正体は、とんでもなく大きな丸太だった。
優に直径2メートルは超える巨大な丸太は、太いロープに天井から吊るされ、
振り子の原理で勢いをつけ、ブービートラップがある辺り、オラグが立っている場所めがけて飛んできた。
当のオラグは突然目の前に巨大な丸太が出現した事で驚き、判断力を無くしてなにも出来ずにいる。
丸太の重さにロープがギイギイと悲鳴を上げて、グングンと速さを増す。
アルスト達の頭を上を、丸太はブオンと風を切って通り過ぎた。
風圧だけで体が浮きそうになる。
それほどの勢いのついた丸太は、ついにオラグにぶつかった。
重くのししかかるような轟音と、大量の水が弾けるような音が響き、すぐ後にはパラパラと細かい破片が雨のように降り注いだ。
オバマ゙(見も凍るようなこの轟音!素晴らしい威力だAGM-84 HARPOON!
残るは2人、どう料理してくれようか……って、なぜだあああああ?!)
アルスト、茂羅乃介、オバマ゙の3人は、地に伏せたままオラグの居た場所を眺めていた。
ただでさえ暗い遺跡の中は、爆発でも起こったのかというくらいに煙に包まれ、見通しが悪くオラグの姿は確認できない。
しかし不意に、なぜか遺跡の奥から風が吹き、煙が押しのけられた。
AGM-84 HARPOONという、丸太の罠が直撃したその場所に、オラグは居た。
オラグ「いってえだ〜〜!罠にかかっちまっただ〜」
目算でも1dはあろうかという丸太、直撃を受ければ無事に済む事などありえない筈の罠。
そんな罠にひっかかった筈のオラグは、ピンピンしていた。
アルスト「お、お前無傷とかマジでか……。
いや、俺の雑用係としては当然の事だな」
オラグは両手を突き出して、防御の体勢を取っていた。
その足元の地面は、派手にえぐれている。丸太を防御したときの衝撃が地面に伝わったのであろう。
オバマ゙(って、なにが防御だ!
俺が大統領っていう設定守って、おとなしく我輩とか言ってたら無茶苦茶やりやがってクソがあああ!
死ぬだろ!あんなの当たれば普通死ぬだろ!
防御したからダメージが減った!?ふざけるな!
防御とかそういうの関係ないレベルだろ!
なんでアイツはピンピンしてるんだよ畜生おおおおお!)
オバマ゙はついに怒りもあらわに、心の中でキレはじめた。
オバマ゙(元々コイツら変なんだよ!
ちょっと前に気付いたけどアイツなんてドレモラだし、罠にはまってもピンピンしてる大男はorogなんじゃないか!?
舐められないように平静装ってるけど、普通の山賊ならどっちか一匹居れば逃げてるぞ!
ああクソ、こんな事になるんなら仲間内でメメリカとか、そういうのやるんじゃなかった…
大統領とか言ってミエ張らずに、コイツらが普通じゃないって気付いたときに逃げとけばよかった…そうすれば…)
アルスト「おい……おいオバマ゙!
なに伏せたままキレたり泣いたりしてんだ。さっさと奥に行く道教えろ」
殺されるのが怖くて心の中で愚痴を言い、つかの間の現実逃避をしていたオバマ゙は、アルストの声で現実に引き戻された。
ゆっくりと立ち上がり、服についた埃を払い、アルストに振り向く。
その表情は、先ほどまで現実逃避していた男の暗い影は微塵もなく、何かが吹っ切れたのか、ただただ自信に満ち溢れていた。
オバマ゙「よろしい。我輩が案内しよう。
そう、我輩は希望あふれるメメリカ合衆国大統領。逃げも隠れもしない」
アルスト「…うむ。
逃げたり隠れたりしたら殺すしな」
オバマ゙(やっぱりなああああああああ!いま今逃げてたら俺死んでた!ナイス判断、俺!
こうなったら侵入者とコイツらを引き合わせてから、隙を見て逃げてやる!)
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