腐臭のただよう風通しのよい墓所。
それが、オバマ゙の言うヴィルヴァリンの最深部であった。

 アルスト「誰もいねぇ」

墓所に注意深く入り、中を探し周ったが、サラの父親はどこにも居ない。

 茂羅乃介「嘘か」

サラの身を案じる茂羅乃介は、苛立ってオバマ゙に視線を投げる。

 オバマ゙「う、嘘ではない!
  本当だ。本当にここがメメリカ合衆国の最深部なのだ!」

疑いの目を向けられて、うろたえるオバマ゙。

 オバマ゙(本当にここが一番奥なのに、なぜ誰も居ないんだ!?
  せっかくコイツらを罠にかけようとした事は運良くバレずに済んだっていうのに、このままじゃ疑われてしまう!)

そしてオラグが大きな体を屈め、ビクビクと辺りを眺め回しながら墓所に入ってきた。
ここにサラの父親が居ると思って、怖がっているのだろう。

 オラグ「だ、誰も居ないだすか…?
  なら、ここでサラの親父さんはオブリビオンゲートを開いて、オブリビオンに帰ったんじゃないだすか?」

 茂羅乃介「それならば私が気付くはず。
  ゲートを開けば、オブリビオンの空気も辺りに立ち込めますので」

 アルスト「クソ、どこに行きやがったんだあのクソオヤジは!」

アルストの声が墓所に木霊した。
音の反響は強く木霊し、ここが行き止まりの部屋であるという事を指し示す。

と、そこへ罠の部屋でもあった風がまたしても吹いた。
あの時は、オラグに当たった巨大な丸太の、細かい煙のような破片と埃のせいで気付かなかったが、
この風にはとても嫌な臭いが混ざっていて、この墓所に充満する腐臭は、この風が運んできているようだった。

 アルスト「クッセ!
  なんなんだよこの臭い」

墓所の中の腐臭が濃くなって、アルストは顔をゆがめて鼻を摘んだ。

 茂羅乃介「この臭い……リッチの薬釜の臭いのようですが」

 アルスト「リッチ?あのめんどくせぇモンスターのか?」

リッチとは、アンデッド系の最上位に位置するモンスターの事である。

アンデッドとは言うが、完全に死んでいるわけでもなく。
モンスターとは言うが、生物学上ではリッチはモンスターではない。

自らにあらゆる呪術を施し、永遠のテーマを追求するために永遠の命を得た結果、人ではなくなってしまった者がリッチと呼ばれるのだ。

その思考は既に人のものではなく、自分の研究の為には何でもする危険な存在。
あらゆる魔法に精通し、アンデッドモンスターを召還して人を襲い、死体または生きたままで人体実験を行うものが多い。

自分の為だけに生きる彼らは、モンスターだけを襲うものもいるが、それでも例外なく危険な存在であり、
シロディールの冒険者たちはこの危険なモンスターの巣には近寄りたがらない。

 オラグ「ヒィィ!リッチがここに隠れてるだすか!?」

 アルスト「お前はもっとシャンとしろ、オラグ。
  …にしても、こんな地下に風か。どう思う茂羅乃介?」

 茂羅乃介「…隠し通路があるかもしれません。先ほどの風は向こうの棺の辺りからでした」

風が吹いてきたという方向を茂羅乃介が指すと、またしても風が吹いた。
風が吹いてくるのは茂羅乃介が指す方向と同じ。

アルストたちはこの墓所に隠し通路があると確信し、あちこちを調べて回った。

 

 

 アルスト「ここから風は吹いてんだけどな」

風は間違いなくこの壁の隙間から吹き出ている。が、どこにも隠し通路を開放するスイッチのような物は見当たらない。

 アルスト「オバマ゙、お前本当に何も知らんのか?」

 オバマ゙「う〜む。
  この部屋には、メメリカ合衆国が出来た後にウィリアム・ハリンソが住んだが、ハリンソはその後すぐに行方不明となっていたな。
  だがその後はこの異臭もあって、誰も近寄ろうとはしなかった。よって我輩は何も知らない」

 アルスト「ふ〜ん。仕掛けを探すのもめんどくせぇな。
  おいオラグ。この壁をぶっ壊せ」

 オラグ「オラが?でも、もしこの壁のすぐ向こうにリッチが居たら…」

 アルスト「いいからやれ。お前のパワーなら余裕だろ」

 オバマ゙(いまだ!奴らの注意があの壁に向いた!)

隙をつき、オバマ゙はその場から逃げ出そうと踵を返した。

その彼の目に、何かのモニュメントが写った。
それは墓所の中央の台座の上に置かれた、一風変わったモニュメントだった。

 オバマ゙(あれを持って行って金にしよう。
  仲間もいなくなって、金もないからな)

そろりそろりとオバマ゙はアルスト一行から遠ざかり、モニュメントを手にした。

台座からモニュメントが離れると、後ろからゴゴゴという重い音が響く。

 オラグ「ギャアアアアアア!!」

続いてオラグの悲鳴と、体の芯に響くゴォンという重い音。

驚いたオバマ゙が振り向くと、オラグが隠し通路の扉を破壊していた。

 茂羅乃介「今、開きそうになったように見えたのですが」

 オラグ「す、すまんだす。
  いきなり動いたからビックリして壊しちまっただ。って、この血は一体なんだすか!?」

隠し扉のすぐ向こうには、血だまりができていた。

 アルスト「知らん。まぁ開いたんだからいいだろ。
  で、お前はそこで何やってんだオバマ゙?」

オバマ゙は手にしたモニュメントを見て一瞬苦い顔をし、アルスト達の方へと歩きながら言った。

 オバマ゙「い、いやその……そう。我輩がこの難解なる謎を解き、その扉の仕掛けを動かしたのだ。
  その堅牢な隠し扉の鍵は、これだ。
  我輩は栄誉あるメメリカ合衆国大統領。どんな隠し扉も我輩の前には開けっぴろげのようなもの」

オバマ゙は少し動揺しているようだった。

 アルスト「変わった彫刻だな。アイレイドのか?
  それよこせ。後で売って金にする」

アルストは、オバマ゙が持っていたモニュメントを、ひったくった。

 

 

 

 

 

隠し扉を抜けた先は、息苦しいほどの異臭が充満していた。

部屋の中央には何かを祭る台のようなものがあり、そこには死体が寝かされている。

 オバマ゙「ぬおおおおお!?ハリンソ!!ウィリアム・ハリンソオオオオオオオ!
  なぜこんな所にいいいいい!?」

例によってその死体はオバマ゙の仲間のものであったようで、オバマ゙は例によって死体に縋り付いて喚きちらした。

 オラグ「こ、こ、これはもしかしてリッチの仕業だすか?もう帰りたいだよ…」

 アルスト「よく考えろオラグ。
  ここまで来るのに、サラのクソオヤジはオバマ゙の仲間の山賊を、皆殺しにしてたんだぞ?
  だったらリッチも、もうクソオヤジが倒してるんじゃねぇか?」

 茂羅乃介「お館様はきっと、向かってくる者を破壊していたのでしょう。
  ですがこのリッチの場合は、見ての通り研究材料が人のようですので、ドレモラであるお館様には襲い掛かっていないかもしれません」

 オラグ「じゃ、じゃあリッチ居るだすか!?
  もういやだす!アルスト〜、オラもう帰るだすよ!?」

ウェルキンドストーンに照らし出された薄暗い部屋の中を、一陣の風が吹きぬけた。
鼻をつく異臭を纏うその風には、怪しい霧までもが混ざり、部屋の中は臭う霧に包まれていった。

 ???「ウィンガ〜ディアム〜レヴィオ〜サ〜」

お経のような、音のような声のような何かが耳にへばりつく。

視界の悪くなったところに謎の音が聞こえ、オラグは恐怖のあまりにその場に縮こまり、目を赤く点滅させた。

 アルスト「うおおお!?やべぇ!
  オラグ待て!こんな視界の悪い状態でキレるんじゃねぇ!」

オラグは恐怖や怒りが頂点に達すると、目が赤くなり、その血のように赤い目に映る全てのものを無差別に攻撃しようとする。
その事を知るアルストは、オラグの肩を掴んで揺さぶり、正気に戻そうと試みた。

なんとかオラグを正気に戻すと、霧が晴れて部屋の見通しがよくなっていった。

見れば、オバマ゙のすぐ横にリッチが立って、耳にへばりつく不快な声を発している。

 オバマ゙「…!!
  お前かあああああ!ハリンソを殺したのはああああああ!!」

突如として激昂したオバマ゙は、両手斧を持ち、意外な身軽さでリッチに斬りかかった。
この男、サラの父親の事はもういいからとにかく逃げようと思ったり、仲間を殺したのはお前かと激昂したりと、よく分からない男である。

オバマの斧が風きり音を唸らせてリッチに向かう。
リッチの体が青く光ったが、それ以外は全くの無防備のままオバマ゙の斧を体にうけ、
弾力性もある硬いものが当たったような、ゴツッという音がして、オバマ゙の斧は止められた。

リッチの手がオバマ゙にかざされる。魔法を使うつもりのようだ。

オバマ゙はすぐにリッチの体を蹴り、反動を利用して距離を取った。
だが、リッチの手からは構わずに稲妻の魔法が放たれ、眩い稲妻は絶縁体である空気を掻き分けるように、ジグザグと標的に迫る。

オバマ゙は後ろに飛んだ不安定な姿勢のまま、手から両手斧を離し、横っ飛びに飛ぶ。
稲妻は両手斧に吸い寄せられるように当たり、バチバチと斧を焼き、焦げ臭い匂いが辺りに漂った。

意外な事にオバマ゙は戦い慣れしているようだ。

 茂羅乃介「王よ、どうされますか?」

 アルスト「オバマ゙が始めちまったし、元から逃げる気なんかねぇ。
  茂羅乃介、お前とオバマ゙でブチ殺せ。俺はオラグ連れてちょっと引っ込むからよ。
  オラグがキレたら、リッチなんか比じゃねぇほど厄介だからな」

オラグは目こそ赤くなってはいなかったものの、頭を抱えて体を小刻みに震わせている。
彼はいつ感情が爆発してもおかしくない状態であったが、事情を知らない茂羅乃介は、それがどういう事なのか理解できなかった。

しかし、アルストをこの世界の王と思い込んでいる茂羅乃介は、王が言うのだから何か大変な事なのだろうと解釈し、頷いて肯定の意を示した。

アルストはオラグを立たせると、隠し通路を戻ってその場から離脱した。

 

茂羅乃介は、稲妻を避けるために投げた武器を拾えず、リッチの魔法を避け続けるオバマ゙に加勢した。

稲妻を受け、まだ熱の残る斧を拾い上げ、オバマ゙に投げてよこすと、手の平をリッチに向けた。
茂羅乃介の体中を走る刺青のような不可解な模様が光り輝き、魔法の詠唱が省略され、手の平から炎の玉が迸る。

炎を受けたリッチは、オバマ゙だけに向けていた注意をそがれて、後ずさる。

 オバマ゙「ドレモラの君、感謝する」

リッチと戦う間に少しは頭が冷えたのか、オバマ゙の口調は大統領らしきそれに戻っていた。

 オバマ゙(防御の魔法で武器が効かない!アルストとオラグって奴はどこに行ったんだよ!?
  ああ、素直に逃げればよかった…)

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