リッチの出現した部屋の次の部屋には、大きな薬釜があった。
薬釜は火にかけられており、中では異様な液体がグツグツと煮え立っている。これがこの遺跡に充満する異臭の元のようだ。
アルストはすぐに近くの水場から水を汲み、汲んだ水を壷を熱している火にかけて消火し、異様な匂いを発する薬釜に蓋をした。
それでも匂いがすぐ消える事はなく、一行は鼻を摘んだまま話し始めた。
アルスト「で、なんでこんな所が水に浸かってるんだ?」
アルストは先ほど水を汲んだ場所を指して言った。
そこは完全に水没していたが、階段が作られており、奥に進む階段はそこにしか無い。
茂羅乃介「ここの近くに川が流れていました。遺跡が老朽化したせいで、水を遮る壁が崩れ、浸水してしまったのでは?」
ドレモラでも臭いものは臭いらしく、茂羅乃介も鼻を摘みながら言った。
オバマ゙(これは、逃げるチャンス!この水路を通れば、奴らは追って来れないはず!)
オバマ゙「そういう考えもあるだろう。
しかし冒険者達よ、これもアイレイドの作った隠し部屋への秘密の通路である、と言うことも考えられるのではないだろうか?
そこで提案だ。
我々アルゴニアンは神の寵愛を一身に受けるがゆえに、水中呼吸が可能である。我輩が潜って……」
オバマ゙が話す、まさにその時。
通路を満たす水がブクブクと泡立ったかと思うと、勢いよく空中に舞い上がった。
水中で爆発でも起きたかのように、大量の水が一行に襲い来る。
オラグは恐怖のあまり側の壁を壊し、その向こうにあった通路に身を隠した。
水の噴出はすぐに治まった。
が、次には突風が水の無くなった通路の先から吹き出した。
この風が水を噴出させた張本人で、度々遺跡の奥から吹いていた風の正体なのだろう。
ビショ濡れになった一行は、しばらく呆然としていたが、思い出したようにアルストが言った。
アルスト「よし、オバマ゙行け。何があるか見てこい」
オバマ゙「ことわる」
アルスト「なんでだ!お前水中呼吸ができるんだろ!?」
オバマ゙「またあの風が吹いたら危ないだろ!…あ。い、いや…
我輩は、前途あるメメリカ合衆国大統領。
もしも我輩が君たちのような冒険者なら、この溢れる勇気をもって、大いなるアイレイドの謎に挑んでいるだろう。
しかし我輩は、悠久なるメメリカ合衆国大統領。もはやこの身は我輩だけのものではなく…」
アルスト「あー分かった分かった、もういい。
それにしても、なんであのリッチはこんなところで火を使ってたんだ?これじゃすぐに消えちまうだろ」
それは当然の疑問であった。
だが、今の今までこの部屋は水浸しではなかったのだ。きっと魔法か何かを使っていたのであろう。
水が噴出しきった通路は、またすぐに水を湛えた。
これでは、この通路を通るのは不可能だ。
オラグ「アルストー!こっちにも道が続いてるだすよー!」
崩れた壁から顔を出してオラグが言った。
そこは先ほどオラグが我を忘れて壊した壁で、確かに奥の方へと通じる通路が延びていた。
アルスト「よくやったオラグ。そんじゃこっち通って行くか」
水没し、突風の吹き上がる通路を通るのを諦め、一行は奥へ奥へと進んでいった。
先へ進むにつれて空気が重くなり、息苦しいほどになっていく。
茂羅乃介「我々が使うものとは多少性質に違いがありますが、マジ力です。
この場のマジ力濃度が高すぎて、そう感じるのでしょう」
茂羅乃介、オラグ、オバマ゙の3人は、顔色が悪くなるほどにその影響を受けていた。
アルスト「そうなのか?何も感じねぇけど」
しかしアルストだけは影響がないらしく、足取りも軽い。
脂汗を滲ませる3人を、アルストが叱咤してさらに奥へと進む。
茂羅乃介「あの部屋です」
茂羅乃介は足を止め、緊張した様子で言った。
息苦しさからではなく、緊張の汗を滲ませて。
アルストはここまで来て、アッサリと自分はここに残ると言うような事を言ってのけた。
オバマ゙(だからなんでコイツは先に行こうとしないんだよ!
一番元気なんだから戦えよ!)
オラグ「ずるいだす!オラもここで待ってるだすよ!」
アルスト「勘違いすんな。あのクソオヤジと戦うのは俺だけだ。
でもお前らは先に行け。茂羅乃介と一緒なら、いきなり攻撃されるって事もねぇだろ」
茂羅乃介「お館様を説得するチャンスをいただけるのですか、王よ?」
アルスト「……まぁそういうことだな。
ただし、5分だ。
5分経ってサラを返さねぇようなら、俺はあのクソオヤジをぶっ殺す」
茂羅乃介はアルストの言葉で納得したらしく、頷いて肯定の意を示し、
嫌がるオラグとオバマ゙を連れて部屋へと向かった。
オラグ「なんでオラまで!?」
オバマ゙「我輩は国民を殺された恨みがあるので、説得には役立たないぞ!」
嫌がる2人の悲鳴のような声が木霊す。
アルスト(そう言われれば、そうだな。
説得するんだったら茂羅乃介だけでいいし、アイツら意味ねぇや。
…ま、人数多い方が都合がいいから、いいか)
喧しく、嫌だ嫌だと連呼する2人の声も、部屋に入ると嘘のように消え去った。
部屋の中には、白い鎧を身に纏い、白い仮面をかぶった人物が居た。
だがこの人物は人ではない。
ドレモラが好んで使うデイドラ装備とは、対極をなすようなデザインの鎧を纏っているが、
その中には茂羅乃介と同じ、ドレモラであるサラの父親が入っているのだ。
そしてサラの父親の足元には、骸骨とサラが横たわっている。
サラ父「茂羅乃介か。
騒がしいのであの蛆虫が来たのかと思ったが。奴はどうした?」
ガスマスクのような仮面から、威圧感のある低く篭った声が発せられた。
オラグとオバマ゙は、ここまでの道中で見てきた屍の山と、所々破壊された遺跡の事を思い出し、
この男があの惨状を作り出したのかと、恐怖し縮こまった。
茂羅乃介「蛆虫、とは…?
いえ、それよりも、お館様。私に何の相談も無く、なぜお嬢様を?」
サラ父「……
生意気にも、死の定めの者達が我の予想より早く動いたのだ。
奴らは与えられた時が短いためか、いつでも逸る。
…デイゴンが、この地に再び現れる」
そう言うと、サラの父親は怪しく光る玉を取り出して、茂羅乃介に投げてよこした。