今回は文章のみです。次回からSSも載せます。

 

 

 

 サラ「じゃあアルスト、そういうことだから」

 エール「よろしくねー」

そう言って表情もにこやかに去ろうとするサラ、エール、リン、オラグ、茂羅乃介の楽しげな後ろ姿を見て、
アルストはふぅ、とため息をついた。

 

 

それは十数分前のこと。先日、足を折ってしまったアルストが、自室で休んでいると、
見張りの幽霊を含む便利屋全員が、なぜかアルストの部屋に入ってきて、サラが開口一番に言った。

 サラ「今からみんなでインペリアルシティに行くから」

 アルスト「みんなで?デカイ仕事でも入ったのか?」

 エール「違うよ〜。
  前におじいちゃんに氷の杖買って来てもらったよね?アイス作りたくて。
  でもうまく作れなかったから、みんなで食べに行こうってことになったの〜」

エールの言うおじいちゃんとはスケレーdのことだ。今は旅に出ていて、この城には居ない。

 アルスト「それなら俺も行く。あと2日待て。2日もあれば足が治るはずだ」

 サラ「今日じゃなきゃ駄目。
  商業区のセールが今日までなのよ。明日からはまた高くなっちゃうわ」

 茂羅乃介「それに、お館様がおっしゃったデイゴンの件もあります。
  今が差し迫った状況であるならば、用事は早く済ませるに越した事はありません。
  明日にもこの世界が戦乱に巻き込まれるかもしれませんので」

 

そしてサラがアルストに近づき、耳打ちするような小声で言った。

 サラ「エールがリンを説得して、リンも行くって言ってるのよ。
  何があったのか話してくれないから分からないけれど、最近元気ないの知ってるでしょ?
  エールだって、表には出さないけど、仕事を勝手に引き受けて失敗しちゃったって落ち込んでるから、2人に気分転換させてあげたいのよ。
  そうじゃなかったら私がインペリアルシティに行くなんて言わないわ。
  鉄拳のサラって言われるの嫌だし」

神妙な面持ちで言ったサラの向こうでは、皆がワイワイと話している。
サラの小声につられてアルストも小声で言った。

 アルスト「・・・あの2人が落ち込んでるからってのは分かるが、なんで全員で行くんだよ。
  俺は今怪我人だぞ?それも足をだ。ションベンとかどうすんだ」

 サラ「トイレって言いなさい。
  オラグや茂羅乃介もアイス食べた事無いって言ってるし、除け者にするわけにはいかないでしょ。
  でもそうね・・・見張りの幽霊は残して行くわ。元々このお城から出ようとしないし」

 アルスト「実体の無い幽霊がどうやって介護すんだよ!!」

 

 

 

 

 アルスト「まぁいいだろ。土産は必ず買ってこいよ」

なにより、元気を無くしたリンと気落ちしているエールの為ならば仕方が無い、とアルストは申し出を受け入れた。
折れているのは片足だ。杖でもあれば、歩く事はできる。

 オラグ「や、やっぱりオラも残りたいだす・・・」

orog特有の恐ろしい顔を申し訳無さそうにゆがめてオラグが言った。

 アルスト「お前は行けオラグ。ガードの2、3人でもぶっ飛ばして度胸をつけてこい」

スラっと犯罪を犯して来いと言った言葉に、リンが飛び上がって抗議をした。

 リン「ガードの人を襲うのは駄目です!」

 サラ「そうよ。アルストは黙ってて。
  
オラグ、優しいわね。アルストの事を心配して残ろうとするなんて。
  でもそんな心配はいらないから大丈夫よ」

 オラグ「そうじゃないだす・・・」

オラグは人の沢山居る場所に行きたくなかったのであろう。

 

 

 サラ「じゃあアルスト、そういうことだから」

 エール「よろしくねー」

嫌がっていたオラグも最後には折れ、皆は去っていった。

 アルスト(アイスぐらい買いに行けばいつでも食えるし、留守番でもいいか。
  足も折れちまったしな)

アルストは、起こしていた上体を勢いよくベッドに倒れこませた。
ギシギシとベッドがしなる。その音が止まると、静寂が辺りを包み込んだ。

キーンという耳鳴りが聞こえるほどの、耳が痛くなる静寂。

しばらくして、出かけてゆく皆の楽しそうな声が聞こえたが、それもすぐに消え入った。

天上をボーっと見上げて考えにふける。

 アルスト(そういやデイゴンってのも復活するんだったな。
  破壊の神として崇められてる不気味な奴だったな。確か。
  ・・・まぁ楽勝だろ。そんで復活したらその時に、この俺の力を世界中に見せ付けてやるか。
  っつーか・・・なんで復活することになったんだ?その辺全くわからねぇ。
  何千年に一度封印が解けるとか、そういうアレか・・・?)

答えの出ない事を考えるのは苦手だった。
デイゴン程度どうでもいい、と面倒になって辺りを見回す。

石の敷き詰められた壁を突き抜けているツルが、青々とした葉をつけている。
この葉はいつまで経っても枯れる事もなく、いつでもその場で青々としていた。
ツルの時が止められているかのように。

暖炉がパチパチと鳴って火がユラユラと揺れ、部屋中にできた淡い影も揺れる。
揺れた影を目で追い、視界の隅に幽霊を見つけて声をかける。

 アルスト「よう、幽霊。そういや聞いたこと無かったが、お前なんでここに居たんだ?」

頭だけで部屋中をフラフラ飛び回っていた幽霊は、アルストに声をかけられて振り向いた。

 幽霊「ペラペーラ」

 アルスト「ほほう。そうかペラペーラか。
  ・・・相変わらず、何言ってんのかわかんねぇ奴だ」

言ってアルストが笑うと、幽霊もおかしそうに笑い、満足したのかそのうちにどこかへと行ってしまった。

 アルスト(ま、そのうち日本語も覚えるだろ)

また天上を見上げる。
不思議な絵がそこには彫られていた。

天上には様々な植物と、様々な動物が、城を中心とするように描かれていた。
中心の城はこの天空の城であろう。城の真ん中には一つの大きな目が描かれ、その背後には太陽のような輝く模様。
城が光を放って植物や動物を照らし、また、監視しているかのような、不思議な絵であった。

 アルスト(師匠が言ってたが、普通こういうのには人間を描く筈らしいな。
  繁栄やら神への祈り、化け物への恐怖とか・・・後は物語だったか。そういうのは人が関わってるんだから、描くのが普通。
  でもどこにもねぇな。人間を何かに見立ててんのか?)

また答えの出ない事か、と眠る前にいつも見るその絵に飽き、目を閉じる。

そうしていれば、そのうちに眠れるだろうと思っていたが一向に眠れず、折れた足を庇いながら、杖を突いて広間まで降りた。

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