♪ 現在を乗り越えて!(オルゴール) ←FUSION WORLD様に著作権があり、無断転載、再配布は断じて禁止です。
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しきりなく鳴っていた剣戟の音が消えた。
周囲からは獣の荒い息遣いだけが聞こえる。
重く閉じられていた瞼を開き、力を振り絞って周囲を見回す。
あれほど勇ましく戦っていたインペリアルガードが全て地に伏せ、立っている者は一人としていない。
オーデンス(馬鹿な)
インペリアルガード隊長オーデンスは、悔しさに唇を噛み締めた。
奴らが現れたのは、空が赤く染まり、外を見張っていたガードからインペリアルシティが包囲されている、との情報があった後だ。
ガードからの報告があってすぐ、私は半数以上のガード達に街の防衛を指示した。
そしてインペリアルシティの外から大橋を渡って押し寄せるであろうオブリビオンの軍勢の様子を伺うと、
橋の上では既に戦闘が始まっていた。
見渡す限りを埋め尽くし、無数、と思えるほどのオブリビオンの軍勢。
それに立ち向かっていたのは、『鉄拳のサラ』と白い鎧の謎の人物、その配下らしきドレモラ4人の、計6名。
彼女らは、たった6人で無数の軍勢を橋で喰い止めていた。
そして私は迷った。
果たして、加勢に加わっていいものかと。
なぜなら彼女らの戦いは、我々の知る戦いとは次元が違っていたのだ。
白い鎧の謎の人物を除く5人が橋の上で死体の山を築き、白い謎の人物が悪夢のような魔法を放って敵のみを焼き尽くす。
離れた場所まで臭ってくる血臭。
蠢く異形のモンスター。
それは旋律を覚えるほどの、地獄のような光景だった。
それなのに鉄拳のサラたちは死体の山の上で笑っていた。破壊の領域より来たる者達を嘲笑っていた。
オブリビオンの力はこの程度か、と。
兵数はたったの無数か、と。
そんな戦いに加われる者などシロディール全土を探したとしても、彼女ら以外に居ないだろう。
だから私は迷っていた。
彼女らだけでも、なんとかなってしまうのではないかと。
例え加勢したとして、インペリアルシティを、シロディールを守るガードとしての勤めを果たせるのだろうかと。
そして私が迷っていると、街中にデイドラやドレモラが発生したと報告が入ったのだ。
その後の迅速な調査で、インペリアルシティ中心部の元老院会議堂にオブリビオンゲートが開いている事が判明し、
私は大橋の守りを鉄拳のサラたちに任せる事にし、街の防衛に回った者以外の全ガードを連れてこのオブリビオンゲート攻略に望んだのだ。
オーデンス(だが、甘かった)
オーデンスはギリリと唇を噛み締めた。彼の悔しさを表すように、唇から血が滲む。
オーデンス(我々では力不足だったのか?)
オーデンス率いるガード達が元老院会議堂のある中央区画に足を踏み入れた時には、
既にその場はデイドラやドレモラがごった返している状態だった。
彼らは勇敢に戦った。しかし圧倒的な数、それに個々の力量差に、1人また1人と倒れていった。
オーデンス(もはや残ったのは私だけか。それも半死半生の身で)
オーデンスは力の入らない腕を動かして、どこかに落とした武器を探した。
指先に硬いものが当たる。それはオーデンスの武器だった。
力が入らないまでも、柄を強く握り締めて武器を眼前に持ってくると、変わり果てた自らの武器を見て愕然とした。
柄から上が、壊れてなくなっていたのだ。
オーデンス(これでは・・・もう・・・)
一匹のデイドラがオーデンスが動いているのを見つけて、ギャーギャーと喚いた。
その声に他のデイドラやドレモラも気付き、多数のデイドラやドレモラが最後の獲物を見つけて舌なめずりをした。
そしてオーデンスへ向かってゆっくりと歩み寄っていく。
ゆっくりと迫る敵を眺めるオーデンスの目に、死した若いガードの姿が映った。
オーデンス(私の、せいだ・・・私がもっとうまく指揮できたなら)
死した若いガードを目に写したまま、オーデンスは涙を溢れさせた。
オーデンス(もっと先があっただろうに。
あいつなら・・・指揮を執る者が私でなくあいつなら、こんな無様なことにはならなかっただろう。
だが私は・・・多くの部下を死なせ、そして次には市民達が・・・)
我が者顔でインペリアルシティの土を踏みしめるデイドラやドレモラ。
オーデンスは彼らを振り向いて、睨み付けた。
そして、いつものあの言葉を叫ぼうとした。
ガードである彼らが、犯罪者に対して叫ぶあの言葉を。
しかし彼には、もうそんな力も残されてはいなかった。
オーデンス(声を出す事すらできんとは。私はなんと無力なのだ。
部下を守れず市民すら守れない。あとは殺されるのを待つだけ・・・なんと不甲斐ない)
自分は秩序を守るガードに憧れてガードになり、今まで色々な苦労も重ねてきた。
辛い訓練、寝る間を惜しんだ警備、街の近辺に出没したモンスターや山賊との戦い。
オーデンス(全て無駄だったというのか。
世界を脅かすオブリビオンの領域の前に、人は蹂躙されるしかないというのか)
目に溢れた涙が零れ落ちた。
オーデンス(ガードは、我々は人々を守る盾には力不足だというのか。
奴らの前には無力だというのか)
認められない。
だが、奴らは目前まで迫っている。自分を殺すため。
そして、我々の守ろうとした全てを破壊するために。
自分達が無力である事が認められない。だが、奴らを止められないのは、事実だった。
ポタリポタリと涙が地を濡らす。
多数のデイドラとドレモラが、オーデンスの周りに集まって、凶暴な牙を剥いた。
そしてオーデンスは諦めた。
守る事を。
自らの命を。
♪音楽ストップ
しかし、そうは問屋が卸さなかった。
オブリビオンの赤い空から、清々しい一筋の光が漏れて、スポットライトのようにオーデンスを照らし出した。
そして、何者かの大声が辺り一面に轟いた。
ガードであれば、誰もが叫ぶあの言葉。
オーデンスが叫びたくても叫べなかった、あの言葉。
全てに待ったをかける、魔法の言葉が轟いた。
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???「スタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァップ!!!!!!!!!!」
悪事を働く全てに響くその声は、デイドラやドレモラの動きを停止させた。
攻撃中だった彼らの中には、空中で止まってしまった者も居る。
オーデンス(空中で止めるとは!なんというマンストッピングパワー!!
これほどのスターップは見た事がない!)
上を見上げれば、オブリビオンの空を切り裂いて青空が垣間見えている。
そこからガード鎧をつけた何者かが舞い降りる。
???「そこまでだオブリビオンのクソ侵略者め!もう誰一人として私の目の前で市民や同胞に手を出させはせんぞ!
さぁ今すぐ殺されるか、今すぐ自殺するかを反射的に選べ!」
オーデンス(殺されるか、自殺するか選べ!?
なんてことだ!どっちにしても結局死ぬ!!
いや・・・それよりもあの顔、あれはアダムス・フィリダ!生きていたのか!)
天から舞い降りてきたのは、遺跡と共に行方不明となっていたアダムス・フィリダ(カイム)だった。
オーデンス「アダムス!アダムス・フィリダ!
生きていたのか!」
???「アダムス・・・フィリダ?
それは私の事か?」
オーデンス「?・・・そうだが?」
空から舞い降りてきたのは、背格好、顔立ちからも間違いなくアダムス・フィリダ。
アルストによって、カイムというあだ名を付けられたガード隊長。
エールと共に調査に行った遺跡で、遺跡もろとも何処かに消えてしまい、死亡したと思われていたあのアダムス・フィリダに間違いない。
???「それは人違いだ」
だがアダムスは違うと言った。
オーデンス「な、何を言ってるんだ。私の事を覚えているだろう?」
???「知らん!
我が名は『カイム・アラゴナー』!
ガード神なり!」
アダムス・フィリダは、自らをカイム・アラゴナーと名乗り、何を血迷ったか自らをガード神と言った。
そもそもガード神などこの世に存在しないので、彼が勝手にそう思い込んでいるだけだろう。
なぜ彼がそんな勘違いをしているのか。
それはエールと共に行った遺跡で、遺跡と共に消失した事が原因だった。
実際に彼は消失したわけではなく、遺跡と一体化してしまったのだ。
そして記憶が失われ、近くに居たエールがそれに巻き込まれた。
そこでエールは、聞こえてくるアダムス・フィリダの声に向かって、こう叫んでしまったのだ。
カイム・アラゴナー!
と。
そしてアダムス・フィリダは勘違いした。自分は『カイム・アラゴナー』という名前だと。
ガード神の件は不明だが、きっと彼のガードとしての誇りだけは残り、
それがあまりに大きかったために自分はガード神なのだと勘違いしたのだろう。
オーデンス「カイム・アラゴナー?私の事も知らんだと?
まさか記憶喪失!?」
カイム「確かに私には記憶が無い。
だが、これだけは分かる。
私はカイム・アラゴナー!
その名はXbox360のゲーム、ロストオデッセイの主人公、千年の時を生きる不死身の男と同姓同名!
私はガード神!
全てのガードを統治する、偉大なる秩序の番人!」
オーデンス(違う!違うぞ!アダムス!
お前はアダムス・フィリダ。インペリアルシティガード隊長だ。
なぜ・・・!
なぜ記憶喪失のクセにロストオデッセイとか知ってるんだ!)
そしてカイムはもう一度叫んだ。
ガードのガードたる由縁のあの言葉を。空に向かって。
ストップしたデイドラやドレモラは、まだ止まっている。
カイム「スタァァァァァァァアアアアアアアアアーーッップ!!」
その声は、インペリアルシティを越えて、シロディール中に響き渡った。
カイムの声を聞きつけた各街のガード達は、それだけで全てを察知した。
そして、信じられない速度でインペリアルシティへと駆けつけた。
外はオブリビオンの軍勢に囲まれているはずなのに、彼らはここに駆けつけた。一瞬で。
オーデンスの体にも活力が漲った。
自分の体の感覚を確認しながら立ち上がる。
すると横で死んでいたはずの若いガードも立ち上がり、カイムと同じように「スターップ」と叫んだ。
オーデンスが辺りを見回すと、倒れ伏していた他のガード達も立ち上がって叫んでいる。
あの言葉を。
悪事を働けば必ず聞こえるあの言葉を。
力強く、真っ直ぐに。
スターップと。
全てはカイムと融合した遺跡の力。
与える遺跡は与えたのだ。
全てのガードに守護の義務を。
だから彼らは立ち上がる。
何度でも。
だから彼らは立ち向かう。
神にも悪魔にも宇宙人にさえも。
だから彼らは現れたのだ。
助けを必要とする者の前に。
もう絶望などとは言っていられない。そうは問屋が卸してはくれないのだ。
カイム「敵はあの建物の中にあり!
ガード達よ!我に続け!
奴らの生命活動を根こそぎスタップしてくれる!」
カイムが元老院を剣で指して言うと、集まってきたガード達は雄叫びを上げて応えた。
建物の中からデイドラやドレモラが躍り出る。
だがそれ以上の数のガード達がワラワラと集まってきて、敵をあっという間に踏み潰した。
これこそがガードの真骨頂。
彼らは犯罪者を超能力者のように察知し、抵抗する者には容赦なくその剣を振るう。
しかし、怖いのはその後だ。
彼らとの戦いに集中していると、いつの間にやら多人数に囲まれているのだ。
背後からは矢が何本も射掛けられ、正面と両横から斬り付けられる。
彼らは集団戦のプロフェッショナル。
例え敵が野ウサギであったとしても、彼らは集団で囲むだろう。
しかしそれを卑怯などとは言えはしない。
なぜなら彼らの敵は、平和を脅かすモノ以外にありえないのだから。
そして元老院会議場は、無数のガードに包囲された。
カイムが門の前に立ちはだかって剣を掲げ、叫んだ。
カイム「感じる!感じるぞ犯罪の気配を!
全軍突撃!全ての犯罪を踏みにじれ!
我らはガード!守護する者!
そして!
攻撃こそ最大の防御なり!」
シロディールにある全てのガードがここインペリアルシティに集結し、
カイムに率いられた者はオブリビオンゲート攻略へ、
他の者は街の中に発生したオブリビオンの軍勢の排除にかかった。