♪ 凍てつく眼差し ←これも使ってはいけませんよ?聴くだけならおk
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空中で体勢を立て直し、もう一度魔剣を構えたスケレーd。
魔剣の先に見える真っ二つのデイゴンの体は、みるみるうちに崩れ落ちて行った。
ストームプリンガー「やべー。
やべーぞスケレーd」
魔剣ストームプリンガーが何かを感じ取り、スケレーdに警告を発した。
デイゴンの体があった場所の地面が盛り上がる。
盛り上がりはメキメキと音を立てて3〜5mほどの山にまで成長した。
そしてその中から低い音が聞こえてきたかと思うと、山が横に膨らんで破裂した。
泥が辺りに跳ね散る。
そして山の中からは、デイゴンが本当の姿で唸り声を上げながら現れた。
魔神の周囲の空間が、その圧倒的なマジ力に捻られて、ヒビでも入っているかのように揺らぐ。
スケレーd「これがデイゴンの正体か」
ストームプリンガー「そんな事より、やべーんだヨ
アイツ・・」
ストームプリンガーが何かを言いかけたが、
デイゴンが巨体にも関わらず風のような速さでスケレーdへと迫り、炎を吐いてその言葉は轟音に掻き消された。
炎をヒラリと避けたスケレーdへ、今度はデイゴンの巨大な腕が迫り来る。
魔剣を構えて腕を受けたが、刃が当たったはずのデイゴンは傷つかずにスケレーdが弾かれた。
勢いのついたまま地面が迫り、危ういところで体を返して激突を避けて着地し、距離を取った。
スケレーd(なんという力と速度。
マトモに攻撃を受ければひとたまりもない)
スケレーdが体験したデイゴンの攻撃は、とても原始的であった。
殴るにしても、ただ腕を振っただけ。
そこに技術は微塵も無く、ただただ力に任せたものだった。
そんなものは、魔法にも魔剣にも頼らずに剣技のみで空間を切り裂く程の修練を積んだスケレーdには、
軌道を読む事も、いつ攻撃が来るのかも簡単に見切る事ができた。
しかし、それでもスケレーdは、自分が追い詰められていると感じていた。
なぜならデイゴンの力と速さは、技術を無意味にする程に凄まじいのだ。
攻撃が来るタイミングが分かっても、あまりの早さに一手遅れ、
正しく攻撃を防御したとしても、あまりの力に吹き飛ばされてしまう。
ストームプリンガー「オイ!スケレーd!」
ストームプリンガーが大声を上げた。デイゴンはまたしても正面からスケレーdへと突っ込んでくる。
ストームプリンガー「やべーんだヨ!
デイゴンの魂はデカすぎるんだヨ!あんなデカくちゃ喰えネー!
胃にはおさまるけど、デカすぎて口に入らねーヨ!」
魔剣が騒ぎ、デイゴンが口から炎を吐いた。
スケレーdは魔剣を振るって風を巻き起こして炎を避け、一息にデイゴンの目の高さまで飛び上がる。
このタイミングなら避けようもあるまい。そう信じて魔剣をデイゴンの額目掛けて突き出した。
しかし、破壊の魔神の反応速度は、やはりとんでもないものであった。
間違いなく攻撃が当たった。
そう確信した刹那、デイゴンの一撃が炸裂し、スケレーdの方が地面に激突して転がった。
スケレーdは土煙の中で、魔剣で力の入らなくなった体を支えながら立ち上がろうとしている。
スケレーd(痛みを感じぬこの体でも、ダメージを受ければ動かしにくくなるのだな。
・・・痛み、五感か。せめて五感があれば・・・
デイゴンの気配は強大すぎる)
骨だけのスケレーdには、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の、本来人に備わっているべき五感が無い。
常人ならば、目も見えず耳も聞こえず、自分が立っているのか座っているのかさえ分からないだろう。
ではどうやってスケレーdは周囲を見渡し、声を聞き分け、敵の場所を見極めているのか?
それは、気配だ。
スケレーdは修行によって極限まで感覚を研ぎ澄まし、全てのものの気配を感じ取り、
周囲にあるものを色に至るまで見分け、空気の震えを感じて音を聞き分け、人の発するそれぞれ特有の気配で個人を見分けている。
だが、今はそれが仇となっていた。
本来ならば細胞の一つ一つに至るまで理解するスケレーdの見切りは、
デイゴンの強大な気配と殺気によって乱されているのだ。
あまりに大きく強烈なため、近寄るとデイゴンは大きな球体のように見えてしまい、強烈な気配に呑まれて周囲の状況すらも分からなくなってしまう。
スケレーd(ストームプリンガーもデイゴンの魂はどうする事も出来んようだし、
このままでは八方塞だ)
ズシンズシンと地鳴りのような足音でデイゴンが歩くのが聞こえた。
スケレーdの周囲は、まだ彼が地面に激突した時に上がった砂煙で覆われている。
スケレーd(この距離ならば攻撃も見切れる。
しかし、避けているだけではらちが明かん)
デイゴンが炎を吐こうとしているのを感じ取ったスケレーdは、その隙を突こうと土煙の中から飛び出した。
同時にデイゴンが炎を吐く。
スケレーdは魔剣を空中で振って風を起こし、炎を反らせた。
そしてデイゴンへと肉薄すると、強大な気配の中に入って、スケレーdには何も分からなくなった。
スケレーd(位置ならば覚えておる!ここだ!)
デイゴンが居るであろう場所に向かって、スケレーdは魔剣を振るった。
だが、デイゴンの力と速さは、何も見えない状態で何とかできるほど甘いものではなかった。
魔剣を振ろうとしたスケレーdに、デイゴンの一撃が炸裂し、彼はまたしても地面へと激突した。
ストームプリンガー「こりゃヤベー。
おいスケレーd。お前が死んだら魂は俺が喰ってやるからナ」
やれやれと言うふうに魔剣が言ったが、それに応答できない程にスケレーdは焦っていた。
スケレーd(全く通用せん。
体も、もはや動かんか・・・)
五感の無いスケレーdは痛みなど感じていないが、立ち上がれもしない事から、ダメージは深刻なのだろうと思った。
そこへデイゴンが地を揺らして走り寄り、動けないスケレーdを蹴り付けた。
スケレーdはボールのように飛び上がり、慣性のままに空中を舞った。
スケレーd(これが、デイゴン。破壊のプリンスか。
またワシは、約束を守れんのか)
宙を舞って地面に激突したスケレーdは、立ち上がろうとしながらも指にはめた指輪に意識を集中した。
スケレーd(すまん・・・ジュリエット・・・
ワシは、ワシはお前との約束を、何一つ守る事が出来ん・・・)
ジュリエットと交わした約束は、2つ。
1つは、遠い昔に交わした約束。
いつの日か、2人の家を建てて一緒に住もう。君を必ず幸せにしてみせるから。
そう言って2人で誓ったやさしい小さな、それでも大きな意味を持つ約束。
だがその約束は果たせぬまま、スケレーdはジュリエットの元を離れ、修行に疲れて力尽きた。
2つ目は、骨だけとなって生き返り、古巣の家へ帰ったときに夢の中でジュリエットと交わした約束。
あれが本当にただの夢なのか、彼女が魔法で見せた夢なのか、それは分からない。
だが、肝心なのはそんな事ではなかった。
ジュリエットが言ったのだ。
世界を守って欲しいと。
そして約束した。
世界を守ると。
1つ目の約束は果たせなかった。だから、必ずその約束は守ろうと思っていた。
骨だけの体で永遠の時を生きようとも、この世界を、彼女との約束を守ろうと思っていた。
だが、現実は厳しかった。
デイゴンを止める事は、無理だったのだ。
スケレーd(ワシの力などこの程度か・・・
だが、まだ諦めん。せめて最後まで。
力尽きるまでは)
魔剣の柄をいっそう強く握り締めて、スケレーdは立ち上がった。
スケレーd「例えワシが力尽きても、残った者達がお主を倒すだろう。デイゴン」
デイゴン「本当にそう思うか?愚かだな。
貴様を壊した後、朕はまた小さな破壊を作り出す。それで終わりだ。
このちっぽけな国も、この星すらも」
デイゴンが炎を吐いた。
スケレーdは魔剣を構えようとした。が、両手はピクリとも動かない。
スケレーd(一太刀も入れられんのか・・・
後は頼んだぞ。
天空の城で共に過ごし、今インペリアルシティで戦い続ける我が仲間達。
そして・・・アルスト。頼んだぞ)
スケレーdは両手をブラリと下げ仁王立ちしたまま、デイゴンの吐いた炎の中へと消えて行った。