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なぜ?なぜ、この世に蘇ったのだろう。
スケレーdは炎に包まれながら考えた。

自分は確かに死んだ。
深い森の中、何十年にも渡る修行に疲れ果てて。

 スケレーd(蘇ったとしても、出来る事など無かったというに。
  なぜワシは…)

それは生きているときから、ずっとそうだったのかもしれない。
ずっと、ただ自分の為に生きていたような気がする。

自分を満足させるため、強くなろうと決意して生まれ育った町を捨てて旅に出た。
人を助けるでも、何かを成そうというでもなく、ただ自分の為に。

ジュリエットに出会ってからもそうだ。
彼女と過ごした時間は、とても安らかで幸せだった。
しかしいつしか彼女が強くなる為の障害になるのでは無いかと思い、一度は彼女を置いてまたどこかへ旅出とうとした。
自分の為に。

だが彼女は着いてくると言って聞かなかった。
それは嬉しかった。
だから彼女と一緒に旅に出た。
これもまた、自分の為に。

そして約束をした。
いつか一緒に暮らそうと。
そして決意をした。
彼女を幸せにしてみせると。

だがそれは、やはり自分の為だったのだろうか?
きっとそうだ。
なぜなら自分は、彼女の父親に反対されただけで、簡単に彼女を捨てたのだから。

そしてまた修行をはじめた。
彼女を忘れるために。
長い年月、人里を離れて。

その果てにあったのは、孤独な死。

体が動かなくなって、声も出せずに死んでゆく。

とても恐ろしかったのを覚えている。

最後に思い出したのは、ジュリエットの顔。

 スケレーd(なんと都合のいい男か。
  自分が捨てた女に最後は縋ったのだ。忘れる事も出来ず)

それから年月が経ち、唐突に生き返った。
その町で赤ん坊だったアルストを引き取ったのだ。
これも、やはり自分の為だろう。

 スケレーd(独りが寂しかったのだろう。
  死があまりにも孤独で、恐ろしかったがために)

そして、彼女とやさしい時を過ごしたあの家で、ジュリエットと再会した。

そこでまたしても自分は、彼女と約束を交わした。

彼女は言っていた「世界を守ると約束して」と。

自分はこう返事をした「約束しよう」と。

 スケレーd(出来もしない事を…のうのうと。
  ワシのような情けない男にそんな事が出来るはずは無いというに)

 

 

 

スケレーdは胸を締め付けられるような痛みを感じた。

 スケレーd(心が痛む…
  約束を破るような卑劣なワシでも、心が痛む。
  そんな価値も無いはずなのに。
  辛い……こんなにも辛いのならば早く消え去ればいい)

後悔の果てで、スケレーdは諦めた。

だが彼の心はいつまでも消えず、かわりに周囲が眩しくなるのを感じた。
そして、声が聞こえた。

ジュリエットの声が。

 ジュリエット「私は信じてる。
  あなたは約束を守ってくれるって」

 スケレーd「!?」

周囲は眩しい光に包まれて何も見えなかったが、ジュリエットの声は止むことなく言った。

 ジュリエット「1つ目の約束も、あの時は破ったと言ったけれど、本当はあなたは破ってないと信じてる。
  私は信じてる。あなたが全てを守ってくれる事を」

 スケレーd「ジュリエット!どこにいるんじゃ!?」

 ジュリエット「私はジュリエット。でも、私はジュリエットじゃない。
  私は、指輪に封じられたジュリエットの信じる心。
  私は信じてる。
  だから、ジュリエットも信じてる」

 スケレーd「ワシは嘘つきじゃった。
  約束を1つとして守れず、あっけなく2度目の死を迎えた。
  ジュリエット……ワシは、信じる価値も無い様な男じゃ」

ジュリエットの声は、優しく全てを包み込むようにして響く。

 ジュリエット「あなたはなぜ蘇ったの?
  あなたはどうやって蘇ったの?
  思い出してスケレーd。
  あなたが思い出したその時に、あなたに託した指輪に封じられた1つの奇跡が起きるから」

 

そしてそれからジュリエットの声は一切響いてこなかった。

 スケレーd(なぜ、どうやって蘇った……?
  なぜ……?)

そう考えて、いの一番に浮かぶのはあの顔だった。

何十年にも渡る修行でも記憶から消えなかった、あの顔。

死の間際まで瞼に焼き付いていた、あの顔。

あの、まぶしい笑顔。

 スケレーd(ジュリエット)

そうだった。

だから帰ってきた。

約束を果たすため。

ただ一つの約束、それを果たすために。

何の力も借りず、自分の力だけで蘇ったのだ。

♪音楽ストップ

 

 

 

 

スケレーdが居た場所を眺めてデイゴンは鼻を鳴らした。

 デイゴン「フン。灰も残らぬか」

地面は高温の炎で焼かれたためかガラス状になっており、
オブリビオンの赤い空を映し出して、まるで赤い血だまりのようになっていた。

そしてデイゴンはこの戦いに終止符を打たんと、反物質を精製するため右手に意識を集中した。
しかしその集中は、真っ白に輝く光によって乱された。

 デイゴン「何事だ?」

光は赤い血だまりのような地面から発せられていた。
そしてその光の中から、ストームプリンガーを持ち、変わった服に身を包んだ1人のノルドが歩み出た。

 デイゴン「貴様、骨だけの者。
  朕すら知らぬ魔法を用いて、ノルドの肉体を得たか」

 

 

骨だけの者。それはつまり、スケレーdの事だ。
スケレーdは自らの体を眺め回し、手の感覚を確かめるように何度も握りなおして言った。

 スケレーd「これは…ワシの体。
  朽ちた筈のワシの体。
  …そうか……ジュリエット。
  奇跡は確かに受け取った」

スケレーdは魔剣ストームプリンガーを構えた。

 ストームプリンガー「なんか知らネーけど……
  やっちまえスケレーd!もう俺は腹ペコなんだヨ!!」

 

 

 

 デイゴン「馬鹿め。
  体を得たとして何になる?
  相変わらず貴様からはマジ力の欠片すら感じられぬ。
  魔法を用いずして、この朕を倒せると思うたか」

スケレーdはまたしても1人でデイドリックプリンスの1人、デイゴンへと立ち向かった。

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だが、もう恐れなどどこにもない。

 スケレーd(1人?いや、1人ではない。
  ストームプリンガーが居る。
  ジュリエットが見守ってくれている。もうワシは何者にも負けはせん)

魔剣を構え、一息にデイゴンへと斬りかかる。
強大な気配にはもう惑わされない。

目が見えた。音が聞こえた。肌が敵の動きを感じ取った。

デイゴンの疾風のような攻撃を紙一重で避け、最短距離で自らの剣が届く距離へ。
そしてスケレーdがその剣技を振るった。

 

その剣は、不可能を可能にするための技だった。

スケレーdがジュリエットを忘れるために磨き上げた技。
彼にジュリエットを忘れるなどと言う事は不可能なのだ。

その剣は、そんな彼にとっての不可能を可能にしようと磨かれ続け、
ついに、今この瞬間に不可能を可能にしようとしていた。

デイドリックプリンス、魔神デイゴンを倒す。

それは1人の人間の力だけで出来る事ではない。
神々の力を借りてやっとできる事。
だがスケレーdは、魔法も魔剣の力も借りず、ただ自分の鍛えられた肉体と技のみでそれを可能にしようとしていた。

 

約束を果たすため。

ただその為だけに、彼は不可能を可能にしようとしているのだ。

 

魔剣が唸りを上げてデイゴンを切り裂く。
血飛沫が舞ったが、すでにその場にスケレーdの姿は無かった。

 ストームプリンガー「おお!?なんかイケるんじゃネーカ!?」

 スケレーd「……」

スケレーdは、既にデイゴンから少し離れた場所へと移動していた。

 スケレーd「ストームプリンガー。お主はデイゴンの魂が大きすぎて喰えんと言っておったな?」

 ストームプリンガー「あ〜胃には入るケド…そうなんだよナァ…
  口に入らねー感ジ……」

 スケレーd「ならば、魂を斬って一口サイズにしてしまえばいいだけの事」

その言葉を聞いたデイゴンは、斬られた傷を押さえながら言った。

 デイゴン「魂を斬るだと!?
  朕に手傷を負わせた程度で図に乗るな常命の者めが!
  そんな事は神と崇められる我らデイドリックプリンスにも不可能な事!
  出来るとすれば、我らを創り魂まで創造した真なる神のみ!
  魔法も使えぬ貴様には、出来よう筈もない!」

 ストームプリンガー「そうだぜスケレーd。
  俺でさえ魂をエネルギーに換えるのには時間がかかるってのにヨ」

憤るデイゴンと呆れた様子のストームプリンガーに向かって、スケレーdは当然の事のようにこう言った。

 スケレーd「魂を斬るのに、魔法など必要ない」

 

 

 

スケレーdとデイゴンの両者の間に、緊張が張り詰めた。

 デイゴン「朕は破壊を司る者!
  朕こそ破壊!」

緊張の糸を切ったのは、デイゴンの怒号であった。
デイゴンが右手を高く掲げると、破壊の音が鳴り響き、周囲に浸透する破壊がもたらされた。
また反物質を精製し始めたのだ。

 スケレーd(相変わらず隙だらけだ。デイゴン。
  力だけに頼った貴様の攻撃など、見切るまでも無かったな)

スケレーdも魔剣を構えた。
そしてデイゴンが反物質を放とうとした瞬間に、スケレーdの姿は元居た場所から消え去った。
デイゴンの手の内にあった反物質と共に。

 デイゴン「??」

デイゴンがスケレーdを探して辺りを見回した。

 スケレーd「こっちじゃ」

スケレーdは、いつの間にやらデイゴンの真後ろに移動していた。

 デイゴン「おのれ!また空間と共に破壊を斬り裂いたか!」

 スケレーd「それだけではない」

 デイゴン「なに!?」

デイゴンの体からは、赤い蒸気のようなものが立ち上っている。

 

 

 

 デイゴン「なんだと?
  ……!?」

 

 

一陣の風が吹きぬけると、デイゴンは真っ赤な霧となって何処かへと飛んで行ったかのように思えた。
だがその足元には、スケルトンらしき物が立ち尽くしている。
そしてそのスケルトンが言った。

 デイゴン「な、なんだこれは!?白骨化しているとはこの事か!?
  朕はこんな骨格ではない!」

 

 

 

 

 

 スケレーd「これこそが骸骨剣最高の技。その名も骸骨剣。
  感謝するがいい。
  骨格は作り変えておいてやった」

 デイゴン「よ、余計な事を…!!
  だが、この魂ある限り朕は何度でも…!!」

そしてストームプリンガーが大ハシャギを始めた。

 ストームプリンガー「キターーーー!!
  デイゴンの魂の刺身ダーーーーー!!」

魔剣から怪しい闇が立ち上り、デイゴンへとまとわりつく。

 デイゴン「魂を斬ったというのか?
  よさぬか魔の物!朕の魂を喰らうでない!!」

 

 

デイゴンの叫びも虚しく、魔剣ストームプリンガーはデイゴンの魂を平らげた。
するとデイゴンの骸骨の体は力無く崩れ落ち、大地へと転がって動かなくなった。

 

 

それからすぐに赤いオブリビオンの空が、いつもの空へと戻って行った。

橋の上で便利屋たちと戦っていた巨大ロボットも、空が元に戻ると何処かへと飛び去り、
遠くでざわめいていたオブリビオンの軍勢の喚き声も徐々に弱まって行き、ついには完全に消えた。

そして世界は懐かしき夜空をたたえ、それを待ち構えていたかのように虫達の大合唱が始まった。

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