天空の城から出発した便利屋の一行は、
ファストトラベルというゲームシステム的な魔法を用い、まっすぐにインペリアルシティを目指した。
大きな川に囲まれたインペリアルシティと陸とを繋ぐ巨大な橋を仰ぎ見て、エールが感嘆の声を漏らした。
エール「やっぱりこの橋が一番大きいよね〜」
リン「うん」
大きな川の中にあった島そのものに、頑丈な壁で区切られた区をいくつも内包した都市を建設し、
二本だけの橋を架けて構成されるこのインペリアルシティは、まさに難攻不落の城塞都市の様相を呈していた。
サラは橋の遥か向こうに見える正門を眺めた。
サラ(この橋がまた長いのよね。
ホント、どうやってこんな大きな橋を架けたのかしら)
橋を渡りきって急な坂を上がると、ついにインペリアルシティの正門が見えた。
正門の前にはガードが2人居て、表情もするどく見張りの番をしている。
見張りのガードを見つけたオラグは、縮こまりながら歩いた。
以前来た時のように、orogだからといわれのない文句をつけられると思ったのだろう。
その様子を見た茂羅乃介は、オラグを心配して声をかけた。
茂羅乃介「どうかなさったのですか?」
オラグ「・・・オ、オラ・・・前にアルストと一緒に来たとき、門番に文句言われて止められただ。
きっとガードは・・・インペリアルシティのみんなはorogが嫌いなんだすよ・・・だからバレないようにしてるだ」
顔を手で隠し、消え入りそうな声でオラグがそう言った。
茂羅乃介「それならば、問題無いでしょう」
オラグ「へ?」
茂羅乃介「あなた方orogという種族は、確かに、私の記憶でも他の種族と仲良くしていた事がありません。
ですが、orogもこの世界の人である事には違いないでしょう?
ですから、問題ありません。
もしも何か言われるような事があったとしても、それはドレモラの私に関する事です」
ドレモラという種族の茂羅乃介は、そう言ってオラグを励ました。
ドレモラはこの世界の人ではなく、この世界を破壊しようとしているオブリビオンの住人だ。
現在はクヴァッチという街を襲い、壊滅させたとしてシロディールでは悪名高く、それでなくとも元よりこの世界の人々とは対立している。
だから真っ先に何かを言われるとしたら自分であり、オラグに被害は及ばない、と茂羅乃介は言いたかったのだろう。
オラグ(それは、大丈夫って言えるだすか・・・?)
臆病なオラグは、そんな励ましで警戒を解くはずもなく、更に縮こまって門番の前を通り抜けようとした。
仏頂面のガード達に近づくと、オラグの鼓動が早くなる。
オラグ(き、気付かないでくれだよ・・・オラがorogだって・・・)
手で顔を隠して指の隙間からチラチラとガードの様子を伺うオラグ。
オラグ(?
夏でもないのに、この2人凄い汗だす)
門番の2人の顔は、滝のように流れる汗でびっしょりと濡れていた。
便利屋一行に目の前を横切られようとしている門番2人は、動きたくても動けなかった。
なぜならそれは・・・
門番1(間違いない!あの大男はこの間のorog!その横に居るのはドレモラ!?)
門番2(そ、そして・・・先頭を行く、子供と小人の2人と楽しそうに話すあの女は・・・
鉄拳の・・・サラ!!)
という感じで凄まじい恐怖に囚われていたからだ。
門番2人は途方も無いプレッシャーを勝手に感じ、額どころか顔全体から汗を噴き出させ、鼻水まで垂らしている。
門番1(クッ・・・!なぜだ・・・!?なぜ、あんな凶悪パーティーに子供と小人が・・・・!?
い、いやそれよりも、これは大事件だ!
鉄拳のサラが仲間を集め、このインペリアルシティに入ろうとしている!)
この事を早く隊長に、とある遺跡で死亡したアダムス・フィリダの後任の隊長に知らせなければ!と、思う門番達だったが、
結局彼らは便利屋達が通り過ぎるまで動く事すら出来なかった。
横を通り過ぎようとする、手で顔を隠したオラグの指の隙間が黄色く光るのを見つけた門番1は、
黄色く光るそれがオラグの目だと分かり、背筋が凍るような感覚を覚えた。
門番1(ヒィィィ!
か、確実に・・・!なにか・・・なにかを企んでいる!!
視線を隠し、ひそかに私を観察し・・・なにかを企んでいる!なにかを!!)
そうして勝手にプレッシャーを受けていた門番の居る正門を抜けた一行は、タロス広場地区へと入った。
目的の商業地区はここからエルフガーデン地区を抜けた先にある。
茂羅乃介「大丈夫だったようですね」
オラグを励ましていた茂羅乃介も、実際に止められたらどうしたものか、と少し不安だったのであろう。
軽い安堵のため息と一緒にそう言った。
サラ「大丈夫って?」
茂羅乃介「はい。
私がドレモラであるため、門番に止められるのではないかと、オラグどのと話していたのです」
サラ「ああ、そう言われればそうね。
他の街にはじめて行った時は必ず止められてたけど、今回は止められなかったわね」
リン「きっとここが首都だからですよ。首都の人は心が大らかなんです」
塞ぎこんでいたリンも、少し元気を取り戻しているようだった。
皆と出かけるのははじめてであるし、やはり楽しいのであろう。
エール「うんうん。きっとそうだよ〜」
ワイワイと楽しそうに商業地区へ向かう一行は、全く気付く事など無かった。
街の人々からの奇異な視線、ガード達からの畏怖に。
商業地区に着くと、サラがとある商店で立ち止まり、皆に言った。
サラ「ここがよさそうね」
エール「・・・?
サラ、アイス売ってるのはここじゃなくて、錬金術のお店だよ?」
サラが立ち止まったのは、宿屋の前であった。
サラ「もちろん知ってるわ。
でもアイスは後。その前に宿をとらなきゃね」
エール「・・・!
もしかして、今日はお泊り!?」
サラ「そうよ。せっかく皆で来たんだから、ゆっくりしたいでしょう?」
思いがけない提案に、エールとリンは飛び上がって喜んだ。
そしてすぐに宿を取った便利屋一行は、喜び勇んでインペリアルシティの観光へと出かけていった。