インペリアルシティの鍵は、簡単に開錠できるようには出来てない。
むしろその構造は複雑で、開けるのは困難を極めるはずだ。
事実、この囚人達を投獄するインペリアルプリズンが出来てから今まで、たった一人として脱獄が成功した試しはないのだ。
それには警備の厳重さもあるが、一番の障害は、やはりこの鍵のおかげであるはずだった。

しかしアルゴニアンのオバマ゙は、その鍵を苦もなく開けて、今まさに硬い石畳の通路をコツコツと足音を響かせて歩いている。

 オバマ゙「ここはもしや、噂に聞いた監獄のインペリアルプリズンかね?」

オバマ゙は仲間が全滅し、ヴィルヴァリンも壊滅したというのに、まだ自分の事を大統領だと名乗り、
それらしい言動を演じているようだった。

 囚人15「そうだが、そんな事は今はいい!
  オバマ゙!俺の顔を覚えてるな!?前掛けの野党団のストーだ!
  俺のとこから盗んだ宝剣を返しやがれ!」

どうやらここに捕らえられている多数の囚人たちは、オバマ゙に何かを盗まれた経験があるようだ。

 オバマ゙「やはり。ここがインペリアルプリズンか。
  脱獄に成功した者は居ないと恐れられていたが、
  その輝かしい経歴も、このメメリカ合衆国大統領オバマ゙のピッキングにかかっては形無しのようだ」

 囚人16「テメェ無視するな!俺から盗んだ珍味のタイヤキを返せ!」

オバマ゙は優雅に牢獄を見て回っている。
そこへ大勢の囚人たちが盗んだ物を返せと怒鳴りつけるが、オバマ゙は気にもしていない様子だった。

 スパイダー・リン(囚人たちは悪人・・・
  そんな悪人の人達から物を盗むなんて・・・ま、まさかこの人は!
  義賊!!)

義賊(ぎぞく)とは、
貧しい者、虐げられている者らに対して、これを助けようという主義・思考を動機として違法行為・反社会的行動を行う者を言う。

もちろんオバマ゙は窃盗や強奪などの行為において得た金品を、困窮している弱者らに与えるような事はした事もないが、
悪人から物を盗む=義賊であるというイメージが強いスパイダー・リンは、彼の事を義賊だと思い込んだ。

 オバマ゙「盗まれた盗まれた、と諸君らは言うが・・・それらは盗んだ物だろう?
  ならば盗まれる方が悪い。
  ・・・そうだ。我輩はこんな事をしている場合ではなかったのだ。早く安全な場所へ避難しなくては。
  諸君らにも一応教えておこう。
  インペリアルシティは、デイドラやドレモラに包囲されている。それはもう、完全に」

 スパイダー・リン「ま、街の外にも敵が!?」

スパイダー・リンは素っ頓狂な声を上げた。
彼女は街の中だけにデイドラやドレモラが現れた、と思っていたのだ。

そして彼女を見つけたオバマ゙も素っ頓狂な声を上げた。

 オバマ゙「そ、その圧倒的な小人加減!まさかスパイダー・リン!?
  なんという小人だ・・・噂に違わぬ背の低・・・」

 スパイダー・リン「背がひく・・・!いいから!街の外がどうなっているのか詳しく教えてください!」

 オバマ゙「な、何を怒っているのだ。まさか我輩を・・・?!
  我輩は大統領であるからして、悪さなどした事も無いぞ!」

 囚人17「嘘吐け!!」

 

 

そしてオバマ゙は何があったかを話し始めた。
彼がインペリアルシティの周辺を歩いていると、突然空が赤く染まり、無数のオブリビオンゲートが開いてデイドラやドレモラが現れた。
その数はインペリアルシティを包囲してしまうほどで、インペリアルシティをグルリと周る川が無ければ、
今頃インペリアルシティは総攻撃にあっていたかもしれない。

そしてデイドラに追われたオバマ゙は、水中呼吸ができる体質を生かして川に逃げ込み、下水を渡ってこの監獄まで辿り着いたらしい。

 

 

話を聞き終わると、囚人達がまたしても騒ぎ始めた。

 囚人18「早くここから出してくれ!」

 囚人19「ここから出てもインペリアルシティは包囲されてるんだろ…?どうするんだよ?」

それでも囚人達はここから出してくれと大合唱をはじめた。

スパイダー・リンはオバマ゙に鍵を開けてくれと頼んだ。
オバマ゙は、噂に聞いたヒーローのスパイダー・リンに怪しまれるのはごめんだ、とその言葉に従って鍵を開けていった。

 

鍵が開けられると、大半の囚人達はどこかへと散り散りになって逃げてゆく。

だが中には逃げない囚人も居た。その場に残った囚人にスパイダー・リンが問いかける。

 スパイダー・リン「…?どうかしたんですか?」

 囚人20「包囲されてるんなら、どうせ逃げる場所も無いんだろ?
  それにデイドラの奴らはこの世界を破壊しようとしてるって聞いた。それは困るんだよ」

 囚人21「なんだ。お前もそのために残ったのか?」

 囚人22「アイツらに世界を壊されちゃ、仕事が出来なくなるんだよな」

 囚人23「ドレモラの武器や防具は高値で売れるぜ?」

 囚人24「なに?そうなのか。
  それじゃあ奴らをぶっ殺して、武器や防具剥ぎ取ってやれば大金持ちだな」

10人ほど残った囚人達は、軽口を叩きながら上の階に上って行く。

彼らは逃げず、戦う気のようだ。

スパイダー・リンは彼らを止めようと思ったが、止めたとしてもどこへ逃げろというのか、と思い口をつぐんだ。
囚人の1人がスパイダー・リンに声をかけた。

 囚人25「なあスパイダー・リン。なんでお前は俺達を誰1人として殺さなかったんだ?
  俺達は捕まっても、改心するようなタマじゃないぜ?」

 スパイダー・リン「そ、それは…」

 囚人26「ヒーローだからか?だからモンスターも殺さないのか?
  どうせ、ここまで来る時に会ったデイドラやドレモラも殺してないんだろ?
  元凶は殺して断っちまえばいいのによ」

 スパイダー・リン「そんなこと…」

それはスパイダー・リンが彼らを信じていたからだ。

自分にこらしめられれば彼らは改心すると信じていたからだ。
過去に戦ったクママンやゴブリンマンがそうであったように。

だから彼女は殺さない。デイドラやドレモラも。
だが、彼らは改心しないと言い切った。

それは今のスパイダー・リンにとって、今までの行いが意味のないものだったと思わせるに十分だった。
以前ならば何と言われようとも、信じられたというのに。

 スパイダー・リン(なんで私はそう思ってたんだろう。みんなが改心してくれるはずだって。
  なんで、だろう。人はそんなに簡単じゃないのに……
  なんの疑問も抱かずに…そんなこと、信じてたんだろう…?)

スパイダー・リンが答えに困っていると、彼らはそのまま何も言わずに上の階へと上がっていった。

 オバマ゙「さて…では、我輩は安全な場所に避難するとしよう」

オバマ゙も後に続き、スパイダー・リンも心にモヤモヤとしたものを抱えながら階段を駆け上った。

 

 

 

 

インペリアルシティを包んだ赤いオブリビオンの空には黒い雲が流れ、その隙間から見える赤い空のせいでヒビ割れて見える。

刑務所から出た囚人たちの手には武器が握られている。建物の中にあった物を盗んだのであろう。
デイドラやドレモラが彼らを見つけ、彼らに群がった。

1足遅れて外に出てきたスパイダー・リンは、囚人達が戦っているのを見つけると、加勢しようと走った。

 囚人27「スパイダー・リン!お前はコイツらが出てくる元凶を潰しに行ってくれ!」

 スパイダー・リン「でも!」

 囚人28「早く行け!このままオブリビオンゲートの中からウジャウジャ湧き続けられたら、体がいくつあっても足りねえよ!」

 囚人29「それに俺らは悪人だぜ?正義の味方なんかと一緒に戦えるかよ!
  なぁお前ら!」

囚人達は勇ましく戦い、群がってきた敵を倒し終えると、そうだそうだと強がった。

 スパイダー・リン(これなら、大丈夫かもしれない。それに今の私が居ても邪魔になるかもしれないし…)

囚人達が数にものを言わせてデイドラやドレモラを倒すのを見たスパイダー・リンは、彼らなら大丈夫だろうと思い、
自分は正義の味方なのだからと、彼らの言葉に従って街の中にあるであろうオブリビオンゲートへと向かう決意を固めた。

 スパイダー・リン「分かりました……でも、無理はしないでください」

そして開け放たれた刑務所区画の門を抜けて、赤く染まった街の中へと消えていった。

 

 

 

スパイダー・リンが去ってから、刑務所区画で戦い続ける囚人たちへの攻撃はいっそう激しさを増していった。

始めのうちは数にものを言わせた一斉攻撃でなんとかなってはいたが、所詮彼らは野党の集まりであり、烏合の衆だ。
しっかりと指示を出す者も従う者もおらず、徐々に劣勢となっていった。

 

オバマ゙は戦いが始まってしまった事で、刑務所の中から出られずに一部始終を門の隙間から覗き見ていた。

 オバマ゙(ああ!なにやってるんだよアイツら!
  そこだ!そこで袈裟切り……
  ま、またミスった…アイツら口だけかよ…クソ!)

最初の勢いはどこへやら。囚人達は敵の個々の強さと次々に現れる数を前にして、士気までもをそがれてしまっている。

ある者はドレモラの剣技に屈し、
ある者はデイドラにかみ殺され、
またある者は味方が誤って振るった武器の前に倒れた。

オバマ゙はその一部始終を見ていた。

彼はとても歯がゆかった。

殺された中には見知らぬ者も居る。

それでもその者が殺された事も悔しかった。

いつもなら、他人が死のうがどうしようが自分には関係無いと無視できるのに。

人にとって絶対的な敵であるオブリビオンの領域の生物に、自分と同じ世界の人々が殺される。

それは…とても悔しかった。憤りを感じた。

 

 

 

そしてまた一人が、炎の魔法に全身を焼かれて倒れた。
倒れた者はその時もう既に絶命していたが、全身の筋肉が高温で焼かれ、収縮し断ち切れて、倒れた後も踊るように体を暴れさせていた。

その暴れるような姿がオバマ゙には、悔しいと叫んで暴れまわっている、と思えて仕方がなかった。

悔しい。
他の世界の生物に負け、もう何も出来なくなるのが悔しい。

声に出せないまでも、そう主張しているのだと思えて仕方がなかった。

オバマ゙の中に、怒りがフツフツと込み上げた。
今すぐにデイドラやドレモラをバラバラに引き裂きたい、この手で。
彼の中の、この世界の生き物であるというプライドが、そう叫んだ。

♪ 見損なうなよ!  ←これも使ってはいけませんよ?聴くだけならおk
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オバマ゙は刑務所の門を力いっぱいに開け放ち、奇声を上げて他世界から来た敵へと襲い掛かった。

 

 

 

オバマ゙の斧が閃いて、デイドラ3匹が真っ二つに引き裂かれ、辺りに血飛沫を撒き散らした。
指揮を取っていたドレモラは、オバマ゙が手ごわいと見て距離を取った。

 囚人30「!?オバマ゙!
  …へっ!逃げたんじゃなかったのかよ!」

生き残っていた囚人達は、思いがけない援軍に目を向けた。
そしてオバマ゙は胸を張って宣言した。

 オバマ゙「囚人諸君!諸君らは弱すぎる!
  よって我輩が戦いの何たるかを教授しよう!
  我輩はオバマ゙!!強力無比なメメリカ合衆国大統領!!
  我輩の辞書に敗北の2文字は無い!!
  ……オブリビオンの住民諸君。
  引くなら、今だ。
  諸君らに我がメメリカ合衆国は強大すぎる。
  もしこの言葉を聞いても引かぬなら…この大統領である我輩が!直々に!力の差というものを教えてくれよう!!」

力強く宣言したオバマ゙の意味不明な言葉を受けて、囚人達はそれはなんなんだと笑ってみせた。
あっという間に彼らの士気は戻り、垣間見せていた絶望の色はない。

そして、ここまで来たらもうどうにでもなれと言わんばかりに囚人達も力強く吼え、
オバマ゙に率いられた侵略者に立ち向かう囚人達は、武器を高く掲げて他世界から来た敵へと立ち向かっていった。

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