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インペリアルシティ、植物園区画。

神を模した9つの大きな神像と、青々とした植物が立ち並ぶこの区画も、オブリビオンの脅威にさらされていた。
サラの父親と共にデイゴンをこちらの世界へと導いたドレモラのセィフュークが、集まってきたデイドラやドレモラを率いて行進する。
彼らの通った後には、無残な死体がいくつも転がっていた。

彼の目に映るのは、10人からなる逃げ遅れた人々。

 セィフューク(あの新米!ワシに恥をかかせおって!まだ気が収まらぬわ!)

新米とは、サラの父親を指した言葉だ。セィフュークはサラの父親の魔法によって投げ飛ばされた事に憤慨している様子だった。
一歩、また一歩と鬼の形相で歩み寄るセィフュークを見て、人々の表情は強張り、その体はカタカタと震え出した。

セィフュークは、本来ドレモラには備わっていないはずの感情を表に出し、ニヤリとして言った。

 セィフューク「聞け!常命の者たちよ!
  今から我らは貴様らが信奉する九大神の像を破壊する!
  だが・・・貴様らの祈る神は何もしてくれぬであろう!
  絶望せよ!そして我らに破壊されよ!」

人々の何がそんなに憎いというのであろうか、
セィフュークは話すうちにサラの父親に対するものとは別の、理不尽な怒りに駆られ、声を荒げて怒鳴りつけた。

人々はセィフュークの怒鳴り声に身をすくませている。

 人々(奴らは全てを破壊するつもりだ。我々の祈りまで。神までも)

人々の心が真っ黒な絶望に塗りつぶされて行く。

そして人々は思った。
もう駄目だ。我らの祈る神ですら我らを見捨てた。もう、この世は終わりなのだ。と。
そしてセィフュークが号令をかけ、今まさに破壊の限りがつくされようとした、

その時。

 

それは突然に響き渡った。
人々の心を塗りつぶした漆黒をぬぐわんと、高らかに誇らかに響き渡った。

 ???「そこまでだ!」

オブリビオンの軍勢と人々が、一斉に声のした方を振り向いた。

 人々「あ、あれは!?」

 人々「まさか!」

声を放った者達は、石柱の上で決めポーズを取ってオブリビオンの軍勢を見下ろしていた。

そう。彼こそ、人々を守る最後の砦。
たとえ神が見捨てても、彼らは絶対に見捨てはしない。

 人々「来てくれたのか!!」

そこに助けを求める人があれば、必ず駆けつけ助けてくれる。
彼らが引退して30年を経た今でも、そう語り継がれる伝説のヒーロー。

 人々「ウルフマン!ウルフガール!」

 

 

 

ウルフマンとウルフガールは、トウ!と同時に掛け声をかけて石柱から飛び降り、華麗に着地した。

怯える人々に優しく声をかける。

 ウルフマン「我らが来たからには、もう安心だ」

人々は、天から現れたヒーローに「いいぞいいぞ」と拍手喝采を送った。

その様を忌々しげに眺めるのはセィフューク。大地を震わせるような大声で、ヒーロー達を怒鳴りつける。

 セィフューク「誰かと思えばまた貴様らか!ウルフマン!ウルフウーマン!
  30年前の屈辱・・・!まだ忘れてはおらぬぞ!
  今日こそ貴様らを粉々に粉砕し、正義のヒーローとやらの悲鳴を堪能させてもらおう!」

そう、ウルフマン達は30年前にセィフュークと戦った事があるのだ。

 

30年前――
世界征服を目論んだセィフュークが、ここシロディールに現れた。
英雄も正義のヒーローも居なかった当時のシロディールは、圧倒的な力を持ったセィフュークによって、絶望のどん底に叩き落された。

人々は希望すらも忘れ、下を向いて生きていかなくてはならなくなり、全てが荒廃してゆこうとした時。
彼らはフラリと現れた。

ウルフマンとウルフウーマンの、2人のヒーローが。

2人はどん底の状態だったシロディールに希望と勇気を与え、セィフュークとの決戦の上で見事勝利を収めた。
そしてその後、子育ての為に30年間の間、ヒーローを引退していたのだった。

 

 

 ウルフマン「そうはいかんぞセィフューク!
  また我らが、貴様の世界征服の野望を打ち砕いてみせる!」

力強く宣言したウフルフマンを見て、セィフュークは笑い出した。

 セィフューク「クックック・・・!
  このワシがまだ世界征服をしようなどと企んでいると思うたか!
  おろか者め!この世界はじきにメルエーンズ・デイゴンによって破壊されつくす!
  ワシなど尖兵にすぎん!」

デイゴン、それは破壊の申し子。恐怖の代名詞。
その名を聞いただけで、人々の体はまたしても恐怖に震え出した。

 ウルフガール「デイゴン!?
  あの破壊の王子が復活すると言うの!?」

 セィフューク「そうだ。
  貴様らでさえ、あのお方の力の前では赤子同然であろう。
  ・・・しかし!貴様らだけはワシの手で葬ってくれる!
  ゆけ者ども!神像を破壊する前に、奴らを木っ端微塵に破壊するのだ!」

セィフュークの号令で、30からなるオブリビオンの軍勢が、2人のヒーローに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとか軍勢を退けたウルフマンとウルフウーマンであったが、流石の彼らも30もの敵と戦った直後。
疲労の色は隠せない様子だ。

 セィフューク「クク・・・流石にやりおるわ。腕は訛っておらんようだな」

 ウルフマン我らが居る限り!デイゴンの復活などさせん!」

 セィフューク「もう遅いのだ!復活の儀は終了し、後は時を待つばかり・・・
  だが貴様らだけはメルエーンズ・デイゴン復活の時を待たずして壊してくれる!
  見るがいい!
  ワシが貴様らを壊すためだけに作り上げたデイドラを!」

セィフュークは、人には聞き取れぬ言葉で呪文を唱えた。
するとその場に怪しい影が立ち上り、そこからゴーレムのようなデイドラがぬうっと姿を現した。

 セィフューク「これこそワシが作り上げた特別製のデイドラよ!
  さぁゆけ!生意気なウルフマンどもを破壊せよ!」

 ウルフマン「例えどんな敵が来ようとも!我らは絶対に負けはしない!」

 

 

2人のヒーローは、自分達の最大の必殺技である『ウルフコンビネーション』を繰り出した。
だが、その必殺技がゴーレムに命中したかと思われた刹那、ゴーレムは自分から体を崩してバラバラになった。

ゴーレムはバラバラなり、その破片は竜巻のように渦巻いて2人のヒーローに襲い掛かった。
2人のヒーローがゴーレムの竜巻に巻き込まれる。

 

 

大小無数の破片が、2人のヒーローに勢いよくぶつかり、ヒーロー達は竜巻の中でされるがままに舞い踊る。

ゴーレムの竜巻が収まると、その場には傷だらけになった2人のヒーローが倒れ伏していた。

 人々「ああ!ウルフマンとウルフウーマンが!」

2人のヒーローは立ち上がろうともがいていたが、受けたダメージがあまりに大きいため、立ち上がることも出来ない様子だった。

 セィフューク「クク・・クククククク!よくやったぞ我がデイドラよ!
  さぁ、ワシ自らが止めをさしてくれようぞ!」

セィフュークは満足そうに笑い、2人のヒーローに止めを刺そうと自身の武器を振り上げた。

 

 人々(もうダメだ!あの伝説の・・・ウルフマンとウルフウーマンまでやられてしまうなんて!)

 人々(終わった!世界終わった!もう俺達に明日はやって来ないんだ!)

人々を心がまたしても絶望の色に染め上げられた、

まさにそのとき。

 ???「ま、まちなさい!!」

それはこの辺り一帯のどこに居ても、ハッキリと聞き取れるのではないかと思うくらいに、透き通った声であった。
それはシロディールで今評判の、あのヒーローの声。

 人々「こ、この声はスパイダー・リン!?」

 人々「そうだ!そうだよ!」

 人々「まだ俺達にはスパイダー・リンが居るじゃないか!」

そしてその声は少し自信なさげな声で答えた。

 スパイダー・リン「そう。私の名前は、スパイダー・リン!
  シロディールの平和を守る・・・正義の、ヒーロー!」

その声の主はスパイダー・リン。

その名はこのシロディール地方で今話題の正義のヒーローの名である。

それは、シロディール地方のあらゆる街、あらゆる場所で、あらゆる悪が突きつけられる正義の鉄槌。

それは、絶対的な正義が振りかざされる時に響く警鐘であるはずであった。

 セィフューク「スパイダー・リンだと!?
  おのれぇぇ!またしても正義のヒーローがワシの邪魔をするか!」

セィフュークと人々は、すぐにスパイダー・リンを見つけてそちらを向いた。

スパイダー・リンは、自信なさげな表情でセィフュークを見てはウルフマン達をチラチラと見ている。

 

 

スパイダー・リンが、登場した後すぐに発見される。
それは今までに無い事であり、驚くべき事だった。

なぜなら彼女の登場シーンは、名乗り上げから、登場人物たちが必死で探して探し当てるまでなのだから。

しかしこれは奇跡や進行ミスなどではなく、ちゃんとした理由があるのだ。
この現象は、彼女が落ち込んでいる事と関係があった。

スパイダー・リンのテンションが低いと、彼女の小人属性の隠密性が極端に薄れてしまう。

それはヒーローにとってマイナスの設定であるが、キャラ設定の書かれたテキストファイルに、そう書かれているので仕方ない事だった。

 

 

 

自身なさげなスパイダー・リンは、ウルフマン達をチラチラと横目で見ながらセィフュークに言った。

 スパイダー・リン「これ以上好き勝手は・・・」

 セィフューク「黙れ!」

セィフュークは語気を強めてスパイダー・リンの言葉を遮った。

 セィフューク「貴様の如き小者がこのワシの邪魔をするというのか!
  馬鹿にしおって!貴様の如き小者!すぐに葬り去ってくれるわ!」

小者小者と連呼され、背の低い事を馬鹿にされていると思ったスパイダー・リンは、カチンと来て戦闘態勢を取った。
そんな彼女にセィフュークが武器を構えて迫る。

 

しかし相手はデイゴンの近衛士団ヴァルキナズのセィフューク。
パワーの落ちた今のスパイダー・リンに、セィフュークは過ぎた相手だった。

彼の武力はドレモラ達にすら一騎当千と称されており、全盛期のウルフマンとウルフウーマンを苦しめた猛者である。
ウルフマン達と戦ってから30年経っているとはいえ、寿命のないドレモラに衰えなどあろう筈もない。

 

強大な威力を誇る攻撃が、スパイダー・リンを捉える。
鈍い音が響き、彼女はゴロゴロと大地を転がり、力なくその場に横たわった。そして思った。
やはり自分は、正義の味方などではないと。

 スパイダー・リン(痛い。痛い。苦しい。怖い。
  やっぱりやめておけばよかった。もう嫌。誰か助けて。助けてウルフマン、ウルフウーマン。
  正義のヒーローなんでしょう・・・?助けてよ・・・)

スパイダー・リンの体に息も出来ないほどの激痛が走り、同時に自身がヒーローであるという事に対する否定の考えが浮かんだ。

セィフュークは、痛みに呻いて目に涙を浮かべるスパイダー・リンに歩み寄り、言った。

 セィフューク「なんと脆弱な。この程度でウルフマンらと同じく正義のヒーローの名を語るか。
  愚か、いや・・・身の程知らずだな。
  我が手にかかる事を光栄に思え、偽りのヒーローよ」

そして、その手に握った武器を、無慈悲にも勢いよく振り下ろした。

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