♪音楽ストップ

 

 

 

サラたちと別れたエールとオラグは、外に居るのは危険と判断して近くにあった酒場に身を隠していた。

既に酒場にはインペリアルシティ市民数人が非難の為に隠れており、
ガードの一人が彼らを守るためにその場に配置されていた。

ガードの指示で酒場のカーテンは全て閉められて薄暗く、人々は声を殺して話し合っていた。
「これからどうするんだ」「どこに避難すればいいんだ」
時が経つにつれて人々の不安はつのってゆく。

外からは時折、獣のような呻き声や人の叫び声が聞こえ、その度に緊張が走った。
それらはガード達がデイドラと戦っているのだ、と酒場に配置されたガードが説明していると、
薄暗く不気味な酒場の中に、またしてもデイドラの叫びが木霊し、人々は恐怖に慄いた。

酒場の一番隅で震えてうずくまるオラグにエールが声をかける。

 エール「大丈夫だよオラグ。サラたちがすぐに解決してくれるから」

だがオラグは呼びかけにも答えず、両手で頭を覆うようにしてうずくまって震えているだけだった。

 

 

そして、避難してから1時間ほどが経過した。

人々は話し合うのをやめ、疲れた顔で家具の下に身を隠している。
外から聞こえてくる音や声は、次第に頻繁に聞こえるようになっていった。

そして唐突に酒場の扉が打ち破られた。

薄暗い酒場の中に、オブリビオンの空の赤い色がなだれ込む。
扉を壊したのは、一匹のデイドラであった。

 ガード「スターップ!!」

ガードが引き抜いていた剣を高く掲げて扉を破ったデイドラに踊りかかった。

人々は大きな声で悲鳴を上げ、エールと体の大きなオラグが居た部屋の隅へと集まった。
そして、人々の1人がオラグに気付いて言った。

 人々1「お、お前・・・!お前まさかorogか!?」

人々1の顔は怒りと恐怖で引きつっている。その言葉を聞いて、オラグはさらに体を縮まらせた。

するとデイドラの断末魔が響き、皆は一斉にそちらを振り返った。
ガードがデイドラに剣を突き刺し、扉を壊して酒場に入ってきたデイドラを倒したのだ。

デイドラからガードが剣を引き抜くと、先ほどオラグがorogだと気付いた人々1がガードに言った。

 

 人々1「ガード!ガード!
  コイツorogだ!疫病神のorogだよ!」

人々1がオラグを指差して言った。

orogとは、orog以外の種族に忌み嫌われる存在だ。
一般的なシロディールの人々は、orogを見つけるとなんとしてでも追い払おうと躍起になる。
彼らが何もしていなくても。そこが彼らの住処であったとしても、例外なく。

 人々2「この岩のような肌・・・!本当だ!コイツorogだ!」

 人々3「疫病神め!これも全てお前の仕業か!」

人々は、オラグに罵詈雑言を浴びせた。

エールは人々の突然の変貌に驚いたが、オラグに物を投げつける人を見て、
両手を広げ、うずくまったオラグを庇うように立ち憚った。

エールには何が何だか分からなかったが、
例えどのような理由があれ、仲間であるオラグが傷つけられるのは黙って見過ごせるものではない。
キッと鋭い目で人々を睨みつける。

睨みつけられた人々は一瞬たじろぐような仕草を見せたが、
「orogを庇うなんてとんでもない奴だ」と、エールにも罵詈雑言を浴びせかけた。

 

 ガード「やめないか!それ以上続ければ全員スタップするぞ!」

見かねたガードが一喝した。

 人々1「アイツはorogなんだぞ!」

 ガード「知っている。彼がここに入ってきたときからな。
  だが、彼は何も悪さはしてはいない。あなたたちと同じようにここに避難してきただけだ。
  私はここに避難してきた者を守護するよう命じられている。これ以上続けるようなら・・・」

喋っていたガードはうめいて脚を押さえ、言葉をつまらせた。
彼が押さえている部分からは鮮血がしたたっている。デイドラとの戦いで負傷したのだろう。

 人々2「だ、大丈夫か?」

 ガード「ああ、このくらいは・・・」

なんともない。と、ガードが言おうとすると、人々1が扉の向こうを指差して叫んだ。

 人々1「お、おいアレ!」

嫌な予感が一同に走り、酒場に避難した面々は一斉に破られた扉の向こうに視線を向けた。

そこには異形の鎧に身を包み、額の辺りから2本の角を生やした者が居て、その者も丁度こちらに気付いたところだった。

 ガード「ドレモラだ!下がれ!」

ガードは鞘に収めた剣を引き抜いて、怪我を負った脚の痛みを紛らわすように大声を張り上げた。

ドレモラは武器を構えて酒場に押し入ろうとしたが、酒場から飛び出してきたガードに押し戻される格好で後退した。

剣戟の音が幾度となく繰り返される。
勇猛果敢に攻めるガードの額からは汗が流れ、一撃一撃武器を振るう毎に怪我の苦痛で顔を歪めさせた。

対するドレモラは、最も位の低い部類の者であったが、彼らは元より戦うためにデイゴンによって生みだされた種族。
その戦闘力は高く、最も位の低い部類のこのドレモラでさえ、一般的なガードと互角の戦いを見せている。

しかし、その均衡は早くも崩れた。

ガードが脚に怪我を負っている事に気付いたドレモラが、武器で戦うことをやめてガードから一旦離れ、魔法を放ったのだ。
ドレモラの手から青白く光る雷の魔法が放たれ、ガードに直撃する。

魔法自体はそれほど強力なものではなかったが、ガードはその魔法を受け、体の力が抜けたようにガクリと膝をついた。

ドレモラは武器を構えてガードににじり寄る。

 ガード(脚に力が入らん!こうなれば奴と刺し違えてでも・・・!)

ガードは剣の柄を握り締め、ドレモラが自分の間合いまで来るのを待ち構えた。
ドレモラは武器を振り上げたまま、ガードの間合まで入った。

 エール「えい!!」

ガードが捨て身の一撃を、ドレモラがトドメの一撃を繰り出した直後、
エールが2人の戦いに割って入り、ドレモラの頭を棍棒で力一杯に殴りつけた。

完全に不意を突かれたドレモラの体が泳ぐと、ガードの剣がドレモラに突き刺さり、
ドレモラはその場にドサリと倒れた。

 

 

 ガード「き、君!危ないじゃないか!
  君のような子供が戦いなどしてはいけない!」

周囲を見回し、他に敵が居ない事を確認したガードが言うと、
その言葉にエールは力一杯に抗議した。

 エール「子供じゃないもん!
  私は便利屋のエール!私だって戦えるもん!」

 ガード(べんりやの、えーる?
  はて、どこかで聞いたことが・・・
  ・・・ああ!あああああああああ!!
  便利屋を営む、見た目は子供、実力は魔王のエール!?
  先日死亡したアダムス・フィリダ隊長と共にアイレイドの遺跡を調査し、無数のゾンビを踊るように殺しつくしたという、
  あのエールか!?)

このインペリアルシティでは便利屋の名は知れ渡っていなかったが、
少し前にエールはインペリアルガードと共に遺跡の調査に行っていた。
そこでカイム(アダムス・フィリダ)は、遺跡と共にどこかに消え去ったが、無事だったガードが2人居る。

エールの事を魔王だと勘違いしているのは、そのガード2人とカイムのみ。
なのでそのインペリアルガードが、エールの事をこのガードにも話したのだろう。

 ガード「し、失礼しました。あなたがあの魔王エールどのでしたか・・・
  なんでも、泥酔した状態で群がるゾンビを1人で倒したとか・・・お噂は伺っております」

 エール(もしかして・・・私って結構有名人?)

ガードに噂は聞いていると言われ、少し誇らしくなったエールであった。

 

 

 

 

そして酒場に一旦戻って人々と短い話し合いがされた。
その結果、全員揃ってこの場を離れ、他のガードと合流し、もっと頑丈な建物に避難する事となった。

話し合いの中で、エールとオラグが便利屋である事も話されたが、
子供のようなエールが魔王でorogまでが仲間、という話は人々にとってはすんなりと聞き入れられるものではなかった。

 

 

そして全員が酒場から出た直後、またしても敵はやってきた。

今度はデイドラが2匹、ドレモラが1人と、非戦闘員が大部分を占めるこの一行では、かなり危険な巡り合わせだった。

すぐさま人々とオラグは酒場に逃げ込んだ。

 人々1「なんでお前まで入ってくるんだよ!
  お前も便利屋とかいうのだったら戦えよ能無し!」

 人々2「そうだそうだ!あんな子供まで戦ってるんだぞ」

 

自分達も一目散に逃げている事は棚に上げ、人々はまたしてもオラグを罵った。

 

 

その時オラグは、ただただ怖いと感じていた。
それはドレモラなどの敵に対する恐怖でも、自分を罵倒する人々に対する恐怖でもない気がした。

心の中から浮上してくるような、何か。

ただただそれが怖かった。

 

 

怪我を負ったガードとエールが戦っている。

流石にガードは戦い慣れたもので、怪我を負っているとはいえ、先ほどのように魔法で不覚を取る事もない。
だが、エールがガードの足を引っ張っていた。

彼女の強さは、酔っ払った時に無意識のうちに出てしまう『酔骨剣』だ。
しかし今のエールはシラフであり、その戦い方は素人同然だった。
彼女は棍棒を滅茶苦茶に振るう。

そんな事ではデイドラやドレモラを倒す事などできはしないというのに。

 

 

 人々4「早く行けよデクの棒!
  役立たずのお前でも、あの2人の盾くらいにはなれるんだろう!」

人々のオラグに対する罵倒の声は、戦う2人が劣勢になればなるほど強まった。
彼らもオラグと同じようなものだというのに。

 

湧き上がる不安をぶつけるようにして口汚く罵られる。
オラグにはそれがとても悲しかった。

なぜそんな事を言われなければならないのだろう。
自分も人々と同じ事をしているのに。同じように逃げて隠れているだけなのに。
なぜ自分だけが。

オラグの悲しい気持ちが高まると、心の中から何かが浮上する。
暗く、オブリビオンの空のように赤い、何かが。

そいつは言った。「全ては敵だ。俺がお前を守ってやる」と。

はじめて聞くその声は・・・とても、誰かの声によく似ていて、オラグは震え上がった。

 

 

エールの悲鳴が響く。

見れば、その腕には一筋の傷跡。そこから血が少し滲んでいた。
敵の攻撃が腕をかすめたのだろう。

戦いに疎いエールは、それだけで尻餅をついてしまう。
そして尻餅をついたエールにドレモラが襲い掛かる。

 オラグ(エール!!)

ガードはデイドラに手一杯でとてもエールは助けられない。
そして自分の周りの人々は、それにすら気付かずに自分を憎憎しげに睨みつけ、罵倒の言葉を吐いている。

もう、誰にも頼る事などできない。

この場に居る誰にも、エールを助ける事などできない。

その時オラグははじめて思った。

勇気が欲しいと。

心の中の何かに怯え、動く事すら出来ない自分。それがたまらなく不甲斐なかった。

オラグは強く願った。

エールを助けたい。体よ動け。と。

そして――時が止まった。

 

 

 

周囲のモノが全て灰色になってピクリとも動かない。自分の体すらも。目しか動かせない。

心の中の何かだけが這い上がってくるのが分かった。
何かがニヤリと笑って牙を剥いた気がする。

そこへ、声が轟いた。

 「逃げるな我が子孫。お前は願ったのだ。逃げてはならん」

轟く声は、心の中の何かから逃げるなと言ってきた。

だがこれは怖いのだ。
いつもいつも自分をどこかへ追いやろうとする。

 「よく見るのだ。我が子孫。お前は願ったのだ」

言われるままに心の中の何かを恐る恐る覗き込んだ。
それは・・・とてもドス黒くて、誰かによく似ていた。

よく見る。

その肌は岩のように硬そうで、緑色だ。口にはするどい牙が生え、その眼光も同じように鋭く、血のように赤い。

 オラグ「そ、そんな・・・これは・・・」

オラグが怖くて怖くてたまらなかったもの。
それは、自分とよく似ていた。

自分とよく似たそれは、こちらを見て厭らしい笑い顔を浮かべ、「そこからどけ」とつぶやいた。
だが、それ以上は何もしてくる気配がない。

それどころか、今にも真っ暗な闇の中に振るい落とされそうになっていて、必死でその場に留まるのが精一杯の様子だった。

 「それが怖いのか?」

よく見たそれは、全く怖いものではなかった。
吹けば飛びそうなほどに、とても弱弱しく見えた。

 オラグ(こんなものを、オラは・・・)

そういえば、前にアルストが言っていた。お前の中にお前以外の何がいるのか、と。
そして、よく見れば簡単だ、と。

 オラグ(その通りだっただすな)

 「やっとだ。我が子孫よ。
  お前は血の衝動に怯えるあまり、自分を害する全てや他人、衝動を呼び覚ますものを怖いと思い込んでいた」

 オラグ「血の衝動・・・これはorogの血の衝動だったんだすか」

 「そうだ。心を強く持てば、支配される事はない。
  やっとだ。我が子孫よ。
  お前の願いは小さな勇気を呼び寄せた。
  では問おう。お前を口汚く罵る者達を、お前はどうしたい?」

オラグは目だけを動かして、自分を罵っていた人々を見回した。

彼らの表情は怒りと憎しみに満ちている。

なぜ彼らはこんなにも自分を嫌い、憎むのだろう。

 「その者達をお前はどうしたい?」

 

 

そんな事を聞かれても、オラグには何も答えることなど出来なかった。
オラグはとても優しいのだ。

人々に酷い事を言われても、石を投げつけられて追い払われても、彼は悲しいとしか感じた事はなかった。
仕返しに何かをしてやろうなどとは思ったこともない。

今ならオラグにも分かる。人々を怖いとも思っていなかった事が。
彼が怖かったのは、這い上がってくる血の衝動。人を傷つけてまで自分を守ろうとする暴力的な衝動だけだ。

だからオラグは何も答える事が出来なかった。例え何を言われても、人々を憎んだ事などないのだから。

 

そのかわりに、オラグはこんな事を想像していた。

もしも、この人々の怒りと憎しみの顔が、笑顔であったなら。
自分に笑いかけてきてくれたのなら、それはどんなに素晴らしい事なのだろう。と。

 「では問おう。お前はあの少女をどう助ける?少女を害する敵を何とする?」

声につられてオラグはエールの方を見た。

エールは尻餅をついた状態で、ドレモラに襲い掛かられている。
彼女を助ける為だけなら、彼女をあの場から抱きかかえて逃げればいいだけだ。

だがあのドレモラを放っておけば、また別の人を襲うだろう。

なぜ彼らは人を襲うのか。
オラグにはそれが理解できなかった。

彼らと同じドレモラの茂羅乃介は人を襲うことなどなく、自分にも話しかけてくれていたのに。
彼らも茂羅乃介と同じようになればいいのに。
優しいオラグはそう思った。

 「同じだな。全く同じだ。
  やはり、同じだった。だが、私は裏切られた」

もうオラグには声の正体が誰であるのかが理解できていた。
彼が何を言わんとしているのかさえも。

だからオラグは言った。

 オラグ「オラは仲間達を信じてるだす。皆と一緒なら、オラとあなたの理想を叶えられると思ってるだす。
  それに、オラは裏切られない自信もあるだす」

 「私が思い描く世界を、同じくして見る者よ。
  その言葉がお前の真実なのだな。
  お前も目指してくれるのだな。
  ならば私は力を貸そう。だから私にも力を貸して欲しい」

 

 

 

 

――――そして、時は動き出した。

酒場の壊れた扉から、銀色にまばゆく光るモノが飛び出して、エールに襲い掛かるドレモラを殴り飛ばし、
ドレモラは民家の壁を突き抜けて、彼方まで吹き飛ばされて絶命した。

オブリビオンの赤い空に照らされてもなお白銀に光り輝く鎧。
顔を覆った兜から覗く目は、オブリビオンの空よりも赤い。

 オラグ「エール!早く逃げるだす!」

銀色に輝く鎧を纏った者は、オラグであった。

 エール「オラグなの!?」

 オラグ「ここはオラに任せるだす!ガードの人も、酒場に避難してて欲しいだす」

 エール「で、でも私・・」

 ガード「魔王どの!ここは彼に従いましょう!」

ガードがエールの手を引いて、酒場まで駆けた。

そしてデイドラ達が、白銀の鎧を着たオラグを威嚇して吼えた。
不気味な怪物の鳴き声が辺りを包む。

オラグも吼えた。

自らの衝動のままに。血の滾りに身を任せて。
オラグが恐れていた血の衝動すら、今はもう彼の手の内にあった。

 

 

デイドラ達の雄叫びなど、オラグの、orogの雄叫びに比べれば小鳥がさえずっているようなものだった。
orogの雄叫びは天を貫き、大地を震え上がらせる。

恐れ知らずのオブリビオンのモンスターであるデイドラも、種としての絶対的な力量差を感じて震え上がった。

そしてオラグは、デイドラを、ドレモラを殺さなければならない悲しみを、
その大きな優しさを大きな大きな勇気に変えて拭い去り、攻撃にうつった。

 

タムリエル大陸一、と遥かな昔に謳われたorogの力。
その力を思うがままにオラグが振るう。
石壁を豆腐のように粉砕し、敵を人形のように弾き飛ばした。

身に纏った鎧は、その力をさらに倍増させ、あらゆる攻撃からオラグを守った。

この鎧は、orogの英雄ベルセリウスの鎧。

ベルセリウスは人との共存を望んで人の為に戦い、そして人に裏切られて殺された英雄。
この鎧は、そんなベルセリウスの無念と憎悪に支配された彼の血が染み込み、赤く染まっていたが、
長年のオーク達の丁寧な手入れと慰めによって、その本来の力を取り戻していた。

その力こそまさにオラグと同じ、優しさである。

ベルセリウスの鎧は優しさを力に換え、銀の鎧はミスリル(魔法の銀)の鎧へと進化していた。
だからこそ、この鎧から発せられるあらゆる邪を切り裂く銀の光は、オブリビオンの空でも燦然と輝き、周囲を照らす。

そして鎧は歓喜に唸り、人の耳には聞こえぬ高音で、猛々しく歌った。
遥かなる昔、人々とorogが共に歌った戦いの歌を。ガンパレードマーチより。

♪ 舞い踊る情熱狂  ←FUSION WORLD様に著作権があり、無断転載、再配布は断じて禁止です。
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それは子供の頃に信じた夢。
誰もが笑う夢の話。でも私は笑わない。私は信じられる。

 右クリックして、全て選択を押すと、人には聞こえないはずの歌が聞こえてくるかもしれません。

その心は、闇を払う銀の剣

絶望と、悲しみの海から生まれ出て

戦友たちのつくった血の池で

涙で編んだ鎖を曳き

悲しみで鍛えられた軍刀を振るう

何処かの誰かの笑顔の為に

地に希望を、天に夢を取り戻そう

我らは

そう

戦うために

生まれてきた

オラグの雄叫びにつられたのか、デイドラやドレモラがこの場にどんどんと集まってきた。
だが銀の光を放ちながら戦うオラグには、どんな軍勢も物の数では無いとさえ思えていた。

 

 ガード「なんという激しさ。これがorog・・・」

 人々1「う、嘘だろこんなの・・・なんでアイツ今まで震えてたんだよ・・・」

ガードはオラグの戦いを見て感心し、人々は後で報復をされるのではないかと気が気ではなさそうだ。
そしてエールは何かを探しているのか、酒場のカウンターをゴソゴソと漁っている。

 エール「あった!!」

エールが見つけたのは、一本の酒瓶だった。
ラベルには「いいちこ」と書かれている。

それは単一銘柄としては日本とかいう場所で最も生産されている本格焼酎。
通称『下町のナポレオン』。

 ガード「そ、それは!魔王どの!そのいいちこをどうされるおつもりですか!?」

 エール「飲む」

 ガード「いけません!
  通常のいいちこは、『下町のナポレオン』と呼ばれ、アルコール度数は25%程度!
  ですが、ここは首都!下町でも城下町でもなければ首都なのです!」

 エール「?」

 ガード「そのいいちこは、『首都のナポレオン』と呼ばれる一品です!
  『フジョシプレイOBLIVION』さんの酒蔵で醸造されたその『首都のナポレオン』のアルコール度数は、
  驚くべき事に130%!!
  100%以上は物理的に不可能であるはずなのに130%の濃度を誇る、とんでもないいいちこなのです!」

 エール「え?でもなんか、普通に『下町のナポレオン』って書いてあるよ?」

 ガード「それはフェイントです!騙されてはいけません!
  それはまごう事無き『首都のナポレオン』です!」

 エール「へ〜。そうなんだ」

エールは止めるガードを無視して、特別製のいいちこ『首都のナポレオン』を一気に呷った。

 

 

 

激しい戦いが繰り広げられるインペリアルシティ市街。
オラグは腕の一振りで大きなデイドラを軽々と吹き飛ばした。

だが敵は死を恐れずにオラグに群がる。
例え無謀と分かっていても、彼らは戦いをやめる事はできないのだ。
なぜなら、デイドラとドレモラは戦いのためだけに作り出された種族なのだから。
個というものを持たない彼らが戦いをやめると言う事は、生きている意味を無くすと言うことなのだ。

またドレモラが一人、オラグの攻撃を受けて壁に激突し、死亡した。
オラグの動きが激しさを増した。ついに、その血に眠っていた全てを用いて敵と戦いだしたのだ。

 

そんな緊迫した市街に場違いな歌が響き渡った。

 エール「また君〜に〜恋してる〜〜」

 オラグ「こ、この歌は!
  『いいちこ』のCMに使われているビリー・バンバンの『また君に恋してる』!?
  それにこの声はエールだすか!?」

歌の聞こえてくる方を仰ぎ見ると、集まったデイドラやドレモラが、宙にポーンポーンと投げ出されているのが見えた。
よく見れば、オブリビオンの軍勢の中にエールが見える。

フラフラと危ない足取りでエールが動くと、一匹また一匹とデイドラが宙を舞った。
オラグには、エールが何をしているのか理解できなかったが、間違いなく彼女は戦っているとだけ分かった。

 エール「今ま〜でよ〜りもふ〜かく〜」

エールの目は据わっておらず、焦点すら合っていない。
しかし彼女の通った道には、デイドラやドレモラの死骸が所狭しと転がっている。
そして、彼女は陽気に歌う。

 

 

オラグのような激しさはそこにはなく、
傍目で見ただけでは何をしているか分からないので、エールが強いようにも見えなかったが、
それでも彼女は実際に強かった。

 ガード「こ、これが魔王エールの真の実力!?」

 人々1「『フジョシプレイOBLIVION』さんの『首都のナポレオン』飲んで酔っ払ってるはずなのに、攻撃してる瞬間が見えない。
  本当に魔王だったのか・・・」

そしてインペリアル市街は、舞踏場へと姿を変えた。

赤いオブリビオンの空に照らし出された舞台で、
オラグが力強く、エールがしなやかに踊る。

オラグとエールのパートナーを務めたデイドラやドレモラは、
例外なく宙を舞い、または壁を壊して地に転がった。

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